実に久しぶりに、オンラインゲーム『R○』にログインする。
 ……伏字の意味ないな。

 このゲームは、丁度僕が高校生のときにサービス開始したゲームで、僕はベータの時からプレイしている、割と古参の人間だ。
 まぁ、つっても、ようやくオーラ(レベルマックス)間近のキャラが一人と、あとは中堅どころのキャラしか持っていないんだけどね。

Ryo『みんなー、久しぶりー』

 ギルドチャットで、いつもつるんでいる連中に話しかける。……って、一人しかインしてねぇ。

konakona『あれー?  二ヶ月ぶりじゃん。一体なにしてたん?』

 あ、でも僕の婿はいた。
 konakonaは、ベータ時代からの知り合いで、今は僕の魔法使いの狩りでの相方だ。
 やたら話が会うので、インしても二人でチャットしてばっかりの時もある。

 ……というか、ゲームやらアニメやら、詳しすぎなんだよなぁ。ラノベだけは、僕のほうが詳しいけど。

Ryo『いやぁ、ちょっとリアルで事故ってね。しばらく植物人間状態だったんだYO』
konakona『えーマジで?』

 残念ながら大マジだ。
 しかも、植物人間の間、冥界に行って美少女たちと戯れていたということは言わないでおこう。途端に嘘臭くなる。

Ryo『まあ、だからってわけじゃないけど、引退することにしたんだ。で、装備とかみんなに上げようかと思ったんだけど』

 実際の理由は、幻想郷に行ってる方が楽しくなってきたから。
 無料なら、まだまったり続けてもよかったけど、毎月課金があるからなぁ。

 konakonaは、たいそう驚いていたが、僕の決意が固いことを知ると、仕方ないなぁ、と装備品を受け取りに来た。

 こいつには、一番世話になっていたし、惜しみなくレアアイテムを上げる。リアルラックはそんなにないほうだけど、長くやってるだけあってお金もレアも、僕はそこそこ持っていた。

 そいつをkonakonaに渡し、チャットで思う存分話す。

 最近面白かったアニメとか、ゲームとか。
 友達がラノベ好きで、勧めてくるので困るとか。
 最近僕、超能力使えるようになったんだぜー、とか言うと『嘘付け』と一蹴されたりとか。

 まあ、そんな風に充実した時間だったんだけど、いつの間にか話が地元ネタになってきた辺りからちょっとした違和感が出てきた。

konakona『でさー、うちの近くにアニ○イトの店長がやたらいい味出しててねー』
Ryo『……いや、待て。もしかして、と思うんだけど、そのアニメ○トって、○○店か?』

 やたら暑苦しい店員が名物の店が僕の脳裏をよぎる。

konakona『あれ?  なんでわかったの』
Ryo『僕のいきつけ。つーことはもしかして××にあるゲ○マーズとか……』
konakona『学校帰りによく行ってるよー』

 なんとまあ、付き合いも二年?  三年?  にもなるというのに、驚愕の新事実発覚。
 konakonaと僕は、随分行動範囲が重複していたらしい。

 それからは、じゃあ会ってみる?  と向こうが提案してきて、僕としても別に断る理由もないので了承した。
 ネット上だけの付き合いの人間に会うのは初めてだけど。konakonaはもう随分長い付き合いだし。ゲーム上だけでなく、メッセンジャーとかでもよく話している。抵抗はない。

 近所なんだったら、大学以外でオタク友達が出来るかなー、なんて気楽な気持ちだった。……このときは。




















 やたら暑い、とある夏の日。
 僕は、konakonaとの待ち合わせ場所である駅前に出てきていた。

 ここは、アキバほどではないが、結構それ系の店もあり、割とお洒落な感じの喫茶店とかもあり、東京まで出るのは面倒だけどちょっと遊びたい、みたいな時にはぴったりの場所だった。

 ……さて。時間よりちょっと早く来ちゃったが、konakonaはまだかね。

「まだかなー」

 十分経過。

「まあ五分遅れくらいなら許容範囲許容範囲」

 さらに十分。

「……むう」

 さらに……というところで、ずっと隣に立っていた子供が帽子を脱いだ。

「あれ?」
「いつまで気付かないんだよ〜」

 え?  あれ?
 子供、だけど、konakonaが来るとき指定してた服、そのまま?

「Ryo、はじめましてー。konakonaだよー」
「は……はじめまし、て?」

 ネットで長い付き合いなのに、はじめましてというのも変な感じ。
 というか、それ以上にkonakonaの予想以上の小ささが変な感じ。というか女の子だったんだー。

 やたらエロゲにも詳しいからてっきり……つーかどう見てもプレイしちゃいけない年齢だろっ!

「つかぬことを聞くけど、何歳?」
「高三」

 konakonaさん、それはマジっすかっ!?
 やっべ、小学生だと思った。

「とりあえず、そこのマックにでも入ろうー。もう暑くてねぇ」
「あ、ああ。昼飯食ってないし」

 ……僕は全然暑くないけどね。
 この『周囲の気温を上げ下げする程度』の能力の前では、夏のうだるような暑さもすぐさま快適な春の陽気に早変わり。

 そんなこと話せるわけもないので、素直についていく。

 ……で、マックの中で改めて自己紹介をした。

 彼女の本名は泉こなた。陵桜学園の三年生(本当か?)らしい。
 僕のほうも自己紹介して、なんとかかんとかいつものネットで喋っているときのテンションになってきた。

「でも、寂しいじゃん。なんで引退なんてするのさー」
「バイトというか、なんというか。別にやることができたんだよ」
「大学生でしょ?  じゃあ暇なんじゃん」
「いやいやいや。世の中の大学生が全員暇していると思ったら大間違いだからな!?」

 僕は暇しているけど。

「ったく。会ってみて女の子だと思ったら、やっぱりkonakona……こなたはそういうキャラなのか」
「まあ、私のほうは、Ryoはほとんど予想通りの人だったけどね」

 そりゃそうだろうよ。僕はステレオタイプなオタク系大学生だからな。
 というか、こなたのほうがステレオタイプから逸脱しすぎている。なんだこのちみっこさ。

「というか、事故って聞いたけど大丈夫なん?」
「ふっ……この土樹良也を舐めるなよ。一ヶ月、意識不明だったが不死鳥のごとく蘇ったんだZE?」
「嘘くさー」

 なんとでも言え。
 それから、好きなアニメとかの話で盛り上がりまくる。

 あまりに盛り上がったんで、近くにいる一般人の方々が微妙に距離をとったほどだ。

「な○ははA'sが一番好きだなぁ。大体、Strikersはみんな大きくなったから駄目っ」
「うわぁ、ロリコン」
「こ、この。リアルロリ少女が、なにを抜かす」
「誰がリアルロリ……はっ?  身の危険?」
「これ見よがしに身体を隠すんじゃない。二次と三次じゃあまるっきり別物だ」

 てい、とこなたの額にデコピンをお見舞いする。
 大体、そっちは幻想郷のほうで食傷気味だっつーの。

「むー、なにをするー」
「ったく。……って、ん?」

 なにやら視線を感じて、店の外に目をやる。
 そこには、なにやらすっごい驚きのポーズでこちらを見ている、女の子が二人。
 ……双子?

「あれー?  かがみとつかさじゃん」
「知り合い?」
「うんー。同級生。呼んでもいい?」
「可愛い子が増えるのは大歓迎だ」

 私の友達に手を出さないでよー、などとオタクにする必要のない心配をして、こなたは二人を呼んだ。
 なにやら戸惑っている様子の二人だったが、やがて決心したのか二人してマックに入ってくる。

「や、やー。こなた」
「こなちゃん、こんにちわ」

 ちらちらとこちらを気にしつつ、双子は近付いてくる。
 幸い、四人掛けのテーブルなので、全員座れるな。

「リョー、そっち詰めて」
「はぁ?  なんでこなたがこっち移動してくるんだよ」
「リョーが私の友達に手を出さないように」

 するかっ。

「し、失礼します」
「失礼しますー」

 おずおずと座る二人。
 ……なんだ?  もしかして僕、怖がらせた?

『ちょっとこなた』

 ん?
 双子のうち、ツインテールのほうが向かいのこなたに小さな声で話しかけた。

「なにー?」
『デートなんでしょ?  私たちがお邪魔しちゃっていいの?』
「あの、お嬢さん。バッチ聞こえてんスけど」

 なにやらおもろい動きでツインテ少女が動揺した。

「あの、デートじゃないよ?  こなたとは顔合わせたのは今日が初めてだし」
「じゃあ……ナンパ?」
「こんな小さいのをナンパって、僕はどこのロリコンだ」

 こなたからチョップが来た。
 ……痛い。

「前話したでしょ?  リョーは私の嫁」
「こなたは僕の婿」

 はぁ?  とツインテは首をひねる。

「オンラインゲーでね、結婚してんだ」
「まあ、結婚スキルはけっこう使えるし」

 なー?  とこなたと頷き合う。
 えーと、と理解に努めるツインテ少女は、ようやく得心がいったのかため息をついた。

「なに?  ということは、ネットで知り合った友達?」
「そういうこと。土樹良也だ。よろしく」
「……柊かがみです。こっちは、妹のつかさ」
「よ、よろしくお願いします」

 まぁ、別に。よろしくされるほどのことでもないんだが。
 こなたはまだ付き合いあるかもしれんが、その同級生である柊姉妹と会うことは早々ないだろうし。

「かがみとつかさの実家は神社なんだよー。巫女だよ、巫女。萌える?」
「あ、ちょっ。あんた、初対面の人になにいきなり」

 ……フフフ。

「悪いが、僕の巫女に対する幻想は、とあるボケ巫女によって木っ端微塵に打ち砕かれたんだ」
「巫女に知り合いがいるの?」
「あれは巫女なのかなぁ……。いや、巫女よりメイドだってメイド」
「なにー。それは私が生粋の巫女派と知っての発言かー。かがみんかがみん、なんか言ってやって」
「かがみん言うな!」

 ツインテのかがみが文句を言ってる。
 ……ああ、こっちが地なのか。

「ふっ、こちとらリアルメイドと付き合いがあるんだぞ。巫女はまだ会う機会があるだろうが、流石にメイドは会ったことないだろう」
「メイド喫茶のこと?」
「メイド喫茶?  プッ」

 鼻で笑ってやった。

 咲夜さんは、そんなパチモンじゃねぇぞ。
 まるで本当に漫画から飛び出てきたようなキング・オブ・メイドなんだからな。

「はっ」

 見ると、かがみとつかさが微妙な表情に。
 ……しまった。

「さ、さて、と。それはいいとして、あー」

 多少強引に話題を転換する。
 ……しかし、僕の懐にあるネタは、オタ系以外だと幻想郷での話題――は出しちゃ駄目だって!

「そうだ、かがみんかがみん。リョーはラノベ詳しいんだよ」
「え?  そうなんですか」
「んー、そうだねー。漫画より読んでるかな。王道だとフルメタ、ハルヒ……新刊も、結構目を通してるしね」

 なにやらかがみが目を輝かせている。
 そうすると、先ほどのこなたとの会話にも勝るとも劣らない勢いのトークが展開された。

 僕も、割と付いていくので精一杯。
 ……つーか、この娘もオタクなのか。最近の女子高生オタクは、可愛いのが多いなぁ。

「あ、ごめんなさい。初めて会った人に……」
「いやぁ。別に。女子高生とこんな話できる機会もそうないし」

 ……塾生と話すのはちょっとなぁ。

「お、かがみフラグ立った?」
「フラグってなによ」
「……ふっ」

 こなたが好き勝手なことを言っているが、僕は視線を逸らして遠くを見た。
 フラグかぁ、そんなのが簡単に立てば、僕はもうちょっと幸せだったはずなんだけどなぁ。

「ど、どうしたんですかぁ?」
「ありがとう、つかさちゃん、だっけ?  なんでもないさ。ちょっと朝日が目に眩しくてね……」
「今、昼間ですけど」

 結局、この日はこれだけ。別に、フラグなんて立ったはずもなく、こなたとは、また会おうーと約束して別れた。
 特にこれ以上語ることもない。

 ――が、このときの縁が、僕の外の世界での交友関係を広げることになるなんて、あんまり予想はしていなかった。



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