暮れなずむ夕焼けの明かりが差し込む教室。
 よく知った相手からの手紙で呼び出された僕は、彼女から思いもよらぬ言葉を受け、

「じゃ、じゃあ……。考えておいてくださいっ!」

 真っ赤になった顔を隠すように背を向けて、走っていく高宮を、止めることも出来ず見送るのだった。




















 呆然と、ふらふらとした足取りで職員室に戻ってきた僕は、パソコンの画面で小テストの作成をしながら、しかし思考は盛大に空回っていた。

「うああああー」

 栞ちゃんからの手紙での呼び出し。
 なんで手紙で、しかも空き教室になんて呼び出すんだろう。受け取った時は、本気でわからなかった。

 まあ、なにかまたオカルト系のトラブルにでも巻き込まれて相談でもしたいのかな、と、軽い気持ちで出向いたのだが、

 呼び出された先で、告白を受けた。『好きです、付き合ってください!』と、もうどストレートな言葉で。

「ど、どうしたんですか、土樹先生? 頭を抱えて……頭痛でも?」
「い、いえ。なんでもありません」
「でも――」
「大丈夫ですっ」

 隣の席に座る先生が若干引きながら尋ねてくるが、僕は気合で誤魔化す。

 生徒に告白されたなどということが知れれば、下手をしたら職員会議で吊るしあげられかねない。この手の問題に対して世間の目は非っ常〜〜に厳しいのだ。
 まだなにもしていないとは言え、淫行教師のレッテルを貼られ教職を首になる可能性もある。

 ……まあ、僕の場合、そうなったらそうなったで、別に幻想郷に移住することに躊躇はないのだが、

 それはさておき。

 栞ちゃんが僕のことを、ねえ。

 妙に懐かれている感は確かにあったけど、それは二度ほど彼女の危機を救ったことによる信頼みたいなものと解釈していた。
 まさかこんな展開になるとは思ってもいなかった。
 そりゃそうだろう。マンガやゲームではあるまいし、命の危険から守ったからってフラグなんて立たないっしょ? もし立つんだったら、レスキューや医者の皆さんはどれだけハーレム体質なんだという話で……

「……どうしよ」

 ぼそ、と小さく呟く。

 今日は、栞ちゃんが一方的に告白して、僕が何か反応する前に去ってしまったから、僕からの返事は宙ぶらりんなままだ。
 『返事はまた今度聞かせてください』なんて言われたのだが、どう返事したものか?

 普通に考えると、答えはノー以外ありえない。僕は、曲がりなりにも教師で、栞ちゃんは――ああ、いや、『高宮』は生徒なのだ。もしここでイエスなどと答えて、そのことが周囲にバレたら、
 ……社会的に死ぬ。もはや復活は不可能だ。

 でも、僕は先生だから、生徒のお前とは付き合えません、と答えるのもなあ。あまりにも不誠実な感じがしなくもない。

 ったく。大体、なんで今なんだ。せめてこういうことは卒業の時にでもしてくれれば、こんなに悩む必要は、

「待て待て待て!」
「土樹先生? なにが待てなんですか!?」
「うぇっ!? え、えーと……ちょっと、いいところでパソコンがフリーズしてびっくりして」
「あ、ああ。そうですか。驚かせないでくださいよ」

 な、なんとか誤魔化し成功。

 ――さて。
 ……何故に僕は今、『卒業の時だったらなあ』なんて自然に思ったのだろうか。まるで卒業したら、全然オーケーだと思っているみたいじゃないか。

 いや、確かに高宮は贔屓目に見なくても可愛い子だし、素直で一緒にいて落ち着く子だけれども、僕からはあくまで師弟愛的な感情しかないはずだ。
 そりゃ……告白なんてされて、意識するなというのも無理な話だけどさ。

 そう、いきなり告白されたことで、ちょっと気持ちが揺れているだけ。まさか教え子に懸想するなんて、教師としてあるまじきことだ。
 そういうのを全部取っ払った上で、高宮をどう考えているかについては、取っ払うこと自体現時点ではありえないので考える必要はない。うん。

 と、僕がなんとか心の平静を保ったと思ったら、なにやら職員室のドアが突然開け放たれた。

 顔を覗かせたのは……あれ、高宮のクラスメイトじゃないか?

「す、すみません! 栞が……栞が、消えちゃったんですっ!」

 ……へ?

































 その生徒の話すところによると、こういうことだった。

 今日、一緒に帰っていた高宮が、彼女の目の前で突然何の前触れもなく消えてしまった。

 最初は先生方も悪戯か何かだと思っていたのだが、あまりにも必死な様子に流石に無視することはできなかった。高宮の家に帰宅していないことを確認し、更に携帯電話にかけても電波が届かない場所にいるらしく繋がらない。
 それでも、しばらくは様子を見ていたのだが、日が完全に落ちて高宮の家の門限を過ぎた辺りで緊急対策が打たれることになった。

 以下、そのダイジェスト。

「どうせ、友達と口裏を合わせた家出かなにかではないですか?」
「しかし、あの高宮さんがですか? 真面目で優秀な生徒です。そんなことをするとは――」
「ううん……でも、あの子の言うことを鵜呑みにするわけにはいきませんよ。人間が忽然と消えてしまうなんて、信じられません」
「私も、それは見間違いかと思います。例えば、高宮さんが誘拐などされて彼女が混乱したとか」
「誘拐!? 滅多なことを言うのはやめたまえ!」

 こんな感じ。
 下校途中の失踪となると、学校にも少なからず塁が及ぶ。

 そんなわけで、学校にまだ残っていた先生で手分けして高宮栞の捜索が始まった。

「くっそ、どこだ?」

 僕は、今自分の担当エリアを焦って歩いている。
 公にはなっていないが、高宮は前に誘拐されたこともある。似たようなことがないとは言い切れない。

 しかし、さっきからダウジングにまったく反応がないのだ。前はこれで一発で見つけ出せたのに、反応がないとなると……

「よっぽど遠くに行ったのか、それともなんかの妨害?」

 地図とフーチ片手に歩いているのは、余程人目を引くようで、じろじろと通行人に見られるが無視する。
 くっそ、本当になにがあったんだ? なんでよりによってこんな日に……

 あ、いや。もしかして僕に告白して、そのせいか? 恥ずかしくなって、遠くに逃げとか……

 ――なわけないだろっ。あの高宮が、家族にも内緒でそんな真似するわけない!

 楽観的になりそうだった頭に喝を入れ、僕はもっと歩く。
 気がつくと、高宮がいなくなった場所の近くに来ていた。もしかしたら現場になにか証拠が残っているかも……と考えて、僕はその場所に向かう

「……なんにもないか」

 そりゃ、いの一番にここに他の先生が来たんだから、手がかりがないことはわかっていた。
 何の変哲もない通学路。強いて言えば、人通りが少なく、他に目撃者がいないっていうのもわかる立地ってだけだ。

 前みたいな霊能者の仕業だったら、痕跡くらいは残っているかもしれないがそれも皆無。
 ……くっそ、無駄だったか。次へ……

「――あれ?」

 踵を返して別の所へ探しに行こうとしたところで、僕はなにか小さなものが落ちていることに気が付いた。
 単なる落とし物なら気にならないのだけど、どこかで見たことがあるような気がする。

 ひょい、と拾いあげると、それは扇子だった。
 それも百均に売ってあるような安物じゃない。広げてみると美麗な模様が細かく施されており、骨や和紙の部分も上品で頑丈な――

 ……この扇子、どこかの胡散臭い妖怪が持ってるやつと一緒じゃないか?

「あ……あ……」

 高宮は、煙のように突然消えてしまったという。

 神隠しの主犯。……確か、あいつはそんな二つ名も持っていた。

「あのスキマァァァァァッッ!」

 僕は怒りのあまり絶叫しながら、全力で幻想郷に向けて走り始めるのだった。







































 時は少し遡って。
 霧の立ち込める湖の畔で、高宮栞は立ち往生していた。

 今日の一世一代の告白の様子を、背中を押してくれた友達に話しながら帰り道を歩いていた。それはちゃんと覚えている。

「ど、どこ……ここ?」

 周囲にある風景は、さっきまでいた場所と似ても似つかない。
 どうしてこんな場所に来たのか。一瞬だけ、落下するような感覚があって、その時に無数の瞳や道路標識が存在する恐ろしい光景を見たような気がする。
 そして、次の瞬間、別に気絶した覚えもないのに、いきなり風景が切り替わっていた。

「さ、紗英? 近くにいないの?」

 一緒に帰っていた友達の名前を読んでも返事はない。
 霧が濃すぎて、遠くを見渡せないこともあって、急激に心細くなる。

 なんでこんなことになったんだろう。今日は、ありったけの勇気を振り絞って、先生に告白して。返事がどうなるかは怖いけど、ドキドキしながら寝るまで過ごす。そんなちょっと特別な一日になるはずだったのに。

 慌てて携帯電話を取り出しても、当たり前のように圏外。

「だ、誰かー! いませんかー!」

 こうしていても仕方ない。
 恐怖を抱きながらも、栞は周りに声をかけながら歩き始める。

 どちらかというと気弱な栞だが、不思議な事に遭遇したのはこれが初めてではない。お陰で、足が震えながらも歩くことができた。

 ただ、それはあまりにも軽率な行為だ。
 この幻想郷で、人里から一歩でも離れた場合。なんの力もない人間は、極力自分のことを隠しておくべき。里の人間なら、子供の頃からきつく言いつけられていることも、栞は知らなかった。

「あれ、こんなところに地面を歩く人間?」
「え……」

 突然、上から声をかけられる。
 見上げると、薄暗闇を周囲に纏った金髪の少女が、音もなく宙に浮かんでいた。

「あ、あなたは……」
「私? ルーミア。……で、そういう貴女は?」
「わ、私は……高宮栞」
「ふーん」

 じろじろと、ルーミアと名乗った少女は、栞の身体を眺める。

「ふぅん」
「ね、ねえ。ここはどこかわかる? 私、気が付いたらこんなところにいて……」

 空を飛んでいることには驚いたが、考えてみれば彼女が想いを寄せている教師も確か当たり前のように空を飛んで見せてくれたことがある。
 そういうことが出来る人も、世の中にいることを栞は知っていた。

「ま、あんまり食いではなさそうだけどいっか。……んー、周りに紅白や白黒はいない、っと」
「食い……え?」
「最近、あんまり食べていなかったしねー。さて、食べられる人類さん、貴女は何味かしら? 最近はとうにょうびょうとやらで甘口の人類も増えているっていう話だけど」

 栞は、ルーミアの言うことが理解できなかった。
 同じ日本語を話しているはずなのに、内容がまったくわからない。彼女が『なにか』を食べようとしていることはわかったが、主語が意味不明だ。

 食べる? 人類? え?

「じゃあ」

 ルーミアが、手のひらを栞に向ける。彼女の手の中に、光の弾が生まれ、

 ぞわ、と栞の背中に悪寒が走った。

「ちょっと食べやすくしようかな。暴れられたら食べにくいもんね」
「〜〜!」

 身が竦まなかったのは、幼い頃から護身の心得を教えられていたから。
 すぐさま後ろに向けて逃げ出せたのは、多分似たような経験があるから。
 背中に向けて放たれたルーミアの魔弾が、ぎりぎりのところで直撃しなかったのは、これは日頃の行いが良かったのか奇跡が起きたのか。

『危ない危ない』

 幻聴が聞こえた気がしたが、かかずらっている暇はない。
 運動はそれほど得意ではないけれども、一瞬でも止まったら死の気配がする。走って、走って、走って、こけそうになってもギリギリでバランスをとって、なお走った。

「待て待て!」
「待た……ない!」

 栞の周囲に着弾する魔弾が土を巻き上げ、足を取られそうになる。
 それを気合で立て直して走り続ける。勘でたまに左右に飛んで魔弾を躱す。ここまで直撃がないことが正直不思議だったが、恋する乙女は無敵だとかなんとか聞いたことがあるから、そういうのだろう、多分。

 しかし、そんな奇跡は長続きはしない。
 なにより、運動部に入っているわけでもない栞の全力疾走など、一分と持たない。

「避けるねえー。それじゃ、月符!」

 ゾクリ、と、霊力なんてものを感じることはできない栞でも、背後で膨れ上がる力が肌で感じ取れた。
 もはや、走る体力も尽きつつあるここで、これは致命的だ。

(なんで――)

 こんな知らない場所で、こんな目に遭うのか。
 さっぱりわからず、栞は涙を流す。

 もう、走れない。足が痛くて、もつれて転ぶ。

「『ムーンライトレイ』」
「いやぁぁぁぁぁっっーー!」

 倒れた栞に向けて、ルーミアのスペルカードの攻撃が迫る。
 死にたくない、とぎゅっと栞は目を瞑り、

「覇っ!」

 突然飛び込んできた影が、その弾幕を拳で弾き飛ばした。

「……え?」
「あー!」

 いつまでも衝撃が来ないことに不思議に思って栞が顔を上げると、目に入ったのはチャイナ服を来た女性の後姿。

「ちょっとちょっと。邪魔しないでよ。それは私の獲物よ。早い者勝ちって言葉を知らないの?」
「ええまあ、別に、放っておいてもいいんですが」

 新しく登場した女性が自分を助けてくれる、と淡い期待を抱いていた栞は、その言葉を聞いて凍りつく。

「女の子の断末魔が目覚ましなんて、流石に寝覚めが悪すぎます。一日気分が悪くなるじゃないですか。大体、気持良く昼寝していたのにどっかんどっかんと、安眠妨害ですよ」
(ええーー!?)

 まさか、そんな文字通りの意味で『寝覚めが悪いから』助けられるなんて思いもよらなかった。
 というか、あまりにも身勝手すぎる。ルーミアといい、この女性といい。

 栞は知らなかったが、そういう自分本位で勝手なところは、妖怪全般における特徴だった。

「む、むううう!」
「さて、やりますか? 寝起きの運動も悪くない」

 女性の拳に、虹色の光が宿る。
 素人の栞から見ても、それは力強く、ルーミアとこの女性の実力の違いがわかった。

「お、覚えておきなさいよー」

 超・三下の捨て台詞。ぽかーん、と栞は強大な敵だったルーミアがそんな風に逃げていくのを見送って、必死で逃げた自分はなんなんだろう、と思う。

「さて、と。貴女はどうしたものでしょうかねえ。外来人の方ですよね?」
「が、外来?」
「そこからですか。うーん、って、あれ?」

 女性の視線が、栞の背後に向く。なんだろう、と振り向いてみると、メイド服を着た銀髪の女性が冷たい目でこちらを見ていた。

「め、メイドさん?」

 メイド喫茶、というものが存在することは知っていたが、実物は初めて見た栞が目を白黒させる。もはや、意味がわからない。金髪の女の子に襲われたと思ったら、チャイナ服に助けられて、次に現れたのがメイド服。もしかして自分は単に夢を見ているだけなんじゃないか、と疑問に思う。
 もっとも、先程擦りむいた膝の痛みが、これが現実だと主張していたのだが。

 そんな風に混乱している栞をよそに、チャイナとメイドは言葉をかわす。

「さ、咲夜さん? ええと、なんでしょうか?」
「ええ。ちょっと門番におやつを差し入れようと思ったらいないものだから、探しに来たのだけれど」
「あ、あはは……どうも、ありがとうございます」
「まったく……サボるな、と何度言えばわかるのかしらね」

 ぴ、と手品のようにメイドがナイフを取り出す。

(い、今どこからナイフ出したの?)

 などと栞が疑問に思うのと、そのナイフがいつの間にか消えるのがほぼ同時。

「え――?」
「ぁいたぁっ!?」

 そして、消えたナイフはチャイナ服の額に突き刺さっていた。見た目にはそれほど血は出ていないが、間違いなく死――

「も、もうー! 何度もナイフで抉るのやめてもらえません!?」

 と、倒れたチャイナは起き上がり、ずぽっとナイフを抜く。もしかして、押すと刃が引っ込むおもちゃのナイフか、と思ったが、ちゃんと額にナイフの穴が空いている。わけがわからない。

「あ、あの、血、血……!」
「? ああ、ご心配どうも。しかし、この程度、私の『気を使う程度』の能力を使えば」

 ハァァ、とチャイナが気合を入れ、虹色のオーラを纏うと、なんか怪我が治っていく。
 きこうのちからってすげー、などと、栞は普段のお淑やかさの欠片もない感想を抱く。そろそろ、彼女の許容量はいっぱいいっぱいだ。

「で、美鈴。そっちの彼女は?」
「はあ、恐らくこっちに来て間もない外来人かと。成り行きで助けましたけど、どうします?」

 はあ、とメイドがため息をつく。

「面倒だけど、放置しておくのもね。幻想郷の外の人間ってことは、里の人間じゃないんでしょう?」
「えー、一応、助けた相手をお嬢様に献上するのはちょっと」
「お嬢様の食指が動かなければ大丈夫でしょう。どちらにせよ、ここに置いていくと間違い無く野垂れ死にだし」

 ひう、と栞が小さく悲鳴を上げる。
 会話の内容は相変わらず判然としないが、なにやらあっさりと自分の処遇が決まってしまった気がする。

「というわけで、貴女。我らが主の屋敷に来てもらうわよ」
「ま、そういうことで」

 ぐ、とチャイナの女性に腕を取られ、栞は逃げられないことを痛感するのだった。



































(……なんだろう、ここ)

 チャイナの女性にメイドの女性も空を飛んで移動した。チャイナ――紅美鈴に、お姫様抱っこで抱えられてここまで来た栞は、案内された真っ赤な洋館の玄関をきょろきょろと見渡す。
 栞の実家は所謂お金持ちだが、ここまで立派な洋館には住んでいない。単純に、広すぎて不便だからだ。パーティー等で使用する館はあるが、栞はあんまり行ったことはない。

「ようこそ、紅魔館へ。さ、とりあえずお茶でも淹れますわ」
「あの……それより、十六夜さん……でしたよね。電話を貸していただけませんか? 家族に連絡を取らないと……」
「デンワ……ああ、聞いたことはあります。だけど、生憎ですが当館にはございません」
「ええ!?」

 今時、どれだけ古い建物でも、電話もないなんて聞いたことがない。そういえば、そろそろ外も暗くなっているが、内部の照明はランプのようなものしかない。

「も、もしかして、このお屋敷、電気は……」
「電気ですか。今はありません。お山の神との交渉がうまくいけば、導入できるのですが。お嬢様は新しもの好きですし、なんとか成立させたいものです」

 後半の台詞はよくわからなかったが、どうやら現時点で電気はないらしい。
 相当酔狂な人間が主なのだろう。

 咲夜と美鈴、この不可思議な二人の主だというのだから、納得できる話だ。

「それじゃあ……私はどうやって帰れば」
「そうですね。お嬢様がお許しになれば、しばらくここに逗留されればいいでしょう。買い物にいくついでなら、里に連れて行ってあげても良いです。ああ、少し待てば、外の世界まで連れて行ってくれる男性が来ますわ」
「?? 外の世界」
「そういえば、説明をしていませんでしたね」

 咲夜が説明を始める。

 ここが、外と隔絶された『幻想郷』という異界であること。妖怪や妖精、超能力者などが普通に闊歩する世界であること。時折、外の人間が神隠しに遭って迷い込んでしまうこと。

 世の中には本物の霊能力者や不思議なことが存在する、と知っている栞をして、到底信じられない話だった。

「う、嘘……! そんなことを言って、私を騙そうと」
「そんなことをしても、私にメリットはございません」
「でも、でも――!」

 今まで見たことが、咲夜の説明を肯定しているが、なんとか反論しようと言葉を探す。
 と、そこで玄関の正面にある階段の上から、声がかかる。

「キャンキャンとやかましいわね……。咲夜、なに、その娘」
「これはお嬢様。おはようございます。今日は早起きですね」
「まぁね。で、それは?」

 現れたのは幼い女の子だった。派手なドレスを自然に着こなし、優雅に階段を降りる少女。
 見た目は愛らしく、どう考えても危険などないはずなのに、栞は少女の威圧に自然と身構える。

「こちらは高宮栞様。外来人で、迷い込んだところを偶然美鈴が保護しました」
「へえ、外来人か」

 じろ、と少女の視線が、舐めるように栞を見る。蛇に睨まれた蛙のように、その視線を受けて栞は指一本動かせない。

「……美味しそうね」
「〜〜!?」

 ビクッ、と栞が震え上がる。その反応に、少女は益々笑みを深めて、

「反応も上々。久し振りのご馳走じゃない」
「ご、ご馳走……って」
「知らないの? 吸血鬼のご馳走と言えば、清らかな処女の生き血と相場は決まっているわ」

 吸血鬼くらい、栞だって知っている。ブラム・ストーカーの『ドラキュラ』の例を挙げるまでもなく、フィクション作品の定番の種族だ。
 咲夜の説明がフラッシュバックする。この幻想郷には、妖怪がいる。

 嘘だ、と叫びたいが、少女の口から垣間見える有り得ないほど発達した犬歯と、今広げた蝙蝠のような翼が反論を許さない。なにより、彼女の血のように赤い目。あれに睨まれただけで動けないという事実。

「……申し訳ありません。どうやら、お嬢様に気に入られたようですわ」
「そ、そんな、助け……」
「生憎ですが、私はお嬢様には逆らえませんので。運が良ければ、重度の貧血になる程度で済みます」
「あら、咲夜。下手な希望を持たせちゃ駄目よ。こんな美味しそうなもの、フランにも分け与えるに決まっているじゃない」

 咲夜が目を伏せる。

「申し訳ありません。式は仏式がいいでしょうか。それとも、神式がいいでしょうか? グールになる可能性がありますので、土葬はおすすめしませんが」
「いきなりお葬式の話!?」

 身体が動かせないにも関わらず、思わずツッコミを入れる。
 ここの住人は恐ろしい。恐ろしいのだが、変なところでズレている。

「じゃ、いただきまーす」
(先生――!)

 ぎゅ、と眼を閉じる。
 その時、脳裏に浮かぶのは、つい数時間前に告白した先生のこと。返事、聞きたかったな。それが、栞の最後の思考になる、

「……ん?」

 と、思ったのだが。

「なに、これ」

 かぱ、と口を開けて首筋に近付いていた少女に、ぱちっと静電気のようなものが走る。少女は、怪訝そうに栞のスカートのポケットを漁った。

「あ――」

 少女がつまみ上げたのはお守りだった。
 このお守りは、教育実習に来た頃、良也から贈られたもの。栞は、彼からの贈り物が嬉しくて、今までずっと持ち歩いていた。

 そのお守りが、少女の手の中で、抵抗するようにぱちぱちと小さな音を立てて光っている。

「……守矢のお守り? ちょっと咲夜。この子外来人じゃなかったの? 里の人間に直接手を出すと、契約を違えることになるんだけど?」
「おかしいですね。栞様の反応は確かにこちらに来て間もない人間のものでしたが」

 相変わらずロクに動けない栞をよそに、二人は不思議そうに話をする。

「か、返して! それ、私の――」
「ああ、いいよ。こんなの、持っているだけでチクチク痛い。でもね、その前にあんた、これどこで手に入れたか吐きな」
「先生から貰ったの!」
「先生?」
「土樹先生! 土樹良也先生から! いいから、返して!」

 咄嗟に身体が動く。ぽかんとしている少女から、お守りをひったくった。

「良也だって?」
「そ、それがどうしたのよっ」

 少女からお守りを隠すように持って、きっ、と睨みつける。

「いや、どうしたって……あ〜、咲夜」
「はい」
「……こいつ、適当に歓待しといて。あいつ自身はともかく、フランに言いつけられたら面倒だ」

 あ〜〜、もう、と少女は最後に歳相応の癇癪を見せてから、背を向けて去っていく。

「了解しました」

 去っていく少女に、咲夜は優雅に一礼を送るのだった。





































「霊夢、霊夢! スキマは何処だっ!?」
「ちょ、なに、良也さん。こんな夜更けに」

 終電ギリギリの電車に飛び乗って、途中から電車がなかったから外の博麗神社までかっ飛んで、僕は幻想郷にやって来た。

 もう風呂に入って、寝る前のお茶を淹れていた霊夢に、僕は詰め寄る。

「そんなことは今はいいから! スキマは!?」
「紫? さあ、今日は見ていないけど」
「本当か!? 隠すとためにならないぞっ」

 がくがくと肩を揺さぶる。はあ、と霊夢はため息をついてから、見事なアッパーで僕の顎を撃ちぬいた。

「ぐっはぁ!?」
「なにがあったのかは知らないけど、ちょっと落ち着きなさい。で、紫がどうしたって?」

 倒れ伏す僕に対し、手をパンパンとはたきながら尋ねてくる霊夢。
 ……うぐ、冷静じゃなかったのは悪かったが、容赦なく拳に訴えかけるのはやめて欲しい。

「いや、あの馬鹿スキマが、うちの生徒を攫ったらしくて」
「あいつが?」
「その子がいなくなった現場に、こんなのが落ちていた」

 一応、持ってきた扇子を見せる。

「確かに紫のね」
「だろ? あいつ、今までのことはギャグで済ませても、今回のこれは許さんぞっ」

 いや、まあ今までのこともギャグで済ませていいことじゃないんだけども。しかし、栞ちゃんを巻き込むなんて、流石に看過できない。
 だが、その前にしなくちゃいけないのは栞ちゃんの保護だ。

「栞ちゃん……無事かな。あの性悪妖怪に酷い目に遭わされてないかな……いや、遭わされているに決まってる! トラウマになる前に助け出さないと! あのゴスロリババァめえ!」
「貴方、本当に失礼ね」

 そんな声とともに、僕の頭上の空間に亀裂が入り、そこから『十トン』と書かれた重りが落ちてきた。

「っ、見つけたぁ! やっぱ悪口言ったら出てきたか!」

 それを大体読んでいた僕は、重りを躱して隙間空間の中に見えた手をひっ掴んで引き摺り出す。『あら』と、スキマは愉快そうに出てきた。

「っと。しまったわね。中々考えたじゃない」
「ああ。そろそろお前の行動パターンも読めてきたからな」

 もう逃がさん。

「栞ちゃん、どこだ? なんでこんなことをしたかって聞きたいけど、それは後で聞く」
「ふふ……ええ、教えてあげるわ。彼女は今、吸血鬼の館よ」

 げぇっ!? よりによってレミリアんとこか!
 吸われる! 血、吸われる!

「後で覚えとけよ!!」
「三下の台詞ねえ」

 うっせい! スキマのツッコミを僕は無視して、博麗神社から飛び立つ。
 その直前、

「ちょっと紫。あんた、この重り、床が抜けてるじゃない。直していきなさいよ」
「……じゃあね」
「まてコラァ!」

 ――よし、これで、後の対スキマ戦で霊夢も味方だ。
 グっ、と僕はガッツポーズをするのだった。




































「美鈴!」
「あれ? 良也さんじゃないですか。どうしたんですか、こんな時間に」

 門番として立っている美鈴に声をかける。

「あああー、ええと! ここに、栞ちゃん来てないか!?」
「? 高宮さん? 良也さんの知り合いですか?」
「そう! 今何処にいる!?」

 名前しか言っていないのに苗字を出した時点でここにいることは確定した。

「それなら、少し前に闇の妖怪に襲われそうになったところを助けまして」
「ルーミアに!?」

 な、ナイス美鈴、ナァァァイスッ!

「ええ、それで今は、お嬢様のところに」
「前言撤回だぁ!」

 そこはこっそり里にでも逃がしてくれればよかったのに!

 『ひどっ』と言う美鈴を無視って紅魔館に向かって走る走る走る。

「お邪魔しまっす!」

 玄関をぶち破り気味に開け放つ。やたら広い館から栞ちゃんを探すために飛び――

「そこでストップです」
「うぐ……」

 立とうとしたところで、首筋に冷たい感触が触れて強制的に止まる。

「また乱暴な……。さて、良也様、今日の貴方はいつも通りのお客様でしょうか、それとも不埒な侵入者なのでしょうか」

 ……やっべ、魔理沙辺りと同じ扱いにされかけてる。

 た、確かにちょっと慌てすぎていたか。

 ふう、と深呼吸をして……あ、ちょっと首切れた。

「っと。しまった、血糊が……」
「ごめんなさいの一言があってもいいと思うんですけど」

 即座にナイフの刀身を拭う咲夜さんに呆れてツッコミを入れる。

「乱暴に紅魔館に立ち入る方には相応の対応かと。……それで、こんな時間になんの御用で?」
「……あの、ここに、高宮栞って子が来たって聞いて」
「ああ、あの方ですか。彼女なら、お嬢様に血を――」

 や、やっぱり!

 本当に不味い。軽い献血程度ならともかく、あのレミリアのことだ。こぼしまくるくせに、吸いすぎて、最悪死――

「さ、咲夜さん! 栞ちゃん、大丈夫なんですか!?」
「それは……」

 みなまで言わず、そっと目を伏せる咲夜さん。
 ……まさか。いや、でも……万が一そんなことになっていたら、僕はどうすれば、

「あ、れ? 先生?」

 聞き覚えがあり、この館では聞いたことのない声が後ろからする。
 慌てて振り向くと、湯気を立てたバスローブ姿の栞ちゃんがこっちを見つめていた。

「……おっと、もうお風呂からお上がりになりましたか。ああ、冷えたワインがありますのでよろしければご用意しましょうか」

 しれっと、さっきまでの深刻な表情をやめて対応する咲夜さん。
 め、めちゃんこからかわれた?

「もしもし、コラ、瀟洒なメイド」
「まさか騙されるとは」

 性格わっりぃぃぃぃ!! さっき乱暴に入ったこと、まだ根に持ってるな!?

「……っはぁ〜〜。とにかく、栞ちゃん、無事でよか……」
「先生!」

 全て言う前に、栞ちゃんが胸に飛び込んでくる。

 って、柔らか! あったか! そして、なんだこのいい匂いは!?

「栞ちゃ……」
「〜〜〜〜」

 あ、泣いてる。
 ……って、無理もないか。話を聞くに、この短時間にルーミアを筆頭にレミリアに咲夜さんに出会ったのだ。

 ちょっとだけとはいえ邪な思いを抱いた自分が恥ずかしい。

「ごめん、遅れた。そうだよな……あんな連中に会ったらそりゃ怖かったよな」

 慰めるように、背中をぽんぽんと叩く。
 まったく、こんなに怖がらせやがって。

「誰が怖いのかしら」

 ビクッ、と栞ちゃんが腕の中で震える。
 はあ、と僕は大きくため息をついた。僕の正面から歩いてきたのはレミリアだ。なんか、意図的にぶつけてくる殺気がウザい。本気じゃないのが丸わかりだ。

「……そりゃ、お前だお前」
「なによ、その言い草。せっかく生かしておいてやったのに」
「だって、妖怪なんて怖がられてナンボだろ」

 逆に、栞ちゃんがちっともビビってなかったりしたら、逆にレミリアは不機嫌になっていたと思う。その場合、本当に命はなかったかもしれない。

「はン。まあ、そうだけどね。感謝の一つくらいしてもバチは当たらないよ」
「ああ。ありがとう。今度、上等の菓子でも土産に持ってくる」
「それでいい」

 満足そうに頷いているレミリアに、なんとか胸をなでおろす。なんか、今日は機嫌が良さそうだ。追加でワインを持って来いとか言われなくてよかった。ワインは上を見だすとキリがないからなあ。

「んで、ちょっと栞ちゃんと話したいから、部屋貸してもらってもいいか?」
「……適当に空き部屋でも使いなさい。ただし、私の屋敷で『妙なコト』に及んだら承知しないわよ」

 妙なこと……って、おい。

「するかっ!」
「ならいい。咲夜」
「はい。では、こちらに」

 どっと疲れた身体を引きずって、僕は咲夜さんに案内された。



























 風呂上りの栞ちゃんのために振舞われたアイスティーをちびちび飲みながら、さてどこから話したものかと頭を悩ませる。

「あの……先生はこの、幻想郷でしたっけ? ここでなにを? この家の人たちともお知り合いみたいですし」
「ここでは……魔法の勉強をしてるな。あの幼女……レミリアの友達が、僕の師匠」

 栞ちゃんは僕が魔法を使うことは知っているから、この辺の説明は楽でいい。

「魔法の……じゃあ、そのためにここに?」
「いや、それはついで。僕がここに来るのは……まあ、友達に会いに来たり、飲みに来たり、遊びに来たり、かな。毎週来てるよ」

 話すと、栞ちゃんの顔が露骨に『え?』って感じになる。

「あ、遊び……ですか?」
「うん、まあ。ほら、さっき会ったレミリアとかもさ。まあ、付き合い方を覚えれば別に十回に一回殺されるくらいで済むし。飲み会とかだと、意外と面白いし」

 ……考えてみれば、十回会ったら一回は殺されるって、物騒ってレベルじゃないな。

「そうなんですか……」

 あ、スルーしてくれた。

「あの、先生」
「うん?」
「私、初めて知りました。先生が魔法使いだってことは知っていましたけど、こんな世界に来ているなんて」

 そりゃ、向こうの人にはほとんど話していないもの。

「それで……もしかして迷惑だったんじゃないかなって」
「へ?」

 いきなりなにを?

「なにが?」
「その、先生にはあんな綺麗な……十六夜さんとか、美鈴さんとか知り合いがいるのに。私なんかが告白して、迷惑だったんじゃ」

 そ、それ? そりゃ今日の話ではあるけど、これだけ色々あって、感想はそれ?
 栞ちゃんてば、もしかして僕が思っている以上にタフなのかもしれない。

 あと、その意見はまるっきり間違っている。

「いやいや、そんなことないって。そりゃ困ったってことは否定しないけど……美鈴や咲夜さんよりは、栞ちゃんの方が」
「え……?」

 いや、だってな。咲夜さんは、ちょっと対応間違えるとナイフが飛んでくる危険人物だし、美鈴はいいやつだけど恋人にしたいかって聞かれるとちょっと違うし。

「え、それって……」

 いや、比べる対象が悪いって話でね? 栞ちゃんや、君はどうしてそんなに顔を赤く染めているんだい?
 しかし……まあ、幻想郷に女の知り合いは多いが、栞ちゃんより上位に来る奴は……いないな。うん。

 〜〜〜! いや、だからって、僕がオーケーするわけじゃないけどさっ。いや、惜しいとは思ってるけど!? やっぱり、僕せんせーだしさっ。

「じゃ、じゃあ。もしかして」

 だからそんな期待するような顔で見ないでぇ〜〜! 制服姿だったら生徒って意識が出るから平静を保てるけど、なんか素肌にバスローブ一つな今の格好だと僕の理性がガリガリ削られるからっ。かき氷機の勢いで!

 おかしいぞ、悪のスキマに攫われた栞ちゃんを助けに来ただけなのに、いつの間にか放課後の続きが始まっている!?

「い、いや、ちょっと待ってくれ、栞ちゃん。落ち着こう。これは言おうと思って言えなかったことだけど、僕教師、君生徒、オーケー?」
「はい、卒業までは我慢します」

 やっべ、なんか逃げ道なくなっちゃったよ。

 考えてみよう。もし卒業後だったとして、断る理由はあるだろうか? ……ない、全くない。見事にない。というか寧ろ全力でお願いしたい。

「それとも、やっぱり駄目……ですか」

 しゅん、となる栞ちゃん。
 ……わはは、もうどうにでもなーれー!

「も」
「?」
「もし、卒業の時に、まだ変わらないんだったら……その、よろしく?」

 ぱぁ、と明るくなる栞ちゃん。

 色々と思うところもあるが、その笑顔が見れるんだったら。まあ、悪くない……よな?









































 で。
 今からだと日が変わるかもしれないが、それでも早めに帰ろうと、博麗神社まで栞ちゃんを背負って来ると、

「よう! 良也。先に始めてるぜ!」

 何故か、神社の境内では盛大な宴会が催されたいた。

 理由を聞くと、スキマが集めたらしい。なんでも、僕に恋人ができた記念だとか。

 断ることも出来ず、あれよあれよという間に、栞ちゃんともども宴会に巻き込まれた。

「おい」
「あら、なにかしら。今日の主賓が。酌ならあの子に受けなさいな」

 しれっと何事もなかったかのように参加しているスキマに、文句を言うために宴会の中心から抜けてきた。
 ……ちなみに栞ちゃんは妖夢や東風谷、魔理沙といった『比較的』良識組に任せておいたから大丈夫だろう。

「……事と次第によっちゃ、僕は本気でお前に喧嘩を売らないといけないんだけど?」

 流石に、なかったことにするつもりはない。

「私なりの好意だったんだけどねえ」
「どこが」
「ここのこと。今の貴方の中で大きな位置を占める幻想郷のことを、彼女が知らないままじゃ良くないでしょう? あまり広めたくなかったんだけどね」

 む……。

 いや、確かにもし仮に誰かと付き合うとなると、幻想郷のことは話していただろう。なにせ、毎週入り浸るほど通いつめている場所だ。友人も、下手をしたらこちらのほうが多いくらいだし。
 だからっつってな、怖がらせていいってことにゃならんし。

「後は、そうね……」

 スキマがこれみよがしに周囲を見渡す。

「……将来の浮気候補を教えてあげる、ってところかしら」
「阿呆かぁ!」

 ここの連中と、そんなことには絶対ならないから!

「よし、オッケー。本当に喧嘩売るぞ。おい」
「あら珍しい。いいわ、かかってらっしゃい。彼女にいいところを見せてあげたら?」



 この後。
 神社の床を壊された霊夢が加勢してくれたお陰で、僕はスキマに勝利した。……いや、実の所ほぼスキマと霊夢の一対一で、僕は流れ弾から必死で逃げまわって、なんとか最後まで飛んでいたことは飛んでいた、ってレベルだったけど。

 そんで、栞ちゃんは無事に帰還。宴会一回分くらいなら、まだ余裕で帰れる。
 ……帰りが日を跨いだせいで、色々と大騒ぎにはなったけど。

 一応、僕の首も繋がったし、栞ちゃんもあれはあれでいい経験だった、と笑うほどタフだったから、問題は多分ない。

『浮気、しませんよね』

 と、ものすごくいい笑顔で言われたのも、問題はない、はずだ。
 ……将来、尻に敷かれそうだな。



戻る?