「それじゃあ、今日の講義はこの位ね。時間も結構遅いし」

「そう、だね」

ふと時計を見ればそろそろ日付が変わろうとする時間だった。咲夜さんが淹れてくれたお茶も空になっている

「それじゃあおやすみ。パチュリー」

「ええ。良也もおやすみ」


東方奇縁譚AFTER IF 〜恋愛自覚編〜


07:00

ぴぴぴぴ!

「朝か……さて!今日も頑張るぞっと」

こんこん

「はい?」

「おはようございます。良也さん」

咲夜さんだ。今日もパーフェクトメイドのようだ……朝が美女の声から始まると一日がとても素晴らしいものになりそうな気がして来る。え?博麗神社?むしろ僕が起こすけど?

「おはようございます。咲夜さん」

「なかなか早いですね」

「はは。普段よりは遅いですよ。教師は八時には学校に来てないとまずいですからね。普段ならもうそろそろ家を出ます」

一時限目は八時四十五分から。その前に担任教師はSHRがあるし教師の朝会って言うのもあるので八時には来てないとまずいのだ。

「……そのあたりは昔とあんまり変わらないようですね」

「はい?」

「いえ。なんでもありません。ところで朝食はどうしますか?私はもう済ませていますが……美鈴は今からです。出来れば一緒にとって戴けると助かるのですが……」

「あ。もう食べられるの?そんな急がなくても大丈夫だけど」

「昨日の来訪から考えて良也さんはパチュリー様より先に行って掃除をするようですから朝食は遅くても七時半までにはとられると思いまして用意してあります。暖かいうちに召し上がってほしいところですが後ほどでも構いません。」

さすが完全で瀟洒なメイド。隙がない。この人は仕事にミスはしない人だ。

「暖かいうちに食べるよ。着替えたら食堂でいいのかな?」

「こちらでお召し上がりになると言うなら持ってきますが……美鈴が一緒に食べたいのか一応待っていましたよ。普段は一人でとっていますからね」

そりゃ寂しそうだ。一人で食べるよりも二人で食べた方がよりおいしく感じられるだろう

「じゃ着替えたらすぐ行くから美鈴には悪いけどもうちょっと待って貰えるって伝えてくれます?」

「解りました。ではそのように伝えておきます」

と言った瞬間には咲夜さんはいなかった。しかもしっかり昨夜のカップを回収して。毎回時を止めて移動しないでもと思わないでもない。それほど忙しいのだろうか。とか考えながら僕はスーツに着替えた。

07:20

「や、おはよー美鈴」

「おはようございます。良也さん。一緒に朝食をとる人が居るっていいですね〜。普段一人ですから寂しかったんですよ」

「咲夜さんと一緒にとったりとかしないの?」

僕は席に着きながらそう聞く。

「美鈴と私は昼はよく一緒にとりますが朝は私が早いので」

「そうですね〜。咲夜さんは五時には起きてますから」

「一体いつ休んでいるんですか。咲夜さん」

僕は昨日日付が変わるくらいには寝たけどレミリアはその時間からが活動本番なはずだ。……結構昼間活動してるところを見るけど

「昼食後からお嬢様がお起きになられる時まではそれなりに休んでいますが」

嘘だ。絶対見回りとかしてる。

「まあ咲夜さんは疲れ切ったら時を止めて休んでいますから」

「美鈴。そう言うことは言わないように。それではどうぞお召し上がりください」

つまり反則技で休んでいるらしい。そりゃあ時を止めたら何時間休もうが一瞬だ。さすがの咲夜さんと言えど人間らしく疲れるようだ。

「いただききます」

「いっただっきまーす♪」

うわ。すごい声弾んでる……そして凄い幸せそうに食べるなぁ美鈴。咲夜さんもさりげなく微笑んでるし。あれだけおいしそうに食べてくれると作った方も料理人冥利に尽きるんだろうなぁ。

「ん〜♪おいしいです♪」

「うん。おいしい」

「なによりです」

咲夜さんは僕たち二人にコーヒーを淹れ自らも椅子に座りコーヒーを飲み始めた。なんとも瀟洒な仕草だ。美鈴を眺める表情は慈愛に満ちている。

「御馳走様でした」

「ごちそうさまでした〜♪」

「ふふ。お粗末さま。それじゃあ美鈴、そろそろ門番の交代時間よ。よろしくね」

「はい!じゃいってきまーす!」

気付けばいい時間だった。僕も図書館に行って掃除でも始めるとしよう

「僕もそろそろ図書館に行かなくちゃ。咲夜さん本当においしかったです。御馳走様でした。パチュリーの朝食よろしくお願いします」

「解ってますわ。昨日と同じくお呼び下さい」


08:40

「おはよう……良也。今日も掃除してたの?」

「もちろん。まあ昨日よりは楽だったけど」

なにかパチュリーの顔色が悪そうだ。もともと白いので解りづらいけど今日は白いと言うより蒼白と言った方があっている。

「顔色悪いけど……大丈夫か?」

「平気よ。これくらい……いつものことだわ。私のことはいいから自分のペースで仕事しなさい」

「……調子悪くなったらすぐ言ってくれよ?小悪魔さんに薬の場所も聞いてある」

「無理そうなら助けを求めるから心配しないで」

僕はいざと言うときのため自分の手が届く範囲に薬を用意しておく。当然水差しもだ。

「さて……始めるか……『シルフィウインド』……」

そしてこっそりと気流制御してパチュリーに清浄な空気が行くようにする。ずっと維持するのは疲れるけど出来ないことはない。本当は『アクアウンディネ』も同時に展開出来たらいいんだけど……僕にそんな器用なことはできない。パチュリーの方を見るも気付いている様子はない……はずだ。

「……お節介ね……けほ」

聞こえてるぞ。パチュリー。でも僕は自重しない。

12:00

リンリン

「お昼に、こほっ……しましょう。良也」

咳をしながら声を掛けてきた。

「ああ、うん。本当に大丈夫?」

「朝よりもかなり……ね。誰かが綺麗な空気を送ってくれてるし……コホッコホッ」

「咳をしながら言っても説得力の欠片もないけど……薬飲んだら?」

「その薬は発作を鎮める即効性の薬なの……。予防薬じゃないから先に呑んでも、効果はないわ。それにその薬は思考が鈍るから……」

休めと言う僕の話は訊きそうになかった。自分の能力を展開し呼び鈴を鳴らす。瞬間世界がモノクロになった。

がちゃ

「あら?」

「や、咲夜さん。ちょっとお願いああるんだけど」

「わざわざ良也さんが時を止まらないようにしてのお願いですか……なんでしょう」

「パチュリーが調子悪いみたいだから……喉にいい飲み物……ハーブティーとかになにかあったよね」

「解りました。……良也さん。転職して紅魔館で秘書でもなさってみては?お嬢様に私から推薦してもよろしいですが」

「昨日パチュリーにも言われたけど柄じゃないよ。」

「そうですか……まあ気が変わったら言ってください……あなたが入ってくれれば私の仕事も楽になりそうですから」

えらい過大評価だった。この咲夜さんがそんな評価するなんて

「お待たせしました。昼食ですよ」

「……あら、マローブルーティー」

「良い葉が入ったもので。お気に召しませんでしたか?」

「いえ……ちょうどいいわ。ところで良也」

「なに?パチュリー?」

「いつそっちに移動したのかしら?さっきまでこっちにいたわよね?」

「へ?なんのこと?」

ばれた!?しっかり元の場所に移動したつもりなんだけど。誤魔化す言葉を口に出す

「まったく……カマかけただけよ。……もうちょっと表情を操作なさい」

「うう。精進します……」

「でも、ありがと」


13:30

ずぅぅぅぅぅん!

「っ……来たわね」

「ああ……来たな」

門の方から轟音と震動が伝わってくる。魔理沙が本を狩りに来たらしい(ある意味誤字じゃない)

「門番……止められるかしら」

「今は美鈴の勤務時間だし、今日の美鈴はやる気に満ち溢れてたけど」

でも突破されるのは時間の問題だと思う。魔理沙はフランドールとまともに遣り合えるんだから。

どぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!!!

「突破された……わね」

「ああ。でもかなり粘ったみたいだ。魔理沙が痺れを切らしてブレイジングスターで突っ込んだみたいだ」

「やれやれね……今日は調子悪いからあんまり遣り合いたくないのだけど」

立とうとするパチュリーの肩を僕は押し留める。

「僕がやるよ。勝てないまでも一枚くらい使わせて見せるから。小悪魔さんの代わりに」

「……格好つけちゃって。じゃあ任せるわ。司書代理」

「任された」

バン!

「今日も本を借りに来たぜ」

「残念だが魔理沙。そう簡単に借りられると思うなよ?」

突撃してきたのは当時より随分女らしくなった霧雨魔理沙。でも中身は変わってない。

「お?小悪魔はどうした?」

「出張中で僕が司書代理。一応聞くけど……退く気はあるかい?」

僕は返事が解ってるのにお約束のように彼女に訪ねた。

「そりゃ好都合……なんだ良也。私に勝てるつもりか?」

魔理沙は愛用の八卦炉を構えて箒に腰かける……そういう仕草は女性らしくなったが性格は全然だった。

「はっはっは。どうだろうね?簡単に負けるつもりはないけれど……それとカードは出さなくていいのか?」

「安い挑発だな。中国に粘られたからちょっとむしゃくしゃしてるんだぜ?良也なんぞ通常弾で十分さ」

この野郎。いや女郎。いい切り返しじゃないか。魔理沙が高度を取った

「まあ。それはやり合ってから言うんだな。負けた後に泣き言は訊かないぞ」

僕も上着を脱ぎふわりと飛び上がる。大胆不遜に片手でネクタイを緩め一番上のボタンを外しながら左手はポケットに突っ込んで。

「へぇ……しばらく良也が弾幕してるところ見てなかったけど……結構強くなったみたいだな。でもまだ私には勝てないぜ?」

「そりゃありがとう。まあ後ろで師匠が見てるんでね。精一杯やらせて貰うさ」

魔理沙は八卦炉を持ってない左人差し指で挑発しつつ言った

「じゃやろうぜ。蓬莱の魔法使い!掛ってきな!」

「掛かってきてるのは魔理沙だろ」

決闘準備……第二戦開始!

「先手必勝!」

というか攻めないと負ける。僕が魔理沙より誇れるのは体術。いくら成長したと言え魔理沙は小柄で非力な方だし体術の練習なんてしてない。なので時間操作をして一瞬で魔理沙の懐に飛び込む。

「ちっ!」

「逃げられると思うか?魔理沙!」

一瞬で後ろに下がろうとするも僕の方が半テンポ早い!空中による360度戦闘なんてあっちの世界じゃ役にたたないけれどここは幻想郷。空を飛ぶのが当たり前だ。擬似的に地面を作り右の蹴り!

「せりゃぁ!」

左手をあげて魔理沙がガード。構うものか

「ぐぅ!」

「まだまだ!」

確かに僕は妹よりも弱い。だからと言って魔理沙より弱いかと言われればそうじゃない。防がれた右足をそのままの速度で下し左の後ろ回し蹴り。ついでに右手から霊弾を飛ばして逃げ道をふさぐ

「な、めるなぁ!良也ぁ!」

「っつ!」

魔理沙が手の中で魔力弾を爆発させる!魔理沙もダメージを受けるが距離を取られた。

「っ」

「おーイテ。お前手加減しろよな。痣になったらどうするんだ。嫁に貰ってくれるのか?」

「手加減して勝てるわけないだろ。それに顔は避けてるよ。」

さすがに顔に叩き込みたくはない。親しい女性の顔を殴れる男じゃないんだ僕は。

「さすがに体術じゃ……勝てないか。でももう飛び込ませないぜ?」

「……だろうね」

さっきから冷汗が止まらない。この距離は魔理沙のテリトリーだ。魔理沙は懐からカードを取り出しながら言う

「通常弾で十分って言ったけど前言撤回だ。後が控えてるんでね。さっさと片を付けてやるぜ……恋符『マスターァ……

来る。とんでもない魔力が札から解き放たれるのが解る。でもなんにも出来ないわけじゃない。むしろ僕もこれを待っていた!

……スパーァク』!!」

「霊鏡『オールリフレクト』!」

僕が展開したスペルが発動する。スペル『オールリフレクト』……これは僕が展開する弾を逸らす壁の強化版だ。違うのは逸らすんじゃなくて相手に反射する……んだけどマスタースパークは逸らすのが限界らしい。威力が強すぎて反射させられない!

ズゴォォォン……

霊的に強化されてる図書館の天井付近の壁に穴があいて外が見える。僕の額に冷や汗が流れ魔理沙をジト目で見る。魔理沙が目を逸らす。

「殺す気かっ!?」

「結果的に当たらなかったんだからいいじゃないか。っと油断大敵だぜ?恋符『ノンディクショナルレーザー』!」

「ぐげっ!!」

当たった。当然当たれば落ちる。そこで僕の意識は途絶えた。


Patchouli side

「次は私……ね」

良也の意識が途絶えた。ちょっと良いのが入っただけなのですぐ意識は戻るだろう。良也の心配はいらない。とはいえ制御者が居なくなったため正常な空気も届かなくなった。自らでも張れるが今日の体調では魔理沙に勝てないだろう。魔理沙もここまでに三枚使わされている。苛立っているのが解った。

「ああ。さっさと終わらせてやるよ」

「そうね。でも魔砲一枚で私を落とせるかしら?彗星も恋符も使い切った。魔符じゃ私に通用しないわよ?」

その一枚を使わせることが目的だ。私の方はいつも以上に短期決戦で決着を付けねば倒れるだろう。せっかく門番に良也が頑張ってくれたのだ。勝たねばならない。私は蓬莱の魔法使いの師匠。弟子の頑張りを無駄には出来ない。

舞っている埃を少し吸いこんだ気がする。

「ったく。どいつもこいつも安い挑発を……なんだかイライラするぜ」

「普段の門番になら苦戦しないものね?あなた。それがまさか良也にも苦戦するとは思わなかったから苛立っているのよ」

舞っている埃をまた少し吸い込んだ気がした。

「ああ。認める。中国には油断した。良也は素直に強くなった。だから最初っから……」

「ええ。本気で来なさい。私も今日は……突破されたくない気分よ」

互いに自らの最高を構える。呼吸が辛くなってくる。まだだ。魔理沙を落とした後になら倒れても構わない。まだ持って私。

決闘準備……最終戦開始!

「魔砲『ファイナル!」

「火、水木金、土符『賢、者の……ごほっ!」



「はっ!パチュリー!?」

意識を取り戻す。上を見ればパチュリーに魔理沙が符を宣言しようとしたところだった。

「魔砲『ファイナル!」

「火、水木金、土符『賢、者の……ごほっ!」

このタイミングで発作!?パチュリーが胸元を抑え落ちてくる

「「パチュリー!?」」

魔理沙も驚いて止まる

「くそっ!間に合え!」

うまく動かない体に苛立ちながら地を蹴り手を伸ばす。

「三倍!」

自らの周囲の時を加速させる限界の三倍でなんとか……間に合った。

「……あ、あぶなぁ」

もうパチュリーの意識はない。苦しそうに閉じられた瞳。そしてか細い呼吸音が聞こえてくる。

「ひゅ――ひゅ――」

このままじゃやばい。

「魔理沙!」

「お、おう!」

「奥の机に水差しと薬が置いてある。持ってきてくれ!」

「あ、ああ!」

魔理沙が急加速し水差しと薬を取りに行く。僕は再び気流を操作し正常な空気を僕の範囲内に送り始めた。と同時に自分の空間内の埃を排出し始めた

「薬!」

魔理沙から薬を受け取る。

「ああ!……水は!?」

「水差しが倒れて零れてた!今すぐ咲夜に貰ってくる!」

と言って魔理沙が再びすっ飛んで行く。でも間にあわないかもしれない。それじゃあ駄目なんだ!

「……やるしかない!」

この状態で僕が打てる一手は自ら水を用意すること。それを可能とする術が僕にはある。

「水符『アクアウンディネ』!」

二つの魔法の同時展開。現在の状況じゃ両方の制御を出来ないとか言ってられない!制御出来ないじゃない……制御するんだ。

目の前に小さいながらも水の塊が出来る。迷うことなく薬を含み僕は頭を突っ込み水も含む。

「っ!」

パチュリーの口に唇を押しつけ薬と水を流し込む

「持ってきま……」

咲夜さんが時を止めてやって来た。僕の効果範囲内に居るのでパチュリーにすら効果がない。そういう意味では範囲を広げたの失敗だった。

「ぷは!」

僕は顔を上げパチュリーの顔を見る。即効性だと言っていたのは本当だったのか徐々に呼吸が落ち着いて行く。

「よかったぁ……咲夜さんもありがと。」

「いえ。こちらタオルです。頭を拭いて下さい」

渡されたタオルでまずパチュリーの顔を拭いてその後僕は自分の頭をがしがし拭いていく

「咲夜!間に合ったか!?」

「いいえ。でも良也さんがちゃんと処方してくれたわ……」

「そっか。ありがとな。それと済まない。パチュリーの体調が悪いなんて気付かなかった」

魔理沙が素直に頭を下げる。悪いことをしたときはちゃんと謝れる。だからこいつは憎めないんだ。

「僕じゃなくてパチュリーが目を覚ましたら本人に謝ってやれよ。それと今から一応念のため永琳のところに運ぶから僕たちを牽引してくれないか。ちょっと疲れた……」

「朝飯前だ!行くぜ!」

パチュリーを背負って魔理沙の手を借りて箒の後ろに乗る。

「よし。覚悟は出来た。最高速で飛ばせぇ!」

「了解!緊急用の二枚目!彗星!『ブレイジングゥ・スタァァァァァァァァ』!」

文字通り星になって先ほどの穴から飛び出した。僕は気流制御に全神経を傾ける。じゃないと呼吸できなくなるからだ。



「前方に永遠亭確認!」

「永琳、鈴仙!急患だぁ!魔理沙ぁ!診療室前まで減速しつつ突っ込め!」

僕は永遠亭全体に響くような声で叫び魔理沙に指示を飛ばす

「了解!」

診療室近くに永琳と鈴仙が待ち構えていた。

「患者は?」

鈴仙が僕の背中からパチュリーを寝台に乗せる

「僕の背中。症状は喘息。手持ちの薬は服用済み!発作は治まったけれど結構酷い発作だった」

「意識は?」

永琳は僕に症状の説明をさせてくる。

「ない。とりあえず呼吸は落ち着いた。診察するんだろ?終わったら呼んでくれ。さすがに……疲れた」

「ウドンゲ。魔理沙と良也に栄養剤。二人とも霊力不足よ。それが済んだら病室を一つ整えて頂戴」

「はい師匠。そこの椅子に座ってちょっと待っていて。今栄養剤を持ってくるわ」

「あいよ……ほれ魔理沙」

「ああ……さんきゅ」

僕たちを降ろしてそのままそこに突っ伏していた魔理沙に手を貸し、僕らは椅子に座りこんだ。

「疲れた……さすがに自力での二発目は疲れるぜ……魔力不足だ……」

「僕も同時魔法展開とさっきの気流操作で霊力空だよ。まあなんとかなったっぽいから良しとしよう」

永琳や鈴仙の様子から大事には至ってないようだし後は意識を取り戻せば大丈夫だろう

「お待たせ二人とも。栄養剤を持ってきたわ」

「あんがと」

「お〜」

鈴仙から紙コップを受け取り魔理沙と二人一気に飲む。何度かお世話になったから知っているがこの栄養剤本当に効く。

「そんな体に悪そうな飲み方を……」

「「ぷはぁ!」」

「じゃ次は良也。上を脱ぎなさい」

「は?」

いきなり何を言い出すのかこのウサ耳娘は

「シャツ、ボロボロよ。繕ってあげる。あ、とりあえずこれ着てなさい」

そう言われて目を落とす。右腕肘のところが盛大に破けていた。

「うわ!ありがとう。よろしく」

「良也。私は今日のところは帰るぜ。明日謝りに行くってパチュリーに伝えておいてくれ。じゃあな!」

「ああ。伝えとくよ。たぶん怒ってないと思うけど」

僕は魔理沙にそう告げながらシャツを換えた。


15:00

病室

「じゃ意識は夜までには戻ると思うわ。そうしたら帰っていいわ。」

「いいのか?」

「私は医者よ。医者の言うことは素直に聞いて大丈夫なの。お大事に。行くわよウドンゲ」

「あ、はい。師匠。良也これシャツとネクタイね。あげるわ」

鈴仙が先ほどのシャツを渡して来た。ところどころ焦げていたネクタイまでくれるらしい

「ネクタイまで……ありがとう鈴仙」

「それは繕った姫様に言って」

「これ輝夜が繕ったの!?」

正直以外だ。輝夜がこういう仕事得意だなんて

「ええ。本当は縫物が得意な兎にやらせようと思ったんだけど忙しそうで……そしたら通り掛った姫様が私が繕うわって」

「へぇ……今度改めて礼をしにくるけれど一応鈴仙からもありがとうって言ってたって伝えてくれる?」

「解ったわ」

「鈴仙もありがと」

「どういたしまして。じゃ」

素っ気無く返事をし鈴仙は去って行った。

病室には僕とパチュリーしか居なくなった。椅子に座りなおして今はもう穏やかに寝ているパチュリーを覗き込む。

「綺麗な顔だな」

もっと笑えばいいのにと僕は思う。パチュリーが笑ってくれれば僕は幸せを感じる。……ん?なんでだ?

「ん?」

ふと手を握られる感触。見ればパチュリーが僕の手を掴んでいた。

「え、ええ?」

これ、なんてフラグ!?僕そんなフラグたてた記憶ないんですけど!?

「……ん」

「なんか……すごい安らかな表情になったな……」

このままでもいいかと思い始めた。そのうち離すだろうし

「さすがに疲れたなぁ……」

僕の意識はそこで途絶えた。最後まで握られた手の体温を感じながら

18:05

「ん……」

意識が唐突に浮上して来る。

「寝ちゃったのか……ん〜……ん?」

背伸びをしようと手をあげ……ようとしたら手に違和感。視線を降ろしてくと

「凄いな。まだ握ってるよ」

「……ん。」

パチュリーが目を覚ます……え゛!?

「………………」

「………………」

地獄のような沈黙。

「っ!?」

パチュリーの顔が沸騰したかのように赤くなった

「な、なんで私の手を握ってるの!?」

「誤解だ!僕が握ったんじゃなくてパチュリーから握ってきたんだよ!」

僕もワンテンポ遅く顔が赤くなっていく。

「……ゆ、夢じゃなかったの?」

「は?」

「な、なんでもない。とりあえず手を放して」

「あ、ああ。」

手を離す。……少し残念だった……かな?

「……ふぅ。ところでここはどこ?」

「永遠亭。発作で倒れたのは?」

「……なるほど。念のためここに運んだのね」

「まあ。とりあえず永琳が起きたら退院していいって言うから永琳に声掛けてくるよ」

僕は立ち上がりながらそう言う。あ。着替えなきゃ

「そう……お願いするわ」



Patchouli side

「夢じゃなかった」

夢で苦しかった時に良也が手を差し伸ばして来た手をつかんだ記憶。そしてそれがとてもうれしく暖かかった記憶

「ふぅ……私も女だった。そういうことね」

自覚せざるを得ない。昨日から良也の優しさに触れ続けて惹かれている自分を。

「まあ、だからと言ってなにがどうなると言うわけじゃないけど」

私は生粋の魔女だし良也は蓬莱人だ。長い付き合いになるだろう。私と良也が結ばれる機会もいずれ巡ってくるかもしれない。その時を楽しみにしていよう。




「声掛けてきたよ」

「そう。じゃ帰りましょうか……ん」

パチュリーが立とうとするも力が入らないらしい……

「ああ。ほら無理しない。パチュリーくらい抱えて飛べるよ」

……って僕なに言ってんの!?ほらパチュリーも顔を真っ赤にしてるじゃないか!

「……ならお願いするわ」

「へ?」

予想外の返答に僕は間抜けな声が出た

「抱きかかえて飛んでくれるんでしょ?良也」

「え、あ、うん」

……背に背負うか……いやそんなことしたら背中の感触がやばいことになる。となると

「……よっと」

「っ!?な、なななっ!」

膝のところに手を廻し肩を抱いた。いわゆるお姫様だっこだ。

「しょうがないだろ。他にどうしろと」

「せ、背中に乗せればいいでしょう!?」

「無茶言うな。僕はこれでも健全な成人男性だ。僕だって恥ずかしいんだ。我慢しろ」

「……滅茶苦茶なことを言うわね」

パチュリーは諦めたのか。ため息をつき大人しくなった。って!ええええ!?

「お、おい!パチュリー!」

「なによ。こうした方が楽でしょう?」

「そりゃそうだけど!」

パチュリーは僕の首に手を回して来た。でもおかげで顔が近い。凄い近い。吐息が感じられるくらい。しかも耳に当たる!

「私も恥ずかしいんだから我慢なさい」

「ぐ!ええい!帰るぞ!」

こんな恥ずかしいところ誰にも見られたくなくて病室の窓から飛び立った。自らの能力で全力で気配を消しながら。

「………………」

「………………」

飛び立ってからしばらくは無言で飛んでいた。でも不思議と嫌じゃない。抱きかかえたパチュリーの体温が僕に伝わる。……なにかとても安心できる温度だった。ちょっと力を入れて自分に密着させる。

「ん……なに?」

「抱え直しただけだろ」

「そう」

「ああ」

……僕はこんなにもパチュリーに惹かれていたのか。この温もりを離したくない。パチュリーを好きなんだと自覚した。

その後、紅魔館に着くまで僕たちは無言だった。でも穏やかな気分で輝きだした星を眺めながら紅魔館まで飛んで行く。


後書き

二度目まして

木っ端SS書きの咲原です。いかがでしたでしょうか?二日目〜恋愛自覚編〜。一日目〜恋愛知識編〜より6kも長い……アホか私。

さて!気を取り直して言い訳。一般的に喘息の薬は薬効成分が気化したものです。そりゃそうですよね。気管支の病気なんですから。でもそうすると口移しイベントが出来ない!なので飲み薬にさせてもらいました。だって口移しイベント(二度言った)……勢いでやりました。まったく後悔はしてない。

さて、残すところ後一話です。出来れば完結までお付き合いして戴ければ幸いです。

ここまで読んで戴いた読者様に感謝を。最後に久櫛縁さんに最大の感謝を。

それでは完結……三日目(恋愛実践編)の後書きにてまたお会いしましょう。

09、05/09 咲原 甲斐



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