パチュリーの寝室まで僕はそのまま連れて行き扉の前で訊く。

「開けて……大丈夫?」

「ここでいいわ」

「……立てる?」

「ええ。少しは回復したわ」

パチュリーを降ろす。離れていく体温。

「じゃあ、とんだ一日になっちゃったけど今日もお疲れ様。良也もゆっくり休んで」

「お疲れさま。パチュリーもちゃんと養生しろよ?」

「ええ。じゃおやすみ」

扉を開けパチュリーが中に入り扉を閉める。

「……今日は助けてくれてありがとう」

ぱたん。閉まる直前にパチュリーの声が聞こえた……

「…………おやすみ。パチュリー」


東方奇縁譚AFTER IF 〜恋愛実践編〜

07:00

ぴぴぴぴ!

「ん……」

朝か。昨日は戻ったら風呂を済ませてさっさと寝てしまったので疲れはない。

コンコン

「咲夜さんですか?」

「はい。おはようございます。入っても大丈夫でしょうか?」

身だしなみは……見られてやばい恰好じゃないし大丈夫。

「どうぞ」

がちゃ

「改めまして、おはようございます。昨日はパチュリー様を助けて頂きありがとうございます」

「当然のことをしたまでだ……し」

ふと思い出す。咲夜さんは僕がなにをしてる最中に僕の所に辿り着いた?

「さ、咲夜さん。つかぬことをお聞きしますが昨日どのタイミングで僕に合流しました?」

「パチュリー様に口移「ぬぁぁぁぁぁぁぁ!」……」

完全にみられた!?

「ご安心を。誰にも言っておりません。しかも緊急事態です。あの対応は仕方なかったんです。良也さんは間違ったことをしておりません」

「そ、そうなんだけど!そうなんだけどさ!」

え!?なに僕自覚する前にパ、パチュリーとキスしちゃったの!?でも感触とかいまいち覚えてないしノーカウントだよな?……いやでも!

「落ち着いて下さい。誰にも言う気はありませんよ。お嬢様の友人を助けてくれた恩を仇で返すわけには参りません」

「そ、そうしてくれると助かる」

咲夜さん。今僕はあなたが女神に見える!って咲夜さんの顔が邪悪に歪む!?

「それでパチュリー様の唇の感触はいかがでした?」

「ぬぁぁぁぁぁ!」

顔が熱くなっていく。信じた瞬間裏切った!咲夜さん!あなたはそう、悪魔の従者らしすぎる!僕をそっとして置いてください!それがあなたに出来る善行です!

「ふふ。冗談です。では昨日と同じように美鈴が待っておりますから用意が出来ましたら食堂までお越しください」

「ああ。うん……」

なんかどっと疲れた。思わず映姫みたいなこと心の中で言っちゃったよ。こればれたらラストジャッジメント飛んでくるだろうなぁ……


07:20

「おはようございます。良也さん……昨日の疲れが抜けてないんですか?なんか疲れた表情してますけど」

「おはよ美鈴。大丈夫……ちょっと精神的に疲れただけだから」

「それはご苦労様です。咲夜さーん!」

「解ってるわ。はい……朝食」

ここで食事するたびに思うけど美鈴は咲夜さんの料理を食べるのが好きなようだ。そしてそれを見るのが咲夜さんの癒しになっている気がする……ふと邪悪な試みが頭をよぎる。

「良也さん。こちら朝食です」

「ありがと。いただきます……そういえば美鈴」

僕は邪悪な試みを実践する。復讐も兼ねて

「ふぁい?」

ああ。そんな幸せそうな顔で口一杯に頬張って……

「美鈴。食べながら喋らないの」

「ふいまふぇん……んく。なんですか?」

美鈴に苦笑しながら言う咲夜さん。

「美鈴が食事してるときって咲夜さん必ずいる?」

「!?」

その反応!くっくっくっ!僕もいつまでもやられてばっかりじゃないぞ!?

「そういえば……必ず居ますね?」

瞬間世界が灰色に染まる。想像通りだ。

「……なにを言う気ですか?」

「やだなぁ。僕はただ咲夜さんの幸せを美鈴に教えようとしただけですよ?」

「……なんのことかしら?」

「美鈴がおいしそうに食べてるのを見るのが咲夜さん好きなんでしょ?」

「っ!」

あ。赤くなった。

「ばらしたら美鈴たぶん、恥ずかしがるだろうなぁ」

「……なにが望み?」

「いや、別にこれと言ってないけど……ただ仕返ししたかっただけだし」

こう言えば咲夜さんには伝わるだろう。

「解ったわ。お互い他言無用」

「うん」

世界が色を取り戻す。

「ちょうど休憩をとるようにしてるの。片付けの手間が減るでしょう?」

「そうなんですかぁ」

「へぇ〜」

僕は約束は守る。そんな感じで談笑し食事の時間は楽しく過ぎて行った。


07:50

「ああ。良也さん本日はこれをお持ちになって下さい」

「……これは、パチュリーの分の食事……とコーヒー?」

「はい。昨日の片付けで少々仕事が押してまして少しの手間も省きたいので」

「ああ。あの穴とかね……あれどうなったの?」

「修繕は完了しております。それと今日は掃除も必要ありません」

「へ?」

掃除も必要ないって……なんで?

「すでにしてあります。本日はパチュリー様と朝のひと時をお過ごし下さい」

「え、あ、う?」

駄目だ。今日の僕はパチュリーの名前が出るたびに動悸が早くなる。

「私からのささやかなお礼です。どうぞごゆっくり」

「あ、あの咲夜さん?」

「気付かないとでもお思いですか?名前が出るたび顔が赤くなってますよ?」

「っと!あ、まだ良也さんこっちにいたんですね!」

「め、美鈴?なに?」

「これどうぞ」

渡されたのは花。赤いカーネーション。

「へ?」

「昨日の騒動で花も駄目になってしまったので。庭の花は私が育ててるんです。これ代わりの花です」

「ああ、なるほど。ありがとう」

「いえいえ。じゃ頑張って下さいね〜」

「うん。じゃ行ってくるよ」



Meirin side

「あなたもなかなか粋なメッセージね?」

「まあ良也さんは気付かないでしょうし。パチュリー様は気付くかもしれないですが」

赤いカーネーション。花言葉は『愛を信じる』

「まったく初々しいったらないわね」

「ええ。食後の会話でパチュリー様の名前が出るたび顔赤くしてばれないとでも思ってるんですかね〜」

微細な変化だったけれどパチュリー様の名前が出るたび良也さんの気が揺れた。動揺していた。

「あなたはもう少し少なかったら気付かなかったでしょ?ギリギリだったじゃない」

「あうぅ。い、いいじゃないですか!最終的に気付いたんですから」

咲夜さんは意地悪だ。

「咲夜さん」

「なに?」

「うまくいきますかね?」

「さあ?良也さん次第よ」

「たまに教えて下さいよ?」

「なにをよ」

こっそり覗くつもりなの解ってるんですよ?って目で訴えかけてみる。

「……解ったわよ。ちゃんと仕事してなさいよ?」

「了解です!」


08:00

「こんな感じ……かな?」

花を花瓶に活け、机にサンドイッチの皿を載せコーヒーを淹れる。

「これは、何事?お、おはよ……良也」

「あ、ああ。お、おはよ。パチュリー。なにごとって朝食の準備だけど……」

うわ、凄いドモってるような!

「そ、そう。……コーヒー?」

「あ、うん。たぶん僕でも入れられるように咲夜さんが、気を使ってくれたんだと思う」

「良也が淹れたのね……」

「ま、まあ」

あ〜!なんかうまくしゃべれない。

「味の方は……ちょっと苦い、わね」

「そ、そうかな?僕はこれくらいがちょうどいいんだけど……淹れ直す?」

「大丈夫よ。これくらい。あなたも座ったら?」

「あ。うん」

「座る前に私にも入れてくれないかしら?良也」

「レミリア!?」

こんな時間にレミリアが起きてる!?

「なにをそんなに驚いてるの?……ああ、私がこの時間に起きていることにかしら」

僕は首をぶんぶんと縦に振る

「それはそうでしょレミィ。あなたが朝に起きてるなんて」

「礼を言いに来てるのだから早い方がいいでしょ」

「「礼?」」

パチュリーとハモった。

「ええ。良也」

「へ?僕?」

「そうよ」

言いながらレミリアが席を立ち綺麗なお辞儀をした。

「私の親友をよく助けてくれた。紅魔館の主、そしてパチュリーの友として感謝する。ありがとう」

「どういたしまして。でも、友人を助けるのは当然だろ?」

僕は素直にその礼を受けお辞儀をする。

「良也……お前はこれからもそうであれ。さすればお前はこのレミリア・スカーレットの友人だ」

プライドの高いレミリアが礼節に則り頭を下げた。それはそれだけ感謝していると言うこと。それをちゃんと受け取らないのはレミリアのプライドに傷を付ける行動だ。それが解る程度には付き合いは長い。

「っと、はい。コーヒー」

「うむ」

いつの間にか増えたカップにコーヒーを入れる。そして仰々しくうなずき口をつけるレミリア。数秒後、涙目になった。

「にがぁい……」

いままでカリスマ全開だったのにいきなり見た目相応に幼くなったな

「そんな涙目になるほど苦くはないわよ。ねぇ良也」

苦笑しながらパチュリーが告げる。

「そこまで苦くないはずだけど」

「うぅ〜。ミルク!それと砂糖!」

「はいはい」

ぽぽちゃぽぽちゃぽちゃ

レミリアにミルクポットと砂糖瓶を渡す……うわ凄い速度で砂糖を三つも入れた。さらにミルクもたっぷり入れ嬉しそうにスプーンで混ぜたのち何事もなかったかのように口をつけた。

「……朝のコーヒーも悪くないわね」

そんな甘いコーヒー飲みながら言っても格好つかないぞ

「そんな甘いコーヒーを飲みながら言っても格好つかないわよ」

パチュリーが僕の心の声を代弁してくれた。

「……良也。今日のディナーは期待なさい。最終日でしょう?お礼も兼ねてパーティーを開くわ……それじゃコーヒー御馳走様」

レミリアが図書館から出て行った。

「逃げたな」

「逃げたわね」

ってこれどうしよう。半分くらい残ってるけど

「……どれくらい甘いのかしら?」

「少なくともコーヒーの匂いはしない」

ちょっと苦みのあるコーヒー独特の匂いはまったくしない

「ん。………けほっ!」

あ。パチュリーが好奇心から口をつけ……むせた!?

「甘過ぎるわ……見て」

パチュリーがスプーンを持ち底を掬う。

「砂糖が溶けきってない!?」

「レミィったら三個に見せて五個は入れたわね」

「つまり?」

「自分の身体能力を使って入れたんでしょ」

そんなことに吸血鬼の圧倒的ポテンシャルを使うなよ!?

「いくら渡したのがブラックとは言え入れすぎだろ」

「レミィはミルクティーにすら砂糖一本入れるからね」

「へぇ……あいつそんな甘党なのか」

「味覚がお子様なのよ」

「そういえばチョコとか結構好きだな」

よく持って行ってるので食べてるところをよく見る。

「って魔理沙?」

「ああ。お邪魔してるぜ。パチュリー……昨日はその。悪かった」

「……ああ。珍しく静かに入ってきたと思ったらそういうこと」

「な、なんだよ。私だって悪いって思ってるんだ」

魔理沙が若干落ち込んだ顔をしている

「なに魔理沙らしくないこと言ってるの?昨日のは別にあなたの所為じゃないわ」

「だから言っただろ魔理沙。パチュリーは怒ってないと思うって」

苦笑しながら告げる

「うぐ」

「あれは楽しいお遊びの最中に起きたことよ。不測の事態は覚悟しておくってのがルールでしょ。それでこの話はおしまい。良也、魔理沙にコーヒー淹れてあげてくれる?」

「ああ。……咲夜さん忙しいんじゃないのか?」

またカップが増えていた。つまり瀟洒なメイドが甲斐甲斐しく世話をやいてる事に他ならない。

「咲夜は私が来た時中国としゃべってたぜ?」

「あれ?朝だけ忙しかったのかな……いや今も十分朝だよな」

咲夜さん達と食事をしてから一時間も経ってない。

「っと。じゃあ私は静かに調べ物してるぜ」

「ん。私も食べ終わったことだしそろそろ目録作りでもしようかしら」

「は?」

それは僕の仕事では?

「いまは別に読んでない本もないし図書館の主は私よ?そう言う仕事をすることもあるわ。ということで良也。次の場所の本を持って来て頂戴」

「ああ。了解」

せっかくだし僕もパチュリーと一緒に作業するとしよう。その後はパチュリーとたわいもない話をしながら目録作りを行った。


12:30

「……良也」

「ん?なに?」

「お昼にしましょう。魔理沙も」

「……あ〜?昼か。なんだ出してくれるのか?」

あれ?魔理沙なんであんな離れた席に……最初は僕の隣にいたのに

「咲夜のことだし用意してるわよ」

チリンチリン

次の瞬間には机の上にセッティングされていた。ちゃんと三人分。そしてお辞儀してる咲夜さん

「お待たせしました。昼食です」

「まあ出してくれるってんなら貰うけど……甘くないよな?」

「「は?」」

「大丈夫よ」

僕とパチュリーは聞き返し魔理沙のわけのわからない発言に咲夜さんが答える。

「甘い昼食ってなんだろ?」

「……さあ?」

パチュリーと二人首を傾げる

「まあ、いいわ。いただきましょう」

「あ、うん」


Marisa side

「……自覚してないのか?あの二人」

「そうでしょうね。今朝は二人とも意識しててがちがちだったのよ?」

「は?もう結構な付き合いになるかのような作業内容だったぞ?てっきり……」

午前中あんなに甘ったるい作業をしてたんだぜ?まるでそう作業するのが当たり前の様な

「あの二人にはあれが自然なんでしょうよ。大体目録作りをパチュリー様がやってるの初めて見たし」

「あんなお互いにフォローしあって息の合った作業してるのにあれが今日初めて?」

パチュリーが作り終わりそうになったら良也が本を取りに行き、その間の良也の分をパチュリーが手を貸す。それも談笑しながら。

「まあイベントが立て続けに起きたから忘れてるんでしょうよ。今もそう」

「ああ。パチュリーのカップが空になったらすかさず良也がお茶を注いでるな」

「おかげで私の仕事がないわ。楽でいいけどね」

「ほっといていいんじゃないのか?」

少なくとも私ならほっとく

「見てる分にはいいものよ?」

「私はもうお腹一杯だぜ。ま、私はこれ食べたら帰る」

「……あと依頼があるのだけど」

「その時の幹事は任された」

つまりあの二人を肴に今度宴会するんだろ?

「話が早くて助かるわ」

「すたこらさっさだぜ?」


13:20

「じゃ、私は帰る。じゃあな」

「あれ?魔理沙さん……お帰りになるんですか?」

「「小悪魔(さん)?」」

魔理沙が帰ろうとした時扉があき入ってきたのは小悪魔さんだった

「はい。ただいま戻りました。パチュリー様。良也さんありがとうございます」

「あなた早くても今日の夜になるって言ってなかった?」

「そのだったんですが、思いのほか用事が早く片付いたので早く帰ってくることができました。ここからは私が作業しますよ。良也さんありがとうございました」

「え?いや今日までの約束だし小悪魔さん疲れてるでしょ?最後までやるよ」

「いーえ。咲夜さんからお話は伺っています。パチュリー様を助けて戴いたお礼をしなくてはこの小悪魔のプライドが許しません!さあ良也さん。引き継ぎを!」

「いや、そうは言っても……」

戸惑う。小悪魔さんはやる気に満ちているけれど長旅から戻ったばかりの小悪魔さんに仕事を押し付けるのは

「大丈夫ですよ。今回のこの魔界行きはちょっとした仕事ついでの帰省ですから。さあさあさあ!」

「良也」

パチュリーが短く僕を呼ぶ

「パチュリー」

「こうなった小悪魔は頑固よ。諦めなさい」

「とは言っても……頼まれた仕事を途中で投げ出すみたいな感じで」

なんかちょっと気分が悪い。

「じゃあこうしましょう。良也さんはパチュリー様と一緒にあそこで隠れてる妹様の相手をお願いします。目録作りは私が換わります」

確かに本棚の陰にド派手な羽が隠れきれていないフランドールがいた

「……なんでわたしまで。別に構わないけれど」

「解った……解りました。いまのところここまで終わってます」

「私は蚊帳の外みたいだし今度こそ帰るぜ。またな」

「ええ。じゃあね。魔理沙」

僕が引き継ぎを始めた時魔理沙が帰宅を告げた。魔理沙に向けてひらひらと手を振っておく。あ、小悪魔さんも同じ行動してる。

「……私がここまでくらい出来てればいいと思って頼んでいたところも終ってる……随分かんばりましたね」

「……そうなんですか?」

「ええ。私が終わってればいいなと思ったのはこの量の半分くらいです。この量だって三日使ってようやくかなぁって思ってたんですけど」

と小悪魔さんがさした量は昨日の事件があったときくらいまでやっていた量だった。つまり昨日の時点でノルマをこなしていたということになる。

「でも今日のこの時間でここまで終わるとは……恐るべしパチュリーの作業スピード」

「え?」

なんか小悪魔さんが驚いた顔でパチュリーの方を見てる

「なに?小悪魔」

「い、い、いいえ!?なんでもないですよ!さ、良也さん!あちらの妹様の相手をお願いします!?」

パチュリーが小悪魔さんに魔力で威圧してる……ってことは解った。視線でこちらに助けを求める小悪魔さん。うん。僕は空気読めるから助けるよ

「フランドール……なんで隠れてるの?こっちに来なよ」

「わ。えと。なんか入りづらくて……なんで隠れてるの解ったの?」

「羽が丸見えよ。体だけじゃなくて羽まで隠さないと意味がないわ」

パチュリーが小悪魔さんを威圧するのをやめてこちらの会話に加わる。小悪魔さんが胸を撫で下ろすのが見えた。

「あ……そっか」

「それで、また読書?フランドール」

「……ダメ?」

う。その上目使いは反則だぞフランドール

「良也はたった今仕事を終えたわ。気兼ねすることなんて無いわ」

「ほんと!?」

「問題無いよ。読む本持っておいで」

「うん!」

フランドールが本を取りに駆けて行く。童話や絵本の棚ならもしかしたらフランドールが一番詳しいかもしれないなとちょっと考えながら

「妹様の方が童話や絵本の棚は詳しそうね……」



15:30

「お茶でもいかがですか?皆様」

咲夜さんが紅茶を載せたカートを押しながら図書館に入ってくる。

「咲夜。お菓子はある?」

「ええ。もちろんございますわ。妹様の好きなチョコチップクッキーです」

「やった!」

フランドールが僕の膝の上から飛び咲夜さんの下に飛んで行く。

「さすが吸血鬼。圧倒的身体能力ね」

「レミリアといい、フランドールといいそのポテンシャルの使い道を間違えてる気がするけど……僕は」

「確かにね」

僕とパチュリーは苦笑しながら会話する

「良也ー!食べようよ!」

「今行くよ。ほらパチュリーも」

「私も?」

酷く驚いた顔を僕に向ける。僕はそんな変なこと言っただろうか?

「良也ー?パチュリー?」

「ほらフランドールも呼んでるよ。行こう」

僕はそう言いながらパチュリーに手を差し出す。

「……そうね。たまにはご相伴に預かりましょうか」

ぎこちなく。でも確かにパチュリーは僕の手を取った

「良也にパチュリーも早く食べよ!おいしいよ!」

「……レディがそんなはしたなく食べては駄目よ?妹様」

パチュリーがハンカチでフランドールの口元を拭う。

「んう……」

「ほらじっとして。良也」

「はいはい。……よっと」

僕はフランドールを抱き抱え膝の上に乗せる

「まるで妹様のご両親みたいですよ……お二人とも」

「「は?」」

咲夜さんの言葉に僕とパチュリーは顔を見合わせる。ついでに小悪魔さんと咲夜さんも顔を見合わせていた

「幼い娘の口元を拭う母親のパチュリー様に」

「それをサポートする父親の良也さんって感じですね……予行練習もばっちりですね」

「こ、小悪魔……な、なにが予行練習よ」

「そ、そうだよ。僕とパチュリーじゃ僕が釣り合わないって」

「……自分を卑下するのは美徳じゃないわ」

いやでも以前百年後には考えなくもないわとか言われた記憶が

「……なんかパチュリー怒ってる?」

「へ?」

フランドールに言われてパチュリーを観察してみる。パチュリーとの付き合いも結構な長さだ。さすがに霊夢ほどじゃないがそれなりの変化は解る。……その経験からの結果は微妙に怒っている

「……なによ」

「僕なんかまずいこと言った?」

そしてこの場合は大概僕が怒らせてる原因なわけだ

「言ったと言えば言ったわ」

「……」

パチュリーの無表情が悲しいものに変化している

「……雰囲気を悪くしてしまったわ。ちょっと風に当たってくる」

パチュリーが席を立ち図書館を出て行く。

僕はパチュリーの反応で理解してしまった。

「……そんな馬鹿な」

「結論に至ったようですね」

「……その言い方だと気付いてたみたいですが?」

咲夜さんを思わず見る

「この小悪魔が証明しましょうか?」

小悪魔さんもか

「……いや。追いかけるから」

咲夜さんと小悪魔さんが微笑んで

「「がんばって下さい」」

応援の言葉をくれた

「ありがとう。行ってきます」


紅魔館バルコニー


「……なにをしてるのかしら私」

良也が自分を卑下するのに我慢が出来なかった。

「別に不思議なことでもないでしょう?パチェ」

「……レミィ」

まだ夕方だ。彼女が出てくるには少し早い

「最初から居たわよ。惚れた男が自分を軽く見るのが嫌だったんでしょう?」

「誰が……」

「ごまかしても駄目よ。この館であなたの気持に気付いてないのはフランくらいね」

「……っ」

「……怒ったかしら?……考えてみればパチェと喧嘩をしたことなかったわね?」

「……そうね。レミィ」

私は自分の魔力を高める。相手は吸血鬼。永遠に幼き紅き月。紅い悪魔。レミリア=スカーレット

「本気のぶつかり合いって言うのも悪くはないのだけれど。残念。真打ち登場……ね。それじゃ」

そう告げレミィは姿を消し、直後に自分の弟子の声が聞こえる

「パチュリー!」

「一人にして欲しいのだけれど……?」

「そんな寂しそうな声で言われても僕は納得しないぞ」

些か付き合いが長すぎた。しかも良也はそういう感情に敏感な人。

「じゃあ……あなたがこの寂しさを消してくれると言うの?」

わたしの精一杯。意気地無しな良也の背中を押す。

「……僕でいいとパチュリーが言ってくれるなら」



「…………あなた以外居ないわよ」

僕はこの三日で護りたい存在となった彼女を抱きしめた

「ずっと一緒にいるよ」

「ええ……ずっと一緒にいなさい」

黄昏が世界を包み込む。そんな時の出来事だった











後書き

三度めまして。

ここまで読んで戴きありがとうございました。木端SS書き咲原です。

これにて奇縁譚AFTER IF〜パチュリー編〜完結でございます。

さてまずは恒例の言い訳。しかも今回は本気とかいてガチと読む言い訳。まあ何でこんな遅くなったんだと言うことに関します。まあ単純にリアルが忙しくなったのが原因。そしてなんかキャラが崩れてね?と思って修正を重ねてました。まあ未だ崩れてる気がしますが、ががが。

次、そして格好良いカリスマレミリアが書きたかった。ブレイクしてますが。

さらに本当はこの後のパーティー描写もあったんですがうまく纏まらず……しかも美しくなかったので削りました。

ちなみにプロット立てた時とストーリー展開が場所移動くらいしか原形を留めていないと言う!や、本当は今回ちゃんと思いを伝え合う接吻(なぜ古風に言う)させる予定だったんですよ?でも魔術的観念から言えば契約云々が絡むなぁとか『良也くん。君から告白してるシーンがかけらも想像できない』と言う。

とまあ言い訳終了。まあ所詮木端と言うのが判明しました。

次回作は……恋愛操想編とか……恋愛心層編とか?頑張ろう……私。

さて、ここまで読んで戴いた読者様に感謝を。最後に久櫛縁さんに最大の感謝を。

それではいつかの次回作のあとがきにてお会いしましょう。

09、07/04 咲原 甲斐



戻る?