僕が大学を卒業して七年が過ぎた。 七年、と一口に言えば短いが、結構な年数だ。 当時、乳飲み子だった赤ん坊が、小学校に上がるほどの時間。当時小学生なら、大学生になっててもおかしくない。 「……だってのに、高町さんぜんっぜん変わってませんね」 「ほっとけ」 一緒のテーブルに付き、茶を飲み交わしている高町士郎さんに言うと、高町さんは憮然とする。 ここは海鳴市藤見町の高町さん宅。 今日、海鳴市に用事のあった僕は、予定の時間より早めに着いたことをいいことに、翠屋に寄った。んで、丁度ランチタイムが終わり、お昼の休憩に入ろうとしていた高町さん夫妻と鉢合わせて、高町さんちにお招きにあずかったというわけだ。 最初はさざなみに行こうか迷ってたが、あっちは今四月とあって、恒例となる耕介による新入居者マスターキーゲット作戦の真っ最中だ。邪魔するのも悪い。 「若く見られるのはわかってるけど、この年になってまで恭也と兄弟に見られるのはちと複雑だ」 「傍からはそうとしか見えませんよ……」 「っていうか、良也に言われる筋合いはない気がするんだが。下手したら高校生で通用するだろ、お前」 いや、だって僕不老不死だし。蓬莱の薬を服用した二十歳当時から見た目は変わってないですよ。 つーか、その僕と同レベルで若作りな高町さんのほうがよっぽどおかしい。 「あら、わたしは嬉しいわよ。旦那様がいつまでも若いままで」 「桃子、俺も嬉しいさ。こんな素敵でいつまでも綺麗な奥さんをもらえて」 「あらもう、あなたったら」 ……ケッ。 と、同じく出会った当時から皺の一つも増えていない桃子さんがお茶を持って来てくれたと思いきや、高町さんといちゃいちゃし始める。 いい加減、慣れもしたが、この万年新婚夫婦は一体いつまでこの調子なんだろう。 ……こんな感じの知り合いばっかだから、ついついあの加齢を見せかける薬を飲むのを『まーいいや』って思っちゃうんだよなあ。 「あ、そうそう、高町さんに報告しとこうと思ってたんですけど」 「ん? なんだ?」 甘い空気に耐えかねて、僕は口を挟んだ。まあ、どうせ後で話すつもりだったし、いいか。 「まだ内示の段階ですけど……僕、再来年から聖祥学園に転勤するんですよ」 「へえ!」 いや、うん。僕も知らなかったのだが、僕が今勤務している学校と聖祥は姉妹校らしいのだ。 んで、聖祥側で、来年で定年を迎える英語教師が同時に二人もいて、 一人分は新人で埋めるとしても、もう一人はある程度経験がある人がいい、ということでうちに声がかかったのだ。うちは、今ちょっと英語教員がダブついてたりすることもあって、僕が手を上げた、と。 「なんだ、そりゃいいな。じゃあ、将来はなのはも教えることになるんだな」 「あそこ、女生徒は大学までエスカレーターですから。余程のことがない限り、きっとそうなるんじゃないかなーって」 そう、ここんちの末っ子であるなのはちゃんは、聖祥大学付属小学校に通ってる。私立だけあって学力はそれなりのものを要求されるのだが、成績優秀らしい。 ……というか、とても小学生低学年に見えないほど利発で精神年齢が高い。将来はきっと大物になる、とは高町さんの言だが、ただの親馬鹿とは言い切れない。 「そうかそうか。よければ、うちの近所に住んだらどうだ?」 「あ〜、まあ、それはボチボチ……」 まだ二年先の話なので、そんなのは気が早すぎる。 あ、でも、部屋を探すときはさざなみの愛さんを頼るのがいいかもな。あの人、大地主で寮経営者だし、地元の不動産屋さんにコネがある可能性が高い。もしかしたら、いい物件を紹介してもらえるかも…… ……萃香に爆笑されるな、再来年のことなんて言ってたら。 「そいや、そのなのはちゃんは?」 「ああ、今日は恭也と一緒に友達のところへ遊びに行ってる」 「恭也と?」 恭也と言えば、高町さんの息子の割に、真面目で質実剛健。美形の割に、『本人からは』浮いた話の一つも聞かない男だったけど…… 「……まさか幼女趣味とは」 「てい」 「ぁいたっ!?」 考えていることをぽろっと漏らしてしまうと、高町さんのデコピンが飛んできた。 「な、なにすんですか」 「勝手に人の息子を変態にするお前が悪い」 「だ、だってなのはちゃんの友達って小学生でしょうに。いや、本気で恭也がそういう趣味だと思っているわけじゃないですけど」 「恭也が用があるのは姉のほうだよ」 そ、そうか、兄弟姉妹がいる可能性を失念していた。 「ん? 姉? 女の子ですか。あの恭也が」 「ああ。美人だぞ〜。ああいう子が恭也の嫁に来てくれれば嬉しいなあ。なあ、桃子」 「そうねえ。それは素敵ね」 いやいや、そこの夫婦。恭也はまだ高校生だぞ。気ぃ早い……ってこともないか? 学生結婚とかもあるし。 「でも、フィアッセは?」 夏休みとかに遊びに来る彼女。昔、ちょい気まずいこともあった彼女は、明らかに恭也にホの字だったような。 二人が一緒にいるところを見たのはニ、三回だが、そんな僕でもわかるほどあからさまに。 「う〜ん、恭也の方は、幼馴染って意識が強くて、あんまり気にしていないんだよな」 「美由希もそうよね」 「いや、桃子さん? 美由希ちゃんは妹じゃ……」 「義理だしね。昔はあの子も恭也のこと好きだったのよ」 い、今は違うよね? しかし、改めて聞いてみると金髪ブロンドの幼馴染に、義妹に、まだ見ぬ謎の同級生……。 ……あっ!? ちっちゃいころ顔合わせたことある神咲さんちの妹の那美ちゃんもいたっ!? 確かあの子も今はさざなみで、恭也と同じく風芽丘…… どこのエロゲーだよ!? 「……いやいや、考えすぎ考えすぎ」 「なにを言ってるんだ?」 「いえ、なんでもないっす」 この年になっても当然のように独身の僕は、これまた当然のようにオタク趣味は止められていないので、ちょっと妄想が先走ることがあるんです。 ……ふっ、まだまだ若いな、僕も。三十路越えてんだが、やっぱアレか、精神は所詮肉体の奴隷ってやつか。 「っと?」 ぶぃーん、とポケットに入れた携帯電話が振動する。 電話がかかってきたようなので、高町さんたちに一声断ってから二つ折りの携帯を開く。 ……あ、月村家からだ。 「はい、良也です」 『あ、良也? あたし。忍。今日さ、夕方に来てもらう予定だったけど、ご飯どうする? うちで食べる?』 「まあご相伴に預かれるなら」 かかってきた相手は、月村の忍。 子供の頃からは考えられないほど明るくなった彼女のところを、僕は半年に一回位のペースで通っていた。 僕がコア部品を修理した自動人形、ファリンのメンテのためだ。 元々はノエルさんみたく、一切メンテなしでも数百年単位で持つ部品なんだけど、所詮素人に毛が生えた程度の僕の補修なので、定期的に様子見しないと不安なのだ。 『わかった。じゃあ、ノエルにはそう言っとく。メインは肉と魚、どっちがいい?』 「忍の好きにしてくれ。……あ、いや。やっぱすずかちゃんにおまかせで」 『なによう?』 「お前に任せたら、なにが出てくるかわからん……」 どっちかっつーと真面目な方なのだが、忍はある程度親しい相手にはよく悪戯をする。 特に、なんか僕は反応が派手で面白いのか、会うたびなにかしらからかわれる。食事に『ハズレ』を仕込むくらいは余裕でしそうだ。 『はいはい、わかったわよ。じゃーね』 「おーう」 ピッ、と電話を切る。 さて……忍との約束まで、後二時間くらい。あんまり長居するのもなんだし、どこで時間潰すかな。 と、考えていると、高町さんがなんか変な顔になってた。 「なあ、良也。今、忍とすずかちゃんって……」 「ああ、まあ、ちょっとした知り合いで。町外れの豪邸に、月村って家あるでしょ? あそこの人です」 しかし、なんという関係なんだろうね? 「……恭也となのは、今その月村さんちにお邪魔しているんだけど」 「へ?」 改めて忍にメールで『お前、恭也と知り合いなん?』と送り、幾度かのやり取りを経て、早めに月村家に行く事にした。 しかし……うーむ、恭也と忍はともに風芽丘の三年、なのはちゃんとすずかちゃんはともに聖祥学園の二年。……なぜ僕は接点がないと思い込んでいたんだろう。 というか、すずかちゃんはまだしも、忍の方は割と最近までザ・ボッチだったんだから、紹介してやってもよかったろうに。 「ま、いっか。ごめんくださーい」 ピンポーン、と呼び鈴を鳴らすと、ややあって、明るい声がインターフォンから聞こえてきた。 『はぁ〜い! どちら様ですかぁ?』 「ファリン、僕、僕」 『はて……? はっ、これが噂のオレオレ詐欺!?』 「土樹です!」 『ありゃ、先生じゃないですか。言ってくれないとわかりませんよ〜。あ、今正門のロック開けますね』 ……そこそこ付き合い長いはずなんだけどなあ。声でわからないのかなあ。しかも、さっき連絡したんだけどなあ。 悩みながら、正門の鍵が外れたことを確認して、僕は月村家の敷地に足を踏み入れる。 ほぼ同時に、両開きの玄関を押し開いて、さっき話していたメイドが登場した。 「先生〜、いらっしゃ〜い」 「おーう」 手を振りながらこちらに歩いてくる月村家下っ端メイド。 奉公に出たばかりの娘さんといった風情でメイド服を来ている彼女が、僕が修復に協力した自動人形、ファリンであった。 教師だし、忍お嬢様と共に私を作ってくれた人だから、と僕は『先生』と呼ばれていた。 「あれ?」 と、ファリンが玄関から一歩を踏み出したところ、庭の草むらががさっと揺れ、何故かそこから銃身らしきものが――!? 「え!? なにあれ!」 「し、しまったぁ! 警備装置を解除するの忘れてました〜!」 「警備装置!?」 何故かたくさん出てきた銃身(セントリーガンってやつか?)は、当然のことながら僕の方も向いていたりして、 ――次の瞬間、一斉掃射された。 僕、ファリン、両者ともあわてて逃げる。 正門から外に……って、鍵しまってる!? なんで!? これも警備装置の一種!? 侵入者は逃さないって、殲滅する気満々じゃねぇか! 「あた、あいたたたたた!!」 BB弾が背中を痛打する。ファリンの方は玄関の中にとっとと引っ込んだため、被害にあっていない。くっ、なんで正門から玄関まで十メートル以上あんだよ!? 「なろぉ!?」 能力で『壁』を……って、駄目! すぐ突破されそう。どんだけ改造したんだ、あのエアセントリーガン! 「ファリン! 解除、解除ぉーー!」 「は、はい〜」 大声を上げると、ファリンが慌てた様子でこれまた大声で返事をし、ガッチャンとこける音がした。 しかし、それでも二十秒ほど耐えていると、やっとこさ警備装置が解除され、銃身はもとの草むらに引っ込む。 しぃん、と射撃音が収まり、僕はへたり込む。 「先生〜、大丈夫ですか?」 「へ、平気……」 最初に受けたダメージはあるが、怪我をするほどじゃない。痛かったけど。 「……あの警備装置、作ったの忍だろ」 「はい。最近物騒だからって、一から手作りで」 あいつの方が余程物騒である。 はぁ、と僕はため息を付いて起き上がる。 「もういいや……案内頼む」 「はぁーい」 ファリンの先導に従い、僕は月村家に足を踏み入れた。 「あ、そういえば、ファリン、さっき転んでたみたいだけど、大丈夫か?」 「あ、あはは。大丈夫です。いつものことですから」 照れた様子で苦笑いするファリンは、とても自動人形とは思えないほど人間らしい。 ノエルさんは、今はともかく昔はどこか機械然とした様子だったのに、この子は目覚めた時からこうだった。 自動人形の人格がどのように形成されているのかイマイチわからないが、これは個性なんだろうか。 ……僕が余計な手を加えたせいかなー、と思わなくもない。 で、やがて案内されたのはテラスだ。ここは、お茶飲むためによく使われる。僕にとっても、ここんちに来たときはよく通される部屋だ。 「お待たせしました。先生が来ましたよ」 と、声をかけるファリンの後に続いて中に入ると、 ああ、いるいる。 「こんにちは、良也」 「良也さん。どうも」 と、挨拶をする高校生コンビ。忍と恭也。 「よ、お久しぶり。二人共、本当に友達だったんだな」 「まぁね。恭也とはこの春からの付き合いだけど」 忍が返事をする。……本当にただの友達かね? 改めて見ると、美男美女でお似合いだしな、くそう。 なんて、灰色の青春時代を思い出してちょっと沸き起こった嫉妬はとりあえず脇において、僕は同じテーブルについている小学生組を見る。こっちも知った顔二人だ。 「んで、こんにちは、なのはちゃん、すずかちゃん」 「こんにちはー」 「こんにちは」 礼儀正しい二人はしっかり挨拶を返してくれる。 ……さて。 「とりあえず忍。あの警備装置はなんなんだ。すっげ痛かったぞ」 「あ、さっき音がしたの、やっぱ警備装置が動いてたんだ。ファリン、また解除忘れたわね?」 「う、うう、ごめんなさい〜」 はぁ、とため息をつく忍。……どうやら、よくあることらしい。 「ま、いいわ」 「いいんかい」 「大人が引っ掛かっても、ちょっと痛いで済むでしょ? それ以外には起動しないようにしてるし」 き、器用な……。確かに、すずかちゃんとか、月村家で大量に飼っている猫とかに撃たれたら洒落にならんけど。 「それに、恭也は全部躱して、逆に壊してみせたわよ。良也もそのくらいできないと」 「……いや、お前、あんな飛天御○流ばりの剣術家と、一介の英語教師を一緒にすんな」 「一介?」 魔法使いである僕のことを知っている忍がジト目で見る。 しかしね、このご時世に常在戦場の心構えで鍛錬している恭也と、基本のほほんとしている僕とでは、危機に際した時の反応速度が違うんだよ。 ヨーイドンで始まるなら僕も壊せたかも知れんけど、いきなり銃口を向けられて冷静に対処しろって、そりゃ無理だ。 「まあいいわ。どうぞ、席について。すぐノエルがお茶持って来てくれるから」 「んじゃ、お言葉に甘えて」 六人掛けのテーブルなので、席は余ってる。 椅子に寝ていた猫を持ち上げて僕は椅子に座った。……ちなみに、このテラスだけで二十匹を越える猫がいる。巷で猫屋敷と呼ばれているのは伊達ではない。 「それで、良也さんは忍とどういう関係で? うちと同じように、忍のご両親と知り合いとか?」 「あー、いや、うん……なんていうか」 鋭い質問を恭也が投げてくる。 しかし、なんかこう、安易に答えられない。僕がオカルト野郎だってのは、恭也となのはちゃんは知らないし、それに理由を話すとなると必然的に自動人形のことも話すことになるが、そっちも知っているかどうか…… なんて、悩んでいると、 「あのですね、先生は、わたしの先生なんですよ」 「? ファリンさんの、先生?」 「まあ、色々あるのよ、色々。ね? 後で話すから」 「……そうか」 と、ウインクして話を打ち切る忍に、恭也は大人しく頷く。 ……な、なんだろう。これ、恭也の方は忍の一族のこと、知っているっぽいぞ? そも、この二人がお互いを名前で読んでいる時点で気付くべきだったが、やっぱ付き合ってんのか? 「良也もそれでいい?」 「任せる」 ま、恭也なら知られたところで、広めたりしないだろうからいいか。 「お兄ちゃん? 何の話?」 「少し、な」 しかし、意味深な会話はなのはちゃんの興味を惹いてしまったらしい。無垢な瞳で兄に問いかけるなのはちゃんに、恭也はやんわりと答えを断った。 「むう、すずかちゃん、わかる?」 「あはは、わたしにもわかんない」 笑顔で無知を装うすずかちゃんだが、彼女は当然のように僕やファリンのことを知っている。この年で、ここまで見事に知らないふりをするすずかちゃんの将来がちと不安である。 「良也さん?」 「ノーコメント」 気になったのか、僕にも聞いてくるなのはちゃんには悪いが、話すつもりはありません。仲間外れにされたと思ったのか『もー!』と憤っているが、スマンね。 「お待たせしました。お茶のおかわりをお持ちしました」 と、丁度良いタイミングでノエルさんがお盆を持ってテラスにやってきた。 「ども、ノエルさん」 「いらっしゃいませ、土樹様」 言葉は固いが、この人も初めて会った時に比べると、随分と表情が柔らかくなっている。 相変わらずのパーフェクトメイドっぷりで、配される茶をありがたく受け取った。 その後は、それぞれが知り合った経緯や、進級してからの話。そして、僕が再来年、こっちに来るなんて話を披露しながら、時間は過ぎていった。 お喋りも終わり、夕食を頂いた後。 僕は、割り当てられた作業部屋で、忍が取り出してくれたファリンのパーツを入念にチェックし、問題がないことを確認していた。 「劣化、破損はなし、と。やっぱ凄いなこの金属」 錬金術で作られたものだとはわかるのだが、僕にはとても作れない。 複製できたら面白いと思って、実は片手間に研究しているのだが、作るための端緒すらつかめていない状況だった。夜の一族の技術力は、相当のものだったのだろう。 と、そこで作業部屋の扉が押し開かれる音がした。 「お疲れ様です、良也さん。珈琲持って来ました」 「お、ありがとう、すずかちゃん」 ルーペで拡大して見てたので、目が疲れた。 休憩がてら、ありがたくいただくことにする。 「あの、どうですか? 壊れちゃったり、してませんよね」 「うん、まだ途中だけど、問題無いと思う。ちょっと僕が直したところに魔力が詰まってるけど、いつも通りだし」 そっちは既に洗い流しているし、それこそ十年くらい放置しないと機能に支障はない。 「よかった。ファリンは、わたしの家族ですから。よろしくお願いします」 「うん、お任せあれ」 そりゃ、すずかちゃんが物心ついたころから世話係として働いているのだから、家族も同然だろう。 「あ、でも、将来は良也さんの手を煩わせないようにしまいといけませんね」 「ん? なんで?」 別に、このくらいどうってことないが。 「自動人形の耐用年数は数百年以上なんですよ?」 「はあ、そうですね」 というか、ちゃんとメンテナンスを続ければ、千年以上使えるとマニュアルには書いてあった。実際は、千年も稼働している個体はいないらしいけど。 「だから、良也さんに任せっきりだと、将来ちょっと困ったことに。ファリンが壊れるのは嫌ですから」 「……成る程」 よし、五十年後くらいに驚かせるために、不死ネタは取っておこう。 「わたしが覚えようかな……ねえ、良也さん。そういうのって、わたしにも出来るでしょうか?」 「ちょっとわかんないなあ」 吸血鬼的な種族なんだから、可能性は高いけどね。 「まあ、大きくなったら教えてあげてもいいよ。ファリンのメンテだけなら、一、二年もあればなんとかなるだろうし」 「はい、そのときはよろしくお願いしますね。じゃあ、わたしはこれで」 長居するのも邪魔だと思ったのか、すずかちゃんはそっと出ていく。 ……まあ、さっさと終わらせますか。 なお、この時の僕は知らなかったのだが、この時期から、月村さんちは自動人形の量産で一山当てようっていう親戚に嫌がらせを受けていたらしい。ノエルさんとファリンをコピーしようとしてたんだとか。 んで、次のメンテに訪れた際、その親戚が持ち込んだイレインっていう自動人形とそのオプションが襲撃してきた場面に出くわした。 まあ、忍のコツコツした改造により男の浪漫ロケットパンチを搭載したノエルさんと、前日泊まってたという(むっつりスケベめ)恭也が全員ノしたのだが。 僕? ああ、回復魔法で自分の自動人形に斬られたオッサンの止血をしていました。あと、すずかちゃんをファリンと一緒に守ってた。 それに、敵の自動人形のせいで火事になりかけた月村邸を水魔法で無事消火した……と、こう書くと割と八面六臂の大活躍だったな、僕。主役はどう考えてもノエルさんと恭也くんだったけど。 最終的には、月村さんちが少し煤けたくらいで、人的被害もなく終わったので、特にこれ以上語るべきことはない。 ……あ、そうだ。自動人形持って襲撃かけるくらいだったら、それコピーしろよオッサン、と思ったのは僕だけじゃないはずである。 |
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