「合コンがしたい」

 などと、言い出したのは、我が悪友の一人である高橋(趣味:エロゲ(ロリ系)、成年コミック(ロリ系))であった。。

「いいね、それ」

 そして、その話に一瞬で同意したのはもう一人の悪友、田中(趣味:フィギュア、声優)である。

「……はあ。ソウデスカ」

 そして、曖昧に相槌を打つことしか出来ない僕(趣味:ラノベ、漫画、アニメ、ゲーム全般(広く浅く))。

 場所は学食。次の講義まで二時間ほど空いたので、ここで二人とダベっていたのだが……なにをいきなり言い出すかな、こいつは。

「俺はずっと考えていたんだ。何故、俺と田中がナンパに悉く失敗したのか」
「そりゃお前。お前たちが強引だからだろ? あと、声かけるんだったら、せめて制服の子はやめろ」

 こいつら、学校帰りでも容赦なく声をかけるからな。そのうち逮捕されるぞ。

「違うっ! いいか土樹……それは人数の問題だ。俺と田中だけじゃバランスが悪いっ。それに、女の子も三人組のほうが誘いやすいという立派な統計があるっ」
「……どこがとった統計だ」

 眉唾すぎるんだが。

「でもお前、ナンパは恥ずかしいって言って付き合ってくれないし」

 あ、その統計が正しいって前提で話を進めるのか……。いいけどさ。

「いや、別にそこまでして彼女が欲しいとは思わないし」
「そこで合コンだ。道行く知らない人に声を掛けるよりは抵抗も少ないだろう? なに、ちょっと女の子と呑んで楽しくやるだけだ。そしてあわよくば……グフフ」

 あ〜、せっかく顔はそこそこいいのに、その笑い声で全部台無しだぞ高橋。あと、僕の話をとりあえず聞け。

「と、いうわけで、お前も参加だ。文句は言わせん。二人だと人数的に微妙なんだよっ」

 うわ、問答無用?
 田中はしたり顔で頷いているし……僕に味方は居ないのか。

「話は分かった」
「おおっ、とうとうわかってくれたか、土樹。よし、早速都合の良い日程を」
「いいから僕の話を聞け。……お前ら、合コン相手はどうするつもりなんだ?」

 ピシリ、と二人は固まった。

 うんうん、このキャンパスは女子もそれなりにいるけれど、僕たちとまともに話してくれる子なんていない。割と人目を憚らずオタク話に花を咲かせているせいで『そういう趣味』だと認定されちまっているからな。

 せめて地元なら、小学校とかの同級生がいるかもしれないけど……生憎、僕たちは全員地方の出だ。

「チッ」
「空気読めよ……」
「なんで僕が責められるんだ!?」

 こいつら、理不尽すぎる。

「そうだ、土樹。お前、塾のバイトしていただろ? 生徒に女の子の一人や二人いるんじゃないか?」
「ド阿呆。生徒だぞ? んなことに誘ったことが発覚すればクビになる」

 割とノリノリで参加してくれそうな奴は二、三人心当たりがあるけれど、流石に塾生はまずい。
 あれだけ割のいいバイトもあんまりないし、クビはゴメンだ。

「お前らもバイトくらいしているだろ? 女の子の同僚くらいいるんじゃないか」

 確か高橋は喫茶店で、田中はまかないが出る料理屋でそれぞれバイトしていたはずだ。
 しかし、二人は力なく首を振った。

「目ぼしい子には全員声をかけたんだけどなあ……」
「冷たくあしらわれたとさ」

 不憫すぎる。

 ……やれやれ、そうするとどうしようもないじゃないか。

「諦めろ」
「んなこと言うなよぉ、土樹ぃ!」
「ええい、すがるな!」
「お前、前女の子の写真いっぱい持ってたじゃないか! あの中から三人見繕ってきてくれよ!」

 ……以前、幻想郷の連中を写真に撮って、それをこいつらに見られたことがある。
 でも、あいつら遠いところにいるって言っただろ。

「無理だ。あとあんまり大声出すな。注目されてる」
「あ」

 流石に高橋もバツが悪くなったのか、そそくさと身体を縮める。

「あの写真の連中は駄目だって」
「そこをなんとか!」
「なんとかできるならしてやってもいいけど、無理だ」

 結界で隔絶されているもんなぁ……。いっそ二人を連れて行けばいいのかもしれないが、色々と問題がある気がする。

「くっそ……おい、田中。お前も心当たりがないか考えろ」
「うーん、うーん」

 さてはて、どうしたもんかね、こいつら。
 僕だって地元の方じゃそれなりに女の友達もいるし(少ないけど)、妹の玲於奈に頼みこめば知り合いを紹介くらいしてくれ……ないか、あいつは。

 それにしても、女の子の知り合いねえ。大学にはいない、塾は却下、幻想郷の連中は大却下、となるといな……

「……くないか」
「なに!? 土樹、いるのか?」
「またこいつか!」

 ……よく聞こえたな。ぼそっと呟いただけなのに。
 そうそう、こなたたちがいたよ。あと柊姉妹。丁度これで三人だ。あの子達に頼んでみようか……

「待て待て。オッケーしてくれるかわからないし、あんまり喜ぶな。とりあえず、あとで電話しておいてやる」
「おお、土樹! 心の友よ!」
「は、初めて土樹が格好よく見えたよ俺!」

 余計なお世話だ。

「あ、それと、一応僕らの奢りってことで誘うぞ。そうでもしないと来てくれなそうだし」
「おお! 俺はいいぜ」
「俺も!」

 ……ならいいか。

 頼むとしたらこなただな。あいつから他二人に頼んでもらおう。
 今は学校だろうから……あとでメッセで話しかけるか。


























 後日、土曜日。

 一応、成り行き上幹事っぽくなった僕は、かなり早めに待ち合わせ場所に来たんだが、

「早いよお前ら」

 既に田中と高橋はスタンバっていた。

「何を言う! 万が一、時間を一時間くらい間違えるドジっ子が含まれていたらどうする気だ!?」
「それに、こうやって早めに待ち合わせ場所に来たら、イベントが起きるかもしれないしね」

 現実世界にそんなイベントは起こらない。
 ったく……こいつらのギャルゲ脳は僕以上だな。今日来る奴には負けるかもしれないが。

「しかし土樹……俺は実は今不安になっているんだが」
「はあ?」

 なにか真剣な顔をして高橋が切り出す。なんだこいつ、今更緊張しているのか?

「いや、今日来る女の子たちは可愛いのか? 言っておくが、俺はCランク以下はノーサンキューだ!」

 Cランク……なんのことかはわからないが、多分女の子にランク付けしてんな。
 ……贅沢っていうか、女の敵だろ。

「……可愛いよ、安心しろ」
「お前の主観は信用できないっ。なんだかんだでお人好しだからな、お前は。知り合いだからって甘い点数を付けている可能性がある」
「大丈夫だって」
「写真とかないのか? 駄目そうなら急病になる予定なんだが、俺」
「いっぺん死ね」

 とんでもないことを言い出す高橋に手刀をくれてやる。高橋は防御するが、そいつはフェイントだ。
 もう一つの手が、死角から高橋の頭を叩く。奴はぶべっ、とたたらを踏んだ。

 ふん、格闘技経験者を甘く見るなよ。

「ててて、冗談だって。俺、女の子には分け隔てなく優しい男よ」
「そう願うよ」

 誘った僕の沽券に関わるから。

「ねえ、土樹」
「今度は田中か……なんだよ?」

 ぽっちゃり系の癖に、見事キメキメのファッション(ダサい)に身を固め田中が話しかけてきた。

「なんでカラオケなの? 別に飲み屋でもいいと思うんだけど」
「だよなあ。『その後』にも誘いやすいし。あんまり話もし辛くね?」

 その後ってなんだよ、なにを期待しているんだ。

「仕方ないだろ、未成年なんだから。ボーリングとかも考えたけど、向こうはつい最近行ったそうだから」

 って、ん?

 なにやら、二人が心底驚いていらっしゃる。

「どうした?」
「つ、土樹! おおおおお、お前、今日来る子は未成年なのか!?」
「? いや、そうだけど」
「それは、確認するが、だっ、大学生、なのか?」

 なにやら期待を込めて高橋が尋ねる。

「いや、高校三年だけど……」

 二人は同時にガッツポーズした。

「……なんだお前ら」
「なんだ? なんだと申したか土樹大先生。よくやった、このむっつり助平」
「女子高生と女子大生じゃ、年は一つ二つしか違わなくても、広くて深い川があるからねえ」

 そういうことか。確かに魅力的な響きだけど……あんまりそういうのは関係ないぞ。

「しかし、とうとう塾生に手を出したか……」
「違うよ。それとは別に知り合った」
「なにぃ!? どこでだ!」

 説明するのは面倒だなあ……オンラインゲームで知り合って、そのまた更に知り合いが……

「まあ、それはあとで話してやるよ。そろそろ来る頃だし」
「ちっ」

 渋々諦めたようだった。

「しかし田中、まだ当初の問題は残っているぞ? いかに女子高生とは言え、可愛いかどうかは別問題……」
「だから心配いらないっつーのに。あ、来たぞ」

 やっほーい、と手を振ってくるチビは、間違いなくこなた。後ろに柊姉妹もしっかり付いてきている。よかった……メッセじゃあ来るって言ってたけど、純情っていうか男慣れしてなさそうだから不安だったんだ。

 しかし、こなたなのに待ち合わせに遅れていない。ってことは、かがみさんに苦労かけたかね。

「や、リョウ、こんちわ。こっちのがリョウの友達?」
「おう。左が高橋、右が田中だ。二人とも、こいつは泉こなた。こんなナリだけど、一応高校生だぞ? あっちの二人は双子で、柊かがみさんと柊つかささんだ」
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」

 双子らしい息の合いっぷりで、お辞儀してくる。うむうむ、礼儀正しいなあ。……こなた、『よっ』って手を上げるだけで挨拶を済ませるんじゃない。

「? あの、どうしたんですか?」
「かがみさんの言う通りだ。お前ら挨拶位しろよ」
「あ、ああ。高橋、です。今日は、その、楽しんでいきましょう」
「た、たた、田中で、でです。ちょ、ごめんなさい、緊張してて」

 ……なんだこいつら。

(ちょ、土樹! こっちに来い!)
「わ、なんだよ!? ご、ゴメン、少し待っててくれっ」

 了解〜、というこなたの声に感謝しながら、僕はなす術なく二人に引っ張られる。

「……で、なんだよ?」

 駅前の喧騒の死角。ちょっとした建物の角まで連れてこられて、僕は憮然として聞いた。
 一応、十メートルと離れていないんだけど、ここならこなた達に声は聞こえない。

「馬っ鹿野郎! お前、あんな可愛い子たちが来るなんて聞いてないぞ!?」
「……お気に召したようでなによりだ」

 なにを言うかと思えば。それでなんで文句を言うんだよ。むしろ小躍りして喜ぶ場面だろ。

「うっわ、そうと知っていれば、借金してでもいい服買ってきたのに! なあ、俺変じゃないかな!?」
「大丈夫だ。外見だけなら、お前はこの三人の中で一番だ」

 高橋を励ます。うん、外見だけなら。

「って、ててて、てか高橋っ。あの双子って、僕らが前ナンパした巫女姉妹だよ!?」
「なにぃ!?」
「……ナンパしてたのか」

 かがみさんとつかさちゃんが覚えていないみたいでよかった。

「み、巫女かぁ」
「巫女タンハァハァ」

 マジ自重。

「土樹っ」
「土樹ぃ!」

 二人は僕に向かってスゴクいい笑顔を見せる。

『グッジョブ!』
「……もういいか? 行くぞ」

 疲れるねえ。




























「〜〜♪!」

 田中がスパロボの名曲『Gong』を熱唱した。……いきなりゲーソンかよ。

 お前、合コンのメンバーがメンバーじゃなかったら、思い切り引かれるぞ?

「おいおい、田中ぁ」

 それは高橋も思ったのか、非難するような声で田中に言う。

「ご、ごめん。でも俺普通の曲知らないし」
「ったく。俺を見習え。俺はこういうこともあろうかと、ちゃんと普通の曲も練習しているんだぞ」

 トップバッターの高橋が歌ったのは、まあ無難なJ−POP。でもなあ、思い切りそんなこと言ったら意味ないと思うんだが。ほれ、柊姉妹は困っているぞ。

「ごめんなあ、かがみさん、つかさちゃん。この二人、こういうやつだから」
「はは……。まあ、土樹さんの友達ですし」
「こなちゃんで慣れているから〜」

 まあ、そうだろうね。

「あ、次私だね〜。ぽちぽち、っとな」

 あ、こなたが曲入れた。
 ……曲は……『Little Busters!』。

 オイっ!

「え、え!? 泉さん、これって……」
「ふふ〜ん、私の歌を聴けー!」

 バ○ラかよ。

 突っ込む暇もなく、こなたはリトバスのオープニングを歌う。こいつ、声優みたいないい声しているから、映えるなあ。

 っと、次は僕次は僕……ほれ。

「お、おいー、土樹。お前までスクライドとか……」

 『Drastic my soul』好きなんだよ。

「あ、これ聞いたことある。なんのアニメでしたっけ」
「ええ?」

 かがみさんの言葉に、高橋が大げさに驚く。
 ……やれやれ。

「じゃんっ! どうだい、私の美声は!」
「はいはい、うまかったうまかった。次は僕だ」
「ちぇ〜。リョウが音痴だったら、ギルメンのみんなに言い触らしてやる」
「お好きにどうぞ」

 ふっ、舐めるなよ。カラオケは僕の七十七の特技の一つ!

 歌う。

 熱く、激しく、それでいてしなやかに!

「わ〜、うまーい」

 つかさちゃんの素直な賞賛に調子に乗って、ビブラートとか利かせて見たり。

「えい」
「あ、こなた、次私よ。なに勝手に入れてんのよ」
「いやぁ〜、この流れならかがみんもこういうの歌わないと」

 歌詞の流れる画面に表示された曲は……『枯れない花』。
 あ〜、フルメタの曲だっけ。ちょっと懐かしい。

「ええ、柊さんも?」
「『も』ってなんですか。私は、その、ちょっとだけラノベとか読んでて……」

 あんまりオタクだってこと知られたくないみたいだしねえ。でも、予約取消をするほどでもないらしい。まあ、普通の曲っぽく聞こえるし、いいんじゃないか?

「つかさー、最後はつかさだよ。ほらほら、この流れは、知っているアニソンを入れるしかない!」
「ええー!? そんなこと言われても、こなちゃんやお姉ちゃんみたいに知らないよー」
「ちょっと、つかさっ。私も知らないって!」

 あのー、僕の曲がそろそろラストなんですけど、お三方、聞いてくれよ。

 ……聞いていませんねー。

「ええい、終わりっ」

 後奏はカット!

「あ、すごい。九十点」
「恐れ入ったか、こなた」
「いやぁ、上手いねー。このカラオケの採点辛口なのに」

 ふふん、とちょっと得意になりつつ、次のかがみさんにマイクをタッチする。頑張って、と声をかけると、うん、と頷いてくれた。

 イントロが流れ始める。
 そしてかがみさんが歌い始め……上手いじゃん。

 あの性格からして、アニソンをカラオケで歌ったことがあるとも思えないのに、その歌い方は熟練を思わせる。きっと何回も聞いて、口ずさんだりしたんだろう。
 ……本当に好きだな、フルメタ。

「うーん、えいっ」
「お、つかさちゃんも決め……」

 ……『アタックNo.1』。

「古っ!?」
「うっ、知っているの古いのばっかりなもので……」」
「いやでもさ。少しくらい知っているでしょ? ……そうだ、プリキュアとか」
「そ、そんな子供が見るようなアニメは流石に見ていませんよー」

 こ、子供っスか。

「え? あの、どうしたんですか?」

 僕たち男三人はずーん、と沈んでいた。
 いや、今は見ていないよ。昔、白と黒だけだったころちょっとね?

 と、落ち込んでいると、かがみさんの曲が終わる。

 うーむ、終始破綻のない、見事な歌だった。

「上手かったよ」
「ありがとうございます」

 田中の言葉に、かがみさんは笑顔で答える。……あ〜、見た目完璧オタクなのに、そんなに嫌われていないなあ。自分がオタクって思われたくないだけで、偏見はないみたい。まあ、こなたの友達だし。

 そして、次に流れるのは往年の名曲。バレー物の至宝の曲だ。

「うーむ、ことここまで来たからには、俺も趣味に走らねばなるまい」

 あ、そうそう。つかさちゃんが歌ったら、全員歌ったことになるから、最初に歌った高橋か。
 あ〜、カタログのアニメ・ゲームジャンルのところを探しているな。

 悩んでいるらしく、なかなか決まらない。

 そうこう言ううちに、つかさちゃんの歌が終わってしまった。うーむ、一生懸命な感じが非常に可愛かった。次もこの調子で頑張ってもらいたい。

「おい、高橋、早く決めろよ」
「先に俺が入れるぞー」
「ええい、少しくらい待てよ! これだっ」

 お、やっと決めたか。
 高橋がリモコンに高速で番号を打ち、送信ボタンを押す。

 そして、曲名が表示……

「『ガチャガチャきゅ〜と・ふぃぎゅ@メイト』……」

 チャラララン、という前奏が流れ始める。
 それが、妙に大きく聞こえた。

 ……エロゲの曲を持ってくんなよ。持ってくるにしろ、もう少しまともなのはいくらでもあるだろうに。

 マイクを構えたまま、やっちまった、という顔をしている高橋を、全員が注目している。……あ、つかさちゃんだけは、皆が見ているからなんとなく、という感じだけど。

「えー」
「えー」
「えー」

 僕と田中、そしてこなたの非難の声が、高橋を貫いた。






















 そのあと、なんとなくアニソン・ゲーソン縛りになって、みんなで四時間歌いまくった。
 やはりというか、一番困ったのはつかさちゃんだけど、彼女だけは童謡もオーケーというわけわからんルールが追加され、全て可愛らしく歌ってくれた。

 にしても、こなたは当然として、かがみさんもフツーに曲途切れなかったな。マイナーなゲーソン歌ってたし。

「ふぁ〜」

 外のちょっと冷たい空気が、火照った頬に心地いい。

「この後どうする? 飯でも行こうか」

 高橋が女の子たちに提案している。
 確かに、もう日は沈みつつある。歌いまくって腹も減ったし、普段ならここから誰かの家かファミレスだかに行ってダベっているんだけど、

「あ、いえ。そろそろ帰ります。あんまり遅くなると親が心配するので」

 と、しっかりしているかがみさんは、実に優等生な回答をした。

「……あ〜、そっか。高校生だもんね」

 一瞬、ものすごく残念そうにするも、一応は年上。なんとか平静を装ってそう答える高橋。

「ええ。今日は帰ります。奢って頂いて、本当にありがとうございました」
「いいよいいよ。年下の女の子、それも高校生にお金払わせるわけにはいかないじゃない」

 ……まあ、それを条件にこなたに持ちかけたんだし。そうでなくても、バイトする時間もなかなか取れない高校生に払わせるわけにはいかない。
 同じ大学生だったら、状況次第だけれども。

「それじゃあ、失礼します」
「じゃあねー、リョウ。それと、田中さんと高橋さん。また誘ってよ」
「ばいばいー」

 こなたたちが別れの挨拶をする。僕はそれに手を振って答えた。

「……ぁ。その、電話番号とか」
「その、次からも連絡……」

 遅い。三人はもう行ってしまっている。聞こえていないぞ。
 しかし、それを追いかけることも出来ず、田中と高橋はそのまま見送った。

 ふう、と気の抜けたため息を吐く。

 田中と高橋も、かなり疲れたのか三人が見えなくなったところで、肩の力を抜いた。

 そうして、ふるふるとちょっとだけ震える。

「土樹ぃ」
「ど、どうした? ちょっと半泣きになっているぞ?」
「俺は、俺たちはすごく感動している。あんないい子たちなのに、アニソン縛りのカラオケをあんなに楽しくやってくれるなんて。『このキモオタ!』『死ねばいいのに!』とか言われもせず!」
「『この豚っ』『不細工は近寄るなっ』なんて言わなかったし。俺は今日、生まれてから一番の幸せを感じているっ」

 ……どんだけトラウマがあるんだ。

「なあ、土樹っ。呑みに行こう! 今日は俺たちの奢りだ!」
「ああ。今日のセッティングのお礼にさ。ぱーっと騒ごうよ」

 馴れ馴れしく肩を抱きながら、二人が駅近くの飲み屋へと僕を引っ張る。

「いや、奢ってくれるって言うなら断る理由もないけど……」

 やれやれ……まあ、素直に甘えますか。














 その夜。若干酔った頭で、僕はこなたとメッセンジャーで会話をしていた。

『konakona:いや〜、脈なかったね、今日は』
『Ryo:仕方ないだろ。予想していたよ、僕は』
『konakona:男っ気のないうちらにせっかくRyoが気を利かせてくれたのになあ』
『Ryo:今回はどっちかというと、こっちが感謝する方だろ。大体、男と女でレベルが違いすぎる。なんだよ、そっちの軍勢は』
『konakona:ふふふ、あの二人は私の嫁だから渡さないZE』
『Ryo:言ってろ。しかし……今更なんだけど、あの二人がすんなり来てくれたのは驚きだな。合コンとか恥ずかしがるかと思ったけど』
『konakona:あー、それね。もちろん最初は渋ったけど、私のテクで……』
『Ryo:はいはい』
『konakona:いや、ま。合コンとは言わずに、普通に遊びにいかない? って感じで誘ったから。それでもなかなかうんとは言ってくれなかったけど』
『Ryo:……大学生三人とか、聞くだけで怪しい連中とよく遊びに行く気になったな』
『konakona:Ryoの名前出したら一発だったよ。好かれているんじゃない』

 ビクッ、とキーボードを叩く手が一瞬止まる。
 慌てて、三文字を返す。

『Ryo:ねnーよ』
『konakona:ふふふ、動揺がタイプに現れているよワトソン君(=ω=)』

 ちぃ。

『konakona:まあ、実際のトコロ、私が『弱みを握られて、脅迫されているのっ。呼び出しに答えないと"あの"写真をばら撒かれるのー』とかなんとか言ったからかな〜』
『Ryo:ちょ、おまっ( ;゚Д゚)』
『konakona:冗談だよー』

 やれやれ……それが冗談としても、どうやって柊姉妹を呼び出したんだろう?
 まあ、聞かなくてもいいか。今日は楽しかった、それでいいや。

『Ryo:まあいいや。とりあえず、そろそろ寝ます。酒呑んだし』
『konakona:うい、乙。私はこれから狩りに行ってくるよ』
『Ryo:あんまり廃人プレイはすんなよ。じゃノシ』

 メッセンジャーを落とした。

 ……さて、寝るかぁ。



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