「いや〜、買ったねえ。ちょっと重いや」 「……買いすぎだっつーの」 とある日曜日。 こなたと一緒に買い物に来た僕は、公園のベンチで休憩しながら、こいつの金の使い方に少々戦慄していた。 ゲー○ーズで予約していたアニメDVDの全巻を買い、その足でアニメ○トで漫画の新刊を十冊くらい、んで、さっき寄ったエロゲショップではこれまた予約していた限定版が二つ…… ああ、そういや買い物前にゲーセンで初音○クのフィギュアゲットするためにそれなりにコイン突っ込んでたっけ。三つもゲットしやがって。 総額、いくらだったんだろう? あまり聞きたくない。 「いやいや、これお父さんの分も入ってるから」 「……娘にエロゲ買いに行かせる父親ってのもどうなんだ」 「いんや、そっちは私の。アニメの方だよ、お父さんのは」 こいつ……。いや、いいか。気にしないでおこう。別に鬼畜ゲーというわけではないし、二つのうち片方は僕も買った。通常版だけど。うん、名作の予感。 「ふぃ〜、それにしても疲れたねえ。どっかでお茶でも飲んでいく?」 僕は大して疲れていない。ベンチで十分も座ってたらだいぶ楽になったのだが……まあ、いくら格闘技の心得があってもこなたのこの体だ。あまり体力とかがあるとは思えない。 更に、荷物が僕の三、四倍くらいあるからな……。流石に気が引けて、持とうかと言ったんだけど、自分の手で持ち帰らないと愛がないと言い切られてしまった。こなたさんかっけー。 「そうだなあ。そこらの喫茶店でも入るか」 「喫茶ねえ。奢りだよね?」 「ふざけろ」 「えー、デートなんだから奢ってよー」 なにがデートか。 ゲーセンで美少女フィギュアを取り、昼飯は混む前のマ○クで五分で片付け、アニメショップで予約の品を受け取りつつエロゲーまで購入するデートがどこの世界にあるのか。 ついでに、くふふ、とそのからかう笑い方はやめろ。 「そこの自販機なら奢ってやろう」 「あ、言ってみるもんだねえ。それでいいや」 いいんかい。 まあ、糖分を補給すれば、少しは体力も回復するか。 なにがいい? と聞くと、炭酸ー、との答え。 嫌がらせにドクター○ッパーとか買ってやろうか、と思ったがなかった。残念。 うーん、と少し悩んでから、自分の分を含めサイダーを二本買う。 そいつを持って、こなたのところに戻る途中、何気なく公園の風景が目に入った。 通りの店の喧騒から少し離れた小さな公園。僕達と同じように、買い物の途中の休憩で立ち寄る人がそれなりにいる。 ……ベンチに置いてある荷物は、一応外からは中身がわからないようになってるから、大丈夫か。お子様連れの家族の目も、別にこっちに注目してないし。 あ、お巡りさんが来た。パトロールご苦労様です、と軽く頭を下げておく。 「ほれ、買ってきたぞー」 「うん。ありがとありがと。さって、こいつを飲んだら帰るかー。リョウ、うち寄ってく?」 「あー、どうしようかね」 ここからだとこなたの家のほうが近い。寄ろうと思えば寄れるのだが……でも、今日買ったゲームとっととやりたいしねえ。 断ろうと口を開くと、ふと横にぬっと誰かが立つ気配がした。 「失礼。少しよろしいでしょうか」 ……あれ? さっきのお巡りさん? 三十代くらいの、物腰の柔らかな警官さんが、少し笑いながら話しかけてきた。 「ええっと、はい」 でも、そんな人の良さそうな人でも、警官の衣装を来て立ってりゃ、そりゃ少しは緊張する。天に誓ってやましいことなど無いと胸を張って言える僕だが、やっぱ少しおっかない。えーと……ナイフとかは持ってないよな、うん。そーゆーので捕まる人もいるって、ニュースで見たことあるけど、大丈夫。 エロゲーは……そりゃ、胸を張ることなんて出来ないけど、犯罪ではないはず。 「ええと、なんでしょうか?」 「そちらのお嬢さんと貴方、どういうご関係ですか? 失礼ですが、兄妹には見えなかったので。親戚かなにか?」 へ? こなたと思わず顔を見合わせた。……ん? なんでそんなことを? 「あ、いや。普通の友達ですけど?」 「友達?」 明確にお巡りさんの雰囲気が変わる。え? なに? なんでお巡りさん、立ち位置変えてんの。そんな、僕を逃がすまいとするみたいに。 「貴方ねえ。親御さんの許可は取ってるの? どこで知り合った友達?」 「許可? こなた?」 「一応、お父さんには出かけることは言ってますけど」 こなたの方もなんか戸惑っているみたいだった。 ……んん〜? なにかしたか、僕ら。 「らしいです。知り合ったのはネットで……」 「インターネットですか。良く話題になってる、出会い系というやつで?」 「……いや、ゲームでですけど」 出会い系……? なんでそんな発想――って、おい、まさか。 「ゲームね。まあ、少し交番まできてもらえます? 最近、貴方みたいな人多いんだよね。ネットで知り合った小さい子と会って、色々買ってあげて、いかがわしいことをしようって言う」 「ちょちょ、ちょっと待ってください!? 違いますから、そんなのとは全然っ!」 「違うって言うなら、とりあえず交番で聞かせてもらいますから」 えっらい誤解をされていた! そりゃ、こなたの外見で知らなかったら、僕だって誤解しそうだけれども! どうしようか、どうしようか、と悩む。ええい、この状況で冤罪だとどれだけ訴えても、聞く耳持ってもらえなさそうだっ。 僕自身にはやましいところは一切無いから、いっそ逃げてしまおうか。……いや、そうすると疑惑が確定してしまうな。顔覚えられてるだろうし。 駄目だ。僕だけではこの状況はいかんともしがたい。こなた――と助けを求めると、やれやれという顔で財布を取り出していた。 「あのー、お巡りさん?」 「ん? お嬢さん、貴方にも来てもらいますから。この人になに言われたのか、聞かせて――」 「いやあの、これこれ」 と、こなたが財布から取り出したのは……あ、免許証だ。車の免許取ってたんだこいつ。 そして当然、原付ならともかく普通車の免許ってのは十八からしか取れないわけで。ついでに、免許証には生年月日もしっかり載っているわけで。 お巡りさんは、免許証の顔写真とこなたをまじまじと見比べた後、 「す、すみませんでした。どうぞ、お買い物の続きを楽しんでください」 と、謝ってからそそくさと公園から立ち去って行った。 ふう、やれやれ…… 「この合法ロリ。職質されるなんて、僕の人生で初めてだぞ」 「それ悪口!? いや、私も初めてだったけどさ! てゆーか、私落ち込んでるんだからね」 「ったく、まさかこんな間違え方をされるとは……流石に凹むっての」 そんな性犯罪者風の顔してるのか、僕。 「ふーん、ロリ系のキャラ好きなくせに」 「二次はともかく、三次でロリコン趣味はないと僕は自負している」 「微妙に自信なさ気だね」 いや、まあ。 喧々囂々と、閑静な公園でひとしきりやかましく話してから、僕とこなたは解散するのだった。 ってなことを、大学で出くわしたかがみに話したら、 「っっぷ!」 吹かれた。 いや、わかるよ、そりゃ笑うよ。僕だって笑い話として話したわけだし。 にしても、また遠慮がないねえ。 「くく……す、すみません」 「いや、いいけど。ったく、災難だったよ」 「で、でも、仕方ないと思いますよ。ぷ。こなたは、あのナリですから」 だよねえ。女友達と遊ぶなら別にどーってことないが、同年代の男と二人きりで並んでたらどう考えても犯罪だ、男の方が。 そこら辺にやたら厳しくなりつつ昨今、今までもよく遊んでいたけど、これまでああいったことがなかったほうが運が良かっただけなのかも知れない。 「き、気をつけてくださいね。こなたと一緒にいるときは。くく……誤解、されますから」 「わかってる。あといい加減、笑うの、やめ」 「つ、ツボに入って」 うーむ、しかし、確かに今後は気をつけないとなあ。あの時のお巡りさんは引き下がってくれたけど、言い訳する間もなく連行されたらあまりいい未来は想像できない。 「はあ、はあ。……まあ、こなたは、映画に子供料金で普通に入れるくらいですから」 「ってことは、入ったことあるんだ……」 「はい」 チャレンジャーというかなんというか。受付の人はちらりとも疑わなかったのだろうか? ……疑えないだろうな。ぜってー居酒屋とか行ったら酒の注文を断られる容姿だし。……あ、実年齢も一応まだ未成年か。 「でも、後でフォローしといたほうがいいかも。あれで、身長が低いこと気にしているみたいですし」 「してるのか」 「ええまあ」 いい加減諦めても良かろうに。 「適当に笑い飛ばせば良いと思いますよ」 「はいはい……。まあ、合法ロリは需要あると思うし、そう言ってやればいいか」 うん、需要あるある。けっこう可愛い方だし。僕は興味ないけど。 「ご、合法、ロリ?」 「あれ? 知らない? 見た目子供だけど実は年齢的には大人なキャラで……。ああ、妖怪とか人外も、人間じゃないから法律の適用範囲外で合法ロリか」 ふふ、そう考えると僕の知り合いには合法ロリがたくさんですね。ほとんどがおっかねー連中だけども。 「……おんや。かがみさんや、どうして微妙に距離を取るんだい?」 「いや、その。あんまり大学内でそういうこと言わないでもらえます?」」 む、それもそうか。 しかし、この大学、オタ率は低くないと思うよ? 女子も少なくないから、隠れが多いだけで。スーパーオープン系な我が友人二人は異端だけど。 「……それに、いくらこなたでも、そんなこと言われて嬉しくないかと」 「かもねー」 需要のある方向性が間違ってるしねえ。まあ、言ってみるだけならタダだし? ちなみに、その夜にメッセンジャーで指摘してみたら、『次会ったときは覚えてろよー』と返された。 うん、なんかそのセリフは、『次』でも職質されるフラグな気がしてならんぞ。 |
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