休みの日。 実家から送ってもらった米がやたら多くて、お歳暮でもらったという油やハムやその他もろもろも、ついでとばかりにダンボールに詰められていたもんだから、どう処分しようかと迷った。 迷った挙句、そういえばさざなみ寮は大所帯だから、このくらい処分出来るなあ、と思いつき、えんやこらと持ってきたわけだが…… 「なんだ、玲於奈は留守か」 「ああ。今日は友達と出かけるって言ってたぞ」 珍しく部活の方は休みだったそうだが、お出かけの最中。まあ、もうそろそろ一年。僕がどうこう言うような時期はとっくに過ぎていて……耕介の話だと、友人関係も良好だそうだし、顔を見なくてもいいけどさ。つーか、正月会ったし。 「ただ、最近、玲於奈ちゃん、ちょっと貧血気味でね」 「……はあ? あいつが?」 「ああ。まあ、食欲はあるようだし、熱なんかもないみたいだから心配はないと思うけど」 貧血。むう……僕が実家にいた頃は、風邪ひとつ引いたことのない健康優良児という感じだったが、いつからそんな繊細な体質になった? まあ、僕も幻想郷に行くようになってから今まで味わったことのなかった貧血症状を頻繁に患うようになったが……誰とは言わないが、どこかの真っ赤な館の主のせいでな! 「ん〜、まあ気をつけてやってくれない?」 「ああ。こんな立派なハムをもらったんだから、今日はガツンと力が付く料理を食べてもらうさ」 ちょっと見上げないといけないほどの長身に、人好きのする笑顔を貼りつけて、耕介がどん、と胸を叩いた。 うわぁ〜、なにこの頼りになる感じ。本当に僕と同年代だよな? 「ま、お礼と言ってはなんだけど、これでもどうだ?」 「お、翠屋のシュークリームか。美味いんだよねえ」 「ああ。何回も真似しようと挑戦したんだけど、どうもこの味には敵わない。紅茶淹れるぞ」 「あ、僕にやらせてくれ。最近、紅茶好きの知り合いに習ったんだ」 そうか? と耕介は言って、葉っぱのありかとティーサーバーを用意してくれる。 んーと、お湯を沸騰させて、こうして……こう。 思い出しながら、なんとかかんとか淹れる。これを習ったメイドにはまだまだ勝てない手際だが、けっこううまく言ったと思う。むう、しかし香りからしてそこそこ良い葉使っているな。 「ほい」 「おお、さんきゅ」 耕介が、翠屋のロゴの付いた紙箱から、シュークリームを二つ取り出す。 片方を受け取ってかぶりついた。 薄い皮を噛み破ると、中から濃厚な甘みのクリームが……しかし、後味さわやか〜、とか。うーん、こういう時、料理漫画の主人公見たくウンチクを垂れたら格好良いのだが、生憎美味いと言うことしか分からない。 んで、紅茶を飲む。 「あ、けっこう淹れるのうまいじゃんか」 「……まあ、不味かったら殺されかねなかったからな」 「え? なんだって?」 「こっちの話だ」 レミリアが最初に僕の淹れた紅茶を飲んだ時、『これは紅茶じゃないわ。色の付いたお湯よ』などと僕の心を抉る台詞を言ってくれた。しかも、うちの葉を使ってこの程度の……とか殺気出して言ってきたんで、そりゃ必死にもなる。 ちなみに、後ほど冗談と知った。 「あー! 二人でなんかいーもん食べてるのだ!」 「う、美緒」 「なんや、どーした、美緒ちゃん」 「ゆうひ! こーすけとりょーやがシュークリーム!」 ……うわー、何事かと聞きつけて、寮の皆さんがぞろぞろとやって来た。 紙箱の中を見ると、残りのシュークリームは……ひーふーの……あ、僕の食べた分で、一人分足りなくなってる。 「耕介。一つ足りないように見えるんだが」 「え? あれ? 一個余計に買ったから足りるはず……あっ、おれ二個目だ!」 ぶぅーーーっ! と、美緒ちゃんとゆうひ、ついでに真雪さんがブーイング。うむ、なんと迂闊な。 耕介に文句が行く。……ふむ、とばっちりを受ける前に、帰るか。 「それじゃあねー」 ばいばい、と手を振る。 ……美緒ちゃんと真雪さん、ゆうひにみなみちゃんはさっぱり気付いてくれなかった。食い意地張ってんな。 そのまま帰っても良かったのだけれど、さっき食べたシュークリームの味が忘れられない。 どうせ帰ってもすることないし、と僕は翠屋で午後のティータイムと洒落こもうと、街中に向かった。 ……んで、友達らしき女の子と並んで歩いている玲於奈とばったり。 僕って、こーゆの多いよなあ。 「あ、れ? お兄ちゃん?」 「ああ、玲於奈」 邪魔するつもりはなかったので、こっそり立ち去ろうと思ったのだけど、玲於奈の方が僕を見つけてしまった。 苦笑しながら、手を上げる。 「なんでこっちに?」 「いや、ちょっと実家の方から色々送ってきたもんでさ、さざなみ寮にお裾分け。ついでに、翠屋のシュークリームでも食べてくかなって、な」 「はあ……お母さんてば、わたしのところにもたくさん送ってきたのに」 まあ、毎年年の瀬には、うちにはお歳暮の山が届いていたもんなあ。妙に顔の広いお父さんのせいで。 「土樹さん、こちらはお兄さんですか」 「うん。割と近くに住んでるから、たまにこっちに遊びに来るの」 「ああ、ごめん。邪魔しちゃったね」 玲於奈とは対照的に大人しそうな女の子。少しだけ見知らぬ男であるところの僕を警戒しているようだったので、なるべく笑顔を心がける。 「どうも。初めまして、綺堂さくらです」 「あ、良也です」 ぺこり、と頭を下げる。 背は小さいけど、大人っぽい子だ。礼儀正しいし、こーゆーところは、玲於奈も見習って欲しいなあ。 しかし……なんだろう、いかにも儚げな美少女と言う風情なのに、なぜか……なんだろう、こう、力強い感じがすると言うか……ああ、霊力(ちから)持ちみたいだ。 そういう感覚はあんまり鋭くはない方だけど、ここまで近くだと、わかる。 っていうか、本当に人間? って、聞くのも失礼だしなあ。 「お兄ちゃん。なに綺堂さんをじっと見てるの」 あ、考え込んでたもんで、綺堂さん困ってる。 「い、いや、ごめん。なんか知り合いに似てたもんだから」 適当にごまかす。別に嘘じゃない。姿形とかじゃなくて、雰囲気とか霊力の『匂い』だとかが、どっかの誰かと似ている気がする。 …………あ、レミリアだ。ってことは、吸血鬼? 「……なにか」 あ、またじっと見ちゃった。 ……まあ、たまたま似てるだけだろ。 「あ――っと、ごめん。僕もう行くよ。玲於奈、耕介から最近貧血気味って聞いたぞ? 無理はするなよ」 「別に、体調は悪くないんだけどなあ」 「いいから」 自分の体は自分が一番わかってる――なんて戯言は聞かない。本当に自分でわかるんだったら、医者なんて職業は存在しないし。 武道をやっている玲於奈は、健康とかには敏感なので、納得していないものの『はぁい』と頷いた。 「それじゃ。綺堂さん、邪魔しちゃってごめんね」 「…………いえ、それでは」 別れ際、綺堂さんとすれ違った瞬間……微かに、ほんの微かにだけど、血の匂いがした。 気のせいかもしれないし、レミリアを連想したから僕が勝手に勘違いしただけかもしれない。でも、 『最近、玲於奈ちゃん、ちょっと貧血気味でね』 ……まさかな。 耕介の言葉を思い出した僕は、首を振ってその言葉を頭から追い出した。 さって、と。気を取り直して……シュークリームだ。 そんな出来事から、わずか三日後。 玲於奈が、倒れた。 そうさざなみ寮から連絡が来て、僕は慌ててさざなみ寮に向かった。 講義の途中だったが、ブッチした。 人目につかないギリギリのところから全力で飛び、さざなみ寮の庭に着地する。 リビングのテラス窓から、その様子が見えたのか、中にいた人物――耕介と、神咲さんが、窓を開けてくれる。 「玲於奈は!?」 「ああ、目は覚ましたんだけど」 耕介が言い淀む。 ふと、その後ろを見ると、ぼーっと、ソファに座っている玲於奈がいた。 「な、なんだ。大丈夫そうじゃ……」 いや、おかしい。僕が来たって言うのに、玲於奈は空中のあらぬ場所を見たまま、微動だにしない。 「その、土樹さん。玲於奈ちゃんは……」 神咲さんが話しかけるが、僕は無視して玲於奈の正面に回る。 視線を遮ったって言うのに、僕とも目を合わせようとしない。軽く顎をつかんで上を向けさせ……目の奥に光がないことを確認した。 「……魅了の魔術?」 僕の指摘に、神咲さんは少し驚き……『はい』と、頷いた。 「永続的なものではないそうです。しばらく時間を置けば、治ると。うちもこの手の手段は詳しくないので、言われた通り放っておくしか」 「……へったくそだな」 魅了の魔術と、暗示の中間くらいの作用だ。本物の魅了(チャーム)なら、ちゃんと自意識は保っている。その上でかけた相手に対してどうしようもなく魅力を感じてしまうのが魅了の魔術ってやつだ。 こんなのじゃ、ちょっと精神に揺さぶりをかければすぐさま解けてしまう。 さて、どうやって揺さぶろうか、と思って、特に考えもせず口に出した。 「ああ、そういえば。耕介、玲於奈がいつまでおねしょをしていたか教えてやろう」 「は? いや、良也。今はそんなことを話している場合じゃ」 ……お、少し瞳が揺らいだ。 「まあ、聞けよ。これがけっさくでな。最後にしたのは、こいつが小学――」 「いやぁ!」 「ぐはぉっ!」 全部言えなかった。 一気に意識を覚醒させた玲於奈が、僕にリバーブローをぶち込んだため。 ……寝起きとは言え、これはないんじゃないか? 「え? あれ……お兄ちゃん?」 「おはよう」 「あれ? えっと、わたし……確か……なんだっけ」 記憶はなし、と。 「覚えていないか? 玲於奈は倒れたんだそうだ。なあ、耕介」 「あ、ああ。クラスメイトの子に付き添われて帰ってきたときにはもうふらふらで……。部屋に行く途中、ばたん、って」 ……クラスメイトの子ね。 「えっと……あ、少し覚えてる。確か綺堂さんに肩貸してもらって……。綺堂さん、意外と力強いんだ」 「なあ、玲於奈。綺堂さんって、前に会ったあの可愛い子?」 「うん。そうだけど……あ、紹介しろって言っても駄目だからね」 「いらない」 そうかあ。彼女、本当に吸血鬼だったかあ。 治ってはいるが、玲於奈の首筋にうっすらと牙の痕がある。……ふうん。 「あの、お兄ちゃん? な、なんか怒ってない?」 「ん? なに言ってんだ、お前。いいからもう寝てろ。水分だけ補給して……あ、鉄分のサプリ持ってるから、飲んどけ」 まさか、自分が吸血された時用のサプリメントが、こんなところで役に立つとは思わなかった。 「な、なんでこんなの持ってんの?」 「お前みたいな事になった時のため」 全然わかっていないみたいだったが、玲於奈は素直に受け取って飲み下す。ついでに、耕介が持ってきた野菜ジュースを飲ませた。 「んじゃ、寝ろ」 「べ、別に眠くないんだけど」 んなこと聞く義理はないので手を引っ張って無理矢理部屋に連れて行くことにする。 「耕介、神咲さん。後で話があるから」 「ああ」 「わかりました」 「ちょ、お兄ちゃん、引っ張らないで」 リビングを出る際、それだけ言って玲於奈を部屋に引っ張っていく。 「ここで部屋、合ってたよな」 「……うん」 途中から諦めた様子の玲於奈は、自室の扉の前で項垂れたように頷く。 まだ渋る玲於奈をベッドに寝かせ布団を掛けてやり……なんだかんだで衰弱していたため、あっさり眠りに落ちた。 「さて、と」 スペルカードは……三枚。なんとかなるかなあ、と思いながら、リビングに戻る。 神妙に待っていた神咲さんに、とりあえず単刀直入に聞いた。 「玲於奈は吸血鬼に血を吸われた……で、合ってる?」 「……はい。わかりますか」 「そりゃわかるよ。牙の痕があったし、知り合いに吸血鬼はいるし」 考えてみれば、玲於奈のされたことって、普段僕がされていることと変わらないんだよなあ。 ……なのに、何故僕はこんなにムカついているのか。 「……夜の一族に知り合いが?」 「夜の? ……いや、よくわからないけど、血を吸ったりする幼女なら二人ほど心当たりが」 「幼女?」 ん? なんか認識の齟齬が。 で、話してみると……どうも、僕の認識する『吸血鬼』と、神咲さんの言う『夜の一族』は、なんか別の種族っぽいことがわかった。 まあ、血を吸う化け物なんて、色々いるだろう。特に気にしないこととする。別にすることが変わるわけでもない。 「で、それはそうとして……。一応、兄として妹をこんな目に合わせた人間には、一言文句を言っておきたいんだけど」 「それは、今綺堂――玲於奈ちゃんを連れてきてくれた子が話を付けに行っているはずです。玲於奈ちゃんを預けに来た時、これはうちの一族の問題だから手出し無用と言われましたが」 「……あれ? 綺堂さんが犯人じゃないの?」 「知り合いなんですか?」 あ〜、もう、わけがわからない。耕介も、なんか付いてこれていないみたい。 ……風芽丘学園って、どんだけカオスな学園なんだよ。もう。 「で……結局、犯人は?」 「三年の、氷村遊という人です。三学期から転校してきて……ここ二週間で、確認出来ているだけでも十五人以上が血を吸われています」 「約一日一人かあ」 多いのか、少ないのか。知り合いの吸血鬼は、別に毎日吸う必要はないみたいだけど、夜の一族ってのはどうなんだろ。 「……まあ、いいか。さて、と。その氷村って人の自宅は? もしくは連絡先とかわかる?」 「今日は、綺堂が呼びつけたそうですからまだ学園に方にいると思いますが……あの、土樹さん?」 「だから、一言文句を言っておかないとね。一族とか知るか」 バスは……まだるっこしいな、飛んで行こう。高く飛んで行けばわかりゃしない。 「ちょ、ちょっと!」 「玲於奈のこと、よろしく」 引き止める神咲さんを無視して、僕は風芽丘学園へ向けて飛んだ。 ……場所がわからなかったので、一度戻って聞いた。その時には、神咲さんも諦めていたようだ。 さてどうしよう。 なにやら日も落ちていると言うのに騒がしかった体育館に当たりを付けて、一応中を確認してそれっぽいということを確認して突入。 中にいる、総勢十人ほどの視線が、僕に集まった。 何人かの女の子に囲まれて身動きが取れない様子の綺堂さんと―― 「……なんだお前は?」 数人の女生徒を侍らせた男が、こちらを睨んでくる。 察するに、これが氷村とやらか。周りの女の子は……玲於奈と同じく、目に光がない。暗示を食らっている。 「あ〜、っと。とりあえず、人に名前を聞く前に、あんたの名前は? 氷村遊で間違いない?」 「下等な人間の質問に答える義理はないが……そうだ。再度問おう。お前はなんだ?」 「土樹良也。あんたが血を吸ってくれた、玲於奈の兄だ」 言うと、氷村は少し考え込み……ああ、とやっと思い出したように、言った。 「あの肉付きの悪い小娘か。血の味は上等だったが、身体の方はまったく興味を惹かれなかったな。なるほど、兄と言うだけあって、貴様も貧相だ」 「……まあ、それは同意だけどね」 まったく、良く食べる癖に背は伸びないし胸もでかくならないんだからな、あいつは。ついでに、僕も、まあ中肉中背で、たくましいとは言い難い。 でも、この男に言われると、超カチンとくるのはなんでだろう? 「土樹さん、逃げて!」 「ああ、綺堂さん。この前ぶり。でも、帰るわけにはいかないなあ。うん、この男に一言文句言っておかないと駄目だから」 「文句だと?」 不快そうに尋ねてくる氷村に、僕は答える。 「ああ。まったく、同意もなく女の子の血を勝手に吸うなんて。どんだけ自分に自信がないんだよ。血が欲しいなら欲しいで、はっきりとそう言えば良い。変態扱いは間違いないけど」 ああ、そうだ。僕も血を吸われているけど、ちゃんとその記憶は残っている。まったく抵抗できず、無理矢理に吸われても、それでもレミリアはちゃんと自分の言葉と力でやる。 しかし、この御大層な美形は、裏でこそこそと……ああ、言っててさらにムカついてきた。 「うるさいっ」 氷村の目が赤くなって、僕を睨みつける。 ……ああ、魔眼ね、魔眼。吸血鬼って、天然で魅了の魔眼とか持ってんだよなあ。 だけど、僕は視線を媒介にするような間接的な呪いの類は全く効かないんだよね、生憎なことに。 「……なに?」 「で? なにそれ」 とりあえず、軽口。無言で、氷村は僕に手を掲げ…… 「ぐっ!?」 衝撃波みたいなので吹っ飛ばされた。 床に倒れて……あ、頭から少し血が。 「土樹さん!」 「ああ、綺堂さん。大丈夫。ちょっとこけただけですからー」 ああ、もう。痛みで感情の抑えが効かなくなってきたじゃないか。 「なあ、氷村。そこの女の子たち、離してくんない? 傷つけたくないし」 「……なんだと?」 「いや、今から君をボコボコにするんで。巻き込みたくない」 ダメージは大したことない。立ち上がって、我ながら据わった目つきで氷村を睨む。 「それとも、女の子を盾にしないと怖い? いや、そういうことなら、僕はまあ、なんて情けない男だろうと呆れて帰るつもりだけど」 ギリッ、という歯軋りが、ここまで聞こえそうだった。 苛立った様子で、氷村は周りの女の子を遠ざけ、 「さあ、これでいいか? 貴様の遊びに付き合ってやる」 「はい、いい子だ」 間髪入れず、僕は弾幕を放った。 「なっ!?」 「まだまだ」 手は緩めない。撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ。 秒間十発くらいの弾幕。計二百発くらい打ち込んだどころで、ボロボロの氷村が僕の目の前に現れた。 片手で、首を締めあげられる。 「貴様! 霊能者か! また、我ら一族を追い落しに来たか!」 「……ち、がう」 息が苦しい。窒息させると言うよりも、このまま首をへし折る気だ。 ……だけど、生憎、こんな状況は慣れっこだ。懐の火符を、至近距離で爆発させる。 「ガァっ!?」 いたた……。おうおう、腹が凄い火傷してる。だけど、痛みはとりあえず無視だ。あっちの方がダメージ大きいっぽいし。 ……身体的には向こうのほうが強いだろうに、慣れの差か? 「……はあ。一族とかなんとか、知ったこっちゃない。それより、とりあえず言わせてもらうぞ」 あー、それにしても、ムカつく。考えてみれば、マジギレしたのなんて、いつ以来だろう。 勝手に口が汚い言葉を出す。それを止めようとも思わない。 「女の子に暗示掛けて好き放題とか、お前はどこの鬼畜エロゲの主人公だ。しかも!」 ああ、もう。結局、僕が怒ってるのって――ああくそ、僕って、こんなにシスコンだったのか。 「なに人の妹に手ぇ出してんだよ……ブチ殺すぞ、化け物(フリークス)」 「な、んだとぉ」 今にも死にそうな身体に活を入れて、弾幕を氷村に撃ち込んだ……ところで、僕は気を失った。 ……目覚めたら、全ては終わってた。綺堂さんがうまく収めてくれたらしい。ついでに、あれを止めたことを感謝されたりもした。 氷村も、これからは滅多なことを起こさないよう、監視するとも言ってくれたし。……ああ、よかった、死んでなかったか。ぶっちギレて、手加減ミスったから、本気で死んだかと思ってた。いや、まあ吸血鬼だから大丈夫って思ってはいたけど。 とりあえず、あの時いた女の子たちも、全て開放されて、めでたしめでたし……なんだが、 「フリークスって! フリークスって! なんで僕はヘルシン○なんて読んだんだぁーーっ!」 自分の恥ずかしい台詞に、後日身悶えした。 |
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