教育実習も、もうすぐ終わる。今日と明日をクリアすれば、色々あった実習も終わりだ。

 ……だって言うのに、終盤戦に入ってから、どうにもクラス内での僕の立場は微妙になってきた。

「ねーねー、つっちー先生。一年の高宮さんを誘拐犯から助けたって本当ですかあ?」
「……嘘だ」
「でも、藤崎が言ってたよ。ねー?」

 僕を囲んでいる女生徒の一人が、一人気まずげに自席で佇んでいる藤崎に確認を取る。
 それを、藤崎は曖昧な笑顔で誤魔化した。

 ……そう、あの口の軽いムスメがぽろっとこの前の事件のことをクラスメイトに漏らしてしまったのだ。
 おかげで、僕はクラス限定でヒーロー扱い。学校中に広まっていないのが救いだが、この調子だとすぐ広まっちゃいそう。

 まあ、明日まで持てば、それでいいんだけど。

「あのなあ……何回も言っているけど、僕にそんなことが出来るはずないだろう? そういうのは警察の役目だ。……第一、高宮が誘拐されたっていうのは何の話だ?」

 あの誘拐事件は表沙汰になっていない。裏で高宮さんが手を回したおかげだ。噂になるのとか、嫌いそうだしな、高宮。

「えー、でも血相変えたオカルト部の連中が先生に話しかけてたの、見てたよ」
「ちょ、ちょっとな」

 しかし、そこら辺は金持ち連中が集うお嬢様校。お金持ちネットワークから情報を仕入れている親から、なにかしら噂くらいは聞いているらしく、妙に食いついてくる。
 ってーか、ここのお嬢様方も、もしかしてオカルト方面知ってたりするのかな? 高宮さんの話だと、名家でも対策をしていないところは多いらしいけど。

「ええい、先生はこれから職員室で仕事だ。通してくれ」
「えー、つっちー先生冷たいー」

 半ば強引に突き抜けて、教室から出る。

 ……やれやれ、女生徒に囲まれるのは嫌な気はしないけど、理由がなあ。
 あんまり、ああいうのをホイホイ広めるのも良くないみたいだし。それに、同じ囲まれるなら授業の質問とかの方が気が楽だぞ。

「あ、土樹先生」

 廊下に出て、ひとまず職員室に向かっていると、廊下の途中で杵島先生に出くわした。

「お疲れ様です。杵島先生。女生徒を引き連れていないのは珍しいですね」
「はは……」

 杵島先生が曖昧な笑みを浮かべる。いや、実際、休み時間に誰もこの人の周りにいないのは珍しい。っていうか、初めて見た。
 ……くっ、リア充め。ああリア充め。リア充め。

 な、なんて羨ましがったりしないよ? うむ、あれはあれで非常に疲れそうだし。ついさっき、ほんの片鱗を味わっただけなのに、実際妙に疲れたし。

「先ほど、体育の授業の見学をしていまして。今は、クラスのみんなは更衣室で着替えの最中なんですよ」
「……体育? なんでまた」
「今の授業の内容は剣道でして。僕が段位を持っていることが知れて、それで手伝えと」

 ああ、確かに武人っぽい隙のない歩き方だよな。いや、言われるまで気付かなかったけどね。

「ちなみに、何段ですか?」
「この前、四段を頂戴しました」

 ちょっ、つええ。中学で初段だけ取って辞めた僕とは絶対勝負にならない。
 ……いや、偽草薙を手に入れてから、たまに妖夢が稽古を(強制的に)つけてくれるからな。躱すだけならなんとか――!

 なんて、世間話をしながら職員室に向かっていると、丁度人がいなくなった辺りで杵島先生が切り出した。

「――そういえば。先日は、大変だったそうですね」
「え? 大変……っていうと」
「聞きましたよ。高宮さんのお孫さんが誘拐されたとか」

 知っているのか。いや、もしかしたら同僚だからって高宮さんが気を利かせてくれたのかもしれないけど。

「まあ、大変と言えば大変でしたけどね。そんなに強くない人でしたし、僕でもなんとかなりました」
「相手は銃を持っていたっていう話ですけど」
「不意打ちだったんで」

 ある意味。流石に、死んだ人間が生き返るビックリ復活ショーで騙まし討ちをしましたとは言えない。
 杵島先生はまだしも、もし誰かの耳に入ったら僕解剖とかされそうだし。いや、そうなったら逃げるだけだけど。

「銃弾は何発か使った形跡があったそうですが」
「う……」

 しかも、血まみれの服を処分してもらったんだよね。今更ながら、軽率だったかも。
 な、なんか妙にガタイのいい黒服とかが尾行してたりしないよな?

「拳銃にも勝てるなんて。魔法使いって強いものなんですね」

 ……思いっきり負けてたけどね。
 あんなん、勝てたのは体質のおかげだ。あんまり胸を張って勝てたと自慢できるものじゃない。別に、自慢したいわけでもないけど。

 とりあえず、あいつの言うことは信じるな、と言っておいたけど、もしかしたら高宮さんには僕の体質バレてるかもしれないなあ。

「ま、まあ、それはいいじゃないですか。僕達が今するべきことは、実習をつつがなく終えることですよ」
「それはそうなんですが……。好奇心は抑えられないので、また聞かせてください」
「時間があれば」

 杵島先生、意外と僕について興味を持っているみたいなんだよなあ。そりゃあ、リアル魔法使いなんかがいたら、憧れというか、興味を引かれるのはわかるけど。
 でも、そんな杵島先生とも、明日でお別れ。元の大学に戻ったら、杵島先生みたいな上流階級と僕は、接点すらないだろう。

 折角友達になれたのに、残念だ。

「そういえば、土樹先生。先ほどの授業での話なんですけどね……」
「はいはい」

 と、僕と杵島先生は、なんでもない世間話を交わしながら、職員室に一緒に歩いていった。






















「あー、英文学部のみんな。二週間弱という短い期間だったけど、色々ありがとう。君たちと一緒に体験した部活のことを心に刻んで、本物の教師になれるよう頑張りたいと思う」

 夕暮れのオカルト部……もとい、英文学部の部室。
 明日はこっちには顔を出さずに帰る予定なので、下校時刻の直前、僕はそうみんなに別れの挨拶をした。

「師匠……」
「西園寺、師匠はやめろと何回も……」

 言うほど、なんにも教えていないし。つーか、僕だってパチュリーのこと、呼び捨てにしているので、仮に師的な相手でも気にすることはないと思う。

「師匠のこれまでの薫陶を忘れずに、今後も魔道を追及していきたいと思います」
「だから追求するなっつーに!」

 ……結局、この娘に魔法を捨てさせることが出来なかったのが心残りだ。
 彼女は頭が良いから、知識だけはかなり詰め込んでいるが……いかんせん、魔法の才能や霊力などといった資質の面でアウトだ。僕だって才能――魔法を扱うセンスについてはトホホなところがあるが、基礎霊力はそこそこなので、それなりに形になっている。

 彼女のようなタイプは、相当の修行を積まないと、魔法を使うにはなんらかの代償が必要になる。……その辺は口を酸っぱくして詰め込んだから、今後は自分の経血なんぞを触媒にして召喚術を行うことなんてないだろう。
 自分の血とかやめろよ。フィードバックがあったとき怖いぞ。

「せんせ、さよなら」
「藤崎、お前は軽いな……」

 とは言っても、こいつとはまた明日も顔をあわせるだろう。なにせ、僕のメインは藤崎のクラスでの実習だからな。

「んー、まあせんせがいてそれなりに楽しかったし、寂しいのは確かだけど」
「だけど?」
「……ん、なんとなく、また会うこともあるような気がするからね」
「そっか」

 そうだといい……いいか? 悪いような気もするが……いいということにしておこう。最後だし。
 でも、意外と藤崎の勘は侮れない。玩具のような占い本やグッズにハマっているが、その胡散臭さの割に、的中率は高いそうだ。自称だが。

 で、最後は色々と縁のあった高宮だ。
 結局、彼女とは前の一件からこっち、あまり話せなかった。

 普通は怖がるよな。目の前で人が死んで、その人があっさり起き上がったりしたら。
 それだけではなく、霊弾とか魔法とか、ただ不思議なだけじゃなくて、簡単に人を傷つけられると分かったら、気軽に付き合えたりはしないだろう。

 ……なんて、最初は思っていたんだけど、元々近かったパーソナルスペースは対して変わっていない、いや、むしろ更に近付いていたりする辺り、どうにもこうにもわからない。

「えっと、高宮。最後だけど、元気でな。あ、前あげたお守り、ちゃんと持っててくれよ。効き目は保障するから」
「……はい」

 今も、視線は伏し目がちで、僕と目を合わせない。
 推測するに、僕のことが怖い、けれど恩人だからちゃんと接しないといけない……なんて葛藤なんじゃあないか?

 ここで、ギャルゲの類ならそれは主人公の勘違いで、ただ寄せられる好意に気付かないだけ――とかいう展開が王道だが、そんな王の道を歩める僕ではない。

 土樹良也二十三歳。自他共に認めるオタクだが、現実と虚構の区別はつけているつもりだ。いや、このお嬢様校もかなりフィクションに近い存在とは思うが。

「その、先生。本当にありがとうございました。わたしがこうしていられるのも、先生のおかげです」

 ……あ、最後だからか、ちゃんと話してくれた。

「おう。まあ、これからもなにかあったら依頼させて欲しいって高宮のお爺ちゃんにも言われたからな。そんなことがないに越したことはないけど、なんかあったら任せとけ」

 それが嬉しくて、ついつい気の大きな事を言ってしまう。
 わっはっは、でも強いのが来たら僕以外に頼んだ方が良いぞー、っと。

「おお、高宮ちゃんのナイト気取りだ!」
「違うわ!」
「隠すな隠すな。せんせ、意外と、本当に意外と頼りになるもんね」
「藤崎? お前とはそのうち決着をつけないといけない気がするな」

 勘弁勘弁、と藤崎は僕のジト目から逃れ、西園寺の後ろに隠れる。

「師匠、あまりうちの部員を苛めないで上げてください」
「苛めているわけじゃない」
「嘘だー。せんせの事だから、魔法でエロエロなことをするつもりだー」

 人聞きの悪いことを言うんじゃないっ! 言っておくが、今まで僕はそんなことは(ちょっとしか)考えたことはないぞ。

「うう、あたしみたいなパンピーはそんな超常の力には対抗できない……辱めを受けざるを得ないのか」
「お前は、僕がそんな目的で魔法を勉強したと思っているのか」
「んじゃあ、なんのために覚えたの?」

 キョトン、と尋ねてくる藤崎。西園寺も、高宮も興味あるのか、視線で僕に問いかけてくる。

 う、うう……そんな期待されても、情けない理由しかないんだけど。

「……死なないため」
「へ?」
「だから! 周りの物騒な連中から逃げるため! 役立たずもいいところだけどっ」

 戦闘力は上がっても、雀の涙。正直、あまり役に立ったためしがありません。

「物騒な連中とは?」
「西園寺……世の中には、お前の想像も出来ないような非常識な連中がいるんだ。そう、もしかしたら今このときもどっかで聞き耳を立てているかもしれないぞ?」
「は、はあ」

 わからないほうがいい。西園寺は特に、わからないほうがいい。そんなのがいると知ったら、嬉々として会いに行きそうだ。

「はあ……じゃあな。なんかグダグダだけど、もうお前らも下校時刻だ。早く帰らないと、先生方がうるさいぞ」
「は〜い。んじゃ、西園寺先輩、高宮ちゃん。一緒に帰ろっか」

 ……そういえば、意外と仲良いよな、こいつら。全員、性格違うくせに。

























 最終日。

 最後というだけあって、殆ど全部の時間、一人で授業をこなすことになった。
 この二週間の成果を、指導教諭である安藤先生にもなんとか示せたと思う。途中、いくつか失敗もあったけれど、なんとかフォローしきれる範囲だった。

 自信がついた、とまでは言わないけれど、来年教師をすることになったとしても、なんとかやっていけるんじゃないか……そんな希望が持てる一日だった。

 帰りのロングホームルームでは、僕の担当クラスでお別れ会まで企画してくれた。

『つっちー先生。……実は、ずっとあなたのことが好きでしたー』

 とかお別れ会の最中、すげえ棒読みで告白され、ラブレターをもらった。開けてみると、案の定『罰ゲームでした』的なことが書いてあって、お前ら僕に告白は罰ゲームかよ、と思い切り突っ込むことになった。

「……最近の若いのはみんなああなんでしょうか」

 そんなこともあって、職員室で僅かな私物を片付けながら、安藤先生に愚痴る僕だった。

「仕方ありませんよぅ。なんだかんだで、土樹先生も若い男の人ですからねえ」
「……いや、若いって言っても。僕、連中とは五つか六つくらい離れているんですけど」
「でも、ここの男性教諭は、ほとんどがお爺ちゃんですから」

 見渡す限り、職員室にいる男性は少なくとも壮年以上。もちろん――最近はもちろんでもなくなってきたが――全員既婚者だ。
 そういう人たちに比べると、確かに手近にからかえる存在だろう、僕は。

「それに、土樹先生はマシですよ。杵島先生なんか、本気になられて困っているそうですから」
「は、はは……」

 そ、それはかなり困るだろうなあ。
 万が一、億が一、僕がそんな状況になったとしたら……相当困るはずだ。いやもう、照れるとかそーゆーのじゃなくて、マジで。

「……下手したら教員免許取り消しですか」
「そんなことありませんよぉ。今は先生ですけど、明日からは普通の大学生じゃないですか。大学生と高校生くらいなら普通じゃありません?」
「残念ながら、確か日本の条例じゃあ十八歳未満は色々不味かったような」
「へーきへーき。ここだけの話、去年の教育実習の先生は大学卒業と同時にここの生徒と結婚しましたからねー。あ、もちろんその生徒も卒業していましたけどぉ」

 それなんてエロゲ?

「土樹先生も、なにやら生徒と電話番号交換していたじゃないですか」
「いや、あれは無理矢理押し付けられただけ……」

 あの、手製の名刺を作れるやつ。なんつったっけ。あれを押し付けられたのだ。あとはプリクラとか。
 お嬢様とは言っても、割と普通なんだなあ、とは思いはしたが……これを受け取って、僕にどーしろと。

「まあ、思い出にでもしますよ。それじゃあ、二週間お世話になりました。あとは校長先生に挨拶して、帰ります」
「はい、お疲れ様でしたぁ」

 ……最後までこの人、この間延びした喋り方だったなあ。
 でも、書類仕事は速いし、授業もなんだかんだでちゃんとカリキュラム消化していたし……意外と凄い先生だったのかもしれない。

 本物の教師になったら、色々教えて欲しいかもな。


























「ま、って! 待ってください!」

 ん?

 なにやら、駅に向かって歩いていたら、後ろから呼び止める声。
 聞き覚えがあったので、振り向いてみると――

「って、高宮? どうした、こんな時間に」

 とっくに下校時刻は過ぎている。……前みたく、攫われたり襲われたりしていないよな? よっぽど慌てて走ってきたのか、かなり息が上がっている。
 って、あ、私服だ。ってことは、一旦帰ってまた学校の方に来たのか? なんでまた。

「はぁ、はっ……」
「おいおい……どうした? また、なにかに追われているとかか?」

 さり気なく能力の範囲を広げ、全周警戒をする。僕の能力、直接的な戦闘力は低いけど、知覚については結構なものだ。範囲内に入ったらなんとなくわかる。

「い、え。そうじゃなくて」
「ん? そうなのか」

 なんだ、心配して損した。
 でも、そうするとなんで慌てて追いかけてきたんだろう?

「その、先生」
「ん?」

 呼吸が落ち着くのを待って、ゆっくりと話を聞く。

「その、お爺ちゃんがですね」
「高宮さんが?」
「あの、前のお礼に、以前のお店にお連れしたいと」

 ――ああっ! そういえば、約束したっけ?

「わたし、急いで帰ってお爺ちゃんの車で来たんですけど……土樹先生はもう帰ったって言うから、追いかけて」
「あ、ああ。そうか。ありがとう」

 ……ここから駅まで、車の通れる道より公園を突っ切っていった方が早い。態々追いかけてきてくれたんだな。

「一応、お爺ちゃんは駅前に車を止めて待っていますから、行きましょう」
「わかった」

 何気なく、並んで歩く。

 もう少し前の時間だったら、学校帰りの生徒がそこそこいる公園だけど、この時間だと殆ど人はいない。
 ……妙に緊張するな。駄目だ駄目だ。仮にも、今日のうちはまだ生徒なんだから。

 大体、生徒じゃなくても僕は高校生相手に変なことはちょっとしか考えない。だから大丈夫と言い聞かせている時点でやっぱり駄目な気がする。

「先生?」
「……いや、なんでもない」

 高宮が制服じゃなくて私服だから、かねえ。
 邪念退散。
























「はははっ! さぁさ、良也さん。もう一杯やりたまえ」
「はあ、では遠慮なく」

 ……今日は以前のような失態を犯すまいと、自重していたのだけど……自重なんてしていない高宮さんが先に壊れた。なんでも、仕事と関係なく呑む機会があまりないから、とかさっき言い訳していたけど。

 酌を受けようと盃を出すと、高宮さんはふと思いついたように端っこで料理をつついていた孫娘を呼び出す。

「おお、そうだ。栞、世話になったお前から良也さんにお酌をしてあげなさい」
「え……いえ、はい。お爺ちゃん」

 いきなりでビックリしたみたいで、おずおず、僕と高宮さんのほうに歩いてくる高宮。
 ……高宮&高宮でややこしいな。

「それじゃあ、土樹先生。どうぞ」
「あ、ありがとう」

 酌を受ける。
 ……別に差別するわけじゃないけど、やっぱり男よりは女の子から受けた酒のほうが美味しい、気がする。

 いや、幻想郷での宴会は酌したりされたりだけど、あっちはもう慣れちゃったから。でも、こっちで受けるのは色々新鮮だ。

「ありがとう、高宮――って、ええい、ややこしい。栞ちゃんでいいか」
「え――?」
「いや、高宮さんとどっちかわからなくなるだろ?」

 学校だとこんな慣れ慣れしい言い方はご法度だが、もう学校外だ。構いやしない。

「……ええと、それじゃあ、それで」
「うん。じゃあ、頂きます」

 くいっ、と一気呑みする。……む、いかん。女の子の前だからって、いいところを見せようとしすぎたかもしれん。
 このお店のは良い日本酒だが、それだけに度数はけっこう高い。

 ……って。

「♪」

 な、なにやら、空になった途端、嬉々として栞ちゃんが注いできた。
 え、ええと。

「んっ」

 今度はちゃんと料理を食べつつ、普通のペースで。

「どうぞ」
「あ、うん」

 そして飲み干すと、待ち構えていた栞ちゃんが即座に注ぐ。
 ……な、なんだこの状況。彼女、僕を酔い潰す気か?

「先生? もう一杯如何ですか?」
「おお、栞、そうだ。もっと良也さんに呑んでもらいなさい」
「はいっ」

 ち、力強いな、おい。

















 そうして、僕の二週間の教育実習は幕を閉じた。
 実は、この後も高宮さんところには、たまに世話になったり世話をしたりすることになったりしたのだが……まあ、それはまた別のお話だ。



戻る?