そして、僕は霊夢と紫さん、ついでに藍さんとともに、事件の元凶っぽい方角(霊夢談)に飛んでいた。

「っぽい、ってなんなんだ、ぽいって」
「大丈夫よ。いつも私はこうやって異変を解決しているんだから」

 霊夢が自信満々に断言する。

 えー? 適当だ適当だ、と思ってはいたが、いつもそんなやり方をしていたのか。

「こういうときの霊夢の勘は信じて良いわ。伊達に巫女をやっているわけじゃないし」
「……紫さん。僕には巫女と勘という要素が繋がらないんですが」
「あら、貴方もまだまだ未熟者ね」

 そんなんがわからないと未熟者だっつーなら、一生未熟者で構わない。
 というか、この人にかかれば、全人類の九十九パーセントは未熟者に決まっている。残り一パーセントは、人類の可能性を信じて。

「で」

 ひょい、と当たりそうだった弾を避け、霊夢に比べれば、悲しくなる威力の霊弾を返す。

「なんで、こんなに妖精がいるんですかっ!?」

 あ、霊弾当たった。そして妖精落ちた。
 一応、何発か当てれば妖精くらいは倒せるんだな、僕の霊弾でも。

「こういう異変が起こったときは、妖気が充満するしね。妖精たちも、その気に当てられていつもより好戦的になるの」
「へぇ! そういうことは最初に言っておいてくださいっ!」

 ちなみに、紫さんは式である藍さんに戦闘の全てを任せ、自分は絶賛高みの見物中。
 当たりそうな弾は、全部隙間に吸い込んで……相変わらずの反則風味。

「良也。君も私の後ろにいるといい」
「いや、まだ少しは余裕があるし、もうちょっと頑張る。いい実践訓練だし」

 藍さんの優しい言葉にほろりと涙が出そうになるも、断った。

 実際、弾幕の密度はそれほどじゃない上、一発くらいなら当たっても耐えられそうだ。

 いつも霊夢にしてもらう訓練は……あの、一発当たれば落下確定だし、避けにくさはウルトラ級だし。
 ぶっちゃけ、耐久力の訓練にしかならないっつーか。

「やっぱり、霊夢に教わるのは今後やめるわ」
「あら、そう?」

 霊夢の耳に届いてしまったようだ。

 まあ奴なら、面倒くさいことがなくなってせいせいする、というところだろう。

「じゃあ、ここの妖精は良也さんが頑張ってやっつけてね。訓練なら、そちらのほうがいいでしょう?」

 と、霊夢は速度を緩め、紫さんの辺りまで下がる

 必然、僕と藍さんが突出する形となり……

「え? えええええええええええっっ!?」

 妖精の攻撃の密度が、ダンチに上がった。

「あーあ。楽になったわ。妖精の相手も面倒くさくって」
「そうね。藍。これから黒幕をやっつけるため、貴方も力を温存しておきなさい。良也が頑張ってくれるそうだから」
「は、はぁ」

 そして藍さんも下がり……僕の壮絶なデッドヒート開始っ!?

「こ、こなくそーーーーっっ!!」

 半ばやけになって、霊弾を撒き散らす。
 ええい、狙いをつけるのは止めだ。出せば当たる!

「うごふっ!?」

 一発、僕の能力の『壁』を突き抜けて、弾が飛来。鳩尾辺りに当たった。

「うわぁ。モロだったわよ、今の」
「そうね。さすが男の子。タフね」

 す、好き勝手言ってるなよ……

「ゆ、紫様? 流石に、ただの人間に毛が生えた程度の彼に、あの弾幕は無茶だと思うのですが」

 藍さんが、そんなことを進言してくれる。

 な、ナイス! 流石は妖夢に引き続く常識人の一人っ!」

「大丈夫よ。彼の霊力も能力も、生霊の頃よりは成長している。死ぬことはないでしょう」

 死ななければそれでオーケーなんですかねえ!? この鬼め!!

 ……あ、鬼は別にいたな、鬼は。

「くぅ……や、やってやる!」

 確かに、生霊の頃より成長しているのは間違いないのだ。
 多少密度の高い弾幕とてある程度は躱せるし、当たりそうな弾は壁で防ぐなり、曲げるなり出来る。

 妖精の弾は、一発二発なら耐えられるし、そろそろ慣れてもきた。

 ははは、頭の中が真っ白になってきたよ。ハイになってきたっ!?

 よっしゃっ! このまま妖精たちを倒して、霊夢と紫さんに見直させて……

「……ん?」

 調子に乗って、前に出ていると、遠くからすごいスピードで接近する影。

「えーと」

 あれ? もしかしなくても、あれって妖怪? なんか妖精とは格の違う霊力、だ、し――――!?!?!

「ぐぼぉへぇああ!?」

 その妖怪、その勢いのまま僕にキックを喰らわせやがった!!
 躱す暇もなく、僕は悲鳴を上げるっ!

「あーあ。楽できるのもここまでかぁ」
「そうね。……藍。一応、死なないようにはしてあげなさい」

 そんな声を、悶絶する意識の中で聞く。というか、そこの二人、呑気すぎっ!

 くっ……この蹴りの借りは返すぞ……そこの妖怪小僧っ!





 ……ん? 女の子にも見えたな。どっちだろう?















「大丈夫か?」
「だ、大丈夫大丈夫……」

 背中をさすってくれる藍さんに、なんとか親指を立てる。

 地面に接するぎりぎりで、僕はなんとか体勢を立て直した。
 しかし、腹をモロに蹴られたせいか、すぐにふらつき、地上三メートルくらいから、危うく落下するところを、藍さんに助けられたのだ。

「……うわぁ、もう倒しているし」

 上を見ると、先ほど僕に蹴りを喰らわせた妖怪を、紫さんと霊夢がボコにしていた。所要時間は、おそらく三分に満たない。

 ざまぁみろ、という感じなのだが、またいつか、僕自身がリベンジしなければならないな。
 と、僕は心の中のリベンジ手帳に、ルーミアに引き続く二人目の名前を刻む。

 なんでも藍さんの話によると蟲の妖怪らしいので、とりあえず仮名で『ムシキング』だ。……ちびっ子たちの非難を浴びそうだな。

「それじゃあ、私は行くよ。君は少し休んだら、もう帰ったほうがいい」
「あー、うん。了解ー。藍さん、ありがとう」

 いやなに、とだけ藍さんは言って、飛び立っていった。

 帰る……か。ま、それが妥当だろう。
 妖怪どころか、妖精の相手が精一杯の僕が、ここから先役に立つとも思えないし。

 藍さんが飛び立つのを見送って、僕は回復に努める。

 ……うむ。だんだん痛みも和らいできた。
 それもこれも、僕の鍛え上げられたマッスルが、奴の蹴りの威力を減らしたからに違いない。

 いや嘘だけどさ。僕の腹筋なんてぷにょぷにょだよ。太ってはいないけど。

「はぁ……。博麗神社に、帰るか?」

 いや待てよ。
 えーと、博麗神社から何分飛んだっけ?

 うん。大体の感覚だが、ここからならば人里の方も神社までと似たような距離だ。
 今は妖精が暴れているし、無人の神社より、人間がいる里のほうが安全な気がする。

 丁度霊夢たちもそちらに向かっているし、道中の妖精は蹴散らされているだろう。

 外の世界に戻れば危険なんかないだろうが、せめて異変の解決する様を、安全な人里から見守るくらいはしたい。

 そんな判断をして、僕は人の里のほうに向け、飛び始めた。
 里の守護者の慧音さんもいるし、きっと安全だろう。きっと……。



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