「はっ!?」

 目が覚めると、俺は自分のベッドに寝かされていた。

 下から酔っ払いの喧騒が聞こえてくることから見ると、まだそんなに遅い時間ではないようだ。

 ランプも付けてないのに、部屋が楽に見渡せる事を不思議に思うが、なんのことはない。窓から月と星の明かりが入り込んで、部屋を薄ぼんやりと照らし出していた。

 窓から光と一緒に、気持ちのいい風がそよそよと……

「って、開いてる?」

 出かけたときには閉まっていたはずの採光用の窓が開いている。そして、俺はぶっ倒れたはずなのに、部屋にいる。極めつけとばかりに、窓まで上れるように台が置いてある……ってことは、

 俺は、ため息をつきながら、窓の下に鎮座している台に足をかけた。

「おい」

 窓から顔を出し、屋根に座りこんでいる粗忽者に声をかける。俺の住んでいる屋根裏部屋の窓は、屋根の中ほどにぽっかりと開いている。ここから屋根に上がる事ができるのだ。

「あ、ゼータさん。やっと目が覚めたんですか。よっぽど疲れてたんですね」

 星空を見上げていたらしいフィーが、あっけらかんとこちらを振り向いた。

「たわけた事を抜かすな! 気絶したのはてめぇの料理のせいだ!」

「あ、あれ〜。そんなに酷かったですか? 気絶しちゃうくらい?」

「おう。お前、味見くらいしてくれよ、頼むから」

「いや、だって自分で試すのは怖いじゃないですか。知ってますか? 香辛料とか、組み合わせによっては毒になるようなものもあるんですよ」

「お前は、そんなモンを俺に食わせたのか!?」

 凄んで見せる。だっていうのに、屋根の上のお嬢様は、まったく悪びれもせずにふぁ〜と欠伸を一つかますと、

「いやいや。そのくらいは気を付けてますよぉ〜。一応、食堂の娘ですから。念のためです、念のため。第一、ゼータさんが倒れたのは疲れのせいですって、絶対。このところ、ずっと秘跡に行ってるじゃないですか」

「……む」

 そう言われると、一概には否定できない。大体、幾ら人類史上最悪なくらいまずかったとは言え、普通料理で人は倒れないだろう。

 確かに、疲れているのかもしれない。最近、本当に毎日だし。

「たまには休んだほうが良いんじゃないですか?」

「ふむ……まあ、それも一理あるな」

「もう。捻くれた言い方ばっかりして」

 呆れたようにフィーが言う。そうは言っても、これが俺のカラーなのだ。

「て言うかな。お前、屋根の上に上るのいい加減に止めろよ。オリヴィアさんも、危ないから止めて欲しいって言ってたぞ。そこはこの窓を通らないと上がれないから、俺にも迷惑だ」

「えー。だって、ここは昔っからわたしの特等席なんですよ? その通路だったこの部屋に、お金がないからってゼータさんが居座ったんじゃないですか」

「っぐ……貴様、まだ言うか」

 いつまでも金なんて小さい事でぐちぐちと!

「ええ、言います。一応、店やってる家の娘ですから」

「小さい頃から金、金ばっか言ってるとロクな大人にならんぞ」

「そうですね。例えば、年下の女の子にお金を借りようとするいい年頃の男性がいるんですが、こういう人をロクな大人じゃないって言うんでしょうね」

 ……先月終わり。本当に餓死寸前まで行って、泣く泣く金の無心を頼んだのをまだ恨んでいるのか、こいつは。

「あ、あの時はなぁ、あれだ。命の危険まであったんだよ。フィーは、手伝い賃とか言ってオリヴィアさんから多めに小遣い貰ってるじゃないか。持つ者が持たざる者に施す。これは自然な事と思うぞ?」

「あれは施したんじゃなくて、貸したんですからね? ちゃんと返してくださいよ?」

 とりあえず、ジト目で睨んでくるフィーからさり気なく視線をそらしつつ、俺は話題を戻すよう試みる。

「それはいいとしてだ。なんでフィーは屋根が好きなんだ? そのあたりの理由を教えて欲しかったりするなぁ、俺は」

「貸し付けたお金は絶対に忘れませんよ」

「ぐぅ」

 きっちりと釘を刺し、フィーは話し始めた。

「まあ、もったいぶって言うほどの事でもないんですけど。小さい頃からですね、わたし、お父さんやお母さんに怒られるといっつもここに逃げてたんです。ほら、ここっていい風が吹いてるじゃないですか。それが怒られたりして、澱んだ気分が綺麗になる気がするんです」

「へぇ」

 すでに、俺は聞き流す体勢に入っている。

「そっちが聞いてきたんですから、ちゃんと聞いてくださいよ。……まあ、結局は、屋根に上った事で後でもっと怒られる羽目になってたんですけどね。結局、そんなことをずっと続けて。今では、お母さんも諦め気味です」

 根気の勝利です、とフィーは得意げに拳を握る。

「それに、ほら。風月亭は、ここらで一番高い建物だから、眺めもいいじゃないですか」

「そおかぁ? 俺には、何の変哲もない町並みにしか見えんが」

「それは、ゼータさんに想像力がないせいです。ほら、あそこの家のあの部屋は明かりがもう消えました。あそこは、小さな子供がいたはずですから、お母さんが寝かしつけたんでしょうね。それに、下の通りを練り歩いている三人組は、きっと仕事が成功して飲み明かしている仕事仲間ですよ、きっと」

 フィーがその三人組とやらに手を振って、あちらも手を振り返してくる。

 その後も、フィーは一つ一つ、町並みから想像したショートストーリーを俺に語って聞かせた。

「というわけです。どうですか?」

「いや、どうですかって聞かれても。覗きが趣味だったんだな、フィー」

 ピキッ、とフィーが固まる。

「いやはや、風月亭のお嬢さんの意外な趣味発見ってとこだな」

 フィーがぎこちない動きでこちらを振り向いた。

「な、なんだよ?」

 その表情は、なんていうか笑顔。しかし、これはさっき下でオリヴィアさんが見せたのと同じ種類の笑みだ。ぶっちゃけ、フィーは怒っている。

「……(ニコッ)」

 うわっ、今の笑みすげぇ怖い!

 と言っても、フィーはなにをするでもなく、元のように町並みに視線を移した。

 やがて、フィーの顔が驚きに彩られ、

「あっ、向かいの武器屋の若妻さんがカーテン開けたまま着替えてる!」

「ナニぃ!?」

 俺は、男の悲しき本能により、身を乗り出しながら問題の窓を高速で検索する。

 と、襟がぐいっと引っ張られた。

「おっ?」

 ぐるん、と乗り出した体が一回転し、そのまま屋根を滑り落ちて行く。

「おおおおおおおお!?」

 俺は、慌てる意識を必死で押さえ、屋根の淵に手をかける。すばやくもう片方の手も伸ばし、屋根からぶら下がる体勢となって落下を防いだ。

「フィー! なにすんだ!」

「つーん」

 あ、こいつキレやがった。

 しかし、この体勢は如何ともしがたい。両手で自分の体重を支えるってのは、意外と重労働だ。しかも、掴んでるところが屋根の端というバッドコンディション。今にも滑り落ちそうな予感がランナウェイ(意味不明)。

 口惜しいが、彼奴の手を借りるほかない。

「あの〜、フィーさん? ちょっと手を貸してくれるとうれしいな〜、と思う次第なのでありますが」

 向こうがキレても、冷静な対応。さすが俺、大人だ。

「嫌です。落ちてもどーせ怪我はしないんだから、さっさと落ちてください」

「っざけんな! フィー、いつかやろうと思ってたが、今日こそはお前に仕返す! 仕返ししてやるからさっさと俺を引き上げてください畜生!」

 フィーの辛辣な言葉に、自分でもこれはないだろうという対応をしてしまった。

 まあ、確かに落ちても怪我はしないだろう。俺の真下では露店が立ち並んでいる。その露店の屋根は布を張ったもので、俺一人受け止めるくらいは容易くやってのけるだろう。まぁ、店の人に多大な迷惑をかける事は疑いない。

 やはり、フィーに助けて貰うしか!

「つーん」

「!! もういい、お前には頼まん!」

 ぐっ、と両腕に全ての力を込める。

「ふン!」

 そして、自慢のマッソー(筋肉)にモノを言わせて体を無理矢理押し上げる。勢いがつきすぎて体が屋根から離れるが、無事着地……

「のわぁぉ!?」

 ああ、なんという運命の悪戯! 俺の足は主人の命に逆らい、屋根を踏み外す。そのまま屋根に顔面から倒れこみ、さらに滑り、さっきと同じ体勢へ。今度は指の第一関節までしか引っかかってないというデンジャラスな体勢!

「さ、さらに状況悪化――!」

 元凶のフィーは腹を抱え、必死に笑いをこらえている。

「てめっ、フィー! 覚えてろー!」

 騒ぎを聞きつけた下の方々の好奇の視線に晒されながら、俺は星空に向けて絶叫するのだった。

 

 

 

そして、次の日。何故か俺はフィーとともに町の商店街に出ていた。

「……いや、本当に何でだ」

 呆然と呟く。

「何でって、昨日のお詫びにデートに付き合ってあげてるんじゃないですか」

 それを耳ざとく聞きつけたフィーが、説明する。

 ふーん、そういうことだったんだぁ。朝、いきなり叩き起こされてそのまま引きずられて来た俺にはさっぱりわかんなかったよフィーくん。この野郎。

「あ、ちなみに割り勘ですからね?」

「この野郎。お前が出すのが礼儀ってもんじゃないか。昨日の詫びってんならよぉ?」

「うわ。チンピラの真似、すっごい上手いですね」

 ケラケラと俺の怒りに怯えるどころか笑い出す始末。かんっぜんに舐められてる!

 よし、てめぇわかった。昨日の件も、俺の中ではまだまだ終わってないのだ。今日、俺とお前の立場ってモンを刷り込んでやる!

 ……立場? 俺=宿泊代滞納してる客。フィー=その宿の娘。

「駄目じゃん!」

「わっ?」

 急に叫んだ俺に、フィーが目を白黒させている。商店街を歩いている皆々様も、怪訝な瞳だ。

 なんでもない、というジェスチャーをして、なんとかわかってもらえた様子。まあ、なにやら足早に過ぎ去っていくのは気にしないでおこう。

「もう。いきなりなんですか。ゼータさんが変人だっていう事はよくわかっていますから、そんなに変人振りをアピールしないで下さい。こっちが恥ずかしいんですから」

「お前。そんな風に思ってたのな」

 もはや、突っ込むのも面倒くさい。

「ええ。なにを今更」

 と、フィーはせせら笑う。まだケツの青いガキの癖に、その笑みはマフィアのボスを思わせた。高級っぽい猫とかを膝の上に乗せたらさぞ似合うだろう。

 いやもう、なんか涙が出てきた。

「あ、ゼータさん、見てください」

「え? なになに? 涙でなんも見えーん」

 ぐいぐいとフィーに引っ張られていく。

 着いた先ではなにやら大きな人ごみ。背伸びしてその中心部を見てみると、吟遊詩人が詩を詠っていた。ありふれた旅装束にリュートを持っているだけの粗末な格好だが、その技量は集まっている人の数を見ればよくわかる。

 芸術にはとんと縁のない俺だが、この吟遊詩人の詩はなかなかいいと思えた。

 朗々と流れる旋律は、聴く者の心に響いてくる。内容自体は子供が寝物語に聞かされるような有り触れた英雄譚だが、彼が語ると、なにかを訴えかける力があった。

 やがて、ゆっくりと余韻を残しながら、その詩は終わりを告げる。

 周りの人間は自然に財布を取り出し、硬貨をその吟遊詩人の足元にある箱に投げ入れていった。

 俺も続けて投げ入れたかったが、そもそも今は財布自体持っていない。隣で『わかってますよ』という顔で硬貨を差し出してくるフィーが憎らしかった。俺は賽銭を親からもらう子供かよっ……

 受け取ろうか、受け取らないか迷っているうちに、一人、また一人と去っていき、やがてこの場には俺たちと吟遊詩人の男だけが残る。

「すみません。ちょっとよろしいでしょうか」

 そして、その男はやたらと爽やかな笑顔を浮かべ、話しかけてきた。

 うっ……コイツ、よく見ると美形だ。なんかムカつく。

「私、泊まる場所を探しているのですが、どこか良いところを教えてもらえないでしょうか?」

「あ。それならわたしの家が宿屋ですから、案内しますよ」

 フィーが接客スマイルで答える。

 こいつ、性格は悪いが、見てくれだけはそう捨てたもんじゃない。顔のいい男と並んでいると、なかなか絵になる。

 ……くそぅ。

「ありがとうございます。いやぁ、助かりました。この町の人はいい人ばかりですね。あ、私、アルヴィンと申します。気軽にアルって呼んで下さい」

 自然に握手を求める男。それに、照れつつも応じるフィー。ケッ、誰がアルだ。

「あ、わたしはフェアリィです。友達はフィーって呼びます」

「フェアリィさんですね」

「別に、なんて呼んでくださっても結構ですよ。アルさんの方がずっと年上なんですから」

「いえいえ。会って間もない女性を呼び捨てたり愛称で呼んだり出来ませんよ」

 なにやら、会話が弾んでいる様子。

 ま、まあフィーも、こうやってレディーとして扱われることは今までなかっただろうからな! うん。舞い上がりやがって仕方ないなぁ。

「ゼータさん。なに乾いた笑いを浮かべてるんですか?」

「なんでもねぇ」

 視線を逸らす。

 ふと、アルとかいうやつがこちらを凝視しているのに気付いた。

「ゼータ、さん?」

「あンだよ? なんか文句でもあんのか」

 ジロリと睨み返す。

 そこで、フィーが割って入ってきた。

「もう、ゼータさんってば。……すみません。この人、ちょっとコンプレックスが激しくて、自分より上の人を見るとすぐに噛み付くんです。あ、毒はないんで気にしないで下さい」

「俺は猛獣かよ……」

 その物言いに、さすがの俺も凹む。

そして、もう一度アルに視線を向けてみると、すでに先ほどまであった険はとれていた。

「失礼しました。どうも、勘違いだったようで」

 こちらに頭を下げてくる。まあ、俺としても大人気なかったかもしれない、とは思うので混ぜっ返したりはしない。

「ああ、気にするな。俺はゼータ。一応、コイツんとこで世話になっている」

「そうなんですか。私もしばらく宿泊するつもりなので、よろしくお願いしますね」

「おう。風月亭のルールは俺がしっかり叩き込んでやるから、覚悟しておけ」

 ハハハ、と笑いを浮かべるアル。

「お手柔らかにお願いします」

「悪いな。俺はスパルタ主義なんだ」

「てゆーか、料金滞納者の癖に偉そうにしないで下さい!」

 フィーが俺の頭にチョップを入れてくる。

 そして、俺たちは風月亭へと向かっていった。

 その道すがら、アルの話を聞く。

「へぇ。アルさん、色んな町を旅歩いているんですか」

「ええ、まあ。昔から一処に落ち着かない性質で。幸い、特技もあったので」

 と、リュートを掲げる。確かに、あのリュートの旋律と歌唱力は大したものだと思う。そういったものに目がないフィーは、案の定目をキラキラと輝かせていた。

「あの……そのリュート、見せてもらってもいいですか?」

「どうぞどうぞ。どうせ安物ですし」

 おっかなびっくり受け取り、フィーはしげしげとリュートを観察する。見てて飽きない奴だ。

 そんなフィーを見て、アルがこちらに寄ってくる。

「可愛い彼女ですね」

「……はぁ?」

「おや。違うんですか? てっきりデートの邪魔をしてしまったかと、心苦しかったんですが」

 デート、ねぇ? そういえば、そういう事を言っていたような気もするが。

「〜♪」

 リュートの方に興味津々なフィーは、そんな名目とっくに頭からなくなっているだろう。ちょっとムカついたので、あえて言葉を選んでやった。

「悪いが、俺にああいう奴を彼女にするような特殊な趣味はない」

 ガインッ!

「ぐおおおおおおおっ!?」

 リュートを頭に叩きつけられ、俺は地面を転がりまわる。ああ、こんな時にも冷静な部分のある自分が嫌。

「って、ごめんなさい! つい条件反射で……」

 ペコペコとアルに謝るフィー。

 ちなみに、殴りつけられたのは俺だ。

「い、いえ。弦も切れてないし、平気ですけど。そ、それよりゼータさんの方が」

「あんなのどうだっていいんです。でも、せっかく見せてもらってたのに、楽器で人を殴っちゃうなんて――」

 せめて! せめて一言くらいこちらに謝れ!

 ああ、悶絶中で抗議が出来ないこの身が恨めしい――!

「さ、アルさん。我が風月亭はもうすぐですよ。早く行きましょう」

「え、でもゼータさんが――」

「あのくらいじゃ息の根は止まりませんよ。さ、さ。面倒なのが起きる前に行きましょう」

「誰が面倒なのか!?」

 気合で痛みを抑え、なんとか起き上がる。

「チッ、もう復活しやがった」

「黒っ! フィー、お前そんなキャラだったか!?」

「ええええ。ゼータさんと一緒にいれば、黒くもなりますよ。いつもいつもいつも、人の嫌がることばかり言って! いい加減、わたしも怒りますよ!」

「普段から怒りまくってるだろうが! てゆーか、怒りたいのは俺だ!」

「あの、二人とも……」

 まさに売り言葉に買い言葉。ここぞとばかりに、お互い相手に対する不満をぶちまけあう。

「大体、とっくに追い出されても文句言えない立場の癖に、どうしてそう偉そうなんですか!」

「それが昨日、俺を料理の名を借りた毒物で殺そうとしたやつの言う台詞か!」

「失敬な。あれはれっきとした料理です。倒れたのは、ただ単にゼータさんが貧弱だからですよ」

「あのー」

「あれが料理って言うんなら、そこらの石ころだって最高級のディナーだよボケッ! ちっとは味見位しろ!」

「そんなの怖いじゃないですか!」

「あっ、今認めたな。自分の料理が不味いって認めただろう、お前……」

「お二方!」

 突如響いたアルの鋭い声に、俺もフィーもピタリと止まる。

「口喧嘩、大いに結構ですが……もう少し、周りに注意を払った方がよろしいかと」

 はたと気付く。

 なにやら、通りすがりの方々が、俺たちを遠巻きに囲っていた。ひそひそと話す声がなんとも居心地悪い。

「あ、わたし……」

 フィーがオロオロと周りを見渡し、

「悪いのはゼータさんなんですぅぅぅーー!!」

 と、駆け出した。こちらを見守っていた人々も、自然と道を空ける。

「って俺かよ!?」

 ビシッ、と空にツッコミチョップを入れる。

「非常に言い辛いのですが……客観的に見て、やはり非はゼータさんにあるかと」

「アル、あんたまで……」

「ああいう場合、年長者が抑えるべきでしょう。そうでなくとも、フェアリィさんは女性なのですよ?」

 きっぱりと言い切られてしまった。

「うっ……」

 そう言われると、ちょっとは悪いかなぁ、と思う。でも、しかし……

「とりあえず、風月亭とやらに向かいましょう。きっとフェアリィさんも帰っているんじゃないですか?」

「あ、ああ。付いて来い」

 そして、未だに残っている見物人をしっしと追い払って、俺はアルと共に風月亭へと歩いていった。