「……ん……」

 外が騒がしくて目が覚めた。
 窓から覗く外の風景はもう真っ暗で、夜になっていると思われる。

 感覚からして、寝ていたのは一、二時間くらいだと思う。大分頭の中もすっきりした。

「なにやってんだろ」

 庭のほうが凄く賑やかだ。宴会の片付け……は終わってたし、さてはて、バスケでもしているのか……
 と、窓から覗こうと起き上がった辺りで、何かが降っているのに気が付いた。

「……へ? 雪?」

 はらはらと降っている白いの……季節外れの、雪に違いなかった。
 ……って、んなアホな。今は五月だぞ、五月。確かに今日は寒かったけど。

 半信半疑ながらも、確認のために窓を開け……

「寒っ!?」

 真冬のような寒さに、慌てて周りの気温を操作した。

 そうして落ち着いてから、恐る恐る外に手を出し、降ってくる白いのを受け止め……その冷たさから、間違いなく雪だとわかる。つーか、積もってる、超積もってるよ、オイ。
 異常気象か?

『唯子ぉーーマグナァァーーム!』
『うわぁー!』

 そしてこの聞こえてくる賑やかな声……。こっちの窓は庭に面していないから様子は見えないが、察するに雪合戦でもしているのか? 雪合戦では有り得ない程の轟音が聞こえるが……

 ……まさか雪玉の着弾音じゃないだろう、と思いつつ、さっきの冷気で大分目も覚めたので、ひとまずリビングに向かう。

 リビングの窓からは、庭の様子が良く見えた。

「……ぉぃぉぃ」

 雪合戦ってのは、もうちょっと可愛らしいものじゃなかったっけ? 今見えているのは、なんていうか白い軌跡? みたいなのしか視認出来ない雪玉というより雪弾って感じのシロモノだ。そんなのを放っている何人かは、あろうことかそんな目にも留まらぬスピードの弾を紙一重で躱し、反撃を加えている。
 ……今、耕介に三発ほど直撃して、あの巨体が倒れたんだが。

 そんな人外の領域の雪合戦のすぐ隣では、放物線を描く、実に可愛らしい雪合戦が繰り広げられていたりして……割とカオスな状況になっていた。

 ちなみに、うちの妹はどっちの組かというと、思い切り前者だ。泣きたい。

「み、水でも飲もうかな」

 現実逃避して、台所のコップを拝借し、水を入れ一息に飲み干す。
 ふぅ……さて、部屋に戻ってもう一眠りするか。HAHAHA。

「あっ、りょーや! 一緒に雪合戦するのだ!」
「……うへぇ」

 ガラッ、とテラス窓が開き、雪まみれの美緒ちゃんが実にイイ笑顔で誘ってくる。
 ……逃げ遅れた。

 あの雪合戦に参加? そして、男という観点と僕の運の悪さからして、絶対あの弾幕ごっこばりの雪合戦(笑)に巻き込まれるような――

 ん? 弾幕ごっこ?

「……そのつもりでやればいいのか」

 玄関に回って靴を履きながら、そう決意する。
 一歩間違えれば死のあっちに比べれば、所詮雪玉くらい……雪玉だよな? 中に石とか入ってないよな?

 よし、頭の中を戦闘モードに調整……完了。庭に勢い良く出る。

「っしっ! どっからでもかかって――」

 ドグシャァ! と、顔面にきりもみ回転の加わった雪玉が直撃し、視界が真っ白になった。

「ぐっは……」

 フフフ……そういえば、僕の弾幕ごっこの腕前ってビギナーレベルだったよね……

「あ、あれ? お兄ちゃん? お兄ちゃーん!?」
「おおー。妹相手に、見事にノックアウトされとる……」

 れ、玲於奈か、投げたのは。
 ぐらぁ、と倒れそうになるも、妹相手にやられる兄になるわけにもいかず、なんとか踏みとどまる。

「な、なんのこれしき……」
「よぉし、じゃあこれでどうだー」

 あ、あれ? 鷹城さん?
 彼女が、野球のオーバースローのような豪快なフォームで雪玉を……

「唯子マグナム・二号ー」
「ぬおおぉぉっ!?」

 ぬるい声とは裏腹に、本当のプロ野球のストレート並の勢いで投げられた雪玉を、かろうじて回避する。
 さ……流石に、不意打ちじゃなければこれくらいは……

「続けていくよー」
「って、ちょっと待ったぁ!」

 鷹城さんの二射目を腕の振りから予測して避ける。
 あ……危ない。

「むぅ〜」
「だ・か! ら! 少し待ってくれってぇ!」

 三、四、五、六……

「お、やるじゃないか土樹さん」
「いきますヨ!」

 え、えっと……あれは、さっき凄い方の組に混じってた御剣さんと……ええと、中国人の留学生の……弓華さん。
 二人が、『俺より強い奴に会いに行く』的なノリで僕に目を付けたらしく、雪玉を構え……

「くっ! 氷精相手に雪合戦をした僕を舐めるなよ!」

 いい加減、僕もやられてばかりはいられない。
 雪と氷のプロ、チルノとやりあった僕に雪合戦で挑むとは笑止!

 三者三様の雪の弾丸を、紙一重で躱していく。
 ……うむ、日ごろ弾幕ごっこで鍛えた回避の技は、地上でも有効だ。

「当たらなければどうということはない!」

 言ってやった言ってやった! あの名台詞を素で言ってやったぞ!

「……あの〜、それで、良也さんはどちらのチームなんですか?」

 チーム!? 愛さん、チームってなんですか!? 個人戦じゃないんだったら、僕はもしかして両陣営から攻撃を受けているんですか!?

「食らえ、お兄ちゃん!」
「追い打ちをかけるな玲於奈ぁぁ!」

 流石に、四人は無理です。
 僕は、諦めの境地で、四方向からの雪玉をその身に受けた。

「ごはぁ!」

 ……おかしい、威力がおかしい。なんで、軽く身体が浮いているんだ、僕は。

 吹っ飛ばされる瞬間、既に地に伏している耕介と目が合い……なんとなく、視線だけでお互いを慰めあうのだった。

























「うう〜、べちゃべちゃだ」
「はは……俺の着替え、貸してやるよ」

 見事雪まみれになった僕の服は、たっぷり水分を吸ってべちゃべちゃだ。耕介の好意に甘えるか……どう考えてもサイズが合わないが。

 今、女性陣の半分くらいは風呂に入っている。雪合戦をするってなった時点で、耕介が見越して沸かしていたらしい。なんつー気の利く男だろう。
 ちなみに、女性陣の服は現在風呂に入っているメンバーの分は入っている間に乾燥機にかけているとか。

 まあ流石に寮の風呂とは言え、全員は入れないらしく、残り半分はリビングで待機だが。

「うりゃ、エアコン全開ビーム!」
「……ビームて」

 美緒ちゃんがリモコンを持って小学生らしいことを言っている。

「しかし、暖かくなるまで時間かかるな」
「……ああ、そうか」

 能力に目覚めてから、めっきりエアコンを使うことがなくなったので失念していたが……確かに、時間かかるだろうな。その間に、風邪をひく子がでないとも限らない。

「ん、ほれ」

 まあ、リビング位の広さなら、前にもやったし……温度を上げてあげる。

「お……」
「暖かくなった……これって、お兄ちゃん?」
「おう」

 驚いている玲於奈に親指を立てて、少し自慢げする。

「すごいですね……。暖かい」
「いやいや、まあちょっとした特技なんで」

 相川くんの素直な言葉に、ちょいと照れる。こーゆー時にしか役に立てないけど、人の役に立つのはなんかいい気分だ。

「あれ?」
「どうしたの、真一郎くん」
「いや、財布が……。さっき落としたみたいだ。探してくる」
「あ、私も行くよ」

 相川くんと春原さんが、そんなやりとりをしながら外に出て行った。
 はあ。しかし……疲れた。

「ほら、良也」
「おおー、さんきゅ」

 暖かくしたミルクを、耕介がみんなに振舞う。ず、と啜ると、砂糖を混ぜているのか仄かに甘い。
 は〜、流石に雪まみれで冷えていたから、こりゃありがたいな。

 そんな感じで、しばらくまったりしていると、

『来客中にまで、そげんことばせんでくださいっ!』
『ぎゃあぁぁっぁ、あっちぃーーー!!』

 ……なんだろう、風呂場の方で大きな声が。

「……耕介?」
「いつものこといつものこと。多分、真雪さんが風呂でも覗いてたんだろ」

 達観しているやつである。っていうか、真雪さん……

 いや、やりそうな人ではあるけど。

「賑やかだな」
「まあね」

 そこで胸を張るな、胸を。



















 ……んで、ちょっとしたドタバタはあったものの、非常に平和な時間を過ごしていると、

「ん?」

 かたかた、とテーブルの上にあるものが、揺れる。
 ほとんど同時に、物凄い霊力が山の方から溢れてきた。

「なん、だこれ」

 揺れは激しくなる。リビングのみんなは、普通の地震のように行動するけど……これは、そんなもんじゃない。
 感じる霊力は、向こうの大妖に勝るとも劣らないレベルだ。

 でも、その力が何かに抑えられている感じがする。だからこそ、出ようとする力が反発して、地震という形で現れている。

「ど、どこの化け物だ」

 生き物なのは間違いない。霊力の波が鼓動のような感じで溢れている。
 しかし……外の世界に、ここまで強いのがいるとは。

 と、思っていると、揺れは始まりと同じように唐突に収まった。
 ……いや、これって。

「いなくなったんじゃなくて……押さえてる力のほうが、なくなった?」

 思わず呟いて、多分そうだろうと納得する。
 出ようとする力に比べて、抑えている方の力は明らかに力不足だった。まあ、当然っちゃあ当然の結末だが……

「ヤバ……逃げた方が良いような」

 力は、所構わず暴れるような、そんな危険な感じがした。ここから力を感じたところまではそこそこ離れているが……まったく安心できる距離じゃない。
 しかし……確か、交通は麻痺しているんじゃなかったか? そうじゃなくても、この時間だとこの辺りにバスなんかは通っていない。僕だけならともかく……今この寮にいる約二十人全員が逃げるのは難しそうだった。

「ど、どうすりゃ……」
「雪さん! しっかりして下さい、雪さん!」

 懊悩していると、相川くんが雪さんをお姫様だっこしてリビングに入ってきた。
 ええい、次から次へとー。

「相川くん、ソファに寝かせて!」
「は、はい……!」

 耕介に指示されて、相川くんはそっと雪さんをソファに横たえる。
 しかし、動揺は収まっていないらしく、

「雪さんが! さっき、ぱちって帽子が弾けて」
「落ち着いて。今、十六夜さんを呼んで……」

 耕介が相川くんを落ち着かせようとすると、ぐぐ、と雪さんが上体を起こした。

「……あの、わたしは平気です。それより、早くここから逃げて下さい」
「逃げて、って」

 あ〜、やっぱり危険なわけね。しかし、まさか雪さんが関わっているとは。

「さっきのが、出てくるからですね?」
「やっぱり?」

 綺堂さんも感じていたらしく、そう言った。僕は厄介な事になったと、溜息をつくしかない。

「でも、何が出てくるんですか?」
「それは……」

 僕が聞くと、雪さんは口を噤む。安易に話し良い内容じゃないのかな……でも、聞かないと対処の仕様も無いし。

「この辺りに伝わる伝承……。雪神と、ざからの話」
「え……どうして」
「緊急事態だからね。ちょっと読ませてもらった。……みんな目を閉じて」

 リスティの言葉に従い、目を閉じる。って、また目の奥がチリチリと、

「……良也はその変な力場も解いて」
「へい」

 反射的に張った『壁』が邪魔しているらしいので、慌てて力を解く。
 すると、脳裏にイメージ画像とひとつの物語が浮かんだ。

 ……要するに、大昔に暴れていた妖怪が、封じられたって話だ。
 国々を荒らしまわり、高僧や高名な祓師が束になっても敵わなかった妖怪を、一人の男と一人の妖怪が封じた物語。

 男は、その時の戦いで死に、妖怪――雪さんは、定期的に封印を締め直すために、封印の傍で眠りについた、と。

「……シリアスだ」

 ぼそっ、と誰にも聞こえないように呟く。
 今まで僕が関わった異変の中で、一番のどシリアス。

 見ると、他のみんなもさっきの話が見えていたのか、一様に複雑な顔をしていた。

「以上だよ。どうもそのざからってやつ、軽く山一つ位は吹っ飛ばす力の持ち主らしい」
「……そうだろうな」

 感じた霊力からして、そのくらいは余裕だろう。人間の魔理沙だって出来るんだ。あんな――イメージからして相当でかい妖怪が、出来ない道理はない。

「その、そういうことです。わたしは三百年ほど前からこの地で氷那と一緒に、あの子を守ってきました。時々、出ようとするあの子を封印して……」

 でも、と雪さんは続けた、

「封は破られてしまいました。……あの子、出てきます。あの子の『足』がもう」

 と、そこまで話したところで、リビングの窓がガシャンと割れた。

「!?」

 入ってきたのは、触手っぽい……木の根?

 何人かが反応し、みんなを守る配置につく。

「ふっ!」

 一応、僕も反応した。手の中に霊弾を作り……

「氷柱!」

 放つ前に、雪さんが動いた。
 氷の剣みたいなので、入ってきた根を切り刻み……根は、床に落ちてぴくぴくと蠢いた後、ただの土に還る。

 えーと、この霊弾、どうしたらいいんだろう。

「ちぇ」

 ぐしゃ、と握り潰し、自分の体に還元する。

「それじゃ、わたしは行きます……」
「行くって……どこに?」
「湖に。もう一度封印するために」

 一人で行くの? と、相川くんが尋ねる。

「はい。これはわたしのお役目で……それに、普通の方たちを、巻き込むわけには行きませんから」

 ……普通? 普通ってあーた、あの雪合戦を見て、そんなことを言えるのは相当の大物か天然だと思うんですけど。
 案の定、リスティが得意げな顔をして、羽根を出す。

「ところがどっこい……あんまり『普通』じゃあ、ないんだなあ」

 続けて、いつの間にか……(本当にいつの間にだ?)着替えてきた神咲さんが、刀の御架月を手に現れる。隣では、同じく十六夜を持った耕介が、こっちは普段着に白っぽい上着を羽織って現れた。

「じゃ、行きましょうか」
「……これが、俺の霊剣使いとしてのデビューか」
「大丈夫です、耕介さん。修行を思い出してください。……耕介さんは、強いですから」

 次いで、綺堂さんと、雪合戦ですげぇ弾を投げていた御剣さんと弓華さんが前に出る。

「さっきのあれは、物理攻撃が通用しますよね」
「……妖怪相手は初めてだ、あたし」
「わたシは、二回ほど経験ありまス」

 ……えー。綺堂さんはともかくとして、後者二人は一体何者?

「そんじゃ、あたしも久しぶりにやってみっか」
「丁度いいや。ストレス溜まってたし」

 更には真雪さんと春原さん。ええい、改めて見ると、ホントとんでもない人の集まりだな。
 当たり前のように、雪さんから『皆さんは一体?』って質問が飛ぶ。

 そして、全員が自己紹介をした。

 神咲一灯流霊剣使いとかHGSとか忍者とか凶手(暗殺者!?)とか夜の一族とか!

 まったく、とんでもねえ集まりである。
 まあ、これだけの実力者揃いだ。そのざからとやらも、ご愁傷さまとしか言いようが……

「……え? なんですか、皆さん?」

 ふと、僕に視線が集まっていることに気がついた。
 ……え? あれ、なんで?

 ――あ。

「あの、もしかして僕も?」
「当たり前でしょ!」

 スパァン! と玲於奈から絶妙なツッコミが入った。
 一部、ノリのいい連中は、コケを入れている。

 ……えー、いや確かに、言われてみれば僕も役に立つのか。いつもは他の連中に任せきりだからすっかり失念していた。

「んじゃ改めて……。一応、見習い魔法使いなんてやってます」

 我ながら自信なさげな口調で、そう自己紹介をした。


















 さて、ざからとやらが封印されている湖まで、どういうルートで行くか。

 雪さんを連れていくだけなら僕が抱えて飛んじゃってもいいんだけど、それだと湖周辺の大量の『足』を二人だけで対処しなくていけない。
 流石にそれは無理っぽいので、地上からのルートで数を削りつつ、大人数で突破……てのが基本的な作戦になった。

 あまり時間もなかったので、軽い打ち合わせしかしていないのだが……

 まず、最初の前衛はリスティ。小から中サイズの根を、得意の電撃で倒す。
 そして、そのリスティが撃ち漏らした根を、武器組などの近接戦をこなすみんなが切り落とす。

 本体に近くなると現れると予想されるデカブツの根は、大出力が得意な耕介と神咲さんの担当。

 ちなみに……僕は空から弾幕を撃ちまくって敵の先陣を叩き、数を減らす役割を仰せつかった。要は空爆担当だ。

「航空支援は任せとけ」
「いや……その、本当に消耗は大丈夫か? 空を飛ぶのって、疲れると思うんだけど」
「そりゃ今更過ぎるな……」

 耕介の質問に、半日くらい霊弾を撃ち続けながら飛ぶくらいは楽勝ですよ、と返す。腹は減るけどな。

「そ、そうか。まあそれなら……どのルートで行こう?」
「まっすぐ行きましょう」

 相川くんが、即答した。
 集まったメンバー……神咲の霊剣使い、HGS、夜の一族、忍者や暗殺者やら剣術使いやら。そして雪女に魔法使い……という組み合わせからして、多分この中ではあんまり戦闘力は高くなさそうな普通の高校生。

 でも、その目の強さだけは、僕みたいな意気地なしよりよっぽど強かった。

 力強い言葉に、全員が頷く。

「……真一郎くん。君、なんかいい」
「……はは」
「雪さんのボディガードはお願いするよ」
「はいっ」

 ぐっ、と拳を握る相川くん。
 封印の術を行使する雪さんは、極力戦闘には参加しないまま進むことになっている。下手に消耗して、封印が出来なかったら本末転倒も甚だしいからだ。

 ……ま、本体はともかくとして、その『足』である根は、然程強くはない。
 数だけは多いが……弱いヤツを大量に、は僕の得意分野である。

「早速来た!」
「うりゃ!」

 武器を持っているみんなが構え、僕は一歩前に出て弾幕を放つ。

「はぁぁっ!」

 両腕から弾幕。それを手を大きく左右に広げた状態から徐々に閉じて行く。
 前方百八十度を薙ぐように放った弾幕は、やって来た根の八割くらいを叩いた。残ったのは、微妙にサイズの大きなもの。こっちは、僕の霊弾の威力だと結構な数を当てないと沈められない。

「サンダーブレイク!」

 迫ってくる根を、リスティの雷が粉砕する。

「……いいね。予想以上の殲滅力だ。この調子で頼むよ、良也」
「へいへい。じゃ、僕は上から。リスティは下でお願い」
「Yes」

 軽く頷き合って、僕は空へと飛んだ。





















 進み始めて、一時間と少しってところだろうか。一向に収まらない根の襲撃に、遅々として進まないが、それでも少しずつ前に進んでいる。
 ……それはいいんだけれど、段々と数も、大きさも増していった。小さいのがたくさんなら、どうとでもなるんだけど、耐久力の高い根が増えると、僕の弾幕はあまり役に立たなくなってくる。

 スペルカードが使えりゃいいんだけど……『根』である以上、土や水の属性は効果が薄い。火は、山火事が怖い。つーと使えるのは風と、練度の低い雷と氷。
 でも、枚数がないんだよなあ……

「気にしている暇じゃないか」

 空を飛んで適当に弾幕を撃ちまくるだけで楽している僕とは違い、下の方のみんなは消耗している。
 少し密度の高い根の集団が来たし……使うか。

「風符!」

 残り二枚のうちの一枚を取り出して、スペルカードを宣言する。
 周囲の風が収束して……風の刃になる。多少太い生木でも両断出来るカマイタチだ。あの根は、生木よりは柔い。

「『シルフィウインド』!」

 今にもリスティの攻撃範囲に入ろうとした根を、全部切断する。……あ、いや三本ほど撃ち漏らした。詰めが甘い……。
 しかし、残ったやつも問題なく処理された。

「あ」

 向こうの方から、星明りを照らし返すなにかが見えた。

「おーい! 湖見えたぞー! あとちょい!」
「本当ですかー!?」
「嘘言ってどーする!」

 相川くんの声に答える。

「雪さん、もう少しですから」
「……はいっ!」

 雪さんを励ましている相川くん。順調に、フラグを立てている気配がビンビンと……いや、今はそんな場合じゃない。気にするな、僕。

「! 耕介! 神咲さん、デカイのが二本来た!」

 今までの根とはケタ違いの、大木のような『足』が迫ってくる。あれは中ボスか。

「オーケー!」
「神咲一灯流奥義!」
「3、2、……来る!」

 上のほうで視界が良好の僕がタイミングを図って二人に伝える。少し遅めだったものの、大体良いタイミングで伝えることが出来た。

「「封神・楓華疾光弾!」」

 二つの光の束が、迫ってきた二つの根を吹っ飛ばす。……射程は短いけど、洒落にならん威力だ。

「って、また来たっ!」

 今度は中クラスの根が大量にぃーー! どんだけタフなんだ、ここの魔物はっ。

 でも、ここを抜ければ、湖まではあと少し――

「ええい、スペルカードの大盤振る舞いだ!」

 風符一枚、雷符二枚、氷符二枚のを順繰りに発動させる。

 それなりの数、撃ち漏らしたが、しかし下のみんなが問題なく撃退出来るくらいにまでは減らしている。

 そして――湖に、抜けた。




















 その後は、特筆すべきことはない。
 湖に到着した雪さんは、無事封印の術を発動し……(なにか喋ってたけど、小さな声で上にいる僕には聞こえなかった)ざからの再封印は完了。

 で、疲れたみんなは帰って泥のように眠る……と。

「……眠れん」

 なんだけど、僕は一人、余ってた酒を傾けていた。
 いや、宴会の後ちょっと寝たってのもあるけど、いつも異変の後は酒盛りしていたので習慣的に呑んでる。

 ……雪さん、少し経ったらまた封印のために眠りにつくそうだ。
 僕みたいな部外者が言えることでもないけど……そりゃ、寂しいな。

「ふむ」

 ワインの瓶をラッパ飲み。残っていた分を一気に飲み干して、僕はリビングをさまよい歩いてペンと裏が白いチラシを見つける。

 さらさらと……幻想郷の場所を書いた。

 もし、お役目が終わった後、行くところがないならば。
 多分、ここが彼女にとって、住みよい場所になるだろうと思って。

「……ん〜、キザかな?」

 まあいいか。そーゆーの、気にしない人っぽいし。

 外も大分明るくなってきた。
 ……確か、雪さんは、眠ることになるまでは起きていたい、って言ってたから。んで、外を散歩したまま、中に入ってきた様子もないから。

 庭にでもいるかな?

 と、当たりをつけて玄関の外に出る。
 相変わらず積もっている雪。これは、彼女の力の片鱗だという。……天候をこうも劇的に変える妖怪って、実はすごい実力者なんじゃあ。

 ま、あの気性だと人食いって感じでもないから、いいけどね。

 ふむ……しかし、どこにいるんだか。これで寮の中にいたら間抜けだな、と思いつつ、庭をぐるっと見渡して……

「あ」
「あ」
「あ」

 庭の……寮の窓からは見えない位置で、佇んでいる相川くんと……その、ぱんつを上げようとしている雪さんを発見した。

「ぼ、僕は何も見てないから!」

 ぐるりと首を背けて、寮に退避しようとダッシュ。
 な、何も見てない、いや本当に、スカートに隠れて全然見えなかった。もう少し早かったら、本番も見れただろうに残念――じゃねえ! それってより気まずいじゃん!

「ちょ、ちょっと待ってください!」
「いいや、待たないね! ていうか、相川くん、君いつか刺されるぞ!?」
「ええ!? なんで!」

 なんでと抜かすか! 集まった女の子のうち、少なくとも何人かは君にラブっぽかったじゃないか!
 くぅぅ! どうして海鳴市で会う男どもは!




 ――なんで。その雪の降った日の異変は、気まずいラストで終わった。

 割と未来の話。雪妖と、大剣を携えた彼女の子供が幻想郷に来ることになるのだが……それはまた別の話だ。



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