季節は巡り、春。 幻想郷に行くたび、新しい刺激を受けている今日この頃なのだが、一応僕の生活拠点は外の方だ。 これでも、国立の大学生。文系で多少お気楽な面は否めないが、それでもサボったりはせず毎日大学に通っている。 ……まあ、去年の交通事故→植物状態のコンボで、見事留年したんだけどなっ! う〜〜、講義に知り合いがいねぇ。後輩の友達ってのも居ないし、どーすりゃいいんだ。ぼっちか、ぼっちですか。 ……と、思っていたんだけどなあ。災い転じて福となす、っていうか。 「? 土樹さん、どうしたんですか」 「いや〜、なんかね。僕って時々、すごく運が良いんじゃないかと思い始めた」 「なんですかそれ」 般教の講義が終わって、ぼーっとしていた僕に、隣に座っていたかがみが笑う。 ……そう、この春より大学生になったこなた及びその友達たち。その中で、柊かがみさんが我が大学に入ってきたのだ。 しかも、何故か金曜の二コマ目、般教で取る講義が被って、加えてこの講義ってたまたまかがみの同期生がいない講義だったりして。何故か、良く隣同士に座ることになっていたのだった。後輩にさん付けはおかしいってことで、呼び捨てを許可されたし。 やべぇ、絶対反動くるよ、これ。具体的には、今度幻想郷行ったとき理不尽な理由で殺されそう。 「はは……まあ、なんでもないよ」 「そうですか? それにしても、今日の講義は難しかったですね」 「あー、そうね」 ここの教授の授業は面倒なんだよなあ。出席点、レポート、試験と全部それなりにこなさないと単位もらえないし。ムズいし。 「余裕ですね……」 「いや、だって僕この講義二回目だし」 「あれ? そうなんですか」 「かがみには言ってなかったっけ……僕、去年留年したんだよ」 お陰で、現役より一つ年上で、ついでに就職活動で不利になりそう……。まあ、今は教職を狙おっかなー、と思っているので、もしかしたら関係なくなるかも知れないけど。 「留年、って……。もしかして、オンラインゲームにハマってとか」 「ひどっ。僕ってそんな風に見られてたのか」 「いや、だってこなたもそれで受験勉強始めるの遅れたし。しかも、土樹さんがこなたと知り合った経緯が……」 いや、確かにオンラインゲームで知り合った仲だけどさ。こなたはともかく、僕はそこまで廃人プレイはしなかったぞ。一日一、二時間くらいしかインしてなかったし。 「そうじゃなくて。ちょっと事故って、一ヶ月くらい意識不明だったんだよ」 「え!?」 「しかも、前期末の時期と被ったから、試験やらレポートやら出来なくてさ……。見事、留年しちゃいました」 あ〜、あんときは大変だった。マジ大変だった。生霊になって冥界に行くとか、僕の人生観が明後日の方向に迷走し始める第一歩だったなあ、うふふ。 まあ、痛い目にも遭ったし、学費一年分余計に払わないといけなくなったりもしたけど。友達は増え、変な能力も身に付き、ついでに不老不死にもなって……収支はトントン、というところではないだろうか。 「あ、あの、ごめんなさい。そんな事情とは知らないで変なこと言っちゃって」 「あー、いや、別に構わないんだけど、かがみさぁ」 「?」 「……発想からして、既にオタクだよな。いい加減認めたら?」 いや、オンラインゲーにハマって留年とか、普通考えない。遊びとかバイトとか、後は試験に落ちたとか。そういうのが一般的な発想だと思うんですよ? 「〜〜! な、なにを言ってるんですか! 私はオタクじゃないです」 「あ〜、周り周り」 「あ」 この講義の後は昼休み。既に大部分が講義室から出ていっているが……タベっているのも数人いる。そんな連中が、突然の大声に思い切り注目していた。 「う……い、行きましょう」 「了解」 笑いそうになるのをこらえて、僕はかがみに付いていくのだった。 昼は、僕は食堂、かがみは自前で弁当を持ってくる。作るのは本人かもしくはつかさちゃんらしい。 食堂にあるお茶目的で、かがみも食堂に来るので、金曜だけは一緒に食べる。ちなみに、この大学、食堂が二つあって、今日の講義の教室に近い方は僕やかがみが普段使っている方じゃないので、知り合いとは遭遇しない。 新入生の女子と食事……痛くもない腹を探られるのは勘弁なのでこれはありがたかった。 いや、ほんと痛くないんだよ。全然、ちっとも。フラグかな、とちょっと思ったけど別にそんなことはなかったぜ。 「かがみさあ、大学はもう慣れた?」 んで、食べ終わって、食堂前のベンチでジュースなど飲みながらダベる。 「えっと、少しは。高校と違って、随分自由なんですね」 「まあ、そりゃね。基本的にフリーダムだよ。別に『戦いたくないんだ―』とか言いながらビーム撃つ必要はないけど」 「いちいちアニメに例えるのやめません?」 むう、しかし断る。 「僕だってネタの分かる人にしか言わないって」 「私だってわかりませんよ!?」 「あれ? そうなの?」 フル○タが好きだから、てっきりロボット系に燃えるのかと。まあ、種を純粋にロボットアニメに分類していいかどうかは人によると思うが。 「はあ……。ああ、そういえばお酒は全然慣れませんね。この前、初めて居酒屋に行ったんですけど、一杯でもうソフトドリンクに切り替えました」 「あー、酒呑む機会増えるよね」 サークルにコンパにゼミの飲み会に。本当は大学一年目ってじゅーはちやじゅーきゅーだから呑んじゃいけないんだけど、大学側も半ば黙認状態だ。普通に食堂が新入生歓迎の場になって酒入ったりするし。 「土樹さんはお酒は?」 「好きだよ? うちでも一人で普通に呑むし、酒好きな知り合いが多いからなあ……」 土日しか行っていないのに、月一ペースで幻想郷の宴会に巻き込まれる。その時のアルコールの消費量たるや……あの連中の酒好きは異常だ。 「一人でですか。私も少しは慣れたほうがいいのかな」 「いや、呑まないで済むならそれも良いと思うけどね。……飛ぶから、お金」 「ああ……お会計がけっこう高くてびっくりしましたね」 酒高いんだよねえ。大学生のご飯なんて千円出しゃ高級の部類だってのに、飲み会は三千円四千円平気で飛ぶ。食堂で食ってるのは四百円でお釣りが来る日替わりだっつーのに。 「まあ、たまにならいいけどね。なんなら今度一緒に呑むか」 「えっと、少し考えさせてください。まだあんまりお酒呑めないんで」 苦笑い。もしや僕と二人きりを警戒してる? うーむ、そんなつもりはなかったんだが……それじゃあこなた辺りを誘っ……いや、あいつじゃ居酒屋で酒頼んだらお断りされるな、間違い無く。 その様子がありありと浮かんで、少し愉快になっていると、ぶぅーん、とかがみのポケットの辺りから振動音。 「あれ? ちょっと失礼します」 「あー、どうぞどうぞ」 携帯電話を取り出し、電話に出るかがみ。ちら、と見えた着信元はこなた。 ……タイミングが良すぎる。どこかで僕を考えを見張ってたりしないだろうな。 「もしもしこなた? ……あ、うん。え? えーと、私、今日四コマ目まで入ってるけど大丈夫?」 なに話してんだろ。 意味もなく携帯を取り出し、聞き耳を立てないよう気をつける。ついつい気になっちゃうんだよなあ。でも、無作法だから聞こえないようにするのだ。 「え? 土樹さん? 今隣にいるけど……って、そんなんじゃないってば」 あ、これはどんな会話が繰り広げられたか想像付く。 うん、そんなんじゃないぞー。そうなったら嬉しいことは否定しないけどねえ。 と、いくつかの会話をして、かがみが携帯を僕に差し出した。 「ん?」 「こなたが代わって欲しいそうです」 「……いいけど」 僕の方の携帯にかけ直せよ。あー、ごめんねー、液晶に脂とかついちゃうかも。 なんて心の中で謝りながら電話に出た。 「代わったけど。こなた?」 『あ、やっほー、リョウ。ほんとにいるんだ……よもや私のかがみんに手を出したりしていないよねぇ?』 「お前、前も言ってたよなそれ……なんだ、お前百合もの好きだっけ?」 『うーん、嫌いじゃないけど現実じゃねえ』 だったら言うなよ。 「……で、何の用?」 『あー、うん。この前言ってたゲーム、やり終わったから貸そうかって話』 「そりゃありがたい。いつ、どこに取りに行きゃいい?」 『それなんだけどさ。今日、大学終わったらかがみとそこらでお茶でもしようってなったんだけど、来る?』 ええと、 「いや、僕はいいけどさ。そっちはいいのか?」 『いいよー』 「んじゃ、行かせてもらうけど……奢らんぞ」 ええ!? というこなたの声を無視して、携帯をかがみに差し出した。 「えと、後でお茶飲むそうだけど、僕も行くから」 「え? はい、わかりました。……もしもし、こなた?」 かがみに携帯を戻すと(なんとか脂は付いてなかった。セーフ)、二言、三言話して、携帯を切る。 「土樹さん、四コマ目入ってませんでしたよね。一緒に行くなら、私の授業が終わるまで待っててもらえます?」 「わかった。図書館で本でも読んでる」 パチュリーの奴に持って行ってやる本を吟味しよう。 と、その辺りでいい時間になったので、僕とかがみはそれぞれの講義に向かうため別れた。 かがみと一緒に、電車でガタゴト揺られること数十分。 こなたたちの通う大学と、うちの大学の中間辺りの駅に降りて、連中を探す。 あっちのメンバーは、今日は休講で早めに終わったらしく、もう既に来ているはずなんだが…… 「あ、いましたよ」 かがみが指差した方を見ると……おお、いるいる。こなたにつかさちゃんに高良さん。と、あれ? 見覚えのない女の子が二人ほど。 はて、僕の知らない顔があってもそりゃ不思議じゃないが、てっきり知り合いしかいないから呼んだものと思っていたのに。 こりゃ、ゲームだけとっとと受け取って帰ったほうがいいかなぁ、なんて考えながら露天のアクセサリー屋を冷やかしている連中に近付いていく。 「あ、向こうも気付いたみたい」 おーい、と軽く手を振ると、こなたが手を振り返してきた。そんで……僕の知らない女の子二人、特に髪の短いほうはなんか超ビックリしてる。 ……? 「お待たせー、みんな」 「いえいえ、時間丁度ですよ」 「お疲れ様、お姉ちゃん」 かがみが挨拶して、高良さんとつかさちゃんが返す。……僕は微妙に疎外感なので、気安いこなたに声をかけた。 「よーっす」 「よっす、リョウ」 シュタ、と手を挙げるだけで終わりなんだから気楽なもんだ。……んで、時に初対面の二人が、なんか硬直したままなんだが。 「ひ、」 「ひ?」 あ、再起動しそうかも。しかし『ひ』ってなんだ。 「ひ、柊が彼氏連れてきたーっ!?」 「ぶっ!?」 あ、そーゆーことね!? そーゆー勘違いされていたわけね!? 「ちょ、日下部……」 「なんだよー、あやのだけじゃなくて柊もかよー」 ぶーぶー唸ってる女の子。……うーん、なんだろう、このアホの子臭漂う八重歯は。 んで、もう一人の初めて見る顔……大人しそうな方が、挨拶をしてきた。 「あ、えっと、初めまして。柊ちゃんの友達の、峰岸あやのです、彼氏さん」 「……土樹良也です。別に彼氏じゃないんだけど」 ぐりん、とかがみに詰め寄ってた八重歯がこっちを向く。 「え? マジで!?」 「マジです。ただの先輩後輩です」 いやほんとにねー。学校の女子とここまで仲良くなったのは中学以来だから、期待がまるでないといえばそりゃ嘘になるが、しかしそういう関係になれると思えるほど自惚れてはいない。 ちょっと困ってると、ひいひいと笑いをこらえているこなたを発見した。 「……おい、こなた。お前もしかしてだが」 「いやー、ドッキリ成功」 「ろくでもないなお前……」 はあ、と嘆息する。全員、苦笑していた。あ、かがみはまだからかわれた余韻か、顔が赤い。 「ん、まあよくわからんけど、よろしくなー。つっちーさん」 「……いや、別になんて呼んでもいいけどさ」 なんでそんな微妙に可愛い渾名をつけられてんだ、僕は。 「あ、私、日下部みさお。よろしくー」 「はあ、よろしく」 一応自己紹介は終わったが……これ、僕どうしたらいいんだ? 女の子がひーふーの……六人。対して男が一人。計七人の大所帯だから、意外と目立つ。 このくらいの男女比、幻想郷じゃ当たり前なのだが、ここは外の世界なのだ。ぶっちゃけ居心地悪いんだけど!? 「よし、じゃ、ここでぼーっとするのもなんだし、そこらの喫茶にでも入るかー」 「待て、こなた。僕はもうとっとと帰る。邪魔するのもなんだし……だからゲームだけ貸してくれ」 「あ〜〜聞こえんなぁ〜?」 「北○はいいから」 ネタのチョイスが女じゃねえな。 「ふふん、リョウはあの状態のかがみを見捨てる気かね?」 「あの、って……」 あ゛ 「んで、実際のところどーなんだよ。付き合ったりしてんの」 「してないって言ってるでしょ」 「本当か〜?」 「しつこいっ」 うっわ、日下部が質問攻めだ。 つーか、男友達がいたくらいでそんな方向にばかり想像せんでも。 「うちら男っ気無いからねえ。峰岸さん以外。そりゃ気になるよー」 「……一番最初に知り合ったのはお前なわけだが」 「いや、同じ大学っていうアドバンテージには勝てないよ。キャンパスラブかあ。ねね、今好感度どれくらい?」 「そのギャルゲ脳はなんとかしろよ。でも、そうだな……」 好感度ねえ。ときメモで言うと(・_・)←こんな感じな気がする。 と、伝えてみると、 「爆弾は作らないように気をつけてねー」 「大丈夫。パラメータが足りんからヒロインは出てこない」 「あ、そりゃ攻略楽だねえ。じゃあここで選択肢。 1:男は度胸。女だらけのお茶会に付いていく 2:ヘタレなリョウはこのまま帰る さあDOCCHI!?」 「2で」 「うわ、イベント絵逃すの?」 「イベント絵に男はいらんだろ。お前が撮っといてくれ。僕は帰る」 こなたと話すのはこの適当さかげんが楽なのだが、そろそろ周りの視線が気になってきた。『ちぇー』と、こなたは舌打ちすると、鞄からパッケージを…… 「だあああ!? 剥きのまま持って来んじゃねぇえ!?」 原色過多の萌絵パッケをそのまま出そうとしたこなたを慌てて止める。うげっ、かがみに目撃された。他は……セーフ。 「おっと、失礼失礼」 鞄の中でごそごそして、袋に入れて渡された。……ぜってーわざとだ。 んでまあ、その日はそのまま別れ、家に帰って借りたゲームをプレイした。 どーも、こなたの言う通り、イベントを逃した気がしないでもない。 |
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