良也がいなくなったのは一晩で幻想郷中に広まった。

 どうやら何処からか話を嗅ぎ付けたパパラッチ−射命丸 文が人里やら森、竹林等縦横無尽に記事をばら撒いたらしい。

「まったく、余計なことをしてくれるわね。」

 当然神社にも届いているわけで、霊夢はその記事を手に取る。
 前回の紫の提案で、今日も今一度召集をかけている。時間的には今は昼頃、そろそろ誰かが来る頃だろう。と考えている最中に見事なくらいのモノクロ魔女、魔理沙が境内に降り立った。
 その後、魔理沙が引き連れたかのように早苗、妖夢、レミリア・咲夜、鈴仙・永琳と続々と神社に降り立つ。

「どうして永琳がここに?」

 霊夢が疑問に思うのも無理はない。永琳は主である輝夜から離れるような輩ではないからだ。

「私は、姫に言われてウドンゲに同行して来たのよ。なんだかんだ言いながら良也を気にしているのよ。」

 わざわざ永琳も参加させる位に、良也失踪の事件性は大きい。全員重苦しい空気に沈黙する。


「しかし、これが異変ならどうして妖精たちは大人しいままなんだ?」
「そういえば・・・そうですね。ここに来るまでの道でも、いつも通り静かでした。」

 ふと沈黙を破ったのは、この【異変】に関する疑問に気づいた魔理沙だった。早苗もその不自然さに気付き同意する。今までの異変はすべて妖精が凶暴になるという事象があったにも関わらず今回に限ってはそれがない。この状況が示す答えは一つしかなくなった。

「つまり・・・良也はz「自分の意思で行方を眩ました。」」

 レミリアの言葉を遮り、隙間から現れた紫が答えを持っていく。
 だが、現れた紫からはいつもの胡散臭い笑みは消えていて、怒気を孕んだ真剣な表情になっている。

「紫、何かわかったの?」

 大きくため息を漏らす紫。

「今回の件は、良也自身g・・・」

 霊夢の質問に答える為に口を開いた紫。説明しようとした直後にその声や周りの騒音を全てかき消す程の轟音が鳴り響いた。それと同時に地震のような衝撃波も境内を襲う。

「なっ、何?」

 屋内から霊夢が外に飛び出すと遠方から巨大な煙が立ち昇る。

「あそこって・・・確か・・・」
「香霖堂じゃないか!?」

 言うが早いか、魔理沙はすぐさま箒に跨り煙の立ち昇る場所に向けて飛んでいった。
 続いて霊夢、妖夢、早苗も魔理沙の後を追う。

「ウドンゲ、屋敷に戻るわよ。」
「え?お師匠様・・・私たちも行かなくては・・・」

 言葉を続けようとする鈴仙を手で遮る。

「姫やてゐだけじゃ怪我人の治療なんてできないでしょう?」

 あっ、と納得したように口を開ける。
 なにせ、あれだけ大きな衝撃が響いたのだ。煙の規模から考えて被害の範囲は広い。香霖堂には人里の住人は近づかないとはいえ、少なからず怪我人は出ているだろうと考えたのだ。
 二人は永遠亭へ向けて飛び出した。



「咲夜、貴女はあの妖怪の言うこと、どう思う?」

 神社に残ったレミリアと咲夜。

「お嬢様と同じ考えならば、彼自身が隠れた可能性が非常に大きいですね。」
「そうね・・・でも。」

 そういいつつ咲夜の方を向く。
 咲夜も頷きで返す。少なくとも幻想郷に害をなす行為を良也がするはずがない。この概念は二人だけではなく良也を知る者全員が認知している。と、なるとこの件は良也とは関係がないことになる。
 二人はゆっくりとみんなの後を追い始めた。










 少女移動中・・・










「これはひどい・・・」

 妖夢が表情をしかめて呟く。表情を曇らせたのは妖夢だけではない。ここにいる全員、霊夢も魔理沙も早苗も目の前の惨状を見つめる。
 そこにあるはずの香霖堂は跡形もなく、あるのは商品だったであろう物の欠片。そして欠片の散らばっている場所を中心として、半径数10メートルは草木も残さず荒地となっていた。

「香霖・・・香霖はどこだ?」

 魔理沙が荒地の中心に降り立ち回りを見渡す。が、香霖堂の主の霖之助の姿は見あたらない。
 霖之助は普段店から出るような事はほとんどない。出るときといえば、売り物を拾いに行く程度だったが、良也が幻想郷に訪れてからは彼に頼むようになった。
 つまり、香霖堂が襲われたのなら霖之助のその場にいたはずなのだ。

「まさか、霖之助さんも・・・?」

 霊夢が結論を出す。全員その結果を否定することはできない。状況だけでも可能性は十分に高いからだ。全員少しの間沈黙する。

「香霖堂の主なら、永遠亭に運ばれたようです。」

 みんなの背後から、遅れてきた咲夜が伝える。
 当然の如く、魔理沙はどうしてわかるんだ?と問い詰める。

「さっき人形遣いとすれ違った時、言っていたのよ。たまたま近くにいて、様子を見に行ったら香霖堂の主が倒れていたからってね。」

 それで、これから如何するの?と、レミリアが付け足すように言う。
 とりあえず、ここにはもう何も手掛かりとなるものは無い。と、なると霖之助から話を聞くのが一番手っ取り早いだろう。霊夢のこの発案に誰も異議は無い。全員で永遠亭へ飛び立とうとした時

「レミリア様ーーー!咲夜さーーーん!」

 紅魔館の魔法使い、パチュリーの使い魔兼司書である小悪魔が猛スピードで向かってくる。

「小悪魔?どうしました?」

 息切れするほど急いでいた小悪魔。

「こ、紅魔館が・・・何者かの・・・しゅ、襲撃を受けています!現在、パチュリー様・・・妹様、美鈴さんが迎え撃って・・・いますが・・・」

 状況は劣勢。と聞くや否や「咲夜!」と一声。その声を受けた咲夜はすぐさま紅魔館に向けて飛び出した。
 私たちも・・・と後に続こうとする霊夢達をレミリアが制止する。

「駄目よ。あなた達はこのまま永遠亭へ向かいなさい。」

 犯人の正体が分かるかもしれない、それに紅魔館を狙っているのなら私達の問題よ。と言い残し小悪魔を連れて咲夜の後を追うレミリア。霊夢たちもレミリアの考えを汲み取り、永遠亭へと飛び立った。







「フラン・・・パチェ・・・美鈴・・・無事でいなさい。」

 三人がいても押されている。相手の強さは推して知るべきであろう。
 フランドールは魔理沙と対等に戦える。その魔理沙に「単純な魔法じゃ敵わない」と言わしめたパチュリー。永い間門番として、侵入者を撃退してきた美鈴。そんな三人でも苦戦しているのだから流石のレミリアも焦りを覚える。

「待ってください。私も一緒に行きます。」
「半霊?私の言葉を聞いていたのかしら?」

 後ろから追ってきたのは妖夢。

「おそらく相手は剣術を使う者。それもかなりの使い手です。足手まといにはなりません!!」

 黙って先を急ぐレミリア。何も言われないということは、勝手にしろという意思表示なのだろう。
 霊夢や魔理沙は気づいていたか分からないが、現場にあった残骸の中には鋭利な刃物で斬られた痕があったのだ。レミリアも気付いた上で妖夢の同行を許可したのだ。
 咲夜と合流し、四人は紅魔館へと向かう・・・







  *    *    *







 永遠亭へと向かっていた霊夢、魔理沙、早苗。
 道中、妖精に会うこともなくたどり着くことができた。

「なあ、やっぱりおかしくないか?紅魔館が襲撃される程の事なのに、異変時の現象が起きてないなんて・・・」
「そうね・・・でも霖之助さんに聞けばわかるわよ。」

 普通に玄関の扉を開けて中に入る四人。途中早苗が「いいのか?」みたいなことを言っていたが、全員スルー。
 魔理沙は普段から不法侵入の様なもので、他の人も諦めている。更に事態が事態なだけに細かいことは全て取っ払ってしまうのは全員共通の作法というものだ。最も、その作法から一番遠いのが早苗なのだが。

「ん〜、あんた達何か用かい?」

 ふと四人の前に現れた女の子。背丈も低く、ウサ耳が特徴的だ。

「お、てゐじゃないか。」

 両手いっぱいに薬瓶を抱えたてゐ。魔理沙に霖之助の事を尋ねられ「ついてきな。」といい屋敷の奥の方へ歩き出す。
 心なしか、ふらついているように見える。

「お師匠様〜。言ってた通り巫女たちが来ました。」

 通しなさい、と戸の奥から永琳の声が響く。てゐが戸を開けると永琳に薬瓶を手渡し、そそくさと行ってしまった。薬を受け取った永琳は机に向かい始め、何か書きはじめた。

「なあ、香霖は無事なのか?」

 魔理沙は永琳の奥にあるベット、臥している霖之助を眺めて永琳に聞いた。

「傷は深いけれど、辛うじて致命傷は避けているわ。出血が多かったら意識を取り戻すには少しばかり時間がかかるけど、命に別状はないわ。」

 と言っても、人間なら死んでいたでしょうけどね、と容態を説明する永琳。書き終わったメモを隣にいた鈴仙に渡す。
 霖之助が半妖だったからこそ、一命を取り留めたのだ。人間と妖怪のハーフである霖之助は普通の人間より、耐久力、生命力が高い。最も、弾幕や魔法の経験など無きに等しいので良也ほど戦えるわけではないのだが。

 霖之助が無事だった事にとりあえずは安堵する魔理沙、しかし事件が解決したわけではない。

「さて、次は紅魔館にいくぜ。」
「あの・・・魔理沙さん?無理はしなくてもいいんですよ?」
「そうよ。どうせレミリアたちなら既に片付いているだろうけど。」
「香霖のことは確かに心配だったけど。良也のことも、心配してるんだぜ。私も。」

 それに、あいつはヘタレだからな・・・言いながら、箒に跨ってまたしても一人飛び出した。

「良也さん、モテるわね。」
「そうですね・・・」

 表情には出ない位だが、ほんの少しだけ不機嫌になる霊夢と早苗。
 決着がついているとはいえ、犯人には言いたい事が山ほどある。二人は魔理沙の後を追って、紅魔館へと向かう。



(なんか、魔理沙の方が目立ってるような気がするわ・・・)













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あとがき

どうも。一話投稿時にハンドルネームを記入し忘れた関根です。

黒楼剣? すいません、まだ出番が回ってこないようです・・・orz
誤字脱字、文法ミス。きっと沢山あるんだろうなぁ・・・とか思いつつ投稿しています。

ちなみに、永琳の書いてたメモは薬の調合表です。脳内補完でお願いします
あと、自称、呼称、二人称三人称の類、何かおかしい所があったら教えて下さると嬉しいです。

今更ですが、「関根」ってハンドルネームらしくないですよね。
まあ、せきねって呼ばれ方で定着してますがね^^

では、長々と失礼しました。



2009/10/19 関根



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