僕は、写真屋から出て、ニヤニヤした。

 別にカメラが趣味というわけではない。ただ、射命丸が僕の写真を撮って記事にしたのを見て、ふと思いついたのだ。
 幻想郷の連中を写真に撮ろうってね。

 デジカメも持っていないので、使い捨てカメラを購入。
 丁度、博麗神社で宴会があったので、撮りまくった。

 射命丸は、このような陳腐な物体で写真が取れるものなのか、と驚愕も露にしていたが、おおよその連中は興味しんしんで僕の被写体となった。

 とりあえず、三部ずつ焼いてきた。
 ちゃんと撮れているかどうかチェック。

「……うん、大丈夫かな」

 とりあえず、妙な写真はまぎれないよう、弾幕ごっことかのシーンは意図的に撮らなかった。
 羽根が生えているのとかもいるが、これはコスプレだと言い張れる。

 とりわけ、最後に撮った全員集合の写真はなかなか見事だった。
 博麗神社をバックに、カメラを持ってきた僕が中央。その周りに、宴会に参加した二十人以上のメンバーが全員、所狭しと並んでいる。

 タイマー機能もないのに、誰が撮ったのか。
 とりあえず、幻想郷には触れずに物を動かせる人間など、掃いて捨てるほどいるとだけ言っておく。

「よっ、土樹。なにしてんの?」
「……へ?」

 そんな風に写真を検分しつつ歩いていると、急に肩を叩かれた。

 後ろを見ると……大学の友人である田中と高橋がいた。

 田中は、見た目ちょっとぽっちゃりのオタク友達。カラオケが上手く、趣味はフィギュア系と声優系。
 高橋は、一見はなかなかのイケメン。しかし、生粋のエロゲとエロ漫画の収集家。

 二人とも、大学に入ってからの付き合いで、大体構内では三人でつるんでいる。

「ああ、二人とも久しぶり」
「おお。夏休みだからお前が退院した後は会えなかったな。なんだ、元気そうじゃん」

 田中の言葉に、苦笑する。
 二人は、僕が植物状態から意識を取り戻した後のリハビリ中、幾度となく見舞いに来てくれた。
 いらんというのに、最新の成年コミックなどを手土産に。

 お前ら『若いんだものねぇ』なんて年頃の看護婦さんに言われた僕の気持ちを、少しは考えろ。

「……ああ、おかげさまでな」
「な、なんか怒ってないか?」
「気のせいだ」

 高橋がちょっと引きつった顔になる。
 が、話題を変えようと思ったのか、無理に明るい声を出した。

「そ、そういえばさー。田中、また振られたんだぜー」
「ちょっと待てよ。振られたのはお前も一緒だろ」
「はぁ。そうですか」

 どうにも、この友人二人についていけないのが、この彼女を作ろうとするマインドだ。
 どうせ僕たちがモテるはずもないのだからやめておけ、と散々忠告したものの、やめる気配はない。

 しかも、身の程をわきまえず可愛い子ばかりを狙い撃ち。大学生の癖に、主に声をかけるのが中学生というのだから、そろそろこいつらしょっ引かれるんじゃないだろうか。

「で、どこのどなたに声をかけたんだ」
「学校帰りっぽかった双子」
「近所の神社の娘だよ。初詣の時の巫女服姿は神秘的だったなあ」

 その目はどう見ても神秘的なものを見る目じゃない。
 ああ、もう面倒くさいなぁ、と思っていると、ひょい、って、高橋に写真を入れていた封筒が取られた。

「あ、お、おい!?」
「土樹に写真の趣味なんてあったっけ?」
「さあ。見ちゃえ見ちゃえ」

 取り上げようにも、田中が低めの重心を生かしたフットワークで遮る。

 別に見られても、幻想郷の正体が露見する(露見したらスキマにボコされる)心配などないが、あまり他人に見せるような写真じゃあ……

「なにぃぃぃぃ!?!?」
「ど、どうした高橋? なにが写ってた!?」
「お、おお? んな悲鳴を上げるような写真を撮った覚えないぞ」

 ひょい、と田中とともに高橋の見ている写真を覗きこむ。
 それはついさっきまで見ていた集合写真。

 ……一部、羽根が生えてたり、ちょっと有り得ない髪や眼の色をしていたりするが、

「あ、ああ。これコスプレだ。決して妖怪とか幽霊とかスキマとかじゃあないぞ」

 最後のはちょっと違うか、と考えつつ、フォローを入れるが、

「馬鹿野郎。お前、いつこんな美少女たちと知り合いになったんだ!?」
「美、少女?」

 って、どこのだあれ? と聞こうとして思い至った。

 ……ああ、確かにツラだけは良い連中だよな。ツラだけは。

「まあ、待て。僕はむしろこいつらに虐げられていてだな」

 特に、この巫女とスキマはひどい。と写真の二人を指し示すと、今度は田中が激昂した。

「こ、こんな巫女に虐げられたいよ俺も! この娘何歳!?」
「知らん」

 聞いたけど、そもそも数えていないんじゃないかというほど適当な答えが返ってきた。

「俺はこっちの角が生えた子がいい。こっちのババァはいらん」

 と、高橋のほうは萃香を指し示しつつ、スキマをいらん子扱い。
 ……いや、確かにその二人だと僕も萃香の方がいいが、何故にあえて萃香? 高橋、お前もしかして実は真性……

「お、俺も巫女タンに虐げられたい……。こっちのおばさんも、綺麗は綺麗だけど、ちょっと……ていうか、この年でゴスロリ?」
「まあ、珍しいことは珍しいと思うけど」

 僕は、以前それを考えてタライを落とされたので、そこらへんは言及しないことにしている。

「他にも、可愛い子がいっぱいじゃねぇか。一体どこで知り合った!?」
「どこで、かぁ……。ちょっと臨死体験で」
「誤魔化すなっ!」

 誤魔化してねぇよ、と言おうとしたが、その言葉は声にならなかった。

 二人の真後ろで、なにやら見覚えのある女がにっこり笑っていたので。

「あら、良也、こんにちは」
「す、スキマさん? こ、こんにちは」

 ギクシャクするのを自覚しつつ、僕は挨拶。

 なんだこのスキマ。妖怪の癖にこんな天下の往来に出てきていいのかオイ。確かに外の世界に頻繁に来てるとは聞くが。

「え? あれ? あ、こんちわ。土樹の知り合いッスか」
「ええ。貴方たちがたった今、ババァとかおばさんとか言ってくれた八雲紫よ」

 聞いてたんかい。

「あ、すんません。聞こえてました?」
「いや、ちょっとした軽口の類ですんで、気にしないでください」

 田中、高橋。言い訳している暇があるんなら、とっとと逃げ……

「……そう。それなら仕方ないわね。少しで勘弁してあげましょう」
「ちょっ!? スキマ!?」
「良也。貴方は友人の教育をしておくべきだったわね」

 過去形で述べて、周りの誰にも気付かれず、二人をいずこかへと連れ去る。






 ……願わくば、彼らの魂に平穏のあらんことを。

 と、思ってたら、割とピンピンして帰ってきた。
 でも、八雲紫の名を出すと、ガタガタ震える。……あいつ、一体なにをやったんだろう?



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