T&Hがオープンした翌日。 フェイト、アリシアの二人が無事転校してきて。なのはちゃんたちを含めた五人組で、またブレイブデュエルをやったらしい。 聞く所によると、なんと全国一位チーム、ダークマテリアルズに勝ったとか。 ……個人戦の一位は参加していなかったらしいし、フェイト、アリシアが助力したとは言え、どうもなのはちゃん、すずかちゃん、バニングスの三人のこのゲームへの適正は半端ないようだった。 「そりゃ生で見たかったなあ」 あの日は会議が入ってて行けなかったんだよな、畜生。 「ふん、少し不覚を取っただけよ。次やるときは我らが勝つ」 「だろうねえ」 T&Hのフードコートですずかちゃんと話していたディアーチェの台詞に頷く。 ……いや、ホントこの子ら強いのよ。いくら才能があっても、そう二度も三度も勝てる相手じゃないだろう。 「というか、良也さんはダークマテリアルズのみんなとも知り合いだったんですね」 「まあね」 「ロケテ開始時、我ら全員地に付けられているからな。以来、幾度も対戦した。ロケテ最後の0回大会では、準々決勝で競いあったのだ」 「そんときは負けたけどね」 「一人はNPCであったろうが」 まあ、そうなんだけどね。いやー、この歳になるとゲームに付き合ってくれる知り合いも少なくて。しかも、数少ないオタ友も地元に帰ってたりして、東京でやってたロケテには参加できなかったし。 「あれ? 良也さん、チーム組んでいたんですか」 「ああ、Ryo&konakonaというチーム名でな。前衛のちびねこが素早くて、なかなか難儀した」 「……ディアーチェ。言っとくが、konakonaはあれで社会人だぞ」 年齢は、あえて伏せる。 「なにぃ!? 真か!」 「ええと?」 「……うん、僕とタッグ組んでた奴、小学生にしか見えない奴でね」 一緒に出かけて、警察に職務質問されたのは実に四回に及ぶ。 「貴様が教師だというのにも驚いたが、上には上がいるものだ……」 なお、ディアーチェも僕を大学生と思っていたらしい。 今日、スーツ姿の僕と出会って、事情を説明した所、あんぐりと口を開けていた。 しかし、僕やこなた程度に驚いているようではまだまだ……。僕の知り合いの中には、ン百歳を越えて未だにロリという人物はごろごろいるぞ。 「っと、申し訳ない。わかってはいるのですが、どうにも対戦相手という意識があって、口調がそのままでした」 「……いや、やめて。王様がその口調だと、こっちが気まずい」 意外。ちゃんと普通に丁寧語も喋れるんだ。 ディアーチェに日本語を教えた相手が悪いのかと思っていたが、もしかして素か、あの口調。 「む、そうか」 「そうそう」 まあ、子供にタメ口きかれるのなんて慣れてるしね。 「あの、なのは!」 「は、はい!」 と、そこでフードコートに響く大きな声。 何事かと目を向けてみると、フェイトがなのはちゃんの手を握って、なにやら真剣な顔で話しかけていた。 「その、チームメイトに、なってくれないかな。ブレイブデュエルは個人戦の他に、五人一組のチーム競技があって。 なのはの飛ぶ姿はすごく綺麗で、一緒にやれたら、それはすごく楽しいなって……」 顔を紅潮させて、若干潤んだ目で訴えるフェイト。……おい、見ようによっては告白しようとしているように見えるぞ。 「フェイトちゃん」 うわー、そしてなのはちゃんも満更じゃなさそう。 ……いや、チーム組むのはいいよ? でももう少し回りの目も気にしようぜ。 そんな様子を、ダークマテリアルズの一人、レヴィと遊んでいたバニングスがじとーっとした目で見る。 「で、あたしは誘ってくれないのー?」 「くれないのー?」 「あ、その、アリサとすずかも勿論……! あと、レヴィは別のチームでしょ!」 おう、遊ばれとる遊ばれとる。 「あれ? でも良也さんは?」 「は?」 いきなりなのはちゃんがこっちに話を振ってきた。 「いや、なのはちゃん? 僕がなんだって?」 「チーム。入らないんですか?」 「入るかい」 いきなりなにを言い出すんだ、この子は。 「えー」 「えー、じゃないよ。小学生女子のチームに成人男子が入るわけにもいかんだろう」 子供は、子供同士でチームを組むべきだ。第一、遊ぶ時間も合わないだろうし、人数越えてるし、なにより世間体が。 「一緒に遊ばないんですか?」 「すずかちゃんまで。……対戦なら付き合うよ、勿論」 だから勘弁して下さい。このグループに混じって話しているだけで、なんかヒソヒソ噂話されている気がするんだよ。 「対戦! じゃ、リョーヤ、ボクとしようよ!」 と、対戦の言葉にレヴィが噛み付いてきた。 ディアーチェと同じチームで、フェイトと同じくライトニングタイプの彼女は、なんかもう元気花丸印という感じの子で、中学生のはずなのに年齢以上に子供っぽい。 ……後、これはディアーチェもなのだが、外国人らしい髪の毛の先っちょだけがなんか黒い。染めているのではないらしい。すごいね! 人体。 「レヴィ……お前、前から少しは変わったのか?」 「もっちろん! あれから更に攻撃に磨きをかけたよ!」 んで、フェイトと同じタイプってことは、僕とは相性の良い相手である。 そして、フェイトより猪なので、とんでもなく素早いものの、僕の弾幕を真正面から回避しようとして……結果、こいつに対する勝率はかなり高い。 ……んで、レヴィとやる場合、僕が弾幕で距離を取り続けるか、レヴィが弾幕を突破して僕に一撃を見舞うかの勝負になるため、攻撃に磨きをかけてもあんまり意味は無い。 「愚か者め。またの機会にしろ。今の貴様ではまだ勝てん」 「ええー、チョー凄い必殺技覚えたのにー」 「だから、戦いには相性というものがある。あ奴とやる時はあの弾幕をどうにかせねば……」 ……なお、ディアーチェは広域型。広い範囲に魔法を繰り出せるため……勝率は一割あるかなー、くらい。 最初にやった一回しか勝てなかったもう一人のダークマテリアルズメンバーよりはマシだが。 「それに、開店直後で凄い混んでるからな……。今から並んでも一時間くらい待つぞ」 だからこそ、みんなフードコートにいるんだろうに。 「ぶーぶー」 「はあ、こやつは。良也、また機会があればグランツ研の方に来てくれぬか? 久方ぶりに、我とも対戦しようぞ」 ええー、それ遠回しにボコらせろって言ってません? まあいいけどさ。ディアーチェならまだ勝ち目はある。広域魔法に耐えきるか、弾幕でうまく相殺すれば。 「あいよー。まあ、グランツ研究所には来週仕事で行くんだけどね」 「ぬ? 仕事?」 「高校の社会科見学。グランツ研究所は一般公開もされてるし、そういうのも受け付けてるんだ」 「ああ、そういえば。来週、どこぞの学校が見学に来ると、夕食の席で聞いたな」 グランツ博士んちにホームステイしてるらしいんだよねえ、ダークマテリアルズのみんな。彼女たちが強かったのも、ロケテ以前のテストに付き合っていたからだそうだ。 しっかし、グランツ博士は世界的権威なんだけど……こんな日本の地方都市に研究所を構えることと言い、ちょっと変わり者らしい。 「そういうことなら、我らは昼間は学校でいないが、博士とユーリはおる。よろしくしてやってくれ」 「ユーリ……?」 「姿は見たことがあるはずだぞ。0回大会の際、我らの応援に来ていた金髪の子供だ。覚えておらんか?」 「あー、なんかいた気がする」 観客席の前の方で、必死にディアーチェに手を振ってるわんこ系の可愛い子がいた、確かに。対戦する時、確かに見た。こなたが『萌えるね、あの子!』とか指差してた。 「フェイトぉ〜!」 「あ、か、母さん!?」 とか話していると、この店のエプロンを付けた美人さんがフェイトに抱きつく。 ……母親? 若くね? 「アリシアが、アリシアがいないのよおおおお!」 「母さん、お、落ち着いて……」 「店内のカメラのどれにも映らないし……。まさか誘拐されたんじゃないかって……」 誘拐だ? むう、確かにアリシアはちっこくて可愛いし、でかいお店の娘で身代金を強請るのにも向いてそうだ。 しかし、あれで要領のいいアリシアが、大人しく誘拐なんてされるかなあ? んで、その疑念はすぐに晴れることになる。 もう一人、フェイトのお母さんを連れ戻しに来た店員さんが、置き手紙の存在を教えてくれたのだ。 ……つーか、今まで気付かなかったのか、これに。 手紙に記されていた場所は、古書店・八神堂。 ここもブレイブデュエルの筐体を設置している店だ。チェックしてる。 ええと、あんまり対戦はしたことないけど、全国六位のヴィータがこの店のショッププレイヤーだったはず。 ……やっぱり海鳴市って全国ランカー多すぎね? まあ、それはともかく。 古書店にあるとは思えない謎のギミックにより、地下にあるブレイブデュエルのコロシアム? に来たのだが、 『みなさーん! おまたせしました〜!』 「……なんぞあれ」 なんか空飛ぶオタチダイ? に乗ったアリシアがマイク片手に登場する。 八神堂のブレイブデュエルコーナーに集った観客はおおー! と声を上げた。 ……しかし、何故にアリシアはバニーコスなんてしているんだ。小学生がバニー……いいのか? 風営法とかに引っかからないのか? 「あの、八神さん? アリシアのあの格好は一体……」 ここの店長と言う、これまた小学生位の年齢の八神さんに聞いてみる。 ……子供が店長? などと、今更聞いたりはしない。 そういや、一緒に紹介された……ええと、あのおっぱいの大きい……確か、なんつったっけ……あの胸のでかい……そうそう、リインフォースさん? は、八神さんを主とか言ってた。 ……どういう関係なんだろう? 後、犬デカくてカッコ良かった。後で撫でさせてもらおう。 「はやてでええですよー。あと、アリシアの格好は、本人の希望で」 ……アリシアェ。 「って、いやいやいや。そもそも子供サイズのバニー衣装なんて一体どこから出てきたんだ?」 「くふっ」 怪しい含み笑いを漏らすはやて。 ……こ、この子、この年にして胡散臭さパネェな。 そういえば、見れば見るほどディアーチェにそっくりだが、姉妹ではないらしい。……ちゃんと話を聞くまで、てっきり双子だと思っていたフェイトとレヴィも赤の他人だったし、世界に三人は云々という話も、あながち迷信というわけではないみたいだな。 「まあ、ええやないですか」 「……いいけどさ」 深く突っ込むのは、なんか怖いし。 『さぁ、これから始まるのは、『ゲートクラッシャーズ』! ルールは簡単、並み居るゲートを全部壊して、中央のターゲットを先に破壊した方の勝ち! ってなわけでぇ、参加選手の入場で〜〜っす!』 と、派手なエフェクトと共にデュエリストが入場した。 片方は勿論、八神堂ショッププレイヤーのヴィータ。 そして、もう片方は…… 「げっ、シュテル……」 「あれは……なにをやっておるのだ、あやつは」 ロケテスト、個人戦全国ランキング一位。プレイヤーネーム『シュテル・ザ・デストラクター』こと、シュテルだった。 「……う〜わ、ご愁傷様」 ヴィータも勿論全国ランカーだけあって相当な実力者ではある。 しかし、こういう火力が勝負のバトルにおいて、セイクリッドタイプである彼女の砲撃には敵うまい。近接主体だと、どうしてもゲートに近付いて壊さないといけない分、時間的に不利だし…… なお、直接バトル以外のこういう競技についても、僕は得意不得意がはっきりと分かれている。得意なのはアレ、とにかくたくさんのターゲットを破壊したほうが勝ちの競技『シューティングスターズ』とか、そーゆーやつ。これなら負けなしである。 んで、デュエルが開始し……本来なら、一枚破壊するのに一分くらいはかかるゲートを一直線にぶち抜いていったヴィータに対し、シュテルは得意の誘導弾と砲撃で、開始位置から一歩も動かずに勝負を決めてしまった。 ……うーむ、南無。 あの後。 何故か、なのはちゃんたちも巻き込んで、『スカイドッジ』が開催された。 ダークマテリアルズのフルメンバー対なのはちゃん、すずかちゃん、バニングス、ヴィータ、はやての五人組。 ……正直、ダークマテリアルズの圧勝かとも思っていたんだけど、 「勝っちゃうなんてなあ」 「えへへ」 びっくりだ、と伝えると、今回のMVPであるなのはちゃんが笑う。 ……というか、初めて海聖ルーキーズのアバター見たんだけど、なのはちゃんセイクリッドなのね。……うーわー、将来勝てなくなる未来が見えたぞ、これ。 「というか、みんな上手いけど、なのはちゃんは特別飛ぶの上手いなあ」 「そうですか?」 「最後の、ボール追っかけてった軌道、フツー始めて数日の初心者ができるもんじゃないぞ……」 走ったり、跳ねたり、剣振ったりなんかは、元の体のイメージで最初から上手い人はいるけど、空飛ぶのだけはみんな練習が必要だ。 「よく言う。初日から自由自在に飛んでいた奴が」 ディアーチェの指摘に、僕は押し黙る。……まさか、ブレイブデュエル始める前から飛んでましたー、とは言えんし。 この中で唯一、僕が現実でも飛べることを知っているすずかちゃんは、あはは、と苦笑している。 「でも、ま。なのはちゃんが飛ぶの上手いのは、なんとなくわからなくもないけどね。赤ちゃんのころ、どんだけぐずってても高い高いするとすぐ泣き止んでたし」 当時から高いところは好きだったんだろうなあ。 「あう! は、恥ずかしいこと言わないでください!」 「恥ずかしい……もんかね」 うーむ、まあ、そうかな? この年になるとわからないけど、小学生ぐらいだと自分が赤ちゃんの頃のエピソードは恥ずかしいものかもしれない。 ……そう考えると、なのはちゃんとすずかちゃんに関してはは、今の話なんてメじゃないほど恥ずかしい秘密を握ってるな、僕。『初めての立ち歩き』とか。微笑ましいもんなんだけどねえ。 「さて、王。そろそろ帰りましょう。みんながお腹を空かせて待っています」 「ぬぉぉぉぉ!? そうであった! それではな、貴様ら! 次は負けんぞ!」 「じゃーねー!」 と、ドタバタしながらダークマテリアルズの面々は帰っていった。 しかし……もう結構いい時間だ。T&Hでグダグダした後、こっちに来てイベントデュエルの二連戦。予定よりだいぶ遅い時間になっている。 「もう暗いんだからバス使えよー」 グランツ研はここから歩きでも行けなくはないが、もう暗くなり始めている。あそこは研究所前にバス停があるから、すぐそこにあるバス停からバスで帰れば安心だ。 『承知している!』と返事があったグランツ組はこれで良いとして、 「T&Hまでは、明るい道だから平気だよな。すずかちゃんとバニングスは……」 ここからだと、結構遠いが。 「あ、今ノエルが車回してくれるって連絡が」 「あたしも送って行ってくれるそうです」 「ん、了解。そんじゃ、なのはちゃん。帰るか」 まあ、流石に小学生の女の子にこの時間に一人で帰らせるのはアウツである。海鳴は治安良いし、心配ないとは思うけど、念のためね。 「はあい。じゃあ、みんなまたねー」 「ばいばい」 僕も手をひらひらと振って、なのはちゃんと共に八神堂を後にする。 薄暗くなった道を、なのはちゃんと一緒に歩く。 「ブレイブデュエルって、やっぱりすごく面白いんですねー」 今日の熱闘の余韻が抜け切らないのか、顔を紅潮させてなのはちゃんが話しかけてきた。 「まあね。ハマった?」 「はい! 空飛ぶの楽しいし、フェイトちゃんやみんなと一緒に頑張るのも嬉しくて!」 フェイトの名前が真っ先に出てくるのかあ。仲良き事は美しき哉……だよね。 「ん、まあ頑張れー」 「はいっ。……あ、お姉ちゃんから電話だ」 なのはちゃんが携帯電話を取り出す。 「はぁい。なに? お姉ちゃん。……あ、うん。お迎えは大丈夫。今、良也さんと一緒に帰っている所。……うん、うん。はぁい」 と、なのはちゃんは電話を耳を離して、僕に向けてくる。 「ん? 僕?」 「おとーさんが変わって欲しいって」 「了解」 可愛らしいキャラのストラップの付いた携帯を受け取り、電話に出る。 「はい、もしもし?」 『おう、良也。なのはを送ってってくれるんだってな。うちに寄るなら、今日呑まないか』 「いいですよ」 明日は休みだしね。 『よし、決まりだ。あ、今酒切らしてるんだ。帰りに買ってきてくれ』 「はいはい。いつも通り割り勘ですね」 『おう。じゃ、なのはをよろしくな』 そうして、電話を切る。 「なんだったんですか?」 「今日、一緒にお酒を呑まないかってさ。ゴメンだけど、ちょっと酒屋寄ってくよー」 「はぁい」 影法師が長く伸びる夕暮れ。 後に、全国トップクラスの仲間入りをするデュエリストと一緒に帰った日であった。 ――もう一つの可能性 「はあ、異世界、ですか」 高町さんからの連絡を受け、急いで海鳴に向かって……高町家で待ち受けていた美人さんと、どう見ても未成年にしか見えない少年、そして可愛いフェレットという異世界人に出くわして、僕は目を丸くしていた。 「はい。それで、このたびロストロギアという……詳細は省きますが、危険な品がこちらに流れ着いた所、なのはさんの魔法の力を借りて、事件を解決したというわけです」 ほうほう……わけがわからない。 「高町さん?」 「いや、俺に振られても。こういうの、知っているじゃないかと思って、お前に相談したんだよ」 「僕が知ってるのは、この世界の魔法だけですよ……聞く限り、異世界つっても、魔界や天界や妖精郷とかじゃないんでしょう?」 「は? 魔界?」 キョトンとしているリンディさん。どうもこの人、これで横に座っている……ええと、クロノくん? の母親らしい。 どう見ても、こんな大きな子供がいる年齢には見えないけど、まあ桃子さんの例もあるし…… 「それにしても、事前の調査ではこの世界に魔法は存在しないと聞いていましたが、本当は存在したんですね」 「うん。まあ、絶対数が少ないし、色々あって表に出ることはなくなったし……」 魔女狩りとかね。 成る程、と頷きながら、クロノくんはメモを走らせる。……なんか、せいぜいなのはちゃんと同級生くらいなのに、しっかりした子だ。 なんか、自己紹介で執務官、というエライさんだということだったけど、これは本当のことなのかもしれない。 「……で、なのはちゃんはどうしたいって?」 「ええと……折角手に入れた力なんだし、練習して、もっとうまくできるようになりたいなあ、って」 「なのはが決めた話なら尊重してやりたい。しかしだ。俺にはその魔法とやらを覚えることに、どういうリスクがあるかわからないからな。安易に頷くわけにもいかないんで、その異世界の人に話を聞くことにしたんだ」 ……で、オブザーバーとして僕を呼んだ、と。 「って、言われましてもね。どういう魔法かわからないとどうにも……簡単なの、見せてもらってもいいですか?」 「ええ、もちろん」 あ、見せてくれるんだ。こっちの世界の魔法使いって、秘密主義――幻想郷の連中は例外として、基本、自分の技術は秘匿するものらしいよ? いや、幻想郷外で魔術師系の人とは会ったことないけどさ。 「簡単な、明かりを付ける魔法ですが」 と、リンディさんが指先に小さな魔法陣を作って、光の玉が出現し……って、あれ。この魔法陣って? 「すみません、それってミッドチルダ式ってやつですか?」 「あら? ご存知で?」 あーあー! プレシアさんと一緒の魔法だ! まさか、立て続けに同じ異世界の人に会うとは思わなんだ! 割と異世界って狭い業界なのかな? 「ええ。ちょっと前、同じミッドチルダ式っての使う人が行き倒れてたんで、助けたんですよ」 「……ごめんなさい、その方の名前を聞いても?」 「はあ、プレシアさんっていいますけど」 ええ! と声を上げたのはなのはちゃんだ。 同じく、声は上げないものの、リンディさんとクロノくんも目を見張っている。 「ええと、知り合いですか?」 「先ほど話した事件。その……関係者です。びっくりするだろうから、なのはさんには後でお話するつもりだったんだけど、今プレシアはアースラにいます。……フェイトさんと、お話しているわ」 「……! フェイトちゃん、大丈夫なんですか? また酷いこと言われたら……」 なのはちゃんの心配もわかる。……だって、アリシアの件が解決するまで、あの人すっげ怖かったもん。 「多分大丈夫。プレシアさん、色々吹っ切れたみたいだから。いや、確かに最初会った時のあの人は怖かった……」 「……土樹さんの言うとおりです。そうじゃないと面会は許可しないわ」 よかった、となのはちゃんは胸を撫で下ろす。 「申し訳ありません、土樹さん。話の途中ですが、プレシアとのことを聞いてもよろしいでしょうか? 以前のプレシアは精神的に不安定だったので、証言も完全には信用できなくて」 「ええと。でも、プレシアさんのプライベートな話も含まれているんで……」 アリシアの件とか、安易に話すことじゃないだろう。 「……今、プレシア本人に確認を取りました。良いそうです」 「念話ってやつですか?」」 「はい。今、本人に繋ぎます と、空中に魔法陣が展開し、その中央に映像が映る。 そこには、穏やかな顔となったプレシアさんと、その奥には金髪の少女と赤毛の女性が立っていた。 『……まさかこんなにも早く再会するとは思わなかったわ、リョウヤ』 「どうも、プレシアさん。後ろの子が、もう一人の娘さんですか?」 はっ、と金髪の少女が少し身を固くする。プレシアさんも、何故か二呼吸ほど間を置いて、 『……そうよ。私のもう一人の娘』 『母さん……』 『アンタ……』 はて……よくわからないが、後ろの二人がびっくりしているっぽい。 なんで? 『ああ、とりあえず、私のことは全部話して構わないわ。隠すようなことは、もうないから』 「了解しました。……じゃ、娘さんとゆっくり話してください」 『ええ。ありがとう』 ぷつ、と魔法陣が消える。 とまあ、プレシアさん本人の許可も取れたので、あの人と出会った経緯やその後のことも話す。 話が進むごとに、リンディさん、クロノくんの顔はどんどん引き攣っていき、最後にプレシアさんが口寄せでアリシアの霊を降ろした所で、頭を抱え始めた。 「……管理外世界の魔法は、時々とんでもない効果があることがあるけど、こんな魔法は初めてだ」 クロノくんが呟く。 管理外? と、気になる単語はあったものの、まあ後で聞きゃいいか。 「あの、良也さん。プレシアさんは、本当に、フェイトちゃんとちゃんと向き合ってくれるんですか?」 「なのはちゃん? ええと、フェイトちゃんっていうのが、あのプレシアさんの娘さんのこと?」 「はいっ」 なら、大丈夫、と僕は頷いてみせた。 うん、アリシアのことで暴走してたけど、そんだけあの人の娘への情が深いことの現れだろうし。 なんか事情があるみたいだけど、自分の娘に対してはちゃんとすると思う。 「って、なのはちゃん、なんで泣いてるの!?」 「よ、よかったよぅ〜〜」 あ、嬉し泣きか。……あの子、フェイトって子と、随分仲が良いみたいだ。異世界交流? まあ善き哉善き哉。 「……これじゃ、お話を続けられないわね。なのはさんが落ち着くまで、休憩としませんか?」 「そうですね。……なのは、お前とあの子の間に、なにがあったかは知らないけど……おめでとう」 娘の様子に思うところがあったのか、ぽん、となのはちゃんの頭を撫でて、高町さんが立ち上がる。 「お茶でも淹れてきます。少し待っててください」 と、高町さんが立ち去って、僕は考える。 なのはちゃんが魔法を覚える件については、ミッド式ってことなら問題無いと思う。。プレシアさんによると、沢山の人が使ってるそうだから、安全性も高いだろう。こっちのやつは、正直けっこう危険だから、地球の魔法を覚えるってのなら僕は反対に一票を投じたが、それなら全然アリだ。 「そういえば、聞き忘れていましたけど、なのはちゃんも魔法を使えるようになったって聞いたけど、どんくらい使えるの? 空飛んで弾出すくらい?」 「なのはは凄いですよ。なのはの才能は、僕なんか及びもつきません」 は? 「ふぇ、フェレットが喋った!?」 「……申し訳ありません、僕、人間です。まだこの世界の魔力に適合しきれていないので、燃費のいいこの体で」 「はあ〜」 魔法少女につきものの、お供のマスコットか。 そして、主人公はなのはちゃん…… 「……アリだな」 「は? なにか」 「いや、こっちの話」 日曜朝のアニメでも充分やっていける、なんて思ってないよ。 ……なに? 深夜帯? ぉう、僕の……ええと、姪的存在? のパンチラを拝みたいと言うのなら、僕と高町さんと恭也を倒してから行け。僕はともかく、後ろ二人に勝てると思うなよ。 ……閑話休題。妙な妄想は置いといて、 「そんなに凄いんだ、なのはちゃん」 「ええ、軽くですが、ムービーもありますよ。見ますか?」 リンディさんの提案に、僕は即頷いた。 ……なお、あまりのとんでもない戦闘シーンに、僕はかなりびっくりした。 これは朝の番組でやれるないようじゃないな、と思い切り思った。なに、あの最後の桜色の悪夢。 後、非殺傷というステキ魔法がミッドチルダ式にはあると聞いた。 比較的簡単にできちゃうので、幻想郷に流行らせようと布教活動をした。……当たり前だが、流行らなかった。 |
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