学食で、田中と高橋に出会った。 大学に入ってからの友人である彼らとは、僕がダブったせいで今学年が違う。なので、少々疎遠になっていたんだが……せっかくなので、ご飯を一緒に食べた。 で、その席上の話である。 「あ〜、彼女欲しいなあ。声優の」 「……声優、ねえ」 田中の独り言に、僕は興味ないので適当に返す。 声優趣味は僕にはない。そりゃ、有名どころなら何人か知っているけどさ。 「お前は駄目だな、田中」 「なにさ」 「彼女にするなら断然年下の女の子だ。声優とかどうとか、そんなのは枝葉に過ぎん」 拳に力を入れて力説する高橋。どうも、こいつは真性のロリの気配がする。 下手したら小学生とでも普通に付き合っちゃいそうだ。無論、了承してくれる相手がいればの話だが。 「それで、土樹」 「な、なに?」 僕には関係ない話だと、適当に聞き流しつつカツカレーを食べていると、いつの間にやら高橋がじっとこちらを見ていた。 「な、なにかな?」 「前、お前が持ってきた写真。あそこに写っていた娘、一人くらい紹介してくんない?」 「えー。っていうか、スキマ……八雲紫に、関わるなって言われなかった?」 スキマの名前を出したとたん、二人はガクガクと震える。 この二人、命知らずにもあのスキマをおばさん呼ばわりして、キツイお説教を食らったらしい。さてはて、前のときより少しは心の傷は癒えたみたいだけど、やっぱりまだまだか。 「ふ、ふっ。あの人は、女性の年齢について言及するなとは言っていたが、関わるなとは聞いていない。甘いぞ、土樹。八雲様の名前を出したくらいで、俺が動揺するとでも思ったか」 いや、様付けて。思いっきり動揺しているじゃん。 「とにかくっ! お前にハーレムエンドは荷が重い。俺に任せろ」 「一人くらい、とか言っていたのは僕の気のせいか」 「大丈夫、俺の愛の器なら二十人や三十人の女の子は余裕だ」 なに、この女の敵。 でも、臭いっていうか、芝居がかってるなあ、台詞が。 「紹介ねえ……するのは構わないけど、みんな遠くに住んでるから」 「遠距離恋愛か。恋にはそのくらいの障害じゃ生温いぜ」 「あ、俺は巫女さんかメイドさんがいいな。もしくはナースさん」 ……ナース、と言えば永琳さんか? いや、あの人は女医だから、むしろ助手の鈴仙かてゐ辺りかな。 「馬鹿野郎、田中。お前は声優萌えなんだろ」 「高橋に独り占めなんてさせない!」 睨み合う田中と高橋。もういいか……食べ終わったし、逃げよう。 「待て」 「なんだよもう。遠くに住んでいるって言っただろ? 連絡取るのも一苦労なんだから」 嘘だが、一応そう言ってみる。 「駄目だ。お前だけズルいぞ。誰か一人、紹介するまで俺はお前を離さない」 「ズルいって……」 いっぺん、僕と立場変わってみるか? 一日でそんな台詞言えなくなるぞ。 「ねえ、土樹。せめて写真くらい見せてよ。前、一回見たきりだし」 「……まあ、いいけど」 田中の懇願に、仕方なく鞄の中から写真屋の封筒を取り出す。 実は、今でも時たま幻想郷で写真は撮っていて、一週間ほど前も現像に行っていた。そのときの封筒がまだいれっぱだったのだ。 中身はどっしりとしている。現像しに行くのが面倒で、フィルムを溜め込んでいた結果だ。 「よっし。この中のどれか一人を紹介してもらうぞ、いいなっ!?」 「……あんまり良くないけど、見るならどうぞ」 あのさあ、高橋。 一応、言っておくけどさ。この中に写っている連中のほとんどは、機嫌を損ねると即爆発しかけない危険物なんだぞ? なんて言っても無駄だろうとそろそろ学習したので、観念して二人に写真の束を渡す。 『おおっ!』『これは!』とか、二人して騒いでいる。……ん〜まあ、確かに顔はかわいいと思うよ。でも、一回連中に殺されて見なさい。そんな気はなくなるって。 「決めた」 「俺も」 そして、二人、それぞれ一枚の写真手に、僕を真剣な目で見る。 ……この真剣さをもうちょっと別の方向に働かせれば、彼女くらい出来ると思うんだけどなぁ。……いや無理か。 「俺はこの娘だ!」 「君に決めた!」 どどーん、と二人は写真を僕に見せる。 え、えーっと…… 「田中は……あ、アリス」 「あ、外国の子なんだ。金髪だからそうだろうと思ったけど。ふっ……国際結婚かぁ」 「気ぃ早すぎ。あと、日本生まれの日本育ちだから。……でもなんで?」 田中のさっきの言動からして、霊夢とか咲夜さん、あるいは永琳さんだと思ったのに。 「なんていうのかなぁ……この子、人形とか持っているじゃない? 趣味が合うかなぁって」 「……ああ」 そういえば、田中はフィギュアも好きだったっけ。前、僕の部屋に遊びに来たとき、アリス作の某魔法少女フィギュアをえらく絶賛していた。こいつ、魔改造とかもするし、確かに趣味は合うのかも。 割と納得。うん、田中はまだ健全だ。アリスの見た目なら高校生からちょっと若く見える大学生で通じる。年齢的にもそう問題はないだろう。実際はアリスがかなり年上だけど。 ……で、問題は高橋だ。 「おい」 「なんだ、土樹」 「僕、真面目にお前との付き合いを考えたほうがいいんじゃないかと思い始めた」 「はっはっは。なにを言うかと思えば……お前も同じ穴の狢だろう? こんな子と知り合いの大学生なんて、それだけで犯罪みたいなもんだ」 「自覚はあるんだな」 高橋が選んだのは……フランドール。 「フランドールはまだせいぜい十歳だ!」 見た目はっ! 実年齢約五百歳だけどっ! 「ふふ……安心してくれ。まだ手は出さない。そう、あと二、三年は……」 「本気でヤバいな、お前……」 田中ですら引いている。 二、三年て。下手したらまだ小学生だ。いや、フランドールが二、三年年食ったからって見た目が変わるとは思えないけど。 っていうか、殺されるぞ。リアルに。何気に僕を殺した回数が一番多いのはフランドールなんだから。 ……いやまあ、殺そうと思って殺したことは一回もないはずだが、だからこそ恐ろしい。 「いいじゃない、紹介してあげれば」 「いや、そんなこと言ったって。みすみす友人(仮)を悪魔の餌食にするわけには……」 「それはそれで運命なんでしょう。あの子が好きなんだったら、好きに殺されるべきよ」 「んな無茶な……」 はて、一体僕は誰と会話しているんでしょうという疑問は浮かぶと同時に答えを弾き出した。 っていうか、このタイミングで会話に参入するやつは、スキマしかいない。 「なあ」 「なにかしら」 「お前、もしかして暇なのか?」 「向こうの私みたいなやつはみんなそうよ。私はこちらに来て、色々と暇は潰せるけどね」 指示語が多いのは、やっぱり幻想郷のことを漏らしたくないからだろうな。 「ってか、なぜにキツネうどんを食っているんだよ」 「ここの学食は安くて美味しいからね」 「……まるで常連みたいな物言いだな」 「たまに来ているわよ。貴方の監視も含めて」 監視されてるのか、僕。いや、毎度毎度すごいいいタイミングでくるから、もしかしたらとは思っていたけど。 「監視は冗談だけどね」 「冗談じゃないだろ」 「いいえ、冗談よ」 頑なに否定すると、逆に怪しいぞ。っていうか、お前は普段の言動が悪すぎて、言うことはいちいち信じられない。 「……おーい、田中、高橋。大丈夫かー?」 ちゅるちゅると、うどんを一本啜るスキマの姿に、田中高橋の両名は完全に固まっていた。 以前、お仕置きされたトラウマが蘇ったな…… (で、どういうつもりだよ、スキマ) (あら、内緒話? いいわよ、なに) (いや、紹介したらいいじゃない、なんて気楽に。あいつらを幻想郷に連れて行く気か?) あんまりよくないんじゃないかなぁ、って思うんだけど。 (そうねえ。里でも若い男は歓迎されると思うけど) (おい!) (ちょっとした冗談よ。でも、来たい者がいれば拒むことはないわ。幻想郷は受け入れる) ……どこまで本気かわかったものじゃない。 友人のことを思うなら、ここは引き止めるべきだろう。 (やめろよ。あの二人は普通の学生だぞ) (貴方も普通の学生だったじゃない) (いやまあそうだけどっ) (ふふ……まあいいわ。私に任せておきなさい) くるっ、とスキマは二人に振り向いて、言った。 「貴方たち」 『は、はいっ』 同時に返事する二人。……うーん、よほど怖かったんだろうなあ。 「貴方たちの気持ちはわかったわ。でもね、その二人は良也が手をつけているから、駄目よ。ああ、その二人じゃなくて、写真に載っている女の子全員ね。実は写真はそれだけじゃなくて、ハ○撮りも……」 「スキマぁあああああああ!!」 あ、二人の視線が痛い。特に田中の『ペド野郎だったのか』的視線が痛い。 「これで問題ないわね」 「あるわっ!」 「それじゃあ、私はこれで」 いつの間にかうどんを食べ終わっていたスキマは、食器をちゃんと返却口に返して、優雅に去っていった。 ……ていうか、みんな気にしろよ。ゴスロリ美女がなんで学食でキツネうどん食ってんだよ。誰か勇気のある人、いないのか。 ……いないか。 「土樹ぃ〜」 「お前なぁ〜」 その後のことは、僕は一切思い出したくない。 |
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