いつの間にか、17歳になってしまった、ルーファス・セイムリートだ。リアと同じ誕生日な事もあって、いろいろ騒がしいことになってしまった。

……まあ、それはいい。

もう12月にはいった(早っ)。そんなわけで二回目のミッションの時期である。

 

第23話「ルーファス、かつての失敗〜サバイバル?の巻〜」

 

パーティーごとに、課題のプリントが配られた。

一応、リーダー的役割を果たしている俺がそれを受け取りに行き、みんなに見せる。今は、各パーティーごとに別れてミーティングの時間である。

「……ええと、デアスの村の伝承の調査?」

リアが不思議そうな顔をして、プリントに書かれた内容を口にする。

「そうだ。このデアスの村って所に、一風変わった風習があるから、それを調べてレポートにして提出しろ、ということらしい」

「面倒ね……。で、その村ってどこにあるの?」

サレナがたるそうな声で尋ねてくる。……やる気ゼロだな、こいつ。

「こっからそんなに離れてない。歩きでも半日くらいだ」

地図も同封されている。小さい山をいくつか越えなければいけないが、そんなにキツイ行程ではなさそうだ。この体力のないメンバーでも楽勝だとおもう。

「疲れますから、ルーファスさんの力でぴょーいと……」

「やだ」

「……なんでですか?」

不満げなリア。

「一応、授業の一環なんだからな。そんなに俺に頼りっきりはよくない」

「うわっ、正論ってあたし大嫌い」

「……サレナ、王女がそれでいいのか?」

悪魔召喚とかが趣味のやつに言っても仕方がないような気もするが。

「ルーファスちゃんも、時々ケチですね」

「ケチじゃない!」

ソフィアも不満たらたらのご様子。……お前は自分でもぴょーいと行けるだろーが。

「とにかく、自分らで準備しろ。いつまでも俺に頼るわけにはいかないんだからな」

「でも、どーせパーティー替えはないんですから来年も一緒ですよ?」

「……あのな、卒業したらどーする気だよ」

俺がなんとはなしに尋ねると、三人が次々に答えた。

「あたしは、多分お城に戻って経済学とか帝王学とか勉強することになるかな。次期女王候補だし」

まあ、こいつはそうだろう。

「私は、このまま人間界で暮らしてみたいと思ってます」

「ちょっと待てい!!」

なにをアホなこと言い出すんだ、こいつというバカは。

「なにか?」

「そんなの無理に決まってるだろ!? 一体何年こっちに居座る気だ、お前は!?」

「さあ?」

自分が人間界に住むのに、なにも不都合はないと思ってる顔だ。それを見て、がっくりと脱力してしまった。

「……もういい、その話はあとにしよう。今、説得するのは無理っぽいし……」

あとで、時間のあるときにじっくりと話すことにしよう。

「で、私はですねー」

リアがことのほか嬉しそうに語る。

「多分、卒業したら、お父様の所で神官の修行をすることになると思います」

なるほど。

それで終わりと思ったら、リアはなぜかこちらを見ながら、

「でも、それは適当なところで打ち切って、だれかのお嫁さんになって、幸せに暮らすんです」

と、少女チックな夢を語ってくれた。まあ、非常にリアらしいと言えば、リアらしい。その旦那さんは苦労することになるんだろうがな。

「ところでルーファスさんはどーする気なんですか?」

「俺?」

はて、そーいえば、考えたことなかった。

むう、と唸る。

「そうだな……セントルイスで適当に就職するか、それとも冒険者ライセンスとってそこら辺旅して回るか……」

どっちかというと、後者の方になる可能性が高い。人生の後半はほとんど旅していたから、その生活が染みついている。

「いい仕事が見つかるといいですね」

だというのに、リアさんは後半の台詞が聞こえていなかったご様子。

まあいいか。

「さて、本題に戻るぞ。えーと、明後日出発したらいいな。各自、自分で準備は済ませるように。集合は朝……9時でいいだろ、近いし。あ、集合するのは西門前な。遅れるなよ」

必要なことをさっさと決めていく。

「えっと……食料係、リア。場所は近いから非常食だけでいいぞ。ちょっとやりたいこともあるし。雑品係、サレナ。これもまあ、最低限でいい。薬関係は俺が担当しよう。ソフィアは……寝てろ」

「わ、私だけ仲間はずれですか?」

「お前は遠足の前日に眠れなくて、当日寝坊するタイプだ。そーゆーことのないようにしっかりと睡眠をとれ」

「……私、子供じゃありませんよ」

「子供だ」

俺は確信を持って言える。

「ひどいです」

「じゃあ、実際ちゃんと起きれる自信はあるか?」

俺がそう聞くと、ソフィアはしばし考え、

「……まあ、五分五分って所でしょうか?」

「そーゆーことだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明後日……ソフィアが五分ほど遅刻したものの、それ以外は何事もなく出発した。

「そーいやリア。今回はちゃんと準備してきただろうな」

「は?」

「この前、お前は着替えと弁当と歯ブラシセットしか持ってきてなかっただろう。今日はちゃんと他のものも揃えてきただろうな」

「あ、はい。ちゃんと筆記用具とメモ帳も持参してきました。今回はレポートを書かなきゃいけませんからね」

……確かにそれも必要でありますが。いや、もう突っ込むまい。

「でも、ルーファスさんが非常食だけでいいって言いましたから、お弁当の代わりに乾パンとか持ってきましたよ」

「そーいや、あんたそんなこと言ってたわね。どーして?」

前を歩いていたサレナが聞いてくる。こいつはこいつで、いやにヒラヒラした服を着ているし……。まあ、例のごとく、魔法繊維製みたいだから、心配はないんだろうけど。

「お前らに、サバイバルってのを教えてやろうと思ってな」

「さばいばる……ですか?」

「なにを考えているんです、マスター?」

ちなみに、周りに誰もいないから、ソフィアは俺をマスターと呼んでいる。……最近、ちゃん付けばっかだったからちょっと違和感。

「んー、まあ、気にするな。っと、そろそろ昼だな。ここらで休憩するか」

実を言うと、まだ11時くらいだが、体力のないやつばっかなので、大事をとって休憩に入る。

ここまでの道程は舗装された街道だったが、目的地がかなり田舎なため、これからはかなり荒い道を通ることになる。大事をとるに越したことはない。

少し、街道から離れ、近くにある小さな森に入る。森の入り口辺りに集合し、みんなに指示を出す。

「じゃ、サレナ、火をおこしといてくれ。リアとソフィアは水を汲んでこい」

「ルーファスさんはどうするんですか?」

「俺か? ちょっとな」

そう言って俺は森の奥に入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……こーゆーことですか」

リアが、ちょっと困ったようにコメントを漏らした。

今、俺はサレナが起こした火で、料理をしている。それはいいのだろうが、彼女ら三人が気にしているのは材料のことだろう。

「ルーファス……本気?」

「おう、サレナ。本気も本気だぞ」

「あのー、あんまり食べたくないんですけど」

「そう言うなソフィア、これはこれでうまいぞ。毒は取り除いてるし。そもそも、旅するんならこれくらいは常識だ」

ちなみに、現在調理している鍋(手製)に入っている材料……野鳥数匹、毒蛇(毒の部分は切り取ってある)、なんかいやに派手なキノコ数種類(ちゃんと食用だ)、そこらへんに生えてた草盛りだくさん。あと……っと、これ以外の食材は、読者の皆様方の気分を害する可能性があるので割愛させてもらう。もちろんだが、すべて俺が現地調達したものだ。

「えーと、ごちそうさまです」

皿(これも手製)に盛ってやった俺特製サバイバルシチューもどきを、リアはなんと一口も食べないでごちそうさましてしまった。

「ちゃんと食わないと、あとがもたないぞ」

「それはよくわかってますけど、さすがに……」

まあ、箱入りなリアにはキツイかもしれないが、本当に、冒険者とかの食事はこんなもんなのに。むしろ、かなり贅沢な方だぞ。

「一口食ってみろって」

「えー?」

「食べてみて、まずかったら残していいから。ほら、サレナとソフィアも」

「……もし、変な病気にかかったらどう責任とってくれるのかしら?」

図太く見えても、やっぱりサレナもお嬢だな。この程度で躊躇するとは。

「安心しろ。万が一の時は俺が治してやる」

「……はあ、わかったわ。一口だけね」

サレナはスプーン(しつこいようだが手製)を口に運ぶ。目を閉じて、一気に飲み込まんとする勢いで。

そして、数秒の沈黙。

「あ……あら? けっこういける」

「「え?」」

驚いた顔をするリアとソフィア。……失礼なやつらめ。俺は普通の料理は下手だが、こういうのは得意なんだぞ。

「ほれ、食え」

「「………」」

リアとソフィアは数秒見つめ合い、意を決して口に運ぶ。

「あれ?」

「美味しい?」

三人とも心底不思議そうだ。

「ま、そーゆーことだ」

怪訝な表情で食べていく三人に、思わずにやけそうになる。それを必死で押さえながら、俺も自分の分を口に運んでいった。

 

 

 

 

 

ちなみに、余った獲物は保存食にした。これには、三人にも手伝わせたが、サレナを除いた二人は、ゲテモノ系の獲物には一切触れようとしなかったのは仕方がない。

……ま、こーゆーのもいい経験だろう。

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