+++もしも霊夢の好感度が99以上だったら+++



ガンガンと痛む頭を押さえながら、僕は地上への道のりを急いでいた。

あの後、地霊殿の宴会騒ぎに巻き込まれなし崩し的に呑んでしまったけど、よくよく考えてみれば僕は霊夢のお遣いの最中だ。

険悪だったさとりさんと神奈子さんもだいぶ和解したようだったので、僕は離脱させてもらったんだ。

多分今頃カンカンなんだろうな〜・・・。

一抹の不安を抱きながら、僕はようやく見えてきた地下世界と地上を結ぶ穴へと急いだ。








「・・・何だか凄い妬みを感じるわ。オラわくわくしてきたぞ!!」

途中、普段は嫉妬に溢れた暗い声の橋姫が、やたらと喜色に満ちていたのが気になったが。








「た、ただいま〜。」

恐る恐る、母屋の縁側から中に入る。怒ってないといいな〜・・・。

そんな僕のささやかな願いが叶うほど、世界は甘くないんだけどね。

「・・・随分遅かったわね、良也さん。」

居間でちゃぶ台の横に、こっちに背を向けて座ってる霊夢が、明らかに怒気をはらんだ声で静かに言ってきた。

・・・背筋にヒヤリとしたものを感じながら。

「・・・ごめん。ちょっと宴会に巻き込まれたんだ。」

謝り、事情を説明した。

「へぇ・・・。」

・・・その「へぇ」はやめてくれ。生存本能が警鐘を鳴らすぞ。

「私が一人でご飯を食べてる間、良也さんは楽しんでたんだ。それは良かったわね。」

うぅ、良心がずきずきと痛む。しょ、しょうがないじゃないか!あの険悪な雰囲気の二人を放っておいたら、何があるかわかったもんじゃなかったんだから!!

「そ、それに霊夢は自分でご飯作って食べたんだから、いいじゃないか!!」

「・・・そうね。」

僕の言葉に、霊夢はつまらなさそうに同意した。

・・・あれ?これって・・・。



「ひょっとして霊夢、僕の作ったご飯が食べたかったの?」

「・・・!!」

図星だったのか、霊夢は顔を真っ赤にした。

「そ、そんなわけないじゃない!!別に良也さんが作ったからって、そりゃ最近は腕を上げたけど、別に楽しみにしてるわけじゃないんだから!!」

本音駄々漏れだった。・・・ついつい苦笑してしまったのも仕方のないことだ。

「な、何よ!何笑ってるのよ!!そんなに笑うんだったら今日はうち貸さないわよ!!」

そんなことを言ってきた。すっかり立場が逆転してる。

「わかった、わかったから怒らないでくれ。」

「全然わかってないじゃない!!・・・もういいわ、今日は本当に寝床貸してあげないんだから!!」

そう言って、ふいっとそっぽを向いてしまった。・・・ちょっと笑いすぎたかな。

「わかったよ。今日は他で寝床を借りてくるから。ご飯作ってあげられなくてごめんね。」

ここは、僕が引いた方がいいだろう。

僕は置いていた荷物を纏めて、博麗神社を後にした。

う〜ん、どこの寝床を借りればいいかな。





で、結局。

「ふーん、そりゃ災難だったな。」

「まあね。全く、神奈子さんも大人気ないんだから。神様なのに。」

消去法で、同じ蓬莱人である妹紅に宿を借りることにした。

紅魔館は色々な意味で危ない。白玉楼は今からじゃ遠すぎる。永遠亭は紅魔館とは別の意味でもっと危ない。

守矢神社は・・・神奈子さんと諏訪子はまだ地下で宴会中だ。今は東風谷一人のはず。そんなところに転がり込むのはどうかと思うし。

それでなくても、教え子の家に転がり込むのはまずいだろ、世間体的に考えても。

魔理沙の家はゴチャゴチャしてるし、何もないのにアリスの家に転がり込むのも何か変な気がした。

そんなわけで、僕は今日は妹紅の家でお世話になることにしたのだ。

「で、晩御飯はいいのか?別に作るのに手間はかからないけど。」

「ああ、気にしないで。そこまで世話になれないし。それに、地霊殿の宴会でちょっと食べたし。」

ほとんど酒だったけどね。

「それじゃダメじゃないか。ちゃんと食べるもの食べないで病気になっても知らないぞ。蓬莱人だって風邪は引くんだからな。」

・・・妹紅の言うことももっともだ。だけど、いきなり転がり込んできて泊まらせてくれってだけでも十分すぎるほどなのに、その上飯まで食わせてくれなんてどれだけ無遠慮だ。

「気にするなよ。私だって良也にはそれなりに世話になってるからな。お菓子とか。」

実を言うと、妹紅は上得意なのだ。自分で買いに来ることは少ないけど、慧音さんに頼んだりしてる。

長く生きてるけど、現代ほど食に満ちた時代はなかったはずだからな。人一倍新鮮に感じるのかもしれない。

「そう?それなら、ちょっとお世話になっちゃおうかな。」

「はいよ。おかずは焼き鳥でいいか?」

さすがは自称健康マニアの焼き鳥屋。



とは言ってたけど、妹紅の出してくれた料理は、野菜もたっぷりでバランスの取れた食事だった。

しかも味もいい。

「うん、妹紅はいいお嫁さんになれるよ。」

「何言ってんだ。私みたいな不老不死をもらってくれる男が何処にいるんだよ。」

それもそうかな。ちょっと無神経だったかもしれない。

「それとも、良也がもらってくれるかい?」

「そういうのは輝夜のキャラでしょ。」

「冗談だよ。あいつみたいな真似はしたくないよ。」



そんな感じで、僕達はまったりとした時間を過ごしたのだった。





ただ、何故かその間中、背筋に感じた黒い悪寒は消えなかった。

・・・何なんだろう、本当に。





  *     *     *





何だか胸の辺りがもやもやする。

良也さんが地下世界から中々帰ってこなかった辺りからずっとそうだ。

そのせいで私はイライラし続けていた。

「はぁ・・・。ったく、何なのよ一体。」

イライラが募って言葉になる。けどそれで解消するわけじゃない。

そのせいで良也さんに当たって、良也さんを追い出して。

それでさらにイライラしてるんだから、世話ないわね。

良也さんはちゃんと宿見つけられたかしら?途中でルーミアとかに食べられてないかしら。

まあ、すぐに生き返るから問題はないだろうけど。ああけど、レミリアとかに見つかって死なない程度に血を抜かれたら回復に時間かかっちゃうわね。

良也さんは、良也さんが・・・。

布団の中に潜ってまで、頭に浮かぶことは良也さんのことばかりだった。

「あーもう!!一体何だってのよ!!」

そのため、私のイライラは限界を突破し、跳ね起きたのだった。

いいわ、だったら良也さんのこと探し出して、このイライラをスッキリさせてやるんだから!!

私は寝巻きを脱ぎ捨て、いつもの巫女服へと着替え、夜空へ飛び出した。

さあ、まずは紅魔館からね。





「こんな夜遅くに何のよぶべら!!」

「あら霊夢、私によばべら!!」

「お嬢様!?霊夢、あなたなんてこもぐら!!」



違ったか・・・。じゃあ次は白玉楼ね。



「ん?こんな夜遅くに何の用だわば!!」

「あら霊夢、良也ならきてなべし!!」



ここも違う。永遠亭はどうかしら。



「あ、霊夢じゃん。どうしひでぶ!!」

「てゐ!?・・・まあ日頃の行いあぼーん!!」

「な、何よいきなり乗り込んできて!!あんたにあげるものなんて何mプチ!!」



違う!!良也さんは何処にいんのよ!!



「な、何ですか霊夢!?こんな夜遅くに非常識だと思わへぶ!!」

「早苗!?霊夢、一体何すごしかぁん!!」

「あっはっは!!神奈子、何だいそのごしかぁんってごしかぁん!!!」



ここでもないなら何処なのよ!!



「んあ?こんな遅くに何の用dごはぁ!!」



「ちょ、霊夢何よいきなり上がって来て・・・って無言で帰るなぁー!!」



良也さん、何処に行ったの!!?



良也さん、良也さん。良也さん良也さん良也さん良也さんりょうやさんりょうやさんリョウヤサンリョウヤサンリョウヤサンリョウヤサンリョウヤサンリョウヤサンリョウヤサン。



私は夜の幻想郷を宛てもなく彷徨った。

ただ心だけが良也さんを求めて。私はそれに従って飛び続けた。

湖にも行った。天界にも行った。マヨヒガにも無理矢理入った。

幻想郷中を探し回った。

だけど良也さんは何処にもいなかった。

「う・・・ひぐ、り゛ょう゛や゛さあ゛ん゛・・・。」

いつの間にか泣いていた。だけどそんなこと、構う余裕もなかった。

ただひたすら飛び続けた。





どれくらい彷徨っただろうか。私はもう、幻想郷全てを探し回っていた。

だけど見つからなかった。心はもう、押しつぶされそうなほどだった。

「・・・りょうや、さん・・・。」

私は地面に降り、石の上でうずくまっていた。

「・・・もう朝。」

私は差してきた朝日に顔を上げ、しかめた。





その目に、一軒の家が飛び込んできた。

そういえば。人里には行ったけど、この人里から離れた――迷いの竹林の入り口にある蓬莱人の家にだけは行ってなかった。

「・・・良也さん、良也さん。」

私は重い体を引きずり、その家の中に入り込んだ。



そこに、良也さんはいた。

少し離れたところに、藤原妹紅が眠っていた。

・・・この女が、一晩良也さんと一緒にいたのね。



そう思った瞬間、私は目の前が真っ赤になった。



そして――





  *     *     *





ずぅんというとてつもない地響きで、僕は覚醒した。

「わっ!?な、何だ!!?」

跳ね起き、辺りを見回した。

「うっ・・・!!?」

そうしたら、僕の目に信じられないものが飛び込んできた。



僕の少し離れた隣で眠っていたはずの妹紅が。



巨大な陰陽玉に潰されて、死んでいた。確認しなくてもわかる。原型をとどめてないから。

それ自体はあまり問題にはならない。いや、実際は問題だらけだけど、妹紅も蓬莱人だからすぐに生き返るだろう。

問題は誰がやったか。

そして、下手人は当然。

「・・・霊夢、お前がやったのか?」

それを、感情のこもらぬ瞳で見ている、その傍らに立つ霊夢。

何で?どうして霊夢が妹紅を殺さなくちゃならなんだ?僕が標的になるならまだわかるけど、何で妹紅なんだ。

思考に耽る僕に、霊夢が視線を向けた。

「ヒッ!?」

「良也さん・・・。」

感情のこもらぬその瞳は、僕を怖気させるのに十分だった。

一歩ずつこちらへ歩み寄ってくる霊夢。僕は恐怖を感じ、後ずさった。

だけどここは狭い室内。すぐに壁にぶつかってしまう。

「良也さん。」

霊夢は僕の目の前まで来ていた。

僕も殺されるのか・・・?すぐに生き返るけど、痛いものは痛いんだ。だから嫌だった。

けど僕が霊夢に敵うはずもない。もっとむごたらしく殺されるのがオチだ。

だから僕は、その痛みに耐えるためにギュッと目を瞑った。





だけど、いつまで経っても痛みは襲ってこなかった。

恐る恐る目を開ける。

すると何故か、霊夢の顔が僕のすぐ近くにあった。

「え、れ、霊夢?」

困惑の声を上げる僕を無視して、霊夢は僕の顔を手で持った。





そして僕は、霊夢に唇を奪われた。

・・・は?



「ん、んむんん!!?」

抗議の声を上げようとしたが、僕の唇は霊夢の唇で塞がれているので、声にならなかった。

霊夢はうつろな瞳で行為に没頭していた。

唇を奪うだけじゃ飽き足らず、舌まで潜り込ませてきた。

「ふむ、んんん!!」

「は、はむ、んむむ・・・。」

酸素不足のために頭がぼーっとしてきた。だんだんと体に力が入らなくなってくる。

まさかこんな方法で僕を殺す気なんじゃ・・・。



そんなことを思った直後、霊夢の唇が離れた。

ぷは!!死ぬかと思った!!僕は思いっきり息を吸い込んだ。

そのおかげで頭がすっきりした。

僕は霊夢に文句を言おうとして。



霊夢が僕の膝の上で、寝息を立てていることに気がついた。

・・・え〜?

僕は早すぎる事態の推移についていけず、ただ呆然とするばかりだった。

「あいたた・・・。一体なんだよ、いきなり。」

その僕の意識を戻したのは、生き返った妹紅の声だった。

「妹紅、大丈夫だった?」

「いや、ばっちり死んだよ。全く、朝っぱらから何すんだよ。輝夜でもあるまいし。」

ごめん、と言いたいところだけど、やったのは僕じゃないし当人は夢の中だ。理由もわからない。

「はぁ、わけわからん。とりあえず、朝飯食べてくだろ?」

「あ、いいよ僕が」

作るよ、と立ち上がろうとして、立ち上がれなかった。

霊夢の手が、僕の服をギュッと強く握っていたから。

「・・・そんなんじゃ作れないだろ。いいよ、私が作ってやる。お前はわがまま姫のお守りでもしてろ。」

妹紅が苦笑しながらそう言った。殺されていい気分はしないだろうに。本当にすまない。

「いいって。私は死に慣れてるしな。気にしてないよ。」

本当に何でもないことのように、妹紅は台所へと入っていった。

後に残されるのは、床に正座する僕と、僕の膝の上で寝息を立てる霊夢。

妹紅が潰された後の染みがあるけど・・・そっちは見ないようにして。

さっきまでの騒ぎが嘘みたいな静けさだった。

「全く・・・なんでこんなことしたんだよ。」

起こさないような声で問いかけてみる。だけど当然、答えは返ってこない。

ただ、僕の服を握る手の力が増したような気がした。

――寂しかった、のかな。いやまさか、霊夢に限ってそんなことは。

でも、普通に考えたらそれが普通なのかもしれない。何だかんだ言って、霊夢はまだ子供に近いぐらいなんだから。

だとしたら、今回の霊夢の奇行は全て僕のせいなのかな。霊夢を一人にしてしまった僕の。

「ごめんな、霊夢。」

その頭を優しく撫でる。霊夢はほんの少し、微笑んだ気がした。








後日聞いてみたところ、霊夢にこの日の記憶はなかったようだ。

そしてどうやら、妹紅だけでなく幻想郷中のあらゆる人たちに迷惑をかけていたようだ。

おかげで僕は、霊夢の代わりに謝りに行くのに奔走するのだった。

お後がよろしいようで。



あ、そういえば僕ファーストキス・・・。でも本人覚えてないんだし、カウントしないでおこう。





〜あとがき〜

ィィィイイイヤッフウウウウウウゥゥゥゥゥ!! イッツミー、ロベールトォー!!

というわけでロベルト東雲です。おはようございます、こんにちは、あるいはこんばんは。もしくは初めまして。

今回のお話は奇縁譚百四十六話『地霊殿の会議』の後日談的何かになります。

もしこの時点で、霊夢の良也に対する好感度が高かったら?という妄想でございます。

色々突っ込みどころはあると思います。活かしきれてないところもあるとは思います。

しかしそんなことは忘れて、ただ笑っていただければ幸いと思います。



さて。

今回のお話のコンセプトですが、「久櫛縁さんからのキラーパスをトラップしつつ、ツン・ヤンデ霊夢を実現させる」というものです。

んなキラーパスいつもらったんだ?と思う方も大勢いらっしゃることでしょう。

しかし俺は覚えているのです。

そう、あれは百四十六話の感想を書いたときのことでした・・・。



ケロヨン可愛いよさん「そして最後は「べ、別に良也さんが作ってくれなくても自分で作れるんだから!勘違いしないで!」といってツンツンして、良也が別の場所に移ると。」

俺「ここは店長の俺が一肌脱ぐしかあるまい!!!!」

久櫛縁さん「そんなー、一肌脱いでくださいよー、といってみるテスト。」

俺 ( д )  ゚ ゚



そして俺はこの話を書くことを決意しました。

だが内容はどうする?そんな話を書くにしたって、奇縁譚霊夢はそんなイメージ皆無じゃないか。

そんなとき、雑談掲示板でこんなネタが上がりました。



朱(あか)さん「霊夢にヤキモチやかれたいんだっ!!」

ケロヨン可愛いよさん「そしてその派生でヤンデ霊夢」

俺「というわけで「ツン・ヤンデ霊夢プロジェクト」賛同者に挙手しておきます。」



こ れ だ。

というわけで、今回のお話が完成したということです。

実行までに間が空いたのは、不肖ロベルトの描く駄文「東方幻夢伝」の方が佳境に入っており、中々こちらに手が出せなかったからです。

こうして一段落着いたので、今後は定期的にお世話になっている久遠天鈴さんにも投稿したいと思っております。

ネタはあまりありませんが・・・なぁに、気合で何とかなるさ。



というわけで、今日はこの辺りにしておきましょう。

次の投稿作品でお会いしましょー。



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