東方萃幻想 〜第4話 過去〜


 「紫、出てきなさい!」

 
 霊夢が森に向って叫んでいる。しかし、まったく反応はなく森は静かなものだ。
 本当にあの妖怪はいるのか?


 「さすがは霊夢ね」

 「うわぁ!」

 「あら?そんなに驚いてどうしたのかしら?」

 「誰だって気配もなしに後ろからいきなり話かけられたら驚くだろ!!」

 「私は霊夢に話しかけたの、あなたには何も言ってないわよ?」

 「……そうすか」

 
 駄目だ、何言っても切り返される気しかしない。
 それにしてもなんてやつだ、なんにも気配を感じなかった。
 たぶん能力を使っているんだろうな、なんて有用性、もとい無駄に使い勝手がいいんだ。

 
 「で、紫?こ・れ・は・いったいどういうことなの?」

 「なんのことかしら?」

 「とぼけるな!あんたが連れてきたんでしょこの人は」

 「さすが霊夢ね」


 紫は霊夢が何を言ってもどこ吹く風、というように澄ましている。
 反省とかは絶対にしない性格じゃないだろうか……絶対しないだろうな。
 

 「それはさっきも聞いたわよ、いいからさっさと説明しなさい」

 「そうだな、俺も説明してもらいたいなそれは」

 「仕方ないわね〜わかったわよ、でもその前に移動しましょうか」

 
 移動ってどこにいくんだろうか?嫌な予感しかしないんだけど。
 そして俺の嫌な予感はよくあたるってことで……

 
 「って、やっぱりなーーー!!!」

 
 紫が楽しそうに、霊夢が憐れむようにこっちを見ているなか、俺は足元に現れた隙間の中に落 ちた。(正確には落とされた)
 期待をまったく裏切らない展開でなにより。
 裏切ってほしかったけどね!
 

 「うわっはぁーーーー!!!」


 あぁ、まったく為す術がない……今度はどこに連れて行かれるんだか。


 












 〜霊夢side〜

 翡萃は紫のスキマに落ちて行ってしまった。
 紫が相手だから予想は出来たけど。


 「いいの?あれ」

 「いいのよ、頑丈だから………おそらく」

 
 なんとも信用できない言葉と笑顔だ、普段もだけどね。
 紫が真面目になるなんて異変ぐらいしかないんじゃないかしら。
 少なくとも私は異変でしか見たことがないわね。

 
 「はぁ、やっぱりあの人は運がない人なのね」

 「そんなのことよりも行きましょうか、霊夢」


 やっぱり翡萃は憐れね。

 
 「……どこにつなげたのよ?」

 「博麗神社よ」



 そう、紫が言ったのを合図に私たちもスキマを通って神社に向かった。
 人のいなくなった魔法の森は再び静寂に包まれていた。
















 〜main side〜

 「うわぁーーーーーー!!!!」

 
 どすーん!!

 
 つ、ついたようだな。
 それにしても、紫の送迎にはアフターケアはないんだろうか。
 いや、期待するだけ無駄だろうけど。
 

 「神社、か?」


 どうやらここは神社のようだ、幻想郷にも神社ってあるんだな。
 とても厳格な、それでいて人を寄せ付けるような不思議な雰囲気のある建物だ。
 ただ、その割には人がいる気配は感じないけど。


 「そのとおりよ」

 「………二度は驚かないぞ」

 
 またしても気配を消して後ろからあらわれやがった。はやりなんだろうか?
 正直、いいかげんにしてほしい。
 

 「ここは博麗神社よ、で私がここの巫女」


 博麗神社か、霊夢の苗字も博麗だったしだいたい予想はしていたけど……
 こんなところで霊夢は一人で住んでいるのか?

 
 「あ、霊夢やっぱり巫女だったのか」

 「巫女以外になんかあるの?」

 「いや、ただのコスプレかと思っていたから」

 「コスプレ?あぁ、なんか良也さんが言ってた気がするわね。服装を真似する遊びだかなんだ か」


 良也とは誰だろう?霊夢の兄弟かなんかかな。
 それとも恋人だったりして……


 「まぁ、いいわ。母屋へいきましょうか」

 

 


 「さぁ、上がって頂戴」

 「……なんで紫が言うのよ、まったく」

 
 いきなり生活感あふれる感じになったな、親しみやすくていいけど。
 さっきの博麗神社の雰囲気もいいけど、こっちの生活感あふれる空気を出している母屋の方が 俺にはあっているようだ。

 
 「おじゃましまーす」

 「邪魔するなら帰ってくださる?」


 まったくコイツは……


 「ただのあいさつだろ!通過儀礼!」

 「もう、何やってるのよ早く上がりなさい。二人とも」

 
 霊夢に呆れられてしまった。
 紫が絡んでくるんだから仕方ないだろう!ったく、説明される前に疲れたな。
 おそらくその説明でもっと疲れるんだろうけど。
 
 
 「ふーん、居間は普通だな、割と。少し昔な感じの落ち着いた和室って感じか」

 「翡萃はいったいどんなのを想像していたのよ」

 「いや、神社の母屋なんだからなんかこう、神々しい的な?」

 「そんなのだったら毎日が疲れるでしょ」

 
 まさに仰る通りで。
 

 「で、紫?早く説明してちょうだい」

 「もう、わかったからそんなにあせらないの」

 「あせるなって言われてもこっちは命がかかっているかもしれないからな、早くしてくれ」

 「はいはい、わかったってば。では」


 そういうと紫はようやくまじめに話す気になったようで胡散臭い笑みが消えた。
 なんか、かってに姿勢を正してしまうようなそんな空気まで醸し出している。
 こいつ、ホントはかなりすごい奴なのかもしれないな……


 「まず翡萃を幻想郷に連れて来たのは確かに私よ、そしてそれには理由があるわ」

 「理由?」「理由?」


 思わず霊夢とシンクロして聞き返してしまった。
 それにしても理由とはなんだ?俺を異世界に連れ込むなんて俺自身にはまったく身に覚えがな いぞ。


 「それは伊吹家の過去というか、正確にはあなたのおじいさん、一色さんが関係してくるの」

 「俺のじいちゃん?」


 いしきじいちゃんがなんで、一体どうゆうことなんだ?


 「なんで翡萃のおじいさんが関係しているのよ?」


 霊夢が俺の思っていることをズバリ聞いた。
 割とずばずば物を言う性格なのかもしれない。


 「いいから聞いていなさい。一色さんはね、妖怪を殺すことを生業としていた人間だった。今 風にいえば妖怪ハンターって感じね」

 「………は?」


 おもわず素で返してしまった。霊夢も少し驚いているようだ、少しだけど。
 それにしても、じいちゃんはそんなことをしていたのか。
 確かにとても元気な人だったけど、身内にそんな人がいたといわれても実感はできない。
 
 あ、霊夢もう回復してる。


 「じいちゃん………でもそれがどうしたんだ?」

 「昔、とある日、一色さんは一人の妖怪の退治を頼まれたの、裏の山に凶暴な妖怪が住み着い たから退治してくれってね。で、一色さんはさっそくその山に向かった。けど……そいつは一 色さんの手に負えるような奴じゃなかった」


 手に負えないって言われてもじいちゃんがどれぐらい強かったのかわからないからな、想像が まったくできん。
 それにここまでの話が俺に関係しているとも思えないんだけど。


 「一色さんは殺されかけた。その妖怪によってね、でもその時に偶然同じようにその妖怪を退 治しにきた“妖怪”がいたのよ」

 「妖怪を退治しに来た妖怪?」



 妖怪が妖怪を退治するなんて、俺の妖怪の知識はまったく当てにできないみたいだな。
 退治するって事は、妖怪にも決まりとかがあるのだろうか?
 それを破ったから成敗!みたいな感じとか。


 「まぁ、その妖怪をその山に行かせたのは私だけど」

 「お前かよ!!」

 「紫ならありえるわね、で?誰を行かせたわけ?」


 霊夢はクールに対応している!
 その冷静さを少し分けてほしい、3割ぐらい。


 「萃香よ」

 「スイカ?」


 なんだかおいしそうな妖怪だな、野菜とかそこらへんの妖怪なんだろうか?
 
 霊夢がなんだか呆れたような表情をしている。
 もしかしてまた心が読まれたのか?
 俺の周りにいる人はすべて俺の心が読めるんじゃないだろうか。


 「あなたが想像しているのはありえないわよ。萃香は私の友人………“鬼”よ」

 「!?」

 
 …………なるほどね、そういうことだったのか。


 「どうしたの、翡萃?」

 「思うところがあるようね、おそらくあなたが考えていることは概ねあっているはずよ」

 
 この口ぶりからすると、俺の正体はバレバレなわけね。

 霊夢は頭の上に?が3つほどでてるな。首までかしげている。
 正直、かわいい。

  
 
 「続けるわよ?それで一色さんは萃香の加勢によりその妖怪を封印することに成功した。でも 一色さんはすでに死にかけていた……。それを、萃香が助けたのよ」


 妖怪が人間を助けるなんて、そんなことがあるのか?
 俺の常識とかがまるっきり通用しないみたいだな。


 「賭け?なにをしたの?」

 「自分の血を飲ませたのよ、鬼の血をね」

 「……それはまた無茶なことをしたのね」

 「でも、仕方なかったのよ?普通の人間ならすでに死んでいるぐらい怪我は酷かったのだから  」


 普通の人間なら死んでいるレベルの怪我ってどんなだよ……
 それにしてもよく話がわからないな、霊夢は理解しているみたいだが。
 聞いてみるか。


 「霊夢、どういうことだ?」

 「わからないの?つまりね、妖怪の血なんて人間にとってみれば猛毒のようなものなのよ。そ れを萃香は飲ませたってわけ、わかった?」


 俺は外の人間だってことをすでに忘れているのだろうか?
 いや、外の知識がないだけか。


 「わかったけど……猛毒って、それじゃ止めをさすようなものじゃないのか?」

 「いいえ、最初に言ったとおり一色さんは妖怪ハンター、つまり普通の人間よりも霊力がある のよ。だから上手くいけば妖力と霊力が混ざり合い反発し、妖力が力に合わせようと無理やり 体を変化させようととするのよ」

 
 気のせいだろうか?止めさすより悪いことになっている気がするんだけど。
 それにこれはもしかして……


 「もしかして妖怪化ってことか?で、その妖怪化の最中に細胞を変化させるってのを利用して 傷を直そうとした」

 「正解、そのとおりよ」


 やっぱりな、それにしても


 「妖怪化か………」

 「翡萃?」

 
 霊夢に不審がられているな、とりあえず落ち着かなければ。


 「……なんでもない、でどうなったんだ?」

 「助かったわよ、しかも驚くことに一色さんは妖怪にはならなかった。もちろん半妖にもね。 これには萃香も驚いてたわね、『まさか“私の”妖力をすべて抑え込むとは思わなかったよ  』ってね」

 「抑え込んだの?あの鬼の妖力を?………化け物ね、その一色さんは」


 霊夢がかなり驚いているけど、そんなにすごいことなのか?
 大体俺には妖力の強さとか理解できないしな。


 「私も驚いたわ、でももっと驚くことが起きたのよ。一色さんの孫にね」

 「……………」

 「驚くこと?(孫って翡萃のことよね)」

 「そうよ、生まれたばかりのその孫は妖力に侵されていた。半分だけね」

 「……え?つまりそれって」


 霊夢も気づいたみたいだな、ここからは俺が説明した方がいいだろうな。
 紫もこっちを意味ありげにみているし。


 「霊夢の思っているとおりだよ、俺は………半分妖怪だ、その証拠に」


 俺は人前では絶対に取らないようにしていたニット帽を取った。
 そこには、人間には存在しない“角”があった。
 ちっちゃいけど。

 
 「どうだ、驚いただろ。ってあれ、あんまり驚いてない?」

 「……角?でもなんだかちっちゃくてかわいいわよ?」


 聞いていませんね、ハイ。
 霊夢は角があることよりも小さいことが気になるみたいだ。


 「霊夢、それは翡萃の妖力が封印されているからよ」

 「封印?」


 本当に何もかもお見通しみたいだな、紫には。
 でも俺は封印についてはほとんど知らない。なんか子供の頃からされていたし、とくに気にも しなかったから親にも聞いてないんだよな。
 後で紫に聞いてみるか。

 

 ってか、俺の恥ずかしい過去とかも知っているんじゃないだろうか?

 

 「知っているわよ、翡萃」


 ………終わった。何かが俺のなかで弾け飛んでいった。


 「??」

 「霊夢は気にしないでくれ、こっちのはなしだから」

 「そう、あまり触れられたくないなら聞かないけど」


 なんだか霊夢が誤解しているような気がするけど助かった。
 霊夢の勘は侮れないみたいだから気をつけなければ。


 「あのね霊夢、翡萃ってば昔幼なじm「それで!!」……ッチ」

 
 あぶなかった。
 いきなり何をいいだすんだこいつは、油断も隙もない。
 とりあえず後で何か仕返しをすることに決めた。


 「俺が半妖だとなんでここに連れてこられなきゃいけないんだ?いままで特に変わったことは なかったが」

 「あるでしょ、妖怪に襲われたことが一度だけ、しかも軽く封印が解けかけた状態で」

 
 だからなぜ知っt(ry


 「……たしかにあったけど、それが?」

 「あなたの封印が解けかけた時に漏れた妖力を察知してあなたはかなりの数の妖怪に狙われて いたのよ?気がついていなかっただろうけど」

 
 まったく気付かなかった。
 俺は鈍感なんだろうか?


 「人気ものね、翡萃」

 「うるさい霊夢」

 
 霊夢にも後で何か仕返しをしてやろう。
 で、それで?という顔を紫に向けると。

 
 「だから、萃香の妖力が元ということで助けてあげたのよ。感謝は言われども文句を言われる 筋合いはないわね」

 
 こんなのことを言いやがりました。
 いや、せめて向こうでそれを説明しろよと。


 「妖怪に常識は通用しませんことよ?」

 
 こいつはこういうやつだったな、いままで真面目にしゃべってたから忘れてた……。
 あれ?なんだか霊夢が真剣な顔をしているな、今の話に気になることでもあったのか?


 「なるほどね、一応理解はしといてあげるわ。しかたなかったようだしね、でも紫?私をパシ リに使ったんだからわかってるわよね?」

 「1週間3食藍に作らせるわ」「しかたないわね、許してあげるわ」

 
 そんなことを考えていたのか。
 それにしても、落ちるのはやいなーおい。
 しかもよく思い出すと紫は藍とかいう人に作らせるつもりだし。でも下手につっこむとこっち が痛い目にあいそうだからすまない藍さん、俺は無力です。


 



 


 〜人妖雑談中〜






 
 
 「ところで俺はこれからどうすればいいんだ?」

 
 この世界に俺の家なんてあるはずもなくどうすればいいか疑問に感じたので、俺は紫に聞いて みた。

 
 「さぁ?」

 「いや、さぁ?って、責任もてよ!!」

 
 こいつにはやはり常識は通用しない。
 そういう前提で話をしないと疲れるな。


 「……言っとくけど、家に住ませるのは無理よ。もう良也さんがいるもの」

 「良也さんって?」

 「あなたと同じ外来人よ、でも良也さんは能力のおかげでこっちと外と自由に出入りができる の。だから今は外の世界の大学?とかいう所に言ってるわ」

 「ふーん。なんかすごい人みたいだな」

 「ないわね、それは」「ありえないわ」

 
 二人で同時に否定したよ。そんなに駄目な人なのだろうか?
 外とこっちを行き来ってすごいとおもうんだけどな。


 「で、俺はどうすれば?」

 「紫がなんとかしなさいよ」

 「…………仕方ないわね」

 「お?」

 「家に住ませてあげるわ、私が連れてきたんだしね」


 なんだかいきなり優しくなったな、………あからさまにあやしい。
 一体何を企んでいるんだ?
 

 「そこまで素直なんて、怪しいわね」

 「あら、何を言っているの霊夢?私は優しいのよ?(これでしばらくは暇がつぶせそうね)」

 
 (自分で優しいとか言ってる時点でダメだろ)
 まぁ、罠だとしても俺には選択肢はないんですけどね……


 「住ませてくれるっていうんならその好意はありがたく受け取っておくよ、ありがとう」

 「ふふ、どういたしまして。じゃあさっそく家へ行きましょうか、霊夢、お邪魔したわ」


 もう行くのか、思い立ったら即行動するやつみたいだな、紫は。


 「はいはい、ところで約束は「大丈夫よ」待っているわね」

 
 藍さん………。
 あ、そういえば霊夢にお礼してないな。


 「なんだか騒がせて悪かったな、それとさっきは助けてくれてありがとう。感謝してるよ」

 「お礼なら今度形としてもってきてね、あと気をつけなさいよ」

 「あぁ、今度な。じゃあお邪魔しました」

 「はーい」









 


 「で、予想はしていたけど……やっぱり落ちるんだなぁーーーーーー!!!!!」

 「あたりまえじゃない(笑)」

 
 なんだか、最悪の一日だけど起きてしまったことはしょうがない。
 こうなりゃ全部ひっくるめて楽しんでやる!どうやら俺はもう自分の世界には戻れないみたい だしな。


 「おい、紫!」

 「なにかしら?」

 「これからよろしくな」

 「………そうね」

 
 なんだか驚いているな、仕返し成功。
 俺がこんなに早くふっきるとは思わなかったのだろう。


 「楽しませてもらうわ」

 「……お手柔らかにな」

 
 やっぱりよろしくしたくなくなった。
 これから長い時間お世話になるだろうけど。

 
そんなこんなで俺は紫の家に向かった(連行された











 あとがき
 どうも、トルミンです
 今回は翡萃の過去っていうか秘密に触れました。(封印なんぞ?はのちのちに
 まぁ、苗字とかで薄々気が付いていたとは思いますがこういうことですw
 それと、なんだか紫の口調が最初と違うと思った方。霊夢がいるので外向けの丁寧な言葉じゃ なくなったということで理解してください。
 あと名前だけ良也を出させていただきました。今後もしかしたら……
 これからの展開を期待して読んでいただければ幸いです。

 ではまた次回








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