一応、僕の趣味として、初めて来た駅とかでは、近場の飲み屋で一杯引っ掛ける、というのがある。
 夏休み。青春十八切符を片手に、適当に旅をしている僕は、とある親戚の住まうこの町に来て……

「ひっく」

 待ち合わせまでの時間、早くにやっている店で、昼間からしこたま飲んできた。それもこれも、予定より早くに駅に着いちゃったせいだ。
 我ながら、見事なまでの千鳥足でふらふらと駅前の歓楽街を闊歩する。

 まだ日は沈みきっていないので、それほど危険な匂いはしないけれど、あんまり遅くなりすぎるとこの調子だとガラの悪いのに絡まれるかもしれない。

 ……ん、まあそうなったら適当にぶっ飛ばそう。うん、そうしよう。

 危険な方向に思考が行きつつあるのを自覚しつつ、ふと路地裏に目が行く。

「んん〜〜?」

 誰も入ったりしないような地味〜、な位置なんだけど、四、五人の人影がある。

 なにやってんだろ? とよくよく見ると、なにやら男が三人、一人の女の子を囲っていた。

「……ぇ。百円……って。もっと……」

 む、よく聞こえない。

 しかし、なにやら穏やかならざる空気を感じて、僕は路地に足を踏み入れた。って、おおう。ふらふらする……。

 うおっと!? うう……なんか、転がってるゴミ箱に躓くところだった。

「あん? なんだ」
「あ〜」

 男の一人が、僕に気が付いた。うわぁ、根本まで染めた金髪に、ジャラジャラとしたアクセ。悪い姿勢に、無闇に喧嘩
売っているっぽい目。……あんまりお近付きになりたくないタイプだ。
 残りの男二人も似たり寄ったり。

「えっと、なにしての。いや……なにしてんのー?」

 む、舌が回らない。

 しかし、なんとか聞くことは出来た。単に、友達同士なら良かったんだけど……一人だけの女の子は、明らかに男と雰囲気が違う感じ。
 ……ん? 暗くてよくわかんないが、あの子。

「なんだ、この酔っ払い」
「しっし。どっか行け」

 僕を追い払おうと、男が僕を大通りの方に押す。

「……いやあ、でもさあ。明らかに犯罪っぽくない?」
「ぁあ?」

 苛立ってる苛立ってる。なんか楽しくなってきた。

「こんな、未成年の女の子を路地に連れ込んで……あ、いや知り合いだったら謝るけどー。……知り合い?」
「違ぇよ」
「なんだ。よかった。勘違いとかだと恥ずかしいよねえ」

 ケラケラ笑った。イカン、相当今酔ってる。普段はこんな挑発的なこと言ったりしないのに。

「なに? 俺らがレイプでもするとか? ちっげぇよ、見ろよ、この女の看板」
「ん〜」

 言われて見てみると……はて、確かに少女は運動会で『〜〜チーム』とか書いてあるような看板を持ってた。
 えっと、なになに……『ざんげちゃん一回百円』……?

「安っ」
「ち、違います! これはそんなことじゃなくて……」

 女の子は必死になって否定してくる。
 あ、あれ? 僕の勘違い?

 ああ、よく考えると、一回百円の方にだけ目が言って、それどこのエロ漫画かと思ったけど……『ざんげちゃん』が一回百円ね。
 いや、意味分からん。懺悔?

「あ〜、そういうことらしいけど?」

 とりあえず、僕と同じ勘違いをしている三人に、聞いてみる。
 いや、そんなことわかっているのか。『空気嫁よ』と言われている気がする。

「なんだお前。つまり痛い目に遭いたいの?」
「遭いたくないよー」

 ヘラヘラ笑って答える。

 ……あ、殴りかかってきた。

「危ないよー」

 忠告するけど、とっくに遅い。
 彼の拳は、僕が声をかけたときから張ってた『壁』にぶつかって、鈍い音を立てた。

 はっはっは、こんな見るからの不良に話しかける以上、こんくらいの保険はしてますよ一応。

「いってぇ!? なにしやがる!?」
「なんもしてないって」

 他の二人にはなにがなんだか分からない様子。そりゃそうだ、僕の壁なんて見えないんだし。殴りかかった方が、相手にパンチが届く前に痛がっているっていう、珍妙な光景にしか見えない。

「なにやってんだよ。そんなヤツ構わないで行こうぜ。面倒くせえ」
「……や、ちょっと、離して下さい!」

 殴りかかったヤツを呆れた様子で見て、男の一人が女の子の腕を掴む。
 ……ああ、イカン。イカンよ。か弱い女の子には優しくしなきゃ。勿論、か弱くない女の子にはさほど優しくする必要はない。

「先行ってろ。コイツぶっ殺してから行く」
「へいへい。……にしても、君ほんと可愛いねー」
「は、離して! 私、そんなんじゃ――」
「へへ……さっきも言ったけど、君なら百円といわず一晩二、三万……ぐぎゃふじゅぁ!?」

 だらしない顔で女の子の胸を触ろうとした男――が、この世のものとも思えぬ奇声を上げる。

 き、気のせいだろーか。さっき、少女の膝が、男の……その、男たる所以の所に深々と突き刺さった気がしたのは。

「ない……って、この台詞も何度目でしょうかね」

 股間を押さえて地面に蹲る男を、サデスティックな目で見下して、続けて女の子は呆気に取られているもう一人の男の腹に拳を捻じ込む。
 ……あ、同時に足踏んでる。あれは痛い。

 こっちも、一瞬でノックアウト。残りは、僕に殴りかかってきた男一人なんだけど……

「なっ!?」

 仲間がやられたのを見て、そっちにばかり気を取られている。
 ん〜、イカンね。イカンよ。喧嘩売ってきたのはそっちなんだから、僕だってちゃんとやりますよ、うん。

「てい」

 後ろを向いた男に、膝カックン。
 これがまた面白いようにハマって、男は無様にうつぶせに倒れた。……って、プ。

「ぷく、はははは! 今、凄い綺麗に落ちた! 見た見た!? ぷ、くっふふふふう」
「ええ、愉快ですね」

 あー、いかん。酔いで理性が飛んでる。笑いが止まらん。女の子も同意してくれたが。

 あんまり笑いすぎるのも悪いと思って、必死に抑える。

「あ〜、面白かった。くく……。いや、ごめんごめん。まあこれに懲りて、あんまり無理にちょっかいは出さないように……」
「ふざけっ――!!!?」

 起き上がろうとした男に、女の子がトドメの蹴りを喰らわせる。
 ……うっわ、容赦ね〜〜。

「逃げましょう」
「……果たして、これは逃げるにカテゴライズされる行動なんだろうか」

 悶絶している三人の男をちらりとだけ見て、僕は女の子について走っていった。




























「はい、飲みます?」
「ああ、ありがと。ちょうどね、喉が渇いてたところ」

 また追いかけられても面倒なんで、ちょっと離れたところまで成り行き上、少女に付いて行った。
 渡してくれたコーラを、グビグビ飲む。

「改めて。ありがとうございます。助かっちゃいました」
「……いや、別に僕が割って入らなくても、自分で切り抜けられたでしょ」

 あの男の撃退法には、熟練のものを感じさせた。ああいうこと、初めてじゃないんだろう。

「ええ、まあ。幸か不幸か、慣れちゃったので。あ〜あ、この看板が問題なんですかね」
「……いや、確かに誤解を受けると思うけど」
「あ、やっぱり?」

 一回百円である。安すぎるが、しかしそーゆープレイだと思う男がいても、僕は不思議には思わない。

「……で、なにそれ?」
「はいっ。ざんげちゃんの、ざんげ一回百円です」
「懺悔って……あれだよな。教会とかで自分の罪を話すとかいう」
「はい!」

 めっさいい笑顔で言い切った。確かに、よく見ると服装はシスター風だ。……ミニスカートにしてる辺り、どっかの巫女と同じ趣味の匂いがするが。
 い、いや、腋を出していないだけマシだ。

「なにか罪を犯したことがあれば言ってください。助けてもらいましたし、今回はただで、ざんげちゃんが許してあげちゃいます」
「……名前もざんげなんだ」

 もはや突っ込むまい。

 しかし、懺悔したいことね……。極一部の趣味以外では、なんらやましいところのない僕なので、そんな許してもらうようなことはない。某閻魔に言わせれば粗だらけだそうだが、僕自身から謝りたいことなんて……

「……あ゛」

 時計を見る。……うっわやっべ。

「あ〜、じゃあ、一ついいかな」
「はい。なんでしょう?」
「……その、今日僕、親戚と待ち合わせしてたんだけど……見事時間オーバーだ」
「そうですか。ざんげちゃんが許してあげちゃいます!」

 軽っ!?

 はあ……まあ、でも、このざんげちゃんとやらが許すと言ってくれたおかげが、ほんの少し気が楽になった。
 ……携帯で連絡いれとこ。

「仁、待ってるかな」
「……え? 今なんて」

 こっちに到着する前にも話したので、履歴に電話番号が残ってる。呼び出して……すぐ出た。

『はい』
「あ、仁? 僕僕。もう待ち合わせ場所にいる?」
『いるよ。なんだよもう。早めに着くんじゃなかったのか?』
「あ〜、悪い。ちょっとトラブってさ。少し遅れる。……で、今自分でもどこにいるのかわかんないんだけど。……ちょっと待って」

 駅までの道を聞こうと、ざんげちゃんに目をやると……一瞬の早業で、携帯を掠め取られた。

「あ、仁君ですか? え? いや、ちょっとこの方と会っちゃって。……はい、はい。ああ、駅のあそこにいるんですね。はいっ! 連れて行ってあげますよ。じゃ、そういうことでー」

 ……一瞬で話をつけたざんげちゃんは、ぱちりと携帯を閉じると、僕に返してきた。

「仁君のご親戚の方だったんですね」
「……いや、そういう君こそ、仁とはどういう?」

 聞いて、改めてざんげちゃんを観察する。
 奇抜な格好と看板だけど、それを除けば非常に可愛らしい女の子だ。物腰も丁寧……まあ、あのえげつない護身術は兎も角として……で、明るい性格。ちょっとした、アイドルって感じだ。

 ……ふーん。

 ことと場合によっては、僕は仁――我が又従兄弟に鉄拳制裁をする必要があるやもしれん。

「わたしですか? 私は、仁君の恋人候補です! よろしくお願いしますね」

 よし、一発殴ること決定だね。




























「あ、良也!」
「おう、仁! 久しぶり。そして羨ましいんだよコノヤロウ」

 先の決心の通り、僕は出会い頭に仁の脳天に拳骨を落とした。もちろん、それなりに加減してね。

「いてっ!? な、なにすんだ!」
「なに、だ? 親戚のお兄さんより先にこんな可愛い恋人を作っておいて、よくもまあ」
「こ、恋!?」

 ざんげちゃんは、僕の言葉にニコニコしてる。ハン、このリア充め!

「ち、違うよ。ざんげちゃんとはそういう仲じゃ」
「ええー。冷たい。私と仁君の仲じゃないですか」
「わ、わわ! くっつくなって」

 ナニコイツウワマジコロシテー。
 ええい、藁人形はないか、藁人形は。呪い関係は苦手だが、使えないわけじゃないんだぞ、仁め。

「ちょっと変わってるところもあるみたいだけど、可愛い子じゃないか。なに照れてんだ」

 あ〜、でも昔っから中二病っぽいところあったな、仁は。恥ずかしいのも仕方ないかも。

「だから違うんだってー」
「ふふ……親戚の人公認。これで姉さまに一歩リードですね」

 得意満面の笑顔で、ざんげちゃんが言う。

「……ん?」

 で、僕はその言葉に含まれる、聞き逃せない違和感に気付いた。
 そういえば……ざんげちゃんは『恋人候補』と言わなかったか?

 知らず、拳に力が篭るのを感じつつ、僕はなるべく笑顔で仁に問いただす。

「なあ、仁。ざんげちゃんの言う『姉さま』とやらとは、どういう関係なんだ?」
「え……いや、それは」
「仁くんと同居している……まあ、言ってみれば私の恋敵みたいなものですね」

 は、ははは……こい、がたき、ね。恋敵。恋の敵。つまり姉の方にもコナかけているってわけかこの親戚クンは!
 ……つーか、同居? なに、このモラルの崩壊前線。

「ほっほ〜〜う」
「今までは少し水を開けられていましたけど、これで対等です」
「だ、だからナギとはそんなんじゃ……。良也? ざんげちゃんの言ってることは嘘だからな! 同居なんて……」

 実に嬉しそうに宣言するざんげちゃんに、僕のぶっとい堪忍袋の尾が、キリキリと悲鳴を上げる。うーん、切れるのも時間の問題ですねえ(他人事)。

「で? 仁。白状しろ。お前、ハーレムエンドは現実的な選択肢じゃないぞ? しかもその年で同棲とは、ハードルの高いルートを選んでくれるじゃないか」
「だから違うって! ナギとも全然、そんな関係じゃ」
「ナギさんか。ふーん。ま、今日はお前んちに泊まる事だし、そのナギさんやざんげちゃんとの関係についてしっかり聞かせてもらうからな」
「な、なんで良也が!?」
「お前のところに行くって言ったら、どういう生活しているか教えてくれって、おじさんに頼まれたんだよ」

 これ、黙っててくれって言われたんだけどな。……まあ、心配する親心なんて、察する性格じゃないし。
 でもまあ、いいだろ。いくらなんでも、一人暮らしをいいことに女を連れ込んでいるなんて、まるで予想外だし。

「親父〜〜」
「さて、行こうか。ああ、ざんげちゃんもどうかな? 仁の、普段の生活とか聞いてみたいし」
「は〜い」

 僕は、嫌がる仁を無理矢理引っ張りつつ、久方振りの親戚の家に向かった。






























 僕は、非常に混乱していた。

 状況はこうだ。

 あ、ありのままに今起こったことを話すぜ。『おれは親戚の家に行ったと思ったらなぜか神様(美少女)が押入れの中に隠れていた』。な、なにを言っているのか以下略。

 僕の心境的にもこうだ。何を言っているのか自分でも分からない。
 どうしろというのだ、僕に。この状況を。

「な、ナギっ! 隠れていろって言ったろ!」
「あら、誤魔化すつもりだったんですか?」

 仁が、『ナギさん』とやらに文句を言い、それをざんげちゃんが呆れて突っ込みを入れる。
 ……まあねえ。本気で誤魔化そうとするんだったら、一時的に家を出るなり何なり、手はあったろうに。

 っていうか、それはもういい。

「さて、仁? 腰を据えて話そうか。単に女を連れ込んでいるだけなら……まあ、理解の範疇内だけど。なんで神様なんか連れ込んでんだよ。お前は、どこの『ああっ女神さまっ』だ」

 仁の脳天にチョップを入れて、ツッコミを入れる。

「ほう、妾のことがわかるのか」
「……いやあ、神様に知り合いは何人かいるので」

 神様独特の雰囲気と言うか空気と言うか神気というか。なんか、そんな感じのものを感じる。

 ……でも、外でこんなはっきり形をとった神様を見るのは初めてだな。
 って、ちょっと待て。これが『姉』ってことはざんげちゃんも神? ……むぅん、傍目には人間にしか見えないけど。あ、もしかしてナギさんの巫女みたいな立場か?

「……えっと、ざんげちゃんは」
「あ、私ですか? 私は、この身体をちょっと借りています」

 あっけらかんと、基本的人権を無視した台詞をのたまった。
 ……おーい。憑依かよ、神様が。いや、この場合は神降ろしとでも言うべきか?

「ご心配せずとも、ちゃんと白亜とは同意の上で一緒にいるんですよ」
「左様ですか」

 悪い感じはしないし……悪い神様ってわけじゃないみたいだけど。

「とりあえず……経緯を聞かせてもらえるか? お助け女神事務所に電話しちゃった……わけじゃないんだよな」
「なにそれ」

 あれ? 仁、ネタわかってない?
 く……外したか。

「妾から説明しよう。ことの起こりはな、この仁が……」

 ……切り倒された神木の破片から、木像を作ったのが始まり。それをヨリシロとして、なぜかここの産土神であるナギさんが顕現しちゃった、と。
 んで、成り行きから、仁の家に住み着いてあ〜こりゃこりゃ。

 経緯は分かったけど顕現した理由がさっぱり分からん。神様の割に、妙にナギさんの力が弱いのと関係してんのか?

「それで? 今度はこちらからの質問じゃ。おぬしは何者じゃ? この現代において、神の存在を認めている者は早々いないと思っておったが」
「俗な言い方をすれば、霊能力者かな。魔法使いでもいいけど」

 手の平に軽く火の玉を作ってみせる。仁は大げさに驚いていたが、流石に神というだけあってナギさんとざんげちゃんは驚いた様子はなかった。

「ふ……ん。未だこのような力を持つ者がいたとは。流石は仁の親戚と言うだけある」
「ああ、そういえば。仁ってば昔から霊感強かったよな」

 たまに会った時、怪談話をするとすげぇ怖がっていた。いいなあ、幽霊が見えるなんてー、なんて無邪気に思っていたが、今じゃなんか半霊や亡霊とマブダチですよ僕。

「悪いな。おぬしの親族には迷惑をかけている」
「ん〜、まあ、仁に害を及ぼさないなら、僕は別にいいよ。好きにやってくれ」

 ナギさんが軽く頭を下げてくるが……なに、こんな美少女と同棲しているのだ。仁にとっては、害どころか……いや、ある意味思春期的には害かもしれないが、イイ思いをしていると断言してもいいだろう。
 この世界が漫画かアニメだとしたら、主人公は仁、お前だ。マジぶっ殺してぇ。

「んじゃ、とりあえずご飯にしよう。帰り、大目に色々買ってきたから……」

 晩飯も食べていないと仁が言っていたので、途中スーパーで惣菜やら何やらを買ってきたのだ。無論、僕のおごりで。
 ……まあ、僕だって外じゃあそんなにお金に余裕があるわけじゃないけど、泊めてもらうんだしな。

「あ、こちらナギさんとざんげちゃんに、お酒。僕からの供物ってことで」

 ついでに、数少ない男の親戚と飲み明かそうと酒も買ってきたんだけど、まあ、神様へのお供えとしてはポピュラーだし、この二人に上げよう。

 ……あれ? ナギさんが、予想外に喜んでる。

「見たか仁! この体になって初めてのお供えじゃ! これは、妾の信仰を回復する上で大きな一歩となろう!」
「……あ〜、信仰ね、信仰。大変だな、現代の神様は」
「ほう。流石じゃな。神にとっての信仰の大切さを、よくわかっていると見える」
「知り合いの神様は、信仰欲しさに超ド田舎に引っ越してきたからな」

 神奈子さんに諏訪子、ついでに東風谷。あの三人が外界と隔絶された幻想郷に来るためには、かなりの覚悟が必要だっただろう。
 ……ま、今では思い切り好き勝手楽しんでいるみたいだから、いいけどね。

「む、その話、詳しく聞かせてはもらえないか。なにぶん、妾は少々変わった身の上らしくてな。他の神の話、参考になるやもしれん」
「いいよ。じゃ、呑みながら話そうか」
「あ、仁君には私がお酌しますね」
「い、いいって」



 そんな風にして――僕の、御厨家での一夜は過ぎていった。



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