外の世界では、オカルトというものは基本的に社会の裏側にひっそりと存在するものだ。
 科学が一般に浸透しすぎた先進諸国では、オカルトなどは混乱の元でしかないため、普通に報道管制やらなにやらがされている。

 まあ、そんなことが可能なのも、魔法とか、霊能力とか超能力とか、そういうのを使える人間が極端に少ないおかげだ。
 確かに、そうでもないとインターネットとかがある昨今、早々存在を隠しきれるものじゃないだろう。

 ……のは、まあいいのだけれども、一つ問題がある。

 そういう特殊能力者は貴重ではあるが、はっきり言って仕事がない。いやもう、本当にない。
 二十年以上、日本で生活してきた僕も、幻想郷に行くまでオカルティックな出来事にはついぞ縁がなかった。今は縁がありすぎて食傷気味だが。

 当然、魔法なんかの力の需要など、ほっとんどない。
 対超常現象、オカルト犯罪者専門の国家機関なんかもあると聞くが、そこは数少ない能力者のさらに一握りだけが所属できる非常に少数精鋭的な組織らしい。

 実際に就職しようとするのは、あまり現実的ではない。給料も危険性もトップレベルの、花形的職業ではあるらしいのだが。

 んで、異能力者にとって、次に人気な職業が、お金持ちのお抱えになることだ。

 上流階級の方々の間では、一昔前ほどではないが、呪殺なんかが根強く残ってて、その対策やかける方の依頼。さらには本物の『占い』の需要もそこそこあるし、運気を招く儀式をさせられたり、単純にそういうのが趣味のセレブさんもいる。
 フリーの人間に頼むことも多いらしいが、本当に優秀な能力者なら、大きな家が専属で契約することもあるそうな。これが、いわゆる『お抱え』だ。
 前者がバイト、もしくは派遣、後者が正社員と考えればいいか。

 ただでさえ仕事の少ないオカルト業界。バイトと正社員の格差は、普通の仕事の比じゃない。ちゃんと月給の入ってくることの、なんと嬉しいことか。しかも、雇い主の『格』によっては箔もつく。

 まあ、現実にはそうじゃない連中のほうが圧倒的に多いわけで、ここらへんにオカルトの後進がぜんぜん育たず、段々存在自体が消えつつあるっていう悲しい事情があったりもする。

 っていうか、そういう人たちには是非幻想郷に来て、妖怪側に傾きまくっている幻想郷のパワーバランスを何とかしてもらいたいところだが、これは完璧に余談だ。



 ……んで、なんで教師志望で、そっちの業界にまったくと言っていいほど興味のない(なにせ食傷気味なので)僕が、こんな事情を知ることになったのか、というとだ。

「……高宮さん、こういうのはこれっきりにして下さいね?」
「すまない。何度も断ったのだが、あの娘はなかなかに難物でね」

 高宮さんところが所有するという、郊外の大きな敷地付きのお屋敷。
 ここで爆発でも起こっても、敷地の外には漏れないってほど大きな土地だ。

 とある休日。僕は心底申し訳なさそうに電話をしてきた高宮さんの願いを受けて、ここにやって来た。
 一緒に乗って来たリムジンの中で、オカルト業界のことを教えてもらったのだ。

「それで、ええと……なんて人でしたっけ?」
「桜月有栖。イギリス人の祖母を持つクォーターで、その祖母が魔女。その魔女は私の古い馴染みで、現役のころはうちの専属として仕事をしてもらっていた。その娘も、私は昔から知っている」

 アリス……どこかの人形師と同じ名前か。

「そして、来年高校を卒業する。そして彼女は、祖母から魔術の手解きを受けていて……私のところに就職を希望してきた。無論、魔女としてだ」
「なんていうのか、就職活動ナメてません?」

 この春に教職の滑り止めのため、就職活動をした大学四年生であるところの自分の顔が引きつった気がした。
 そりゃ、最終的には何とか内定をゲットしたが、それまでの道のりは険しかったのだ。企業研究、履歴書や面接の練習。ピークだった四月には、毎日毎日説明会や面接で都内中を駆け回った。

 それをなんだ。たかが魔法を使える程度で、楽しようなんて! もっと苦労しろ!

「私としても、困っていてね。いかにコネがあっても、この仕事は実力がなければ無理だ。既にうちには、優秀なお抱えがいることだし」
「……なにこっち見てんですか」

 そんなものになった覚えはない。

「おっとそうだった。まだ、だったね」
「まだもなにも、僕は教師になると、以前から言っていたと思いますが」

 そもそも、教育実習先を紹介してくれたのは高宮さんだというのに。

「私も以前から言っていたが、必要なとき暇であれば手伝って欲しい、程度の話だ。優秀な魔法使いは、私としては喉から手が出るほど欲しい。融通は利かせるつもりだよ」
「公務員は副業は禁止されて……」
「問題はない」

 言い切りやがった。
 ……いや、別に僕としても問題はないんだけどね? でも、なんていうのか、このままなし崩し的に高宮さんところで『魔法使い』として働くことに、微妙な抵抗が。

「まあ、とにかくだ。電話でも言ったが、有栖にもっと修行を積んでからなら雇用を考えると伝えたところ、彼女は抗議してきてね。曰く、修行なら十分積んだ、だからその『優秀なお抱え』とやらと私を実際に比べて欲しい、だそうだ」
「それで、僕を呼んだんですよね」

 承諾したら、安マンションの前にリムジンで乗り付けて。
 ……やれやれ。

「すまない。昔から知っているだけに、彼女は私にとってもう一人の孫のようなものなのだよ。断わりきれなくてね」
「別にいいですけど」

 礼金みたいなのもらっちゃったし。
 まあ、魔法を高宮さんに見せ合って、どっちがいいか判断してもらう程度のことだろうし。

「……確かに、彼女は良く修行を積んでいたよ。以前、栞が呪われた時、解呪できなかったのがとても堪えていたみたいでね。二人は幼馴染だったから」
「ああ、その子にも頼んでいたんですか」
「結果は、君に頼むことになったことからも察して欲しいけどね」

 話を聞く限り、いい娘なんだろうなあ。
 しかし、栞ちゃんの幼馴染ね……。どう対応したもんか。

「と、言っているうちに、来たようだ」

 高宮さんが広い庭の向こうを見て、言う。
 釣られて、僕もそっちを見て……目が点になった。

「お爺様、遅れてしまって申し訳ありません」
「ああ、私はいい。こちらの良也さんに謝ってくれ」
「そうでしたわね。すみませんでした」

 と、現れた少女は、こちらに向けて丁寧に頭を下げてきた。

 それはそれとして……

「ゴスロリ?」

 そう、現れた桜月さんと思しき少女は、黒いゴスロリ服をバッチリ着込んでいた。
 なにがバッチリなのかは聞かないで欲しい。

 しかし、似合っている。クォーターと聞いたが、髪の毛も瞳も黒。ただ、肌の色だけが、日本人離れして白い。顔立ちも、どことなく欧風だ。
 まあ、ぶっちゃけると美人である。ゴスロリ服って、アキバとかで着ている人をたまに見かけるが……はっきり言おう。クオリティが違う。

 でもなんでゴスロリ?

「あ〜、あの、桜月さんでいいのかな?」
「はい、桜月有栖。有栖で結構ですわ。土樹良也さんですわね? 初めまして」

 優雅な仕草で一礼をする……ええと、有栖ちゃん。この子も、上流階級と言っていい人間なんだろう。洗練された仕草に、違和感がない。
 いや、それはどうでもいいのだ。聞くべきことはたった一つ。

「その……質問なんだけど、その服は一体?」
「魔女の正装ですが」

 言い切りやがった!?
 でも、違う。違うよ、それ! 少なくとも僕の知っている魔女はそんなフリフリの服を着ちゃいない。髪の毛が金色の方のアリスは結構好きそうだけど、人形とかに着せていたし。

「あとは、私の趣味です」

 ……またもや、清々しいまでに言い切った。いや、似合ってはいるし、可愛いから別にいいけどさ。

「さあ、早速始めましょう。どちらが高宮家の専属魔術師に相応しいか、決着をつけて差し上げますわ」
「いや、差し上げますわって……。最初に言っておくけど、僕は別に高宮さんところと契約しているわけじゃあ」
「関係ありません」

 関係ないの!?

「私は、以前しおりんにかけられた呪いを前に、膝を屈しました」

 そして、なんか語り始めた。
 しかし、しおりん……。いや、なにも言うまい。女の子同士の呼び方など、僕が口出しすることではない

「しおりんを助けてくれた貴方には、感謝していますわ。でも、その貴方を超えないと、私は何時まで経っても前へは進めない」
「いやあ、そう思ってても、意外と進めるもんだよ?」

 僕がまさにそうだった。昔は強くなるのなんて絶対無理だと確信していたが、どうしてどうして、結構力はついた。
 まあ、焼け石に水ですけどねっ!

「今回のこれは、いい機会です。実のところ、専属などどうでもいいのですよ。さあ、やりましょうか」

 うわ〜、普通にスルーされた。
 なんだろう……この人の話を全然聞かない感じ、どことなく向こうの連中に相通じる物がある。

「いや、あのね?」
「さあ、極東のブラックアリスと謳われた私の力、見せて差し上げましょう!」
「極東のブラックアリス!? なにそれ!」

 超中二臭いフレーズだなオイ!?

「何を異な事を。二つ名に決まっています」
「いや、んな堂々と二つ名とかさ……」

 多分、将来振り返って身悶えすることになるだろう。

 大体、極東→日本、ブラック→黒、アリス→有栖。直訳すると、日本の黒い有栖ちゃん。んで、彼女は黒ゴスロリに黒髪黒目の、イメージカラーはブラックですな女の子……

「そのまんまじゃん!」
「なにを!? 私が考えに考えた二つ名に、なにか文句でも!?」
「自分で考えたの!?」

 ヤバイ、アホの子だ。怜悧な容貌に騙されていたが、中身はまごうこと無きアホの子で中二病。
 いや、この年で大真面目に魔法なんて言っている僕が、中二病がどうとか言えた義理じゃないけどさ。

「さあ、行きますわよ!」

 と、腰に下げていた杖を引き抜き、僕に向けてくる有栖ちゃん。
 ……あれ? なに、この今から対決しますみたいな構図は。

「いや、ちょっとタンマ! なんかこう、僕の想像していた展開と違う」
「さぁさ、お出でなさい、私の忠実な下僕たちよっ」

 なにやら芝居がかった台詞を言いながら有栖ちゃんが杖を振る。
 すると、空中から滲み出てくるように、小さな妖精たちが姿を表した。

 ……凄い。外の世界じゃ妖精なんて、姿形も成せないような小物がほとんどだというのに、そいつらに魔力を与えて実体化させやがった。この娘、もしかしたら結構な天才なのかもしれない。

 のは、いいんだけどさ。どうしてその妖精たちが僕に向かって攻撃する体勢を取っているんですか?

「ちょっと、高宮さん!?」
「では、私は巻き込まれないよう、離れて見ていることにしよう。二人とも、存分にやってくれたまえ」

 逃げたーーーっ! 僕に、ちょっとすまなそうな顔をして、あっさり逃げた!

「貴方も呪術畑じゃなく、戦闘もこなせる魔術師と聞いています。これが一番手っ取り早いでしょう」
「……なんでこっちでまでこんな目に」

 妖精達が放ってきた弾を躱し、空へと逃れつつ、世の理不尽に向けて愚痴る。
 なんて幻想郷的な女の子だ、この娘。



































「くっ、空を飛んで自慢ですか!」

 妖精は追ってきたが、有栖ちゃん本人は空を飛べないらしい。悔しそうに僕を見上げている。

「……いや、単に空中の方が躱す空間が多いからなんだけど」
「それだけの理由で空を飛ばれてたまりますか! 行きなさい、妖精たち。叩き落とすのよ」

 有栖ちゃんが指揮棒のように杖を振ると、妖精たちが連携して襲いかかってくる。

 ちらりと下に目をやると、有栖ちゃんは自信満々な様子で既に『勝った』って顔をしている。
 でもなあ、

「ほっと」

 こういうの、慣れまくっているんだよね、僕。
 有栖ちゃんが力を与えたとはいえ、それでやっと幻想郷の一般妖精位の力だ。妖精なんて、異変の時には数十、数百の単位で相手取っているのだ。十匹くらいなら、問題なく撃退できる。

 っていうか、落としていいもんだよな?

「はっ」

 弾幕を放つ。
 これで全部落とせるかと思ったけど、流石に人間が操っているだけあって、二匹ほど躱していた。

 とりあえず、返す刀で精密射撃。落とせた。

「んなっ!?」

 驚愕の声が聞こえる。
 いや、当たり前だから。っていうか、妖精なんかに力を与えて使役するくらいなら、その力で直接攻撃してきた方がいいと思うんだけど。

「あー、有栖ちゃん? 僕もう疲れたから、ここらへんで仕舞いに……」
「まだ始まったばかりですよ!」

 お茶を濁そうとする僕に、有栖ちゃんは問題外とばかりに追加で妖精を二十匹ばかり用意する。
 だ〜か〜ら〜

「それ、あんまり意味ないから!」

 面倒臭いので、襲いかかってくる前に弾幕で潰す。今度は密度を濃いめにしておいたので、全部の妖精を倒せた。
 ……だからさ。雑魚妖精の二十や三十じゃ、流石の僕でも倒せないよ? 強めの妖精もいないみたいだし。

 攻撃が止んだようなので、僕は有栖ちゃんの近くへ降り、恐る恐る話しかけた。

「あの。もしもし?」
「うう」
「えっと、その? ごめん」

 なんか、涙目になっている。……え、ええと。こんな場合、どう対応すればいいんだ? っていうか、もう終わりでいいのか? 早いけど。

 しかし、有栖ちゃんは、ちょっとだけ滲んだ涙をぬぐって、尊大な口調で言い放った。

「こうなったら、奥の手!」
「ええ〜? まだ続くの?」

 もう、僕は本当に疲れたよ。さっさと家に帰って、一杯やって風呂入って寝たい。

 でも、杖を構える有栖ちゃんの相手は……しなければいけないんだろうなあ。
 やれやれ、次はなんだ? 奥の手って言うからには、さっきよりは強いんだろうけど……。しかし、あの妖精召喚を多少強くしたって、あんまり意味ないぞ?

「私にこの手を使わせるとは。貴方の力、見縊っていたようですね」
「だから、その芝居がかった台詞はなんとかならないのか」
「私としても、この手は使いたくありませんでした。エレガントな魔術でキメたかったのですが」

 聞いてねえ〜。なに、この娘のスルー能力。しっかし、エレガントねえ……

「さあ、数多の精霊たちよ! 私に力を与えて頂戴!」
「……もういいや」

 ツッコミたいが、ツッコめない。いいよもう、そのノリでどうぞ突き進んでくれ。

 しかし、精霊と言っていたが……それっぽいのが集まる気配はないぞ? 代わりに、有栖ちゃんの体に魔力が充溢する感じがあって、ってあれこれって身体強化じゃ

「はっ!」
「ふんぎゃ!?」

 いきなり、天地が逆転した。
 地面に叩きつけられてから、やっと自分が凄い勢いで投げられたということを悟る。

 有栖ちゃんは、まるで旋風のように僕の懐に飛び込んできて……は、わかるけど、その後どう投げられたのか、我が事ながらさっぱりわからない。

 ……んで、なぜにまだ右手を掴まれたままなんでせう?

「せい!」
「んが!?」

 腕を捻られた。
 その後、何がどうなったのか。足で首のあたりをロックされ、もう片方の腕も……見えないからどうなっているのか分からないが、なんか動かないというか動かすと痛い。

 っていうか、スカートが顔に覆いかぶさって、息がし辛い!

「こう見えて私、家伝の柔術の免許皆伝ですの」
「いらないよ、そんな解説!」

 こちらも身体強化すれば、純粋な力じゃ上みたいだが、完璧に抑え込まれた状態じゃ歯が立たない。動かそうとすると痛いし……極められているのを無視して霊弾を撃てばなんとかなりそうだが、流石にこの至近距離では危ない。

 っていうか、それはあんまりフェアじゃない。投げも、この抑え込みも、明らかに僕に怪我させないようにしていた。ここで僕だけが大人げなく反撃するのも……

「さあ、一度だけ降伏勧告をいたしましょう。降参して下さい」
「あ、ああ。参った」
「もし、受け入れられない場合、折りますわよ、骨」

 参ったって言ったのに!?

「いや、あの……だから……ぃった、って」
「はい?」

 あ……。なんか、やわっこい感触がすると思ったら、そりゃこんだけ密着してれば色々当たるよな。なにとは言わないが、色々。
 動かしさえしなければ痛くないように極められているので、その感触がなんか、こう……ありがとうございますって感じだ。

 参ったと言えば、この状態から解放されるのか。

「えっと、そのね?」
「男らしく、はっきり負けを認めてはいかが?」

 うん、僕の負けでいいから。
 気付いていないことをいいことに、僕は一体何をやっているんだろう。しかし、この誘惑は抗いがたい。されども、このままだと宣言通り骨を折られそうだ。

 どうしようか、と悩んでいる振りをしながら時間稼ぎをしている時点で、色々と駄目な気がする。

「さあ、どうしました。折りますよ、本当に」
「いたいいたいー」

 我ながら棒読み過ぎる。

 どうすっかなあ、この状況を打破するにはどうすればいいのか。いや、単に参ったってはっきり言えばいいだけなんだけどしかし惜し……ゲフンゲフン、そんな簡単に負けを認めて男としてどうとかプライドがどうとかまだ勝ち目はあるしとかうん言い訳ってわかっているけどね。

「なにしているんですかっ」

 んで、その思考を吹き飛ばしたのは、そんな怒声だった。

「あれ? しおりん」

 栞ちゃん?
 確かにさっきの声は、彼女のような気がするが。

「あれ? じゃないです。有栖ちゃん、なにしているんですか」
「なにって、決闘ですわ。危ないから離れていなさい」
「決闘って、そんな破廉恥な格好で!」
「破廉恥?」

 うっわ、それ言っちゃ駄目! 気づいたら、僕が怒られる。

「何が破廉恥なのかしら?」

 よっしゃ、気付いていない。ありがとう、アホの子。

「と、とにかく離れて下さい」
「あ、まだ勝負の途中よ。いくらしおりんでも……」
「参りましたー」

 空気を読んで、参った宣言。いやあ、これ以上は無理っぽい。

「私の勝ち? やった」
「うん、すごいすごい」

 抑え込みを解いて、立ち上がる有栖ちゃん。喜んでいるけど、最後魔法とはまるきり関係なかったよね。いや別にいいんだけどさ。幻想郷でも格闘戦はあるし。

「………………」
「な、なに、栞ちゃん?」

 じとー、と睨みつけてくる栞ちゃんに、居心地の悪いものを感じながら尋ねる。

「先生。顔、ニヤけていませんか?」
「な、なにを仰る。そんなことはありませんよ」

 このやりとりの中で、一人惚けている有栖ちゃん。美人なのに、脇が甘いなあ……

「と、ところで、なんで栞ちゃんまでここに?」
「有栖ちゃんに呼ばれて。今朝急に言われたんで、遅れちゃいましたけど」
「そうそう、見た? しおりん。私の華麗な勝利を」

 ……華麗?

「ふん……」
「あれ? しおりん?」

 目線を逸らして、栞ちゃんは遠く離れて見ていた高宮さんの方へ歩いていく。
 ……なんか不機嫌?

「ど、どうしましょう、土樹さん。私、しおりんに嫌われてしまいました」
「そういうもんなのか? 単に虫の居所が悪かっただけじゃ。急に呼び出したそうだし」
「そのくらいじゃしおりんは怒ったりしません。あの日は……しおりんは先週終わったし」

 ぶっ!?

「有栖ちゃん!?」
「しおりん、怖いー」

 今までのイメージ(ロクなもんじゃなかったが)を投げ出して、泣きそうになりながら栞ちゃんに縋りつく有栖ちゃん。

 ああ、なんだろう……。とりあえず、もう僕帰っていいのか?






















 その後、なんとか機嫌を直した栞ちゃんと高宮さんを交え、四人でお茶会をした。
 最後の柔術には有栖ちゃんも納得していないらしく、次こそは魔術だけで勝ってみます、と意気込んでいた。とはいえ、勝ちは勝ちだし、僕も推したので、高宮さんのところで厄介にはなるらしい。

 んで、とりあえず現代に生きる魔術師同士、携帯番号を交換したわけだが……連絡は、取らない方が賢明だろうなあ。



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