慧音さんに教えてもらった方角に飛んでいたら、竹林があった。 竹がやたら高く、延々と同じ風景が続くので、迷ってしまいそうだ。 それもそのはず、ここは迷いの竹林と呼ばれているらしい。 あ、ちなみに竹林は『たけばやし』とも『ちくりん』とも読めるんだぜ? ちくりんちくりんちんちくりん、っと。 「……わけがわからんな」 自分で言ってて、ないなと思った。 最近の僕は、わけのわからない言動が増えている。自重せねば。 つっても、周りが僕以上にわけのわからない連中だしなぁ。 しかし、この竹林に入ってから、妖精の数が目に見えて増えた。 どうやら、慧音さんが言っていたように、ここに事の元凶がいるのは間違いないらしい。 まあ、しかし。 「人符『現世斬』!」 「幻符『殺人ドール』!」 あの剣士とメイドの前では、それも塵芥。まるで無人の野を行くがごとく、後方で待機している僕と幽々子とレミリアは悠々と飛んでいた。 ……あ、無人は当然か。妖精だしな。 「良也も行かないの?」 「冗談。僕はもう疲労困憊。とてもあんな弾幕に突っ込むような元気はないよ」 お手上げのポーズをしてみる。 「情けないわねぇ。人間」 「吸血鬼と一緒にしないでくれ。それより、お前こそ従者にだけ任せてないで前に出たらどうだ?」 「お前が血を吸わせてくれたらいくらでもやってあげるよ」 ちろり、とレミリアが唇を舐める。 なんというか、妖艶な仕草だ。幼女の癖に。 ……いや、あれはむしろ、獲物を前にした獣の舌なめずりなのか? 「良也。ビビりすぎよ。そんな態度じゃ、悪魔を喜ばせるだけ」 「忠告、ありがたく受け取っておくよ幽々子」 そうだそうだ。 むんっ、と気合を入れる。 いくら吸血鬼とて、所詮は幼子(少なくとも見た目は)。年上の貫禄を見せ付けて…… と、そこまで考えたとき、遠くで激しい音がした。 「ご、ごめんなさいっ!」 すわ考えが読まれたか、と謝り体勢に入るが、別にレミリアが癇癪を起こしたわけではないらしかった。 「……ん?」 音の発生源を見やる。前方だ。 眩しいほどの弾幕を打ち合う、二人の姿。 それは、妖夢でも咲夜さんでもない。 どこかで見たことのある紅白の巫女と、これまたどこかで見たことのある白黒の魔法使いが、大弾幕ごっこを繰り広げていたのだった。 「……喧嘩かー?」 まさか横から割り込むことも出来ず、僕たちは足止めを喰らってしまった。 「まさか。普通の弾幕ごっこじゃない」 「そうは言うが、確か霊夢は異変を解決しに来たのに」 僕にはよくわからないが、幻想郷全体を巻き込むような大異変らしい。まさか、魔理沙がそれを邪魔するとも思えないんだけど、 なんて疑問は、すぐさま解けた。 「いい加減、夜を明けさせろってんだ! どうせ紫が昼と夜の境界を弄ったんだろ!」 わぁい。魔理沙すごい親切設計だな。 たった一言で疑問が解けたぞ。 「……どうやら、勘違いしているようね」 「いや、幽々子。紫さんが昼と夜の境界を止めたのは間違いじゃないんだけど」 「あら、そうなの? 私たちだけがやったわけじゃないんだ」 あっけらかんと言う幽々子。 ……こいつは。そんなあっさりとまぁ。 「あら、亡霊もやっていたのかしら?」 「どういうことだ、レミリア」 「私が時間を弄って夜を長引かせています」 はい、と咲夜さんが手を上げた。 こ、こいつらは。そんなとんでも自然現象をあっさり起こしやがって。 「しかし、これじゃあ通れないわね……。咲夜」 「はい。お嬢様」 「あの二人を排除しなさい」 『かしこまりました』と咲夜さんは飛んでいく。 「お、おいっ!?」 「負けていられないわ。妖夢」 「任せてください、幽々子様」 と、妖夢まで突撃していく。 「……お前らなぁ。あんな状況に、さらにあの二人を放り込んだら」 「ちょっと変則的な弾幕ごっこよ。四人でバトルロワイヤル」 あーあ。スペルカードまで取り出して、四人でやり始めやがった。 「なんで咲夜に妖夢まで来てんだっ!」 「あなたたち、ちょっと騒がしいのよ。魔法使いはとっとと家に帰りなさい」 「悪魔も私としては帰って欲しいんですけど、ねっ!」 「あっ、こら! どさくさにまぎれて私を攻撃するんじゃない!」 「ああもう。魔理沙だけでも面倒だってのに、アンタたちまで来たのっ!?」 もう、なにがなんだか。 「そうね。元気だこと」 「って、紫さん……」 「良也も追いかけてきたのね。藍、賭けは私の勝ちよ」 はあ、とため息をつくのは、いつの間にやら現れた紫さんの後ろに控える藍さんだ。 「はいはい。私の負けでいいですよ」 「じゃあ、明日のご飯はうなぎね、うなぎ」 「わかりました。捕ってきます」 主従のやり取りに僕は疑問の声を上げる。 「って、賭けって?」 「良也がここについてくるかどうか。ま、私の勝ちだけどね」 「なんで僕が付いてくると思ったんだ?」 いやいや。普通に考えて、ああいう場合、のこのこ帰ることを想像するだろ。 「なんとなくよ、なんとなく」 「……絶対に嘘だ」 「強いて言えば、貴方が付いてきた方が面白そうだから」 それと賭けでどちらに賭けるかは関係しているのか? 「それより、あれ。どうしましょうか」 「あれ?」 と、紫さんの指差す方向を見ると……あ、あれ? なにやら、霊夢たちの弾幕ごっこの範囲が広がって……こちらを今まさに巻き込もうとしているような? なんて思っている間に、魔理沙の弾幕がこっちにやって来て、 「境符『四重結界』」 「死符『ギャストリドリーム』」 「紅符『不夜城レッド』」 「ぎゃああああああああああ!?!!?」 こっちの妖怪組もスペルカード発動!? 「このっ! 今こっち狙ったわね!?」 「当たり前でしょう? 紫。友人同士とはいえ、弾幕ごっこは本気でやらなくちゃね」 「お前ら、私を無視しているんじゃないわよっ!」 その弾幕の嵐に、さながら激流に流される木の葉のごとく翻弄されまくる僕。 「うおっ!? ほわっ! ちょわあっ!」 必死に身体をくねくねさせて躱すものの、一人分避けるだけで無理ゲーだというのに、三人分が乱舞するこの死地で何秒も持つはずがない。 僕は、きっと守ってくるだろうなぁ、なんて思っていた連中に、見事落とされた。 「うぉわあああああああああぁぁぁぁ!!!」 しかし、気絶しなかったのが不幸中の幸い。 地面に激突する寸前、なんとか体勢を立て直して、僕はなんとか着地することが出来た。 「ぐ、ぐぐぐ……死ぬかと思った」 妖精より連中の方がよっぽど危険じゃねぇか。 あー、もう、やってらんね。頭上で弾幕ごっこに興じている奴らは放っておいて、勝手に帰っちゃおう。 「……妖精も、あの弾幕にビビって出てこないし」 唯一、あの不毛な争いの役に立ったところだ。 僕はぶちぶちと文句を言いつつ竹林を歩き始め、 「……迷った」 えええーーー!? なんで、マジ? 僕は、ただ飛んできた方向と思わしき方へ歩いていただけなのにっ! は、そう言えばここは迷いの竹林だったな。 「と、飛んでいけば大丈夫かな」 もう霊夢たちとはけっこう距離をとった。竹林の上まで飛べば、まさか迷うなんてことないだろう。 難点は、空を飛ぶと、妖精の的になりやすいってことだが。 「……あン?」 ま、なんとかなるだろ、と思って地を蹴ろうとした寸前、なんか声が聞こえた。 「誰だ?」 「え、えーと。そういう君は?」 声のした方を見ると、またしても少女登場。 なんかもんぺみたいなズボンを履いた女の子。 「私か? そうだな……ただこの竹林をねぐらにしている焼き鳥屋だ」 「や、焼き鳥?」 「もっとも、今は開店休業状態だがな。さて、それでお前はなんなんだい? 妖怪……には見えないね」 「いやいや。人間だよ。人間」 焼き鳥屋(?)は笑った。 「こんな月の夜に、ただの人間がこの竹林に足を踏み入れたのか。自殺志願としか思えないな」 「……悪かったな。ちょっと成り行きから、とある連中に連れてこられたんだよ」 僕だって来たくて来たわけじゃないやい。 「あ、そうだ。君、ここをねぐらにしているんだったら、帰り道わかるか?」 「なんだ、迷ったのか」 「ま、迷子じゃないぞ。そう。僕は、明日を探しているんだ」 なんとなく、迷子という響きが嫌なので抵抗してみた。 「左様か。さて、出口まで連れて行ってやってもいいんだが……。そうだな、あそこのほうが近い」 「あそこ?」 「ふん。とある馬鹿どもの屋敷さ。もう夜も遅い。奴のところに泊めてもらえばいい」 「な、なんで?」 「見ての通り、妖精どもが暴れている。今は人里に入れないからな。安全なところに案内してやるというんだ」 た、確かに慧音さんが里に入れないって言っていたけど……なんでこの娘が知っているんだ? 「もしかして君、慧音さんの知り合い?」 「なんだ。慧音を知っているのか」 きょとん、と。女の子はびっくりした。 「まあ、人里にいる人間なら誰でも知っていると思うよ。 さて、慧音さんの知り合いなら自己紹介もしておかないと。僕は、良也。土樹良也。大学生兼お菓子売り。君は?」 「私?」 ちょっと不思議そうに僕の顔を見てから、焼き鳥屋は答えた。 「私は藤原妹紅。健康マニアの焼き鳥屋さ」 えーと。 ……け、健康マニア? | ||
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