魔法には、日々の修練が欠かせない。 パチュリーみたいな、研究メインな魔法使いも多いが、僕の場合はバリバリ……とは言いがたいが、どちらかというと実践に重きを置いた魔法使いだ。 単にまだ研究するだけの知識がないとか、魔法を使うのが気持ちいいとか、そういう一面もあるが。 そんな僕だからこそ、毎日魔法の訓練をしている。無論、外の世界で大半を過ごす僕だから、大っぴらに練習をしているわけではない。 あくまでさりげなく。誰かに見られても、手品と誤魔化せる範囲で。 「ふんふーん♪」 フライパンを勢いよく振ると、炒飯が景気良く踊る。 最近は、こうやって回すのも、うまくいくようになってきた。たまに米粒が二、三飛散するのはご愛嬌だ。 僕が借りているアパートは、一応ガスキッチン。料理には興味があったのでなるべく自炊しようと、台所が広い物件を選んだ。 部屋もそこそこに広いのだが、築年数がけっこう行っているので、大学生の下宿としては平均的な家賃だ。 だけど、家庭用のガスでは、本格的な中華とかでは火力不足に悩まされることがある。 「……やっぱ火力が違うといいよな、うん」 僕がフライパンを振り回しているのは、コンロの少し上。本来なら、コンロの火が届くはずもない位置……なのだが、そこそこの大きさの火球がフライパンの真下に陣取っていて、上に目掛けて業務用もかくやという炎を上げていた。 「む、ほりゃ!」 今一度、炒飯が空に舞い上がる。 ちょっとだけ火球の位置を調節して、米がパラパラになるよう、直火に。 むっふぅん、このコンロ魔法も大分慣れてきた。最初の頃は、あわや天井を焦がすところだったのに、火力や位置の調節は自由自在。 無論、魔法の練習にもなっている。本来そのために始めたんだから、見る間に下がっていくガス料金に小躍りしたことも所詮副産物だ。 うん、いや、本当だって。これ、威力の向上にはアレだけど、制御とか持続とかの練習にはなっている。断じてガス料金がメインではないので、その辺勘違いしないようにしよう。 「そろそろ二つ同時かなあ」 本来のコンロは、現在スープを煮込んでいる。料理に使う程度の火力で、二つ同時に制御は本当に難しい。 威力や起動の術式はスペルカードで補えても、制御の方はスペルカードだけでは如何ともしがたい。その時々の状況によって、どう動かすかは変わってくるためだ。 この料理という繊細な場は、そういった制御の技術を磨くのに絶好の場……のはず。 「っし、出来上がり」 炒飯を皿に、野菜スープを器に盛って、PCデスクのところへ。 ……うん、我ながら、冷蔵庫の余り物で作ったとは思えないほどウマい。 あ〜、いい塩梅だな、こりゃ。 そういえば火……は、魔法だと消す必要ないから便利だよねえ。 ちなみに、スープを作ってた方の鍋を忘れてて、ちょっと焦がしてしまった。 てへ。 続いては洗い物だ。 流し台に運んだ皿と器。あと、昨日カレー食べて水に漬けたままのカレー皿……。そして、先ほど使った鍋とフライパン、っと。 普通に洗ってもいいのだけど、僕は魔法使いだ。当然、日常の手足には魔法を使って楽を――もとい、日常のあらゆることを魔法の修行にしてしまう。 蛇口をひねる。水が出る。 しかし、排水溝に吸い込まれることなく、水は僕の手の平に集まった。 それなりの大きさの水の球になるまで水道から水を補給し、蛇口を閉める。 「ほい、ほい、っと」 台所用洗剤を少量混ぜる。 後は、この水の球を操って、洗い物を済ませるのだ。 これは、コンロ用火魔法より難度が高い。皿は割れるから。 「……あ、カレーこびりついてる」 まあ、余りに頑固な汚れについては、流石に手でゴシゴシやる必要があるんだけど。 カレー皿の汚れをスポンジで落としつつ、他の皿とかを水流を操って洗う。 使っている水が汚れてきたので、一旦流し、再度水道から水を補給……うん、よし。 そんなこんなで五分ほど。それほど洗い物を溜め込んでいたわけでもないので、すぐに終わった。 後は布巾で水滴を拭って棚に収める……のだけど、この作業も魔法を使う。水を操るんだから、付いている水滴を落とすくらいは楽勝だ。 「……はい、できた、っと」 うん、洗い物は、割と効率よくできるようになってきたな。 「ん、ん〜」 折角の幻想郷にも行かない休みの日なので、洗濯もすることにする。 一週間分の洗濯物を洗濯機にかけて、ベランダで干す。 洗濯も水魔法で済ませようかと思ったけど、あれは意外と面倒くさい&難しいのでやらない。洗濯機のない幻想郷じゃ、使っているけど…… 「っし」 最後のシャツを干して、うんうんと頷く。 あとは乾くのが待つばか……ちょっと待てよ? 「えっと、今日の天気は……」 ヤ○ーの天気予報サイトで確認する。……うわっちゃ、午後からの降水確率、八十パーセントかい。そういえば、どんよりとした曇天で、今にも降りそうな…… ヤバイ、明日履くパンツがなくなる。 「よし、こうだっ」 そうと決まれば、ここは反則技だ。 水滴ならば兎も角、『湿り気』を水魔法で取り除くのは難しい。火だと、服を焦がしちゃう恐れがある。と、すると風だ。風を当てて乾かすのだ。 「ふっ、これぞ魔法式室外乾燥機」 周りに影響がないように、竜巻みたいな風の流れを生み出して、乾かしにかかる。この調子なら、それほど時間もかからずにすべて乾くだろう。 ……意外と、しんどいけど。 っていうか、いつまでもベランダにいたら、あいつなにしてんだってご近所に噂されそう。不自然に洗濯物が揺れているし。 ま、しかしこれだけで魔法にまで辿り着けないか。気にしすぎだな。 ……しかし、本当に疲れる。今日は、ちょっと小技の魔法を使いすぎた。霊力の方は兎も角、細かいヤツばかりでちと精神的にクる。 「……ん、よしっ」 頑張った自分にご褒美だ。今晩は一杯やろう。 と、すると……気分的に、今日は麦酒だな。いや、財政的に厳しいから、ここは『その他雑酒』で。あれはあれで、安くて意外とイケると思うのは僕だけだろうか? んじゃ、乾き終わったら買い物に行こう。 うん、テンション上がってキター! 「って、あ!?」 って、気合を入れたら、一緒に魔法で起こしている風まで強くなっちゃって。 シャツが一枚、ひらひらと外に飛んで行ってしまった。 ……洗濯し直しかよ。欝だ。 色んな種類を味わいたいので、セットで買うより若干割高になるが、全部違うメーカーの発泡性アルコール飲料を六本ほど買ってきた。 平日はあんまり呑まないけど、呑む時はガツンと呑むのが僕のスタイルだ。 「ふんふん♪」 つまみに作った肉野菜炒めと冷奴、ちょっとしたスナック菓子を食べつつ、アルコールを呷る。 っくぅ! このために生きているなあ! 借りてきたDVD(ちょっと昔のロボットアニメの劇場版)も、面白い。ルリ○リ可愛い。ちょっとおっきくなった方が僕は好きだな。 うむ、うむ。大分幸せだ。 「っと、ぬるくなってら」 三本目に手を伸ばしたところで、室温で置いておいた金○が温まっていた。 冷凍庫に突っ込めば……って、そうだ。 「そうそう、こういうときのために氷魔法を覚えたんじゃないか」 最近覚えたばかりだから失念していた。 スペルカードはないが、手の平に冷気を生み出すくらいなら……うん、よし。 「他のやつも冷ましておこ」 左手で残った二本に手をかざして、冷気を送る。 まあ、冷蔵庫より低い能力だけど、やらないよりマシだ。今呑んでいる方は、手の平から直接冷やしているためか、程よい冷たさだし。 「いいなあ、魔法、便利だなあ!」 ぬるくなった麦酒も、すぐさま呑める。うん、かなりよろしい。 んで、折角今日は魔法を沢山使った日なので、風呂は電気風呂にした。 ……あのぴりぴりした感じは、嫌いではない。 あれ? そういえばとうとう土だけは使わなかったな……まあ、普段の生活で石とか土とか使わないし。地味な土属性だから仕方ないか…… | ||
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