『たまに無縁塚には危険な物が流れ込む』



久しぶりに香霖堂に訪問した僕は店の中が普段とは違って非常に騒がしたことを気付いた。
よく見たら奥に霊夢、魔理沙、そして森近さんまであった。
神社にいないと思ったらこっちに来てたのか、霊夢。
みんな何かを取り囲んでみている。…何だ?

「良也君? いらっしゃい」
「こんにちは」

紅白と白黒のツートンカラーコンビは僕を見るともしない。
一体何をそんなにつくづくと見て…あれ?
僕の目の前には人間の少女らしいのが布団一枚覆って床に横になっていた。

「……森近さん。結局人身売買に手を……?」
「え? い、いや、ちがう! これは無縁塚から拾って来た『道具』だ! あと結局は何だ!」

道具ねぇ……。
しかしどう見ても人間だ。それも美少女。
年はおおよそ10代中盤、あるいは後半だろう。少しスリムしたりするが、それでも充分に女らしい体つきだ。
特徴だと言えば、ゲームにでも出そうなあの桃色の髪だろう。染めたか?

「見掛は人間に見えてもこれは厳然な『道具』だよ。言わば自我を持って自由に動く人形だと言える」

多分森近さんの能力を使って調べたから一応は事実だろうな。
しかしこんなに人間とまったく同じな『道具』があるか? 無縁塚から持って来たと言ったら外の世界から来たことであるでしょうに、もちろん僕はこんなもの見た事がない。しいて言うとこのような人形がいるようにはいるようだが、当然それは動くことはできない。
それにもう一つ、妙な違和感。これは何だ?

人形という言葉に魔理沙が反応した。

「人形? アリスの上海のように?」
「詳しいのは僕も分からない。何より『動くはず』なのに『動かないから』困るんだよ」

森近さんの言葉では魔力で動くとか魂が込められているのではないと言う。
それじゃもしかしてロボット?
外の世界もこんな本物の人間みたいなロボットがあるというニュースは聞いた事がない。
ギリギリで『少し似ている』位だ。
それで結局こんな分野に詳しいようなやつに頼んでみる事にした。




「急に連れてきて何の用、良也?」

河童少女河城にとり。河童は独自的な機械文化を成して幻想郷内でも技術部分に限り最高と呼ばれる種族だ。
僕は妖怪の山まで飛んでにとりを連れて来た。そして『道具』を見せてくれるとにとりは興味津々に『道具』を観察し始めた。

「どうだ、直すことはできそうか?」
「もちろん! 私が直さない機械はない!…と言いたいけど、やっぱこれ無理」
「そうなのか?」
「珍しいな。お前が直さないと言うのは」

魔理沙がにとりに言った。
そういえばその妖怪の山騒ぎ以後魔理沙とにとりが少し仲よくなった感じだ。

「うーん、私も興味はあるけどね。これでも技術者と名乗ってる以上ほどんどの物ならどうやって解体してどうやって組立てるかは、見ればだいたいわかるよ。しかしこれは…どこから手を出すか困り果てるね。そもそもこれ『本当に外から来たものなの?』」
「何の意味だね?」

にとりの言葉に森近さんが興味を示した。
しかし僕もにとりの言葉に同感だなぁ。自我を持って自ら動く人形ならアリスが熱心に研究している目標じゃないか。そうなもの外の世界にもない。あったとしたら漫画やアニメの中だけだ。

「これは確か『道具』ではあるけど『度が外れるほどに発達された道具』だよ。私も外の世界の文明レベルに詳しいんじゃないけど、良也に聞いたり外の世界から来た物を見たりしてだいたいは分かってる。でもこれは――もちろん開けてみない以上あくまでも感なんだけど――まるで何百年、いや何千年位は先に進んでいる技術みたい」
「そうなことも分かるのか」
「あくまでも感よ。でも見掛や感触などがこんなにも『本物の人間』と似ている『道具』と言ったら、確かにこれはここ幻想郷でも幻想だと呼ばれるものに間違いない」

この『道具』を無縁塚から拾って来たことは間違いない事実。
しかし外の世界の人間である僕や機械とかに詳しい筈のにとりもこれは現在外の世界の技術では不可能だということが分かる。
どうやらこの『道具』を修理して動くより、これがどこから来たのか調べるのが先のようだ。

「もしかしてにとりの言葉通り本当に未来から飛んで来たのではないかな?」
「しかし今まで無縁塚に落ちてた物はほどんど今の外の世界から来た品物だった。可能性自體はあるがな」

僕の意見は森近さんに否定された。

「それなら魔界の人形じゃないか? 魔力が感じられないのは、それが捨てられた理由だからとか」
「いや、僕の能力で見た限りそんな類でもない。これは本当に純粋な人間が作り上げた『道具』だ。何かを破壊するための 『兵器』」

魔理沙の意見も否定。しかし兵器だと?

「兵器? 良也さん、それじゃ外の人々はこんなので争うの?」
「いや、少なくとも僕が知っている限り外の世界にもそんなことはない」
「僕の分かることはあくまでも道具の名称と用途だけだから」

やっぱり判断材料があまりにも不足だ。
何より『道具』が自ら動かない限り僕たちが悩んでいても返事が出ることはないだろう。

「それなら仕方ない。紫を呼ぼうぜ」
「ええーっ」

僕と霊夢の声が重なった。それに霊夢は眉間までを顰めている。

「そんなに紫が嫌いなのか、お前ら」
「いや… 嫌いっていうか、苦手だよ。それは魔理沙もよく知っているじゃないか」
「妖怪のくせにどうして神社に出入りするのか分からないやつじゃないの」

霊夢の言葉に魔理沙がニヤニヤ笑いながら言った。

「そもそもお前の神社に妖怪以外来るやつがいるのか?」
「何言ってるの! いるに決まってるでしょ!」
「そういえば僕もそんな話は聞いた事がないね。最近良也君と魔理沙を除いて神社に人間が来た事はあるのか?」

森近さんの鋭いツッコミに霊夢は黙秘権を行使した。

「とにかくこんなもの分かるやつは紫しかいないぜ」
「あー、これ放っておいてはいけないんですか? 必ず動かさなければならないってことでも…」
「いや、それはないな。こういう『道具』は初めだから、このまま放置するわけにもいかない」
「そうそう。こんな面白い『道具』を放っておくことはできないよ」

森近さんとにとりの学究熱が燃えるようだ。
やっぱりこのようなものを好きな人同士は何か通じるのか?

それはそれとして森近さん。あんた前にゲームボーイとかを危ない物だと勘違いして捨てる所だったという話をスキマから聞きましたが。それは明らかに兵器なのに大丈夫ですか?

魔理沙はどこかウキウキした声で言った。

「それじゃどうしようか? 結界でも揺らして呼んでみるか? あいつ、来るなと言う時は必ず来ながら必要な時はどこにあるのか分からないな」
「そのような真似したら本当にお仕置きしければいけないわね」

不意に聞こえる声。
声が聞こえた先には隙間を開けて身を突き出しているスキマがあった。

「ごきげんよう、皆さん」
「ス、スキマ? どうしてここに?」
「私はただ霖之助さんが面白い物を拾って来たという噂を聞いて来ただけよ。しかしこれは…本当に面白い物を拾って来たわね」

噂って…これ拾って来て半日も経たなかった筈なのに?
スキマは団扇で口元を隠して本当に面白いという表情で笑った。
ああだからいつも胡散臭いとか言われるんだよ。
とにかくあの言い草、やっぱりこの『道具』の正体を知っているな。

「うーん…、分かってはいるけど。霖之助さん、この『道具』、貴方の能力で解釈して見たの?」
「ああ。一応名前と用途は分かったが、それ以外は分からなくて悩みの中だ。一体これのどこが『兵器』というのか理解できない」
「もちろんこれは間違いない『兵器』よ。それも『決戦兵器』と呼ばれるほどにとんでもない代物」

…決戦兵器? ちょっと、今何か頭の中で思い出すそうだ。

「それではこれはやっぱり外の世界の物なのか?」
「外の物なのは間違いないけど、『今の外の世界』のじゃないわ」
「何の意味だ?」
「秘密よ」

スキマはいやらしく笑いながら僕を見た。しかし僕は頭の中にある一つの可能性のせいでそんなこと気にする暇はなかった。まさか…いや、ねぇ?
僕を除いた他の人はスキマの態度に開いた口が塞がらないようだ。
まあ、いつものことだからどやかくは言わないようだが。

スキマは説明を続いた。

「一つ言えることは、これは故障したものではないわ」
「故障したのじゃない?」

にとりが問った。

「厳密に言わば、ただ1ヶ所が故障したと言えるかしら」

そう言いながらスキマは『道具』の、人間で言えば心臓辺を指した。

「ここにこの『道具』を動く動力装置があるわ。しかし今は動作を完全に停止したの」
「動力?」

にとりが目をキラキラしながら問った。
ああ…確かにそうだ。僕の想像が正しかったら現在動けないのも当然だ。

「そう。例えばあの空の大きな星を一つ丸ごと爆発するほどに圧縮した後、元の状態で戻ろうとする力を利用した動力だと言えるわね」
「星を一つ丸ごとって…。何かの大魔法なのか?」

まるで魔法のような話は魔法使いである魔理沙の興味を引いたようだ。

「確かに、今の私たちには大魔法と言えるわ」

スキマは面白いという微笑みをしながら答えた。……長く生きてきて博識なのは分かるが、こうやって自分の言葉に反応する人を見て面白がることは勘弁してほしい。

もちろん僕は他の意味で呆れるしかなかったが。

「それで霖之助さん。この『道具』はここにあってはいけないものよ。私に渡したらどうかしら?」
「君はこれを持って行ってどうするつもりなんだ?」
「この『道具』を元々いなければならない所に移すわ」
「しかしこれは僕が拾って来た物だ。いくらなんでもたやすく渡すわけには…」
「ふふん、今冬、暖炉に使う燃料は十分なのかしら?」
「……頼む」

スキマにいろいろ借りがある森近さんはどうしても立場が弱い。
しかしあの無駄な位に熱い暖炉は今冬にも問題なさそうだな。僕は能力があるから関係ないけど。

スキマは『道具』とともに隙間に身を入れて『それではご機嫌よう』と挨拶をして去った。
…去る直前、僕に意味深いな視線を残して。
分かっている。このようなことで騷いでも分かってくれる人もいないだろうし、そもそもなんて説明すればいいのかわからないからな。

にとりは結局疑問が解かなくて不満な顔をして帰った。わざわざ連れてきたのに悪いことしたな。あとで何か持っていくか。
霊夢と魔理沙は普段通り勝手にお茶をいれて飲みながらのんびり時間を過ごしている。
僕は『萌え』に対して問う森近さんを適当に相手。この人も本当に懲りないな。

ふと魔理沙が思い出したように質問した。

「ああ、そういえば聞き忘れたぜ」
「何を?」
「その道具の名前」

そんな魔理沙の問いに、森近さんは何気なく答えた。

「ばーすたーましん7号、という名だ」
「何だそりゃ?」
「さてね。たぶん7号という名前だから最小限それと似ている『道具』が7体以上はあるということだろう」
「ふうん」

結局目の前にもない道具に対して興味を失ったのか、魔理沙はまた窓の外を眺めてお茶を飲み始めた。
そう、それが賢明な態度だ。
僕も気にしないことにしたからな。世の中には知らないのが身のためってこともあるんだよ。

外はもう秋だ。山はゆっくり紅葉で染め始めて、田では稲が黄金色の波に変わるだろう。
ちょっと冷ややかなになるかなと考えながら、能力のおかげで心配ない僕は今日夕食メニューを考えた。



……そこ。現実逃避とかいうな。






あとがき
始めまして、生物體と言います。SSを書くのが始めてじゃないけど日本語で書くのは初めてです。
日本人でもないのにこんな物を… 無茶しすぎたか!
だぶん?自然な部分が多いと思います。っていうか多いです。
それにネタが微妙でひやひやします。もう限界です。

――だから生物體は考えることを止めた。

嘘です。誤字とか口調とか表現とか単語とかおかしかったら指摘して下さると助かります。
やっぱり日本人じゃないわたしがわからない部分は必ずいるからですね。

読んでいただいてありがとうございます。



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