異変発生から四日が経った。

 結局あの後、黒楼剣に操られてる良也が行動を起こすことなくその日は過ぎていった。




(まさか、こんなことになるなんてね・・・)




 まだ重たい瞼を擦りながら、井戸のほうへ向かう霊夢。
 色々考えていたせいでよく眠れなかったのだ。

 冷たい井戸水が意識を覚醒させてくれる。

(夢・・・ってわけじゃないのね・・・)

 寝巻きから普段の巫女服に着替え境内に出る。
 遠方から黒いの人影が見える。黒い時点で、誰かは考えなくてもわかる。

「よう。まだ良也は来てないみたいだな。」
「そんな毎日襲撃されても困るわよ。」

 昨日の紫の話からだと、その可能性は大いにありうるんじゃないか。という魔理沙の返しは無視された。

「魔理沙。あんた昨日紫に聞かされたのに、何とも思わないわけ?」
 

 唐突に魔理沙に問う。

 確かに、紫に事実を聞かされても取り乱すようなことはせず、いたって冷静だった。


「この眼を見ても、そう思うか?」

 ずいっと顔を寄せる魔理沙。よく見ると眼は若干充血していて、その下には隈ができている。霊夢とおなじく寝付けなかったか、下手をすると一睡もできなかったのだろう。

「悪かったわ。」
「わかればいいぜ。・・・それにしても、良也が異変を起こすなんて。まだ信じられないぜ・・・それも幻想郷を消すなんて。」
「私だって信じたくないわ。でも、これは間違いなく事実なのよ」

 戦わなくちゃいけない事もね・・・と小声で呟きながら神社に入っていく霊夢。

「おい、何する気だ?」
「お茶でも淹れてくるわ。どうせ良也さんが行動起こさない限り、私達も動けないんだから。」

 それもそうだな、と霊夢に続いて魔理沙も居間に上がる。











 太陽の傾きを見るに昼時。既に紫、幽々子、妖夢、早苗も揃っている。

「早苗は、良也さんの事はみんなに話したの?」
「ええ、ですが神奈子様も諏訪子様も薄々は感付いておられたようです。」

流石に驚いてはいましたが…と付け足す。

「良也と戦う覚悟はできたみたいね。」

 そんな様子を見て、全員を一瞥する紫。

「まあな。それに、あの刀を壊さなきゃ助けられないんだったら。戦うしかないだろ。」
「あの刀・・・黒楼剣。何故あの中の思念は幻想郷を消そうとするんでしょうか?」

 妖夢が考え込んだ表情で言う。

「そんなのは簡単よ。単なる逆恨みよ、妖忌や幽々子。それに私に対するね。」
「良也を操っている思念はひとつではないのよ。過去に斬ってきた人数分の思念がひとつの人格となっているわ。」
「その中には、武術や剣術の達人・生粋の魔法使いなんかもいたわね。」

 そんなくらいの力を持っている奴等の邪念が集まれば、仕返し程度はするでしょう。
 と、黒楼剣の目的について簡単に話す紫。

 その横で、紫の答えを聞いて疑問に思った魔理沙が声を上げる。

「だったら、なんで昨日良也は逃げたんだ?」

 どんな方法にせよ、幻想郷を消すのならば昨日の襲撃は絶好の好機だったはずだ。
 結界の中心である博麗神社。博麗の巫女。境界の妖怪、と良也の目標は全てそろっている。

「いくら力を持ったとしても、多勢に無勢。敵わないとでも思ったんじゃないの。」
「まだ肩慣らし程度の挨拶・・・という事も考えられます。」

 どちらかと言うと霊夢の推測よりは妖夢の推測のほうが的を射ている。
 紅魔館、そして神社と相手が何人でも襲撃をしているのだから、無勢だとは思っていないのだろう。

「良也さんの相手をしている時に感じましたが、まだ良也さんの身体を支配しきっていないように感じました。」
「なら、先生を戻すなら早いほうがいいということですね。」

 良也の姿を見なくなってから既に一月以上は経っている。時期的に考えれば良也が本格的に活動を行うだろう。




「早苗さーん!」




 慌てた様子で神社に入ってくる犬耳の少女。

「椛さん?」
「ああ、文の所の。どうした?良也でも見たのか?」

 良く見ると椛の服の所々が破れている。これがただの弾幕ごっこの結果ならばどうということはないが、わざわざ人を呼びに行くことを考えれば弾幕ごっこの後ではないのはすぐに分かる。
 
「え?どうしてわかったんですか?」
「説明は後でするわ。今の状況を教えなさい。」
「あ、はい。守矢神社の参拝道で文さんと諏訪子様が良也さんと交戦中です。何やら良也さんの様子がおかしくて・・・どうやら、良也さんは守矢神社が目的のようです。」

 紫に促されて良也との状況を説明する椛。

「みんな!行くわよ!」

 椛の報告を聞くや霊夢と早苗は飛び出していく。
 魔理沙、妖夢、と後に続いて、神社には幽々子と紫が残る。

「今度は守矢の神社・・・ねぇ・・・」
「幽々子もおかしいと思う?」

 紫の確認の言葉に頷いて答える。

「黒楼剣の人格はよほど節操がないのかしらね。」
「意図はまだわからないけれど、良也がいるのなら彼に直接聞いたほうが早いわね。」

 扇子を持っている左手を一振り。境界の穴を作り出す。

「あ、私も連れて行ってよ。」
「あなたならすぐにあの子達に追いつけるでしょうに・・・」

 仕方ない、と言わんばかりに穴を広げる紫。

 この境界の出口は、守矢神社。


















  少女移動中・・・





















「一体あの人は誰なんですか!?」

 弾幕の嵐の中。黒い翼を広げ神風の如く弾を避ける少女。

「さっきも説明したでしょ!?」

 その傍で、同じく弾幕回避に努めるふたつ目帽子を被った少女。

「でも、良也さんってこんなに強くて好戦的じゃないですよ!」
「だから、あれは良也なんだけど良也じゃないんだってば!」

 さっきからずっと同じ問答の繰り返しである。
 帽子を被った少女―諏訪子とて早苗から事情は聞いている、黒楼剣についても知らされているのだが・・・その現場に居合わせなかった諏訪子では、今のような説明が精一杯なのだろう。

 
 と、不意に良也から放たれた弾幕が止まる。

「っと、挨拶はこのくらいでいいだろう?」
「・・・それにしては、随分な挨拶ですね。」
「射命丸が僕の邪魔をするから、ちょっと脅かすつもりでね。」

 それは良也さんが・・・と言うところで諏訪子が言葉を遮る。

「良也・・・あんたの目的は・・・何?」
「そんなに睨まないでくれよ。僕はただ守矢神社に用があるだけなんだから。」
「・・・悪いけど、今の良也を通すわけには行かないよ。」

 射命丸から少し距離を取り、スペルカードを取り出して宣言する。



「神具『洩矢の鉄の輪』」



 一つの鉄の輪が幾つにも分裂し、良也を取り囲む。

「そういえば、諏訪子とやり合うのは初めてじゃないか。」
「良也はいつも逃げてばかりだからね。」

 鉄の輪が少しづつ良也に近づいていく。

「なら、この機会に存分に戦いたいところだろうけど・・・」
「私が手合わせしてみたいのは、良也であって・・・あんたじゃない。」

 良也が鞘に納まっていた黒楼剣に手をかける。


 (あれが、早苗の言っていた剣・・・あれをどうにかすれば・・・)


「させない!」

 諏訪子が右手を振ると同時に、囲んでいた鉄の輪が猛スピードで良也に向かっていく。

「また邪魔されるかも知れないから、一気に終わらせてもらうよ。」

 黒楼剣の一振りで鉄の輪が全て弾かれる。
 だが諏訪子もそれしきで攻撃が緩むような人物ではない。すぐさま鉄の輪の軌道修正を行い、追撃の弾幕を放つ。





「雷符『エレキテルショック』」





 良也のスペルカードから放たれた電撃は、諏訪子の弾幕や鉄の輪よりも更に速く本体を捉える。

 バチンッ、と高圧電流がショートしたかのような閃光と音が流れる。

「な・・・んで・・・?私・・・が」

 痛みも殆ど感じず体力も霊力も十分にある。しかし、身体は動かずに落下していく。
 山の木々にぶつかる寸前。射命丸が割って入り、諏訪子を受け止める。

「この人間は便利でね。力もそこそこあるし、武術、剣術、魔法も一応使える。」

 ちょっと札を弄っただけでこんなに効果が変わる。と、聞いてもいないのにしゃべり始める。

 見下ろしている良也の視線は、『僕には勝てないよ?』とでも言っているような冷たい視線だった。



 (山の神が一発で・・・私で足止めできるかどうか・・・)


 だが良也さんをこのままにしておくわけにはいかない。
 諏訪子を木陰に寝かせて、再び良也と同じ高度まで飛翔する。

「なんだい?今度は射命丸が相手か?」
「ネタになるとはいえ、流石に見過ごす事はできませんから。」
 
 互いにスペルカードを片手に構える。

「それに私の知人たちが傷ついてるのは、若干許しがたいですしね。」

 双方同時にスペルカードを掲げて宣言する。

「風符『シルフィウインド』」
「風符『風神一扇』」


 皮肉にも、以前共闘して使ったスペルカードが、今度は敵対してぶつかり合う。























「椛さん、先生はどの辺にいるんですか?」
「もう少しすれば着く・・・かと・・・」

 急に椛の速度が落ちる。

「なに?どうした・・・」

 の?と続けようとした霊夢の言葉は飲み込んでしまった。
 椛の見つめる前方、山の麓の木々が全て薙ぎ倒され、切り倒されていた。

「山が・・・」
「良也のやつ、派手に暴れてるな。」

 全員が遠めに良也の姿を見ると、急な突風が巻き起こる。

「みなさん。遅いですよ〜!」
「あら。助けに来てもらってるのにそんなこと言うの?」

 いきなり全員の目の前に現れた射命丸が文句をつける…が、霊夢が一刀両断に切り捨てる。

「…にしても、派手にやられたな。」
「失礼な。まだ負けてはいませんよ。」

 とはいうものの、既に射命丸の着衣はボロボロで持ち前の羽も荒れている。
 普段の弾幕ごっこならば完全に負けた格好だ。

「神社は!?諏訪子様や神奈子様は無事ですか!?」
「神社は無事のはずです、良也さんはずっと私と戦ってましたから、神奈子さんも神社にいます。」
「諏訪子様は?諏訪子様はどうしたんですか?」

 射命丸が下に視線を落とす。それに合わせて早苗も同じ場所を見つめる。
 …よく見れば、ある一部分のみ木々がまったく荒れていない地点がある。その地点の中心、少しだけ背の高い木の下に横になっている諏訪子を発見する。

「諏訪子様!」

 早苗が急降下して諏訪子のもとへ向かう。

「山狩りにしては規模が大きすぎますね…」
「半分以上は良也さんのせいですよ。」

 妖夢の言葉に対して背後に指を指しながら答える射命丸。
 その指の先には良也。黒楼剣を片手に余裕の笑みを浮かべている。

「なんだ、逃げたのかと思ったら…こういうことか。」
「逃げたわけじゃないですよ。戦略的後退です。」

 態度を崩さずにきっぱりと言い切る射命丸。

「ははっ。じゃあ、その助っ人達が射命丸の戦略ってわけか。」

 両手に黒楼剣を構え直す良也。それに合わせて、全員が構える。

「今日からは邪魔が入らないみたいだからな。本気でやらせてもらっーーー」

 余裕の表情を見せていた良也の顎が、下から撃ち上がってきた霊弾で跳ね上がる。
 霊弾の発射地点から早苗が上がってくる。その背中には眠っている諏訪子の姿も。

「みなさん、諏訪子様を…お願いします。」
「大丈夫なの?」
「ええ、特に外傷はありません。気を失っているだけかと。」

 霊夢に諏訪子を任せると、良也を睨みつけるように振り返る。

「こわいなぁ東風谷。先生も驚くよ。」
「私は、あなたを先生だとは思いません。」

 早苗を取り巻いている空気が変わる。

「一人では危険です。私も戦います!」

 早苗の横に並び、白楼剣、楼観剣を構える妖夢。
 しかし、早苗はそれを手で制止する。

「相手の力量がはっきりしていないのに、複数で挑んでは思う壺です。」

 でもっ、と反論しようとする妖夢。

「悔しいけど、早苗の言うとおりだ。良也を助けるためにも、私達は負けるわけにはいかないんだ。」

 その妖夢の肩を押さえて、魔理沙が諭す。

「あんた、紫の話を聞いてなかったの?」
「大丈夫ですよ。危なくなったら、ちゃんと逃げますから…」

 問答している間にも距離をとり、スペルカードを取り出している。

「…わかった。妖夢、魔理沙、文。少し離れるわよ。」

 良也を見据える早苗の視線は真剣そのもの。その表情には出てはいないが、激怒しているのは全員わかっていた。だからこそ、魔理沙や霊夢は早苗の意思を汲んだ。

「もういいかい?」

 待ちくたびれた、と言わんばかりの声を上げる良也。

「諏訪子様たちを傷つけたこと、私は許しません!先生を返して貰います!」

 大きな声と共にスペルカードを掲げて宣言する。





「奇跡『神の風』!」
「風神『天狗颪』」








「射命丸さん!?どうして…」
「一人じゃ危険で全滅はだめなら、二人くらいなら大丈夫ですよ。」

 よくわからない屁理屈を言いながら早苗の横に並ぶ射命丸。

「風使いが二人か、僕も正面から相手をしよう。」

 ポケットから新しいスペルカードを取り出す良也。


「烈風『シルフィストーム』」


 良也の足元から小さな風が巻き起こる、が急激に規模が大きくなっていき、あっというまに巨大な竜巻が生成される。その竜巻が、早苗と射命丸の風にぶつかり、周囲に暴風が起こる。

「今は抵抗が少ないみたいだから、今回は派手にやらせてもらうよ。」

 竜巻の中に紛れるように弾幕を放つ良也。

「やっぱり、以前の良也さんとは雲泥の差がありますよ。」
「あれは先生じゃないですって。」

 暴風が吹き荒れていて少し動きにくいが、それでも良也の放つ弾幕には当たらない。
 弾幕の切れ目を狙って、二人は同じタイミングで打ち返し弾幕を返す。

 しかし、良也の能力で作られた壁によって全て阻まれていく。

「そんな弾幕じゃ、僕の壁は破れやしないよ。」












「…普段は目立たなかったけど、良也の能力ってかなり強力だな…」
「そうですね…」

 遠目から勝負を見ている三人。その中の魔理沙が感心したように声を漏らす。

 暴風の中に弾幕を展開している良也。弾幕自体の密度はそれほどでもないが、スペルカードによって吹き荒れる風が動きを鈍らせかわし辛くなっている。
 そんな弾幕でも、幻想郷の中でも強い位置にいる二人には被弾しないだろう。

 しかし、被弾しないからといって勝てるわけではない。

 早苗と射命丸、二人が放つ弾幕の密度は高い。その二人分の弾幕が全て良也一人に向かって行っているのにも関わらず、良也は被弾どころか掠りもしない。
 一応、弾幕の隙間には移動しているがその動きは少なく、殆どが壁による防御で防がれている。さらに、動きが少ないため万全の体勢で攻撃をすることができる。

 攻防一体とは、正にこのことだろう。


「あれ位ならまだ優しい方よ。」
「紫?随分遅かったわね。」

 三人の背後から、紫と幽々子が隙間から現れる。

「紫が『どうしても外の世界に行きたい』って言うからねぇ。」
「少し確認したい事があったのよ。」
「確認したい事?」

 妖夢が疑問の声をあげる。

「実は、外に黒楼剣を置く時にも色々と問題があったのよ。」

 疑問に思っている妖夢に、幽々子が説明する。

 昨日説明したように、普通の人には『禍々しい雰囲気の刀』だが、まかり間違って力のある者が使って悪用しないとも限らない。それを防ぐために黒楼剣に封印を施したという。
 その封印の他に、人間の意識を逸らす結界も施した。

 紫が確認していた事は、黒楼剣封印の時に使用した御札がその場に残っているかどうか。ということだ。

「…で、そこに札は無かったわけね。」
「ご明察。」

 霊夢が先の結論を出すと、紫が同意する。

 無縁塚にはないのか?と、魔理沙が質問をするが抜かりは無い。既に足を運んだ後で、どうしようもないガラクタしか転がっていなかった。

「なら、新しく作ればいいじゃない。」
「簡単に言うわね…」

 霊夢も結界術に携わっているでしょうに…とため息混じりにこたえる。

「あれほどの霊力を無効化して半永久的に封印するには、簡単な術式の札じゃ駄目なのよ。すぐに破られてしまうわ。それに、人格もあるのなら動けないとは言え周囲の破壊活動くらいはするでしょう。そんな騒動は避けなくてはいけないわ。」
「なら今すぐ作りなさい。」

 今の話をしっかりと聞いていたのだろか。と疑問にも思えるくらい、霊夢は言い放つ。

「あら?私がいなくても相手を抑えられるの?」
「全滅するまでには完成させるだろうから、心配ないわ。」

 やれやれ、と呆れたような表情で隙間を作り出す。

「その前に、壊す事ができるかもしれないぜ。」
「できればいいんだけれどね…」

 先への不安があるとはいえ、今の最善の手はこれしかない。なにより、紫は霊夢たちをそれなりに信用している。
 紫は封印の準備を整えるべく、隙間に消えていく。

「さて、そろそろ私達も戦わないといけないわね。」

  緩やかな口調から真面目な口調へと切り替わる幽々子。

「幽々子様?」
「おい!良也の奴、また何かする気だぞ!?」

 魔理沙の声で全員が良也に視線を向ける。



「射命丸さん!気をつけて下さい!」
「あれが、皆さんの言っていた黒楼剣ってやつですね。」

 良也が弾幕を緩め、黒楼剣を右手に持ち直す。

「今です!」 

 弾幕が緩んだのを好機とみた射命丸が、弾幕を叩き込む。
 早苗もそれに続き霊弾を打ち込む。


「模倣『現世斬』」


 良也のその宣言と同時に、暴風を起こしていた竜巻が消滅する。
 良也が消えたかと思うと、空中に一閃、黒い軌跡が走る。その軌跡上の全ての弾幕が消滅していく。
 一瞬後、剣を振り抜いた姿勢の良也が、射命丸の背後に出現していた。

 攻撃が直撃したであろう射命丸はガクッと体勢を崩し、落下していく。


「おっと!危機一髪だぜ…」

 諏訪子を受け止めた射命丸を、今度は魔理沙が受け止める。

「おい!大丈夫か!?」
「ううぅ…負けてしまいました…」

 表情には出ていないが、答える声の小ささが受けたダメージの大きさを語っている。

「飛べるか?」
「ちょっと…無理っぽいです…。少し休んでます…」

 そう言ってふらつきながらも切り株まで歩き、倒れるように腰を落とす。 

「良也さん…凄く強い…ですよ。気を…つけて下さい。」

 わかってるぜ。と一言返し、早苗と共に良也と対峙している全員の所へと飛翔する。


「ねえ、さっきの良也さんのは…」
「私の現世斬と、全く同じ技です…」
「妖夢のを見て真似たのね、厄介な相手だわ。」
「真似た?たった一回しか見てないはずだぜ?」

 幽々子が警戒を促すが、魔理沙が信じられない。という感じで返す。

「前にも言ったんだけど、剣の人格は元は一つじゃないわ。剣の達人もいたのだから、達人からすれば模倣なんてそう難しいことじゃないはずよ。」
「確かにそうですが…」

 同じく、剣の心得のある妖夢にも思う所はあるが、どうも疑問が晴れない。

 スペルカードはその技をイメージすることで作製する。当然同じカードを作るには同じイメージをする必要がある。
 つまり、どういったイメージかが解ればカードの複製は可能なのだ。が、先の一回を見ただけでイメージまでも理解されてしまったのが不可解なのだ。

「一回だけじゃないはずよ。」

 妖夢の疑問への答えを、幽々子が教える。
 
「え?ですが、奴に見せたのは後にも先にも、あの一回だけですが……」

 その後。あっ、と何かを思いついたように顔を上げる。

「確かに、過去に一度。良也さんがスペルカードを作った時に見せています…。ではあれが二回目?」
「三回目ね。」

 横から霊夢が口をはさむ。

「宴会騒ぎのとき、私に使ったでしょう?その時、良也さんもその場にいたらしいのよ。」

 霊夢の言うとおり、良也はこれまでに『現世斬』三回も見ていることになる。

「やっぱり、良也さんの記憶や経験までも持ってるのね…」
「霊夢は知ってたのか?」
「まあ、それなりにね。」

 良也が神社に現れたとき、紫を『スキマ』と呼んでいた。
 紫を『スキマ妖怪』と呼び噂をする者は在れど、面と向かって呼ぶものは良也ただ一人だけだ。
 それに本体である黒楼剣が、封印当時に存在していなかった霊夢や魔理沙、早苗を知っているはずがない。

 自称や口調が良也のものなのは、恐らく揺さぶりをかけるためだろう。

「解決したか?」
「ええ、でも…揺さぶるために良也に成りすましているなら、私たちには効かないわ。」

 全員が良也を睨みつける。

「まあ、効かなくても構わないさ。どうせ排除することには変わりはないんだし。何より死なないから、負けはしない。」

 蓬莱人である良也は不老不死、つまりどうやっても死ぬことがない。

 だが、全員には良也を倒すつもりは毛頭なく剣の封印、または破壊が目的のため良也が死なないという分本気で攻撃ができる。
 本当に躊躇いがないのなら…の話だが。

「紫が戻るのが先か、剣が壊れるのが先か。」
「後は、霊夢たちが全滅するのが先か。」

 良也と霊夢。二人が向き合い、距離をとる。
 皆も続くように距離をとり、構える。

「1対5だが、人質を使っておいて卑怯とは言わないよな?」
「構わないよ。手間が省けるしね。」

 周囲の音が少しづつ小さくなっていく…
 空気も、妙な冷たさを帯びている…



「いくぞ!」


 良也が黒楼剣を片手に、弾幕を展開しながら全員に突撃していく。






(待ってなさい…今…助けるわ…)














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あとがき

Wから一ヶ月以上が経ってしまいました。関根です。
書いては消してを繰り返してたら、こんなに時間が過ぎてました。

コレ書いてて、ふと思ったのですが…

「弾幕勝負のシーンって書くの難しくね?」

と。何か同じ表現を繰り返している気がしない訳でもないような気がする。
とりあえず、表現以外は大丈夫かなと判断したので投稿させていただきます。

このペースで書くとYは年明け確定です。これらを見てくれているネ申な方々には申し訳ありませんが、首を長くしてお待ちくださいませ。

ではでは。

2009/12/14 関根






黒良也のスペルカード

 作中で良也が使用したスペルカード。
今までの良也スペカの差分とオリジナルスペカがあります。
オリカのネーミングセンスは……

雷符『エレキテルショック』
 速度が大きく上昇し、相手の全身を麻痺させる程度の威力を持つ。
ダメージを与える為ではなく、感電に特化させたスペカ。
 諏訪子ですら感電するのだから、他の者にも有効だろう。

風符『シルフィウインド』
 速度と弾幕密度が大きく上昇。森の木々を切り倒す程度の風の刃を生み出す。
刃自身の質量は大したことはないので、簡単に掻き消せる。

烈風『シルフィストーム』
 シルフィウインドの刃を一点に集め竜巻を起こす昇華魔法。
一般の大学校舎くらいなら根こそぎ粉砕する程度の威力。

模倣『現世斬』
 妖夢の人符『現世斬』のコピー。
妖夢のより速度は劣るが、威力が非常に大きい。
更に移動時にも判定が発生するため、発動を許すと止めるのが困難。



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