重→性別反転。
良也さんってさん付けなら男女どっちでも使えるよねという唐突な思いつきの産物。
一人称、名前はそのまま。
苦手な方は戻る推奨。



この先地雷原

















今日も良也さんと一緒に里へ買い物に来ている。
夏のせいか、彼女の顔は若干赤い。
それでも能力で汗はかいていないようだけれど。

親しかった友人と恋仲になるというのは不思議なもので。
良也さんの行動や格好への注意は以前と変わらず心配からくるものだけれど。
心配の内容も変わっている訳で。

「あの、良也さん」

どうかしたのかと、こちらを見る彼女の格好はずいぶんと身軽だ。

「シャツにジーンズだけという格好はやめて欲しいのですが」

「どうして?夏だし、これくらいでもいいと思うけど」

本人は周りの視線など気にした風もなく歩いている。
そういった面も好ましいとは思うがやはり慎みというものも…
などと考えていると彼女が

「僕だけ涼しそうな格好がずるいとか?妖夢も半袖にするだけじゃなくて、もっと涼しそうなものを着ればいいじゃないか。」

お前らの格好は季節感があんまり無いよなあ、とそう言って笑いながらこちらを覗き込んできた。

「いえ、そうではなくて…」

なんとなく、はっきり言うのが気恥ずかしくて言葉を濁す。
というか近いです。
若干顔が赤くなる。

若い女性が薄着で歩いている、というのに問題があるんですよ良也さん。

美人というのであれば吸血鬼の従者や風祝など、里に訪れる者の中にも多くいる。
ただ、彼女達は里の人間からしてみれば遠い存在だ。好意を持ってもいわゆる"憧れの女性"でしかない。
しかし良也さん。
彼女は里の人間と近いのだ。
不死、不老、魔法など、人からかけ離れている面は滅多に里では見られない。
里で見る彼女は、気のいいお菓子売りである。
誰であっても友好的であり、話しかけやすい。
他の面子と違い、里の人間にとっては少し強い"人間"でしかない彼女は、憧れの女性よりもより近い存在となっているのだ。

あーだこーだ考えたが。
つまり。
悪い虫が寄ってきては困るんです。
…うん。

黙っていたら。

「ならこうすればいいじゃない」

そう言ってお互いの間にある一歩の距離を半歩に詰めてきた。
そして感じるのは冷たい空気と、より強くなった彼女の存在感。

「どう?さっきまでより冷たいから顔も冷えるだろ」

この人はたまに分かっていても分かっていない愚鈍のふりをする。
今回もその例だ。

私の動揺に気付いての行動だろう。顔がニヤニヤしている。
調子に乗りやすいのは彼女の欠点だが、まあいいかと思えるのは彼女の美点か、自分がまいってしまっているからか。

「からかってますね?最近は分かるようになってきたんですから」

そう言うと

「あはは!その通り!」

でも防げないようならまだまだだね、そう言って楽しそうに笑う。
その顔を見ているとこちらも自然と笑っていることに気が付く。

自分が笑うことで気が付く、行きかう人々の顔。
楽しそうに談笑する人、赤子を泣き止ませようと困り顔の人、真剣な表情で品物を吟味する人。

修行ばかりの生活では見えてこなかったモノ。
余裕を持つとはこういうことなのだろうか。
彼女の世界の中にいると新しいモノが見えてくる。
だからこそ、惹かれたのかもしれない。

涼しく居心地のいい空気に包まれながら二人で里を周る。

あそこは昼前に行かないとすぐに混むんだ。
ここの通りは芸をみせる人達がよく集まるんだ。たまにアリスも見るね。
あそこの店は夕方だけ開いてる店で、妖怪が結構来るんだ。慧音さんもときどきチェックしてるみたいだね。
あそこの家はこの間子どもが産まれたんだ。産気付く前に永遠亭に妹紅が連れて行ったんだけど、ずいぶん親父さんに感謝されて戸惑ってたよ。
などなど。

にこにこしながら楽しそうに説明する。
白玉楼では私がいろいろ教える側だが、こちらではもっぱら教わる側だ。
彼女は相も変わらず縁に出会い、縁を繋いでいるのだろう。
本来交わることの無い線を、交わらせることができるのは彼女の能力か人柄ゆえか。
こういったことは尊敬できる点である。

ただ。

「まあ、里のことなら妖夢より詳しいと思うしね」

お姉さんに任せなさい。あっはっは!
などと言ってこちらの頭をぽんぽん叩くのはやめて欲しい。
ああもう!口にせよ心にせよ褒めた途端にこれですね!

彼女は度々こちらを年下扱いしてくる。
確かに彼女の方が背は高いが年齢ではこちらの方が上なのだ。
今までは気にしなかった自分の身長と変化の少ない体を、少しだけ恨めしく思う。
せめて同じ高さの視線になれば。
うむむ。

そんなことを思いつつ、あちこちの店をぶらぶらする。
幽々子様へのお土産もすでに入手済み。
今はこの時間を楽しむべきだが。

ただ、気になることが一つ。



「おう、土樹。外の肴もうまかったぜ。また頼むよ」

「よ!また今度飲みいこうぜ」

「お、こんにちは。どうだい、うちの息子が迷惑かけてないかい?」

「わーい!」

さっきから話しかけてくる男衆が多くないですか?
いえこどももよく話しかけてきますしよじ登ったり抱きついたりその無邪気さがうらやましいとかありませんええホントウですよ。
年配の方もいらっしゃいますが息子の話がちょくちょく出てきて魂胆が見え隠れ。

これは少し注意しとくべきか。
うむむ。

………。

えー、あー

「…最近また異変に首を突っ込んだそうですね?」

「なんだ?いきなり」

「いえ…」

「まあ、それはいつものことだし…」

まあいつものことですね。いや違う。注意したいのはこれじゃなくて

「いつものことになってしまっているから言ってるんですよ。その上遅くまで外で飲むことも多いですし」

「いやあ、だって里の連中ともたまには飲みたいし」

「飲むのは構いませんが、ふらふらになるまで飲むのは良いとは言えません。帰りに襲われてしまいますよ」

「まあそれでも一応妖怪に襲われたことはないし」

「いえですから…」

違うんですって。

「あれ、もしかして心配してくてれる?」

彼女が再びこちらを覗き込んでくる。
その目はあきらかに笑っており、さきほどの反応を面白がっての行動だろう。
今回もわかってて言ってますね。
調子に乗りやすいのは彼女の欠点だ。まったく。

まあいい。
調子に乗っている彼女を諌めるのは自分の役割であるし。
たびたびこちらを年下扱いしてくる彼女に少し仕返しをしてやろう。

お互いの間にある半歩の距離を零に詰める。

そして。

「ええ、心配ですよ。す…好きな人が怪我をするのも、悪い虫がつくのもね」

若干顔が赤くなっているのを自覚しながらも、彼女の顔をまっすぐ見ていってやった。

すると彼女はキョトンとした後、目を大きく開き口をパクパクさせた。
彼女の顔を赤くさせたのが、夏の暑さではなく自分の言葉であることに満足。
いまだに激しく動揺している彼女を置いて先に行く。



あなたは彼女と会って少しずつ変わってきている。
幽々子様以外にもよく言われる言葉だ。
この変化がいいことなのか悪いことなのか。
判断はできないけれど。
ただ、快いと。


お前そんなキャラじゃなかったよね!よね!暑さでやられた!?

とかのたまう彼女の声をBGMに思うのであった。















書いてて思いましたけどあんまり変わって無いですね。
ただ妖夢側は身長を気にしたり、話しかけてくる男友達にはらはらしたりと変化はある(と思う)のですが。
身長を気にする妖夢さんが書きたかったのです。
反転させると別に立場や関係が変わって無くても、もてているように見えるから不思議ですね。
そのように見えたらそれは妖夢アイのおかげです。

では、読了ありがとうございました。



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