多くのスピリットたちが永遠神剣を手放し、市井へと混じっていく中。
 当然のように、彼女達に狼藉を働こうという人間もいた。もはや、彼女達は人間に絶対服従するわけではなく、一人の独立した人格である、ということを認められない者は、残念ながら一定数いる。

 その中でも特に多いのが性犯罪だ。

 なにせ、彼女達は総じて見目が良い。今まで彼女達を性欲の対象とするのが『妖精趣味』と言われタブー視されていたのは、どちらかと言うとスピリットに手を出せば死罪となるからという理由のほうが大きかった。
 国の資産という扱いであったスピリットは、一般市民にとっては蔑む対象ではあれど、同時に下手に傷つけると罪を問われかねない存在だった。

 なので、酸っぱい葡萄の例えではないが、スピリットを性的な目で見ることを変態扱いすることで、折り合いをつけていたわけである。

 それが、今やレスティーナ女王陛下の方策により、スピリットは人間と同様の扱いになっている。
 恋愛、結婚も自由。そうすると、直接口説く人間も現れるが……それと同時に、犯罪者連中に狙われるのもまた当然の流れだった。

「……しかし、お前等馬鹿だろう」

 スピリットに暴行を加えようとした人間を拘束しながら、友希はいい加減うんざりとした声を上げる。
 統一国家の首都として日々多くの人々が流入するラキオスでは、その分犯罪も増加傾向にある。この一週間で友希が遭遇したスピリットへの強姦『未遂』は三件目。いい加減、勘弁して欲しい。

 しかも、真っ昼間から。路地の入り組んだ場所とは言え、誰にも見咎められないと思っていたのだろうか、この男は。

 拘束から逃れようと藻掻いている男が、友希のぼやきと呆れた視線に反応して、口角泡を飛ばしながら猛然と声を上げた。

「うるせぇ! スピリットなんか人間様の道具だろうが! 好きにしようとしてなにが悪い!」
「……それは犯罪だ。お前もう黙れ」

 普段は帯剣していないが、友希は無言で手の中に『束ね』を出現させ、脅すように口にする。
 その様子を見て、拘束された男はヒッ、と小さな悲鳴を上げた。どうやら、友希の顔を知らなかったらしい。テレビなどないファンタズマゴリアでは、よほどの有名人でも顔までは知られていなかったりする。肖像画がそこかしこで売られているレスティーナは例外だが。

「え、エトランジェ……神剣の勇者!?」
「わかったらおとなしくしろ。一人、二人、気に入らないやつを斬り捨てても、僕は不問にされる立場なんだ」

 勿論、こんなのは脅しもいいところ。『束ね』にこんな下らないやつの血糊を付ける気はないし、自分勝手な判断で犯罪者を斬ったりしたらレスティーナに厳しい叱責を受けるだろう。
 しかし、いい加減むかっ腹も立っている。思わず暴言が飛び出てしまったことは、勘弁願いたい。

「ごめんなさい。ええと、リーリャさんだっけ? 一応、事情を聞かないといけないから、番所までついてきてくれるかな」
「はい、トモキ様」
「……いや、様付けはいいから」

 きらきらした目で見てくる今回の被害者であるレッドスピリットの視線から、微妙に逃れるように友希は顔を背ける。
 救国の勇者、新たな神剣のエトランジェ……そんな名声にも、いい加減辟易としている。人の噂も七十五日ということわざは、どうやら嘘だったらしい。三年経っても、まるで治まらない。
 永遠戦争での戦果はみんなの力を合わせてのことで、友希一人の力では断じてない。それに、過分な給料ももらっているが、金があっても迂闊に買い物や飲みに出歩くことも出来ないのだ。

 しかし、と友希は現状の不満を愚痴る思考を切り替え、男の顔に見事に出来た青あざを見る。
 服で見えないが、胴体にもいいのが二、三発入っているだろう。騒動に気付いて現場に駆けつけた時、この男は痛がって転げ回っていた。

 襲われたリーリャというスピリットは見た目は幼い方だが、意外と容赦がないらしい。

 友希は溜息をつく。本当に、スピリットに手を出そうとする輩は馬鹿しかいない。
 見た目が可憐だから、神剣を持っていないから、本当にレイプが成功するとでも思っているのだろうか。友希の知る限り、首都ラキオスにおけるスピリットへのこの手の犯罪の成功率はゼロだ。

 ゼロである。もしかしたら成功させている者もいるかもしれないし、そんな連中は叩き潰してやりたいが、それはそれとして、少なくともこちらが把握している限りでは未遂で終わらなかった奴は一人もいない。

 ……少し考えてもみて欲しい。

 永遠神剣を手放し、超常的な力が振るえなくなったとは言え、スピリットはそのほぼ全員が従軍経験者である。
 それも、スピリットがお膳立てを整えた後に都市を占領するだけだった人間兵とは違い、激しい実戦やそれに準じる厳しい訓練を重ねた者達だ。

 要するに、武器などなくても、並の男の二、三人位は問題なく畳める者ばかり。仮に、よほどの実力者や武器持ちに襲われたり、あるいはたくさんの人数に囲まれたりしたとしても、そういう勝ち目のない戦いから逃げるための訓練も受けている。

 そんなスピリットが、色に迷った男などに遅れを取るだろうか? ……断じて否である。

 そういうリスクが広まれば、こういうことも少なくなるだろう。本当なら、リスクが大きいから躊躇するのではなく、普通の人間に対するのと同じように、純粋な倫理によって抑えて欲しいが、それが国民全員に広まるのはまだ時間を要する。そもそも、歪な成長をしているとは言え、基本的には地球の中世程度の文化であるファンタズマゴリアにおいては、一般市民の間における人権意識は希薄だ。

 もう一度、大きな溜息を付いて、友希は少し憂鬱な気分で、番所への道を歩くのだった。































「はあ……お腹空いた」

 今日は捕物が多かったらしく、番所での手続きに時間がかかってしまった。
 空を見ると、太陽はもう随分と傾いてしまっている。

 ぐぅ、と盛大に友希のお腹の音が鳴る。うお、と友希は焦って周囲を見渡す。
 まさか天下の往来で一応は英雄扱いの男が腹の虫を鳴らすなど、誰かに聞き咎められていたら恥ずかしいというレベルではない。

 幸いにも、大通りの喧騒の中で小さな腹の虫が聞こえた人はいなかったようで、ほっと一息つく。

 さて、その辺の屋台で軽食でも買おうかと友希は考え、ふとあることに気がつく。

「あ、ハリオン達の店、すぐそこじゃん」

 退役した時に受け取った報奨金と謎の(既に謎ではなくなっているが)スポンサーの出資により、ハリオンとヒミカは目抜き通りの一角に立派な菓子店を開業していた。
 評判は上々。最初は初めてスピリットが構えた商店という物珍しさが先行していたが、今では立派に味で常連客を掴み、息をつく暇もない繁盛っぷりだ。

 折角だから様子を見がてらヨフアルの一つでも、と友希はそちらに足を向ける。

 王都ラキオスの人通りは多い。更に、ハイペリアの学ランにラキオスの陣羽織という友希の独特の出で立ちは知っている人間も多く、よく通りで振り向かれてしまう。

『……これ、やっぱ慣れない』
『いっそ平服に着替えれば、ほとんどの人は気付かないんじゃ? 主、言ってはなんですが顔立ちは平凡ですし』
『ある程度見せることも必要なんだと』

 ガロ・リキュアが統一してから安定を保っているのは、主にレスティーナのカリスマのおかげだが、友希を初めとした救国の英雄達の名声によるところも少なくはない。
 こうして市井を練り歩き、エトランジェは健在であると示すことが、一定の役割を果たすそうだ。

 大変なことも多いが、こうして注目されることで緩まず気を張ることもできているので、そう否定したばかりでもない。

「っと、着いた着いた」

 そんな益体もないことを考えているうちに、ハリオン達の店に到着した。
 今日子のセンスにより、ハイペリア風の店構えをしたちょっと周囲とは異色な店舗。扉はガラス張りになっており、店内のショーケースに並べられた宝石のようなお菓子が通りからでも見える。

 これは、思わず足を止めて買いに走ってしまうだろうなあ、と商業がこちらとは比べ物にならないほど発達している日本出身の友希ですら思う。

 幸いにも、タイミングがよかったのか店内に客は一人だけだ。これなら、少しハリオンらと話をしても迷惑にはなるまい。

 そう考え、友希は店内に入る。

「は〜い、お待たせしましたぁ。ヨフアル三つと、お釣りですぅ〜」
「うーん、良い匂い! 相変わらずハリオンの作るヨフアルは美味しそうだね!」
「ふふ、ありがとうございます。えい、これもおまけに付けてあげますね」

 と、ハリオンはかごに山盛りになっている一口サイズの焼き菓子を袋に放り込む。

「わっ、ありがと!」
「他のお客様には内緒ですよ〜?」

 と、和気藹々と接客しているハリオンは、実に生き生きとしている。
 やはり、戦争をするよりも、彼女はこういった生活のほうがよほど向いているのだろう。

 うん、向いてる向いてる。

 それはそれとして、

「そちらの方も、いらっしゃいませぇ。あら、トモキさんじゃないですか〜」
「……やぁ、ハリオン」

 会計を終え、入ってきた友希に声をかけたハリオンに、友希は手を上げて応える。
 なお、もう軍を辞め、一般人として生きている仲間は、友希のことを様付けせず、思い思いに呼んでいた。

「え? あ、あれ?」
「そして、こんにちは、レムリア様。"また"仕事から抜けだして買い食いに来ましたね?」

 いかにも町娘といった風情のラフな服装で、本来は長いであろう髪を二つのお団子状に結った女の子。

 ついさっきまで満面の笑顔でお菓子を受け取っていた彼女も、友希の怒りをこらえた笑顔に顔を引き攣らせている。

「きょ、今日は午後から城で執務だったんじゃ」
「ちょっと捕物が長引きましてね。連絡は入れてますけど。それで、もう一度聞きますが……陛下、また変装して城下に繰り出しているんですか」

 考えてみれば、この場には正体を知っている自分とハリオンしかいない。取り繕うのを止め、友希はレムリア改めレスティーナ女王陛下を直接的に問い詰めた。

 戦争中は凛とした態度を友希の前では崩さず、まさに初代統一王に相応しい威厳に満ち溢れていたレスティーナ。
 そんな彼女は、国が安定するごとに徐々に、徐々に、奥に隠していた年頃の少女らしい一面を現し始め……今では、週に一度程度の割合で、こうして城を抜けだしている。

「い、いいじゃない! 女王には休みなんてほとんどないんだから! ちょっとした空き時間に、好物を食べても!」
「好きなものを食べちゃいけないなんて言ってないじゃないですか。ヨフアル食いたいんだったら、誰かに買いに走らせればいいことでしょう」
「わかってないわね、トモキは。ヨフアルはできたてを食べるのが一番美味しいのよ?」

 こ、このアマ。つーかテメェんちには凄腕のシェフが何人もいるじゃねぇか。

 決して表には出せない怒りを堪え、友希は落ち着いて深呼吸をした。

 最初に城から抜け出そうとしている、どう見ても一般人で城の勤め人にも見えない彼女に声をかけたのが運の尽き。こうして、出くわすごとに胃痛を味わう羽目になってしまった。

 この扮装をしている時、レスティーナの口調も滅茶苦茶フレンドリーというか、もうまんま町娘のものになる。
 新鮮ではあるのだが、友希としてはマジやめて欲しい。勝手な言い草だとは思うが、憧れの人は憧れのままでいてくださいと土下座する勢いである。

「……じゃあせめて、誰か護衛くらい付けてくださいよ。万が一があったらどうするんです」
「地方ならともかく、王都の治安なら心配することはないわよ。貴方を含めたみんなのお陰でね」
「そりゃぁ、明るいうちに、大通りを歩くならそうそう事件なんて起きませんけどね。でも、陛下を狙ってる奴なんて、ゴロゴロいるんですから」

 類稀なるカリスマと政治的手腕を持つレスティーナだが、その辣腕を持って色んな既得権益にメスを入れているため、敵は決して少なくはない。

「だったらなおさらよ。護衛なんて引き連れてたらせっかく変装してもバレるかもしれないじゃない」

 そもそも買い食いのために市井を出歩くな、という友希の副音声は、どうやらレスティーナには届かなかったようだ。

「はあ……」
「む、なにかまだ言いたいことがありそうね」
「いいです。エスペリアにでもお説教されてください」

 今はレスティーナの護衛兼補佐役の任に就いているエスペリアは、怒ると怖い。とみに、この女王陛下の脱走には頭を痛めているようで、実にためになる説教をくれてくれるだろう。

「ちょっ、折角エスペリアが用事で外している時を狙ったのに!」
「やっぱりですか……」

 頭が痛い。

 と、友希が頭を抱えていると、店の奥から一人のスピリットが出てきた。

「ハリオン、追加の生地が焼き上がったから味見を……って」
「こんにちは、ヒミカ」
「トモキさんとへい……レムリアじゃないですか。いらっしゃい」

 退役後から眼鏡をかけ始めたヒミカである。
 どうも、神剣の力がないと、微妙に視力が悪かったらしい。

「道理で騒がしいと思ったら」
「ふふ……二人とも、とっても仲が良いんですよ〜」

 口を挟むでもなく、ニコニコと笑って友希とレスティーナのやりとりを見ていたハリオンが、訳知り顔で断言した。

「へぇ。ま、神剣の勇者様と女王陛下の仲が良いのはいいことね」
「ヒミカまで……やめてくれよ。昔の仲間に言われると、いたたまれないってレベルじゃない」
「言われ慣れてるんじゃないの」

 慣れまくっている。
 立場上、色んな行事や催事に顔を出しており、そのたびに似たようなことを言われる。
 本当に勘弁して欲しい。どんなに持ち上げられても、友希は平時には役に立たない強さしか取り柄のない、単なる若造なのだ。

「そうそう〜、そういえば、トモキさんとレムリアさんは、いつご結婚されるんですか〜?」
「は?」

 寝耳に水の話に、友希は思わず呆けた声を上げてしまう。

「……ハリオン、それ、なんの話?」
「噂ですよ、噂。まだ独身のレスティーナ様は、どんな方とご結婚なされるんだって、市民の間で噂し合ってて。ガロ・リキュアの花と謳われるレスティーナ様の婚姻は、みんなの注目の的なんです」
「ええ〜、花だなんて困っちゃうなあ〜」

 恥ずかしそうに身をくねくねさせるレムリア。
 困っちゃうのはこっちだ、と友希は叫びたくなった。

「でも、ま。真面目な話、トモキはないわね」
「わかってますよ」

 真顔になって言うレスティーナに、友希は頷いた。

 実際問題、他に近しい血族もいなく、独身のレスティーナの婚姻については、城でも大きく取り上げられている。なにせ、今のガロ・リキュアには明確な後継者がいない。喫緊の問題である。

 その相手として有力なのは、まず地場を固めるという意味で旧ラキオスの貴族、あるいは元最大の国家であり、今だ大きな権勢を誇る旧サーギオスの有力者。もしくは変なしがらみがなく、しかし名誉だけはある小国の王族……と、この辺りだ。
 友希の名前も上がらなくはなかったが、相手が友希だと国民人気は得られても、国として他に得るものがなにもない。姻族はこっちの世界にいないし、友希の強さも一代限りのもの。政治力など英雄としての名声以外にないし、それはレスティーナと結婚などしなくても利用できる。

 レスティーナの結婚は問題であると同時に大きなカードで、まさかそんな使い方ができようはずもない。

 ……一方で、現在のガロ・リキュアがレスティーナの独裁国家であり、彼女がほぼ全てを掌握しているのもまた事実で。
 もし彼女がそうと望んだら誰も反対できる者はいないわけだが。

 まあ、レスティーナが望むわけがないので、これは繰り言だ。

 むしろ、こうして一町娘として出歩いているうちに、町中でどこぞの一般人と恋に落ちたりしないのかという方が友希は心配である。
 そう、例えば黒髪のツンツン頭でガタイのいい、ぶっきらぼうだけど家族と仲間は大切にするような……

 やけに具体的な想像が出てきたが、それはさておき、

「陛下。目的は済んだんでしょう? とっとと帰りますよ。送りますから」
「トモキが隣にいたら、私が重要人物だって宣伝しているようなものじゃない。後ろから見ててくれればいいから」
「……わかりましたよ」

 むしろ、この姿が女王であることを宣伝して、レスティーナが出歩きにくくした方がいいのでは、とも思ったが、泣いて拒否されそうなので諦めた。
 本当に、参る。

「あら、トモキさんはなにも買っていかないんですか〜? 焼きたてのヨフアルがまだ残ってますよ」
「っと、そうだった。じゃ、ヨフアル二つくれ」
「はーい」

 手際よく包装していくハリオン

「ヒミカ、これで」
「はい、確かに」

 代金をヒミカに払い、ハリオンから甘く香ばしい良い匂いが漏れる紙袋を受け取る。

「ありがとう。また来るから」
「はい、今後共ご贔屓に」
「じゃ、陛下。帰りますか」

 友希はレスティーナを促した。

「はぁい。……あ、そうそう。トモキ、前に頼んだ仕事、経過はどう?」

 前に頼んだ仕事。
 友希の仕事は数あれど、女王陛下から直接賜った仕事というと、あれだ。

「……すみません。今、資料を集めて読み込んでいるところです」
「そう。まあ、急ぎってわけじゃないけど、ガロ・リキュアにとってとても大切なものだから、よろしくお願いね」
「わかってます」

 友希は、渋い顔になっていることを自覚しながら頷いた。

「……なにか問題でも?」
「問題というか……いえ、すみません。多分、僕の勘違いか何かだと思いますので」
「そう。でも、なにかあったら私に報告を」

 なにかあることを察したのか、レスティーナは女王としての口調でそう言う。

「……はい。でも、本当になんでもないんですよ」

 そう、仕事をこなす中で問題を発見したわけではない。
 ただ、そう……少しだけ、違和感があり、それがどうしても拭えない。

 それだけだった。

































 案の定、城に帰った後、友希の報告を聞いたエスペリアの説教を食らったレスティーナに、内心舌を出しながら友希はその日の仕事をこなした。

 建国間もない時期は友希も帰るのは日が変わった後になるのもしばしばだったが、今では特別忙しい時期でない限り、普通にみんなと夕食を取ることもできているし、休暇も適切に取れていた。

 かつての仲間が退役して随分と人数的には寂しくなったが、部隊に残っているネリーが十人分くらい騒がしいので、あまり気にはならない。

 それに、新しい男の仲間も増えている。
 ロティという、かつては義勇軍に参加していた若者である。若者、とは言っても、友希より一つか二つくらいしか変わらない年齢だが。
 剣聖ミュラーの弟子という彼がスピリット隊に参加し、男女比的に居心地の悪かった環境がいささか改善されつつある。

 代わりに、もう一人いた男はちょっと前にここを出ていったのだが……まあ、しょっちゅうこっちに来るので、あまり変わったという気はしない。

「おーい、友希。来たぞ」

 と、自室で手元の書類を眺めながら考えていたら、ちょうどその男――碧光陰の声がノックの音と共に聞こえた。

「ああ、光陰。入ってくれ。鍵はかかってないから」
「おう、お邪魔します……っと、悪ぃ、まだ仕事中だったか?」
「いや、そういうわけじゃないから。まあ、座ってくれ」

 光陰に、中央のテーブルセットに着くよう促す。
 なお、光陰と今日子が結婚し、二人とも姓が『碧』となったことを契機に、彼らは名前で呼び合うようになっていた。

「おう。そういや、下でロティの奴がネリーちゃんとシアーちゃんに遊ばれてたぞ。くそっ、馴染んでるのはなによりだが、羨ましいなあ」
「……もう結婚したんだからそろそろ落ち着けよ」
「ふっ、そうは言っても、俺のこのほとばしる情熱は早々冷ませやしないのさ」

 無駄にニヒルな笑みを浮かべる光陰だが、それ聞かれたらまた今日子にシバかれるだろうに。
 はあ、とため息は心の中だけに留め、とりあえず話を逸らすことにする。

「……で、新居の調子はどうだ?」
「ああ、いい感じだ。ヨーティアに無理言って、和風建築にした甲斐はあったな。なんだかんだで、落ち着くぜ」

 新婚の二人が、城の敷地の中に建てた家は、珍しい様式とあり、城中の噂になっている。

「そっか。いいよなあ、僕も家建てさせてもらおうかな」
「そりゃあ許可はもらえるだろうが、一人暮らしするつもりか? それとも、誰かと結婚する予定でもあんのか? ……まさか、オルファちゃんやネリーちゃんやシアーちゃんやニムントールちゃんやヘリオンちゃんじゃないよな」
「ねぇよ」

 出て来る名前がひどく偏っていることに、今更ツッコミを入れたりはしない。

「つーか、昼間も似たような話になったな……」
「ん? なんかあったのか」
「それがさあ」

 昼間のレムリアことレスティーナ女王陛下の買い食い事件と、その際に出た話題を簡単に説明する。

「はは、陛下も、相変わらずだねえ」
「笑い事じゃないよ。なにかあったらどうする気なんだか」
「なにもないってわかってるからじゃないかね。あの人、そこまで迂闊じゃねぇだろ」

 そりゃそうなのだが。しかし、万が一ということもあるので、神経を尖らせずにはいられないのだ。

「しかし、陛下はまあないにしろ、お前も結婚はしないのか? そうでなくても、俺に隠して付き合ってる子、いるんじゃないか?」
「いないっつーの」

 そういう話が皆無なわけではない。『英雄』と誼を結ぼうと縁談の話はそこそこ舞い込んでくる。
 友希としては、そんな形で結婚相手を決める気はないので、全て丁重にお断りしているが。

「……俺にはその手の話、結婚前にも来たことないんだけど?」
「そりゃ、お前と今日子との関係は昔っから噂されてたしなあ」

 エトランジェ・コーインが同じエトランジェ・キョウコを助けるため奮闘したという話は広く知られていた。
 元々敵国のエトランジェであった彼をそのままラキオス軍に組み込むのは反発が予想されたため、そういった話を流布することで国民感情の緩和を図ったためだ。

「ちぇ、良家のお嬢様とかちょっと興味あったのに」
「はいはい」
「しっかし、お前興味なさそうだよな。スピリット隊……元、でもいいけど、気になる子はいないのか?」
「興味が無いわけじゃないんだけど」

 ゼフィのことは一区切りついたし、誰かに隣にいて欲しいという願望もあるにはある。
 仲間達は美人・美少女ばかりで、性格もみんな善良だ。それに、別に確認したわけでもないが、真剣に告白すれば、恐らく何人かは受け入れてくれる者もいるだろう。

『……多分』
『微妙に自信なさげですね』
『うっせ』

 心の声が漏れ、『束ね』からツッコミが入った。

「まあ、そっちはそのうちな」
「こっちは、向こう以上に伴侶がいて……っつーか、子供を残して一人前って考え方だからな。ちゃんと考えとけよ」
「わかってるって。それより、本題に入りたいんだけど」

 微妙に旗色が悪くなりそうだったので、強引に話を打ち切って友希はそう切り出した。

「ああ、そうそう。なんか相談したいことがあるんだって?」
「うん。……その前に、酒でも出す」

 ちゃんと給料が支給されるようになって、友希の部屋には酒棚が置かれていた。
 強い酒が好きだった親友の影響で、彼もそれなりに嗜む。

「おいおい、酒入れるのかよ」
「……ちょっと、シラフじゃ話しにくい」

 相談したいことがある。
 そう頼んで、わざわざ来てもらって悪いが……酒の力を借りないと口に出せそうになかった。それほど荒唐無稽な話なのだ。

 友希が、別にふざけているわけではないと光陰も気付いたのか、嘆息して一つ注文した。

「どうせなら、いいやつ呑ませてくれよ」

























 トクトク、と琥珀色の液体がグラスに注がれる。
 指二本分を注いだ後、友希はグラスの上に掌を掲げた。

「『アイス』」

 空間の水マナを集める。
 不格好ながら、ピンポン玉大の氷が形成され、グラスに投入された。

「……変な魔法覚えたな」
「イオに教わったんだよ。水とか氷とか作る魔法。便利だぞ?」

 イオの神剣と友希の神剣が近い性質を持っていたおかげかもしれないが、彼女の操る生活魔法を友希は習得できた。
 今は二つだけだが、実生活だと色々と便利そうなので、時間のあるときに教わろうと思っている。

 自分の分も同じように用意し、まずは乾杯。

「んじゃ、この平和と仲間と……麗し、の、女王陛下に」
「乾杯」

 ガロ・リキュアの乾杯の決まり文句。麗しの、というところで今日の所業を思い出して友希は一瞬躊躇したが、グラスを掲げた。
 チーン、と甲高い音が響き、グラスの中の酒の水面を震わせる。

 つまみのドライフルーツを一つ。果肉の甘みが口の中に残っているうちに、一口酒を含んだ。

 果物の甘みと、酒の甘みが一体となってふわっと広がり、鼻から香気が抜けていく。
 ……旨い。

「お、注文通りいい酒だな」
「ああ。まあ、結構高かったけどな」

 しばし、友希と光陰は無言で酒を堪能する。
 そうして、二杯目に入った頃、ようやく友希は話を始めた。

「今、僕、陛下に頼まれて永遠戦争のことを纏めてるんだ」
「? ああ、知ってるが。俺も合間合間にやってるぜ?」

 大陸全土を巻き込んだ戦争……今は永遠戦争と呼ばれているその戦争について、レスティーナは後世にその歴史を残そうと一つの本にまとめようとしている。

 それも、民や政治家、貴族、スピリット、エトランジェ……ラキオスは勿論、かつての敵国のものまで含めて、様々な視点からの記録や当時の思いを纏めた一大資料だ。
 決してガロ・リキュアに阿ることなく、当時の立場で素直に書くこと……と厳命されており、後の時代において貴重なものになることは間違いない。

「勝者だってのに、豪胆なことだよな。……で、それがどうかしたか?」
「ちょっとな……色々、おかしいんだよ」
「は?」

 友希は立ち上がり、作業机の上に置いてある資料を取って戻る。

「これ、参考にしようと思って写してきた、旧ラキオスの戦闘詳報。簡単にまとめたやつだけど」
「あ、ああ」
「目を通してみてくれるか?」

 一つの戦いにつき、一枚、二枚程度にまとめたものだ。
 多少酒が入っているとは言え、目を通すのに十分もかからない。そもそも、光陰も見たことのある記録をまとめただけだ。

「読んだぞ」
「……光陰はそれ見て、どう思った?」
「どうって……そうだな。まあ、サーギオスんときは俺も参加したけど、改めて見るとよくもまあこの戦力で勝てたなあって」

 記録を見ればそれは一目瞭然だ。
 事前の戦力情報だけを見て結果を予測しろと言われれば、ほぼ全ての戦いでラキオスの敗北以外の未来が見えない。

「そこなんだよ。僕がどうしても引っかかってるのは」
「そうなのか? そりゃ確かに、奇跡の連続って言われたらそうだが……でも、実際に勝ってるんだろ」

 そう、勝っている。
 例えば、ラキオスが戦争を始める重要なきっかけとなったリクディウスの魔龍の討伐。

 当時の記録によれば、向かったのはなんとエスペリアとオルファリル『だけ』だった。
 友希は実際には魔龍と対峙していないが、過去の記録によれば数十人のスピリットの部隊を蹴散らしたこともあるという。

 常識的に考えて、いくらエスペリアが北方屈指のスピリットだったとは言え、訓練を終えて間もないオルファリルと二人で勝てるわけがない。
 『何者かにつけられたと思しき傷』があったため勝利できたとのことだが……一体誰だというのだ。

「バーンライトとダーツィの戦いも。いくら魔龍のマナがあっても、当時のラキオスじゃバーンライトに勝つか負けるかで……勝ったとしても、そこで殆ど力尽きてるはずなんだ」
「そりゃ数字上はそうだけどよ。戦いってそれだけじゃないだろ。こんだけ規模がデカけりゃなおさらだ」

 練度、補給、士気、地形、天候、時の運。戦いを左右する要素は無数にあり、その全てがラキオスにとって有利に働けば、こういった結果もありえなくはない。
 なにか、よくわからないことに拘泥している友希に、光陰は困ったような顔になる。

「そう、だよな。そのはずなんだよ」
「まだなにかあるのか?」

 北方五国の戦いの終盤でラキオスに合流した友希は、ここまでの戦いについては記録でしかしらない。感じた違和感も、気の所為と言われれば否定できるものではない。
 ……しかし、実際に体験したことであれば、また話は違う。

「悪い、光陰。これから、すごい失礼なこと言う。怒るのも無理はないし、話を切り上げてくれてもいい」
「なんだよ、改めて」

 友希は光陰をまっすぐ見て、その問いを発した。

「光陰、僕は……お前と、今日子に、勝ったんだよな」
「今更かよ。あれ、結構凹んだんだぜ」

 マロリガンの末期戦。マナ消失を引き起こそうとしたクェド・ギン大統領を止めるため、友希はスピリット隊を率いて首都マロリガンに進軍し……立ちはだかった光陰と今日子と戦い、勝利した。
 それは確かだ。記録にもそうあるし、その記憶もちゃんとある。

 しかし……現実感がまったくない。必死になって戦い、光陰を下し、今日子を『空虚』の支配から解き放った。……確かにそのはずなのに、実感がほぼないのだ。
 まるで、そう書かれた出来の良い物語を読んだだけのような。

「おいおい。確かにヒデェな、そりゃ」

 光陰からすれば業腹だろう。自分が負けたことや友希に今日子を救われたことも悔しいのに、それをした相手はそんなことをした自覚がないと言う。
 友希は、ブン殴られることも覚悟の上の発言だったのだが、意外にも光陰は深く考え込み始めた。

「でも、そうだな……」

 光陰の顔にも苦いものが浮かび始める。

「今の今まで、まるで違和感なんてなかったが……改めて指摘されると、そうだな。俺も、お前に負かされたって気は……あんまりしないな」

 初めて気付いた、戦いの記憶の空虚さ。友希との死闘が、今思い返すと書割めいた薄っぺらいものに思える。
 断じてそんなものではなかったはずなのに、成る程、これが友希の感じているものかと、光陰は理解する。

「特に、あの時は戦いに関わってた人数が少なかったからわかりやすい。防衛施設もなしになにをどうやったら、お前ら二人に、当時のラキオス隊が勝てるんだ?」

 そもそも、全力を出したエトランジェに対抗できる者がいないという理由で、ほぼ友希が一人で前線に出ていた。あれで勝てたのは、おかしいを通り越してありえない。

「まあ、話はわかった。俺は、お前との戦い以外じゃ実感はないけどな」
「全部ってわけじゃないけど、戦いのそこかしこでこんな感覚なんだよ。怖いのは、改めて戦いの記録見ないと、まるで気にならなかったってことなんだ」

 今回の本を作成するために記録を調べて、血の気が引いた。
 なにか、得体の知れないものに触れたような焦燥感。それに突き動かされ、友希は空き時間の殆どを使って資料を読み漁ったのだ。

「しかし、なあ。お前の言う通り、俺達の記憶が改竄されているとしてだ。……誰が? なんの目的で? ていうか、そもそもどうやって?」
「それがわからないから困ってるんだよ」
「だよなあ。明らかに、スピリットやエトランジェができるレベルじゃねぇし」

 記憶を操作する特殊能力を持った神剣……そういったものも、あるのかもしれない。
 しかし、あの戦争には文字通り世界中の人間が関わっている。主要な関係者に絞っても、その全員の記憶を改変するのは非現実的だ。

「できるとしたら、神様とかか?」
「神様、かあ」

 『神』剣とは言うものの、生憎とそこまでの力を持った永遠神剣など心当たりはない。

 ……いや、四神剣を統合して、一つになろうとしていた瞬の剣だけは、ともすればそのレベルの力を持っていたかもしれないが、あれは完成前に友希が破壊している。これは、間違いなく確かな記憶だ。

「まあ、しかしだ。腑に落ちないところはあれど、こんなもん誰かれ構わず言うなよ。おかしくなっちまったとでも思われるぞ」
「わかってるよ。だから、最初に光陰に相談したんだ」

 あの戦争のことを肌で知っており、頭が回り、冷静に物事を考えられる。それは、光陰を置いて他にはいなかった。

「ならいいんだが。……しかし、妙だった、ってことがわかったところで、出来ることはないんだよな」
「……それもわかってるよ」

 記録や記憶が不確かだと感じるからと言っても、今の平和が偽りなわけがない。
 友希の座りが悪いと言うだけで、それだけであの戦いの全てを否定するようなことを主張できるはずもなかった。

「とりあえず、誰かに話してみたかったんだよ。……案外、本当に僕がちょっとおかしくなったのかも、と思ったしな」
「そういう奴は、もうちょっと言動が変になってるもんだ。お前さんは正常だよ。それにこれは俺の勘なんだが」

 光陰は少し勿体を付けて、一つ付け加える。

「……別に、記憶が変だからって、心配する必要はないと思うぞ」
「まあ、な」

 友希も知りたい、知らなければならないという強迫観念こそあったものの、隠れているものが悪いものではないという確信だけはあった。

 ……どうにも、あの戦争が終わった後から、忘れていた夢がふっと浮き上がるような、そんな変な記憶が交じることがある。
 いつかは思い出さなければならないそれ。この戦争の妙な感覚はそのヒントになるとわけもなく確信している。

 ……が、今はこれ以上はどうにもならないようだった。

 光陰に話をすることで、大分気が楽になった友希は、グラスに残った薄まったアカスクを一息に飲み干す。

 それが区切りとなり。
 その話は一旦お開きとなった。

 そして、ふと思い出したように光陰が言う。

「そっちはそっちで調べるのもいいが、再来月からの例のプロジェクトも忘れんなよ」
「ああ……龍の爪痕の向こうを探検するってやつか」

 表面上、ガロ・リキュアはほぼ落ち着いてきたが、それでもいくつかの問題がある。
 新たな資源や別の国家との接触により、それが解決できないかと、今まで未知の領域であった世界の断絶……龍の爪痕を越えて探検に行こうという、壮大な計画だった。

「……ロティに任せるってのは、ちょっと驚いたけど」
「仕方ねえだろ。俺もお前も、動けやしないんだから」

 そんな大事業の前線部隊の隊長を、今だ若年のロティ・エイブリスが務める事となったのは、異例の抜擢と言っていいだろう。

 しかし、これにも勿論理由はある。
 これまでのファンタズマゴリアからすると、まったく知られていない土地の探索だ。必然、危険が伴う可能性が高く、厳然たる事実として、人より圧倒的に戦闘力に優れているスピリットが部隊の中心となる。
 それも、飛んでいくフネの積載量の関係上、そう大人数は乗せられない。ヨーティアをリーダーとした研究者チームも乗り込むのだから、十数人が限界だ。

 ……と、なると、大戦でも練度の高さに定評のあった旧ラキオス隊を再結集するという話が持ち上がったのは、当然の話である。
 実際の所、引退して随分と経っているのだから、ハリオンのような引退者に比べると、現役のスピリットの方が既に実力的には上だ。

 しかし、これは大きな国家事業であり、国民向けのアピールの場でもある。
 世界を救った部隊が、未開の地に乗り出す――この宣伝効果はデカイ。

 引退した連中を引っ張り出すのだから、当人たちが拒否すればその時点で立ち消えになっていた話が、意外にも引退者のほぼ全員――具体的には、学業が半端なく忙しいオルファリルを除いた全員――が了承し。

 ……かくして、救世の部隊が復活することとなった。

 しかし、彼女たちを指揮できる人間がいない。
 生憎と、友希や光陰は単体で知名度が高すぎ、しかもラキオスの戦力の要中の要である。動かせない。エスペリアはレスティーナの補助として代えが効かないし、ウルカは自分が華々しい探検隊に参加するなど、と頑なに固辞している。

 なら人間で有能な指揮官を……と言っても、スピリットの隊長は、実際の指揮能力よりも、いかに彼女らのやる気を上げるかのほうが重要だ。絶対的に、共に戦えはしないのだから。

 ならば、既に数少ない現役ラキオス隊のヘリオンらから信頼を集めており、人格的にも問題のないロティでいいだろ、と光陰が当然のように提案し、今や訓練士の総責任者に収まったロティの師匠、ミュラーがそれを後押しした。

 ――散々それっぽい理由をこねくりだしてみたが、後者二名の推薦がデカすぎた。師匠であるミュラーはともかく、光陰は余程彼を買っているらしい。まだ能力的に不足なところはあれど、この事業を乗り越えることで今後のガロ・リキュアの中心人物となることを期待しているようだ。
 光陰ほど人を見る目に自信のない友希は、良い奴だとは思えど、そこまでの大物であると感じ取れていなかったが。

「今日子も行きたがってたけどなあ」
「……妊婦が行けるわけないだろ。もう三ヶ月だっけ」

 なお、ついこの間まで参加者に名を連ねていた今日子は、先日妊娠が発覚し、あえなく除名と相成った。

「まあ、いくらなんでもエトランジェが必要な事態にはならないだろうし」
「友希……お前、それフラグだぞ」
「なにがフラグだよ」

 三杯目のアカスクを舐めるように呑みながら、光陰と共に笑いを漏らす。

 ……色々と悩みはあれど、こうして友達と酒を酌み交わす余裕がある。
 誰かに、ありがとうと、そう伝えたい気持ちだった。




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