「ふむ、今回の件はヘカーティアまで関わっていたのですか」

 夢の世界に敵がいるぞー、と伝えた所、やられた憂さ晴らしとばかりに向かう魔理沙と鈴仙を見送り、しばらく。僕の隣に立つサグメさんがそう呟いた。

「知っているんですか?」
「純狐の友人で、同じく嫦娥を恨んでいる者です。たまに手を組んでくるのですが……今回は、関わっていないかと思っていました」
「ええと、大丈夫なんですかね。夢の世界の方は」
「ヘカーティアは強大な力を持つ神ですが、平気でしょう。もし彼女が本気で本腰を入れてきていたら、とっくにどちらかが滅んでいますから。心配事と言えば、人間等塵芥としか思っていない彼女に、あの地上の者たちが戦いを挑んで大丈夫かな、というところですが」

 ふむ。まあ、サグメさんがそう言うのなら、そうなんだろう。
 魔理沙達の方は、負けることはあっても死ぬことはないだろう、多分。

「それで……良也、といいましたか」
「はい」
「……貴方はいつまでここで尻込みしているつもりですか?」

 え? ええと、いやー、その、アレですよ、あれ。

 予想通り、霊夢が静かの海の妖精達――クラウンピース含む――を蹴散らしたのは確認しているが、ほら、まだ沢山残ってるし。
 あの妖精たちのリーダーであり、なんか純狐さんとやらから力をもらったというクラウンピースが落ちた以上、もう少し待てば妖精達もいくらかはいなくなるはず。

 今回の作戦において僕は結構重要ポジらしいし、万全を期すのは、これ義務だと思う次第であり、

「……運命はすでに逆転を始めている。八意様より遣わされた人間、土樹良也。さあ、貴方が月を救うのです! いざ、敵の本拠地、静かの海に向かえ!」
「あの、心の準備」
「向かえ!」

 はーい、と、僕は若干キレているサグメさんに手を振り、なんとか妖精の少なそうなルートを選んで、再び飛び始めた。



















 えっちらおっちらと、霊夢が通ったと思しきルートを飛んで向かう。

「くっそ、それでもまだ多い!」

 もう狙いなんて付けなくても当たるほど、妖精がそこかしこにいる。
 数は少ないし、一度霊夢に落とされた奴も含まれているのかボロボロの妖精も半分くらいだが、それでも若干僕の手には余る。

「この、風符!」

 シルフィウインドのスペルカードで、妖精達を纏めて攻撃する。
 ……今回、僕が矢面に出ることが多いので、作り貯めてきたスペルカードもそろそろネタ切れだ。

 そう言えば、スペカ作成に使った費用は必要経費として永琳さんに請求しても良いんだろうか。いや、別にそんな大層な金額ではないが。

 ……余計なことを考えている暇はないか。

「火符『サラマンデルフレア』!」

 発動を調整し、どっかのなんとかバスターかかめは◯波みいな感じで一直線に伸びる炎の柱。
 妖精達が塞いでいた道に穴が開き、僕はそこへ向けて一直線に飛ぶ。勿論、すぐに回りから妖精達が殺到してくるが、虎の子の時間加速まで使って振り切る。ついでに、弾幕をばら撒く。

 今は二倍速だから、普段の二倍の密度で放たれる霊弾に、僕の行く手を遮ろうとしていた妖精は一掃できた。
 ……最近気付いたのだが、時間加速は回避だけでなく、攻撃面でも使い勝手が良い。単位時間当たりの弾幕量が馬鹿見たいに増えるのだから、そりゃそうである。いや、すぐ気付けという話であるが、今まで逃げることにしか使ってなかったしね……

 ともあれ。

 ようやく、沢山いる妖精達の群れを突破した。一旦振り切ってしまって、視界の外に出れば、わざわざ追ってくるような妖精は少ない。

 目論見通り、クラウンピースがいなくなって妖精達も散り始めていたこともあり、ようやく一息付ける程度には落ち着いた。
 ……やっぱり、もう少し様子見しときゃ、もっと楽だったんじゃないか? という疑念は一旦置いておこう。

 で、ここまで来れば、ようやく事の首魁のことも見えてくる。

「おーおー、やってるやってる」

 遠目にもよく目立つ紅白の衣装の霊夢が得意の針と陰陽玉で戦っている。んで、その相手が、多分純狐さん。誰も性別は言ってなかったが、予想通り女性……くらいしかわからん。距離があるし、弾幕が邪魔。

 やっぱ近付かないとなあ。

 まさに地獄といった感じの弾幕のやり取りに、近付くだけで死の予感がビンビンするが、ここまで来て今更逃げ帰るわけにもいかない。

「つーか……」

 ひょい、と後ろを見る。
 月の都までの道のりはもう結構な距離になっており、また未だそれなりの数の妖精がいたりして……スペルカードを使い果たし、能力リソースも大分吐き出した今の僕だと、帰り着くまでに落ちそうだ。

 ……よし、そーっと、そーっとね?

 そうして、流れ弾幕に当たらないよう、気を付けて近付いていくと、純狐さんがやたら笑っていることに気がついた。

「ははははは! 嫦娥よ、見ているか! お前の手の者が送り出した人間が、無様に足掻く様を!」
「この、好き勝手言って!」
「ふん、思えば貴女も哀れなものです。そろそろわかったでしょう? そのような死穢を纏った人間に、私は倒せない!」

 月の都のじょう……じょうが? さんとやらは、余程恨みを買っているらしい。名前だけは、なんか月関係の人に聞いたことがある気がする。

 んで、多分、純狐さんと思しき金髪の女性は、実にいい笑顔で霊夢を追い詰めていた。

 ……そう、追い詰めている。

 なんだかんだで、最後には勝つだろうと思っていた霊夢だが、顔を見る限り相当苦戦しているようだ。
 先程純狐さんに返した言葉も、常になく余裕がない。

 ……やっべ、マジつええのか。

「あ〜〜、もう……」

 流石に、これは腹を括るしかない。
 そんな万が一があるとは僕はこれっぽっちも信じていないが、仮に霊夢が負けて、更に仮定に仮定を重ねた話だが、恨み骨髄といった風の純狐さんに殺されでもしたら、僕自身、なにするかわからん。

 あの永琳さんが、わざわざ僕なんかに依頼したのだ。きっと、起死回生の手になるはず。

 そう信じて、僕は声を張り上げた。

「霊夢!」
「あ、良也さん!? っと、『二重結界』!」

 霊夢がこっちに振り向き、危ういところで直撃しそうだった弾幕を結界で防いで、仕切り直しとばかりに下がってくる。
 ……霊夢が後退するとか、本当にきつい相手なんだな。

「おや、二人目ですか。月の都の者も芸がない。穢れのある人間なんて……………………? あら」

 純狐さんが、先程の鬼気とした雰囲気を霧散させ、眼を丸くさせる。

「貴方は死穢の匂いがないわね。ここまで一度もミスせず……と、いうわけでもなさそうだけど」

 うん、僕の服、割とボロボロですもんね。一目瞭然です。

「そういえば良也さんって、そういう変な体質だったわね」
「変って言うな」

 割とピンチっぽかったのに、もうそんなことは忘れた様子の霊夢が、呑気にうーんと考え込む。

「隣の巫女も、先程までの死穢が感じられない。また、月の民も妙な人間を」
「あ、そうなんだ。そっか、良也さんの力って、周りを暖かくしたり涼しくしたりするだけの能力じゃなかったっけね」
「せめてお前は覚えとけよ」

 結構長い付き合いになるというのに、僕の能力は霊夢にとってエアコン代わり程度のモンらしい。
 いや、僕も大いに同感だけどね! でも、『倉庫』とか、割と便利な使い道も増えてるんだぞ。

「えっと、あの。それで、今回はこれでお開きってことになりませんかね」

 サグメさんは、純狐さんと月の都の戦いは知恵比べと言っていた。だったら穢れ云々のない僕が来たってことは、策で勝ったと言い張れないだろうか。

「してやられた、という気はするけど、未だ私は負けたという気はしないわね。穢れを持っていない生き物を目の前に持ってくるだけならば、簡単に出来る。私に一矢報いる程度の力があれば、負けを認めるのも吝かではないが」

 ……ああ、やっぱね。サグメさんも言ってたっけ。
 しかし、霊夢と一緒ならその点もクリアじゃないかなあ。どうなんですかね、その辺。

 と、様子を伺っていると、突然、隣の霊夢が僕の腕を掴んだ。

「は? なんだ、霊夢」
「ちょっと癪だけど、私一人じゃ勝ち目は薄そうだからね。良也さん、力を貸して頂戴」
「いや、それは構わないんだが、なんで僕の腕を掴む?」
「ほら、良也さんの力って範囲狭いでしょ? 動き回ったら駄目だから」

 駄目だから……なんだ? 超嫌な予感がしてきたんですけど。

「ああ、成る程。各個分断は容易だと思っていましたが、そう来ますか」
「名付けて良也さんバリアーよ」

 名付けんな!?

「そうか。ならばひとまず私の負けを認めよう」
「認めちゃうんだ、これで!?」
「勝手に決めないでよ。私はまださっきまでの負け分、取り返しちゃいないわよ」
「いや、そこは引けよ!?」

 僕はツッコミを忘れないが、それはそれとして僕の存在は忘れられている気がする。

「いいだろう。既に勝負は決したが、勝者への持て成し程度は心得ている」
「あん? 本気で来なさいよね」
「無論。では、改めて地上人の限界を見せよ! そして嫦娥よ、私の怒り、私の恨みをこの者との戦いの中でとくと見るが良い!」

 あれ、ちょ、待っ、

「良也さん、悪いけど、ちょっと振り回すわね」
「振り回さないという選択肢もあったような気がします!」

 さっき純狐さん、負け認めた時は、戦意なくなってたよね!

「知らないわ。だって、舐められっぱなしは悔しいもの」
「それ、お前の超個人的な理由うううううう!?」

 次の瞬間、霊夢に腕を引っ張られ、攻撃を開始した純狐さんの弾幕から逃れる。

「さあ、第二ラウンドよ!」

 宣言し、霊夢が霊力を高める。
 その様子を不敵な笑顔で迎え撃つ純狐さん。

 助けに来るんじゃなかったー、と僕が半泣きで後悔するのに、時間はいらなかった。
















「おい、霊夢、今掠った!」
「ゴメンゴメン。おっと、危ない」
「なかなかやるわね! 私の純化の力が届かないとは、これほど厄介なものか」
「ふん、んな反則みたいな力を振りかざして、弾幕ごっこの風情ってもんがわかってないわね」
「風情! 成る程、地上人に合わせてあげましょうか」
「霊夢! ちょ、あれ、ヤバイ! 逃げ……」
「良也さん、暴れると本当に当たるから大人しくしてて頂戴!」
「いや、あんなん躱せるわけ……え? い、今どうやって抜けた?」
「ん? ほら、こう、勘?」
「明らかに人一人分の隙間もなかったぞ!?」
「嫌な単語使わないでよ。紫が出てきたらどうするの」
「それは僕が悪かったが、それはそれとして……いや、なんで当たらないだよ、お前!?」
「当たらないようにしてるからに決まってるでしょ。さ、行くわよー」
「って、そっちは絶対無理無理無理!」

 …………………………………………

 …………………………

 ………………

 …………

 ……


























 チーン。と、僕は自分の頭の中でそんな音が響いた気がした。

「ちょっと良也さん。いつまで死んでるのよ」
「ひ、人を勝手に殺すな」

 死んでないよ、うん、何故か死んでない。そこらの遊園地の絶叫系等メじゃない勢いで振り回され、霊夢視点の弾幕ごっこに付き合わされたせいで、三桁近く死ぬかと思ったけど。
 でも、一応霊夢も気遣ってくれていたのか、掠ったのは何発もあるが、直撃はなかった。

 そうして、もう後半は脳が記憶することを拒否したような感じでイマイチ判然としないが、どうにかこうにか生きて終わりを迎えたわけである。
 まあ、勝ったことは勝ったんだが、その辺もう割とどうでもいい……

「あの純狐ってのも逃げたし。さ、とっとと帰りましょ」
「お、おーう」
「ああ、帰りに、月のあの女に報酬でも貰っていきましょうか。迷惑料としてそれくらいはいいでしょ」
「そうだな……前呑んだ月の酒は旨かったし、貰ってくか」

 永琳さんとの報酬の二重取りになりそうだが、そのくらいは笑って許してくれるだろう。
 ……永琳さんのヤツは、もらうの大変そうだしな。

「よし、決まりね。ま、月の都は息苦しいから、面倒だけど神社に帰るまでお預けかな」
「ああ……まだ帰り道あるんだよな」

 ゲロ面倒臭え。

 まあしかし、今回は僕も頑張った。
 そう考えれば、この疲労感も心地良いもののような気が……いや、やっぱしんどいだけだ、これ。





 その後、霊夢はサグメさんと交渉(強弁)し、月の都特産の雑味の一切ない純粋な酒を樽で三つもせしめ。
 帰る途中、なんか三人に分裂したという女神ヘカーティアさんとのエキストラステージをクリアした鈴仙、東風谷、魔理沙の三人と共に、神社で大いに飲み明かしたのだが、

 ……疲労ですぐ酔い潰れて、その後のことはよく覚えていない。



前へ 戻る? 次へ