「な…なんですか…これは…」
後席に収まる文の戸惑いの隠せない声。しかしそれでもカメラを構えてリゼンブルジャムと変色した空を写真に収める姿は新聞記者の鏡と言えた。
「敢えて言うなら不可知戦域だ。恐らくは、ここが奴等の本来住む世界だろう」
雪風が滑走路と思しき長方形状の地面を見つけてオートランディングに入ったのを確かめながら文の戸惑った声に零は答えた。
雪風は機上のやり取りに興味は無いと言わんばかりに自動で高度を下げ、メインランディングギアが接地してからノーズランディングギアを機首下げで接地させ、後退翼形態のままだった主翼を上に向けてエアブレーキとして減速。標準無風状態に於ける最短着陸距離にて停止した。
「深井大尉より雪風。先程通達した通り戦闘態勢を維持したまま待機。脱出の際は必ず俺達を回収しろ」
<Roger>
雪風の返答を見てからマスクとヘルメットを外して13+1発のサバイバルガンを取り出す。文もそれに倣ってマスクとヘルメットを外し、サバイバルガンの代わりにカメラを手にキャノピーが開くのを待って機外へと出た。
「ここは一体なんなんですか…空は真っ暗なのに、周りははっきりと見えます。まるで、自分から最低限発光しているような…」
言われて零もそうかもしれないと思う。確かに空は夜中を思わせる程暗いのに自分の身体や雪風、文の身体は日光の下に晒されているかの様にはっきりと見える。そして目の前に以前アンディ・ランダーと共に足を踏み入れた時に見た黄色の沼が湧き出る様に姿を現し、次第に自立して零よりも背の高い人型を形成して―――零にとって最も見慣れた―――その姿を現した。



「………ジャック………!?」





    東方×戦闘妖精雪風



     ≪戦闘妖精東方≫

       『RTB』






目の前の存在の姿を見て呆ける零。だがそれは一瞬で、即座にサバイバルガンの銃口を眉間に向けた。
「お前が、お前達の、言うなれば代表か?」
ジャムに個別の意思は無いとされている。だからこの個体にお前達などと聞いても理解するかどうか怪しかったが、ジェイムズ・ブッカーの姿をしたリゼンブルジャムは理解出来たのかすぐに返答を寄越した。
「そうだ。私の言葉は、我の総意と受け取ってもらって構わない」
私と我を使い分けた。相手の声がブッカーそのものという事に少々戸惑いながらもそれを表にする事無く零は相手の言語理解力が予想以上であると分析し、問題無いと判断して疑問を直接ぶつける事にした。
「なら、幾つか質問をさせろ。お前たちはどうやってここに来た?」
銃に変に力が入らない様に気を付けながら質問をする。
「<通路>を開いた。一時的に、だが」
「何の為に?」
「『ユキカゼ』と呼ばれる戦闘機と、そこに取り付いている有機生命体、『フカイ・レイ』を回収する為」
俺と雪風の回収…?それじゃこいつらはジャムと全く同じ目的を持ってこの幻想郷に来たのかと零は思いつつも次の質問をした。
「お前たちは、俺達がジャムと呼称していた存在と同じ存在なのか?」
「厳密には違う。我々は君達がジャムと呼称していた存在によってあの星の内側に抑えつけられていた」
「フェアリィの内側に抑えつけられていた…?」
「ジャムと呼ばれていた存在は、我と元を同じくする存在。だが我と彼の意思が相違した」
元を同じくしながらも意志が食い違った。まるで仲の悪い兄弟だと零は思った。
「…最後だ。お前たちは、何者だ?」
無駄であると分かりながらも一つの確信を得る為に敢えて質問をする。そして相手のジャムは零の全く予想した通りの返答を寄越した。

「質問内容が不明。我は、我である」

その言葉を聞いて思わず一度だけ笑い声を上げる零。やはりこいつらはジャムだ。いつまでもここに居てはいけない。
「やはり、お前は俺達の敵だ!」
戸惑う事無く発砲する。放たれた銃弾はジャムの眉間に直撃し、続けて零は胴体目掛けて三発連射した。眉間と胴体から赤い血が溢れ出し、地面に着くと同時に黒い何かに変色する。こいつはジャックじゃない。ジャムだと零は胸中で吐き捨て、即座に雪風へと走り出した。
「ど、どうしたんですか!?」
「ミス!今すぐ雪風に乗れ!奴等は敵だ。脱出するぞ!」
零とジャムとのやり取りを何枚か写真に収めた文に雪風への搭乗を催促し、自身もライフカプセルの前席に滑り込む。そしてオートマニューバスイッチを真っ先に入れ、ヘルメットとマスクを装着しながら後席に文が滑り込むのと同時にキャノピーが降りるのを確認する。
「すぐにヘルメットとマスクを付けろ!雪風はすぐに飛ぶぞ!」
「は、はい!」
文の返事を聞いた時には既に雪風は機速を上げて離陸しようとしていた。そして機首を上げて機体が地上から離れたと同時に各ランディングギアを引き上げ、収納完了と同時に急加速をして飛び上がった。
「うぅぅっ!」
後席に座る文の呻き声が聞こえ、更に雪風が脱出する為に進路を変えようと旋回した所にロックオンアラート。脱出行動を中止して迎撃機動に移行して上昇してきたジャム・タイプ1四機の内一機をレーザーシステムで撃墜する。そして追撃を嫌がって残りの三機がブレイク(この場合散開する事)した瞬間を突いて再び最高速で脱出を図ろうとした雪風だったが、突然機速が下がって<MANUAL CONTROL>と表示された。
「っと…どうしたんですか!?」
「これは…エンジントラブル…!?」
以前全く同じ様にエンジントラブルを引き起こした事を思い出す。だが今回雪風はジャムに汚染されていないにも関わらずエンジン…恐らくはAICSに異常をきたした。では何故…?
「…あ!後方斜め上に新手です!」
「あれは…電子戦タイプ!?」
文の指示した方向に巨大なレドームを背負った大型機を捉える。恐らくはあの機がAICSを弄っているのだろうが、雪風の電子防御を突破するだけの出力、或いは指向性がある機体というのはジャムとしては初めてだった。
「ミス。空気制御を操作出来るか?」
「え?何とか出来ますが…」
「なら、AICSのユニットを分離!代わりに地上テスト用信号を高速モードでエアインテイクに送ってくれ!」
「ど、どういう事ですか!?」
矢継ぎ早に指示を出す零に思わず口応えする文。だが零はそれを押しのけて手短に状況説明をした。
「上の機体のせいでジャミングを受けてエンジンに正しい空気量が流入されない。テスト用信号を使ってジャミングを突破する!」
「了解しました!」
後席に操縦系統は搭載されていない。<MANUAL CONTROL>と点滅表示し続ける雪風のオートマニューバスイッチをOFFにして固定表示に切り替えさせる。それで機体制御が雪風から自分に移った事を零は確認もせずにスロットルを押し込んで機体振動が激しくなるギリギリまで機速を上げてジャムの機銃を躱し続けた。
「テストプログラム、高速モードで固定!これで…!」
文が言い切る前にテストプログラムが実行されて空気流入が正常になった事を雪風が知らせる。だが更にスロットルを叩きこんでアフターバーナーに点火する前に先程の電子戦機からの攻撃を知らせるアラートが鳴り響いた。
「後方から接近する物体二!かなり速いです!」
「ジャムの高速ミサイルだ!回避する!」
ジャムの高速ミサイルの速度は推定マッハ10以上。対してメイヴのカタログスペック最高速度はマッハ3.3が限界。加えてAICSは応急処置としてテスト用信号を送っているだけで急機動は出来ない上にデコイとして使えるミサイルはそもそも搭載していない。回避するとは言ったものの、これはいよいよ詰みかと零は思ったが、即座に雪風が<I have control>と表示して零から戦闘機動制御を奪い、チャフとフレアを同時にばら撒いて旋回、高速ミサイルが欺瞞されずに雪風よりも大きな旋回半径で追尾する。だがそれが大きな差となり、雪風は不可知戦域に突入する事となった元凶の一つをレーザーレティクルの中心に捉えた。
ブッカーの姿をしたジャムの死体。
二発の高速ミサイルと三機のジャム・タイプ1に追われながらも必中距離にその姿を捉え、コンマ一秒照射されたレーザーが死体を貫くと同時に―――

―――世界が、元の幻想郷に戻った。


   ***


「成程…貴方は彼等をジャムとほぼ同じ存在だと、そう結論付けたのね?」
「確かに奴等は厳密にはジャムとは違う。だがその目的はジャムと何ら変わりない。だから俺と雪風は奴等を敵と断定した」
「俺と雪風、なのね?」
零から手渡された報告書に目を通しながら紫がデスクに浅く腰掛ける。その仕草をどこかで見たと思い、忙しい時にブッカーがよくやる姿勢だと零は意味も無く思い出していた。
「彼等、リゼンブルジャムは私達を認識していないと?」
「その可能性は非常に高い。現に、これでもかと言う程あの新聞記者がカメラのシャッターを切っていたが全く意に介して無かった。それ以前に奴等の目的は俺と雪風の回収だ」
報告書の全てに目を通したのか、紫がデスクに報告書を挟んでいたボードごと投げ置き、浅く掛けていた腰を浮かせてから再度口を開いた。
「偵察任務及び調査、ご苦労様。彼等の目的が割れた以上、次にすべき行動は一つしかありません。早急に貴方を元の世界へと送還します。現在河童がフリップナイト搭載型FRX-99の修復と増産及び雪風の兵装強化を急ピッチで行っており、完了までは約一週間と言ったところです。その為貴方は今から八日後の1300時に出撃していただきたい。以上、質問は?無ければ退室しても構いません」
紫が言い終わるのを待ってから零が首を振り、敬礼して背を向ける。その先には藍が控えており零が近付くのと同時に再度スキマを開いて零を河童の工廠へと送った。そしてその足で零は格納庫へと向かい、修理の大分進んでいる最初のフリップナイトと、その隣で同時に製造されているフリップナイト二機を見渡せる通路へと出た。
一度溜息を吐いてから製造中を含めた三機を眺め、次に雪風に視線を向けようとしたところで零は隣にレミリア・スカーレットが立っている事に気付いた。
「河童、驚異の技術力ってところね。あんたの乗ってきた機体どころか、墜落した機体すらも増産してる」
「生産能力だけならFAFに引けを取らないな」
手を伸ばしても届かない、だが一歩近づけば届く、その曖昧な距離を保ったまま黙り込む。しかし十秒と立たずにレミリアが口を開き、零にしてみれば何の脈絡も無い事を喋りはじめた。
「昔、どうしようも無く愛した存在が居た。そいつはもう寿命でこの世には居ないけど、あいつが居なければ今の私は居なかったわ」
陣羽織の様な金で縁取られた、紅い羽織を少しだけ揺らしながら手すりに左手を置く。
「あんたが昨日言った、ジャックってのも、あんたにとってはそういう存在かしら?」
「…それを聞いて何の意味がある?」
「ただの知的好奇心。それ以上でもそれ以下でも無い」
あくまでも淡々と話す二人。そしてそういった意味ではこいつは俺に似ているのかもしれないと零は思い、レミリアの問いに簡単に答えた。
「…そうだな。ジャックが居なければ、もしかしたら俺はジャムに殺されていたかもしれない。俺にとって、雪風を除けば唯一信頼できる存在がジャックなんだ」
「唯一信頼できる存在、か………話は紫から聞いた。あんたの無事の帰還を祈ってるわよ」
言って、右手を差し出す。零もそれに応じて右手を出し、零は初めて人外と握手をした。


   ***


「管制室。こちらB-501雪風。プリフライトチェック、クリア。これよりタキシングに入る」
≪管制室了解。B-501、貴機の幸運を祈ります≫
一週間後。離陸前の最終確認の終了を管制室に告げて滑走路へと機体を誘導する。その最中、零は最も気になっていた疑問を後席に投げかけた。
「それで、なんであんたが後席に乗っているんだ?」
「あら?私が居ないとそもそも幻想郷から出る事も叶わないのよ?私が居て当然じゃない」
フライトスーツに身を包み、後席に収まる紫が答える。確かにそうだが、地上に居たままでも問題は無いのではと零は思ったが、もしそうなら乗っていない筈だと結論付けて思考を切り替えた。
「B-501、テイクオフ」
スロットルレバーを押し込んでアフターバーナーに点火。機速が劇的に上昇すると同時に対気速度も上昇し、それに比例して大きくなる揚力が自重に勝って雪風は再度幻想郷の空へと舞い上がった。
≪フリップナイト発進用意よし!零、ナイトは機体そのものの修復には成功したけど、人工知能部分の開発が出来なかったから代わりに雪風からの指示を受けて飛行出来る様に受信機を取り付けておいたよ。雪風にナイトの操作も行う様に設定しておいて≫
「B-501了解」
工廠に居るであろうにとりとの通信を切り、雪風にナイトの操作を行う様に指示をだそうとする。だがメインディスプレイには既に<Knight-1.2.3 Link>と表示されており、もしかしたら製造中の時点で雪風はナイトとのリンクに成功していたのかもしれないと零は思った。
「藍。こちらB-501後席。状況を開始しなさい」
≪了解しました≫
地上から発進してきたナイトが雪風を一番機としてフィンガーフォー(人差指〜小指の先端と同じ編隊配置)を組む。そして紫の状況開始という言葉を聞いてブリーフィング時に聞いた言葉を思い出し、零は無意識に身構えた。

   ―――――

『貴方を元の世界に送還する事自体は可能よ。でもその時にリゼンブルジャムからの干渉を完全に防ぐ事が出来ない。つまり、私が帰りの<通路>を開くと同時に貴方と雪風目掛けて大量のリゼンブルジャムが押し寄せてくるという訳。雪風にはレーザーの外付けカートリッジと河童の新兵器を搭載させて、フリップナイトにも同様の装備をさせるけど、気を付けてね』

   ―――――

「空間受動レーダーに反応。正面から無数のリゼンブルジャムが接近中」
「エンゲージ!」
零が宣言と操作をする前に雪風が自動でマスターアームをオンに切り替え、使用可能兵装を全て表示してリゼンブルジャムをEnemy判定する。機体右側に内臓されたレーザーシステム、左側に内臓されたガン、主翼上下に装備されてレーザーシステムの弾数を増加させている外部カートリッジ、機体サイドに装備された河童の四発分裂式ロケット、機体下部の増槽。その内攻撃能力のある兵装のみが強調される。そしてメインディスプレイの中心に<I have fire control and Knight control/You have maneuver control ... Lt.FUKAI>と表示された。
―――兵装制御とナイトの制御は私が行う。貴方は機体制御をして。深井大尉―――
「深井大尉了解。俺を信じろ、雪風」
安心させるような口調で言う。それと同時にGリミッターを手動解除してエンジン出力を上げると同時に再び空間受動レーダーに反応があった。それも―――
「六時方向空間反応。IFF応答無し、相対速度43mile/hで接近中」
後方から接近中だと?現在マッハ2.3で飛行中だぞと零が思うと同時に機体上部を紅い何かが光速で飛び去り、正面から接近中のリゼンブルジャムの大編隊に一撃で無視出来ない程のダメージを与えた。そしてその直後に同じ軌道で紅い何かの射出源が飛び去り、ある程度前に出てから後ろを振り向いた。
「…レミリア…?」
≪あー、あー、こういう時はマイク・テスって言うんだっけ?≫
帽子の下に着けた無線機と思しき機器に左手を当てて通話する。どうやらにとりの製作した携行型無線機なのだろうが、どう見てもマイクの付いた旧世代のオーディオヘッドセットにしか見えなかった。しかも腰にバッテリーと思しき、ヘッドセットとケーブルで繋がっているボックスを装備している。
≪レイ、ここは私が引き受けるわ。あんたは早くスキマを目指しなさい≫
右手に紅い槍を作りだして後ろを見ずに投げる。それがレミリアの後方からアタックアプローチに入っていたジャム・タイプ1数機をまとめて撃墜し、レミリアは投げた時の姿勢のまま右手人差指をジャムが湧いているスキマへと向けた。
「深井大尉、そうしましょう。それとレミリア、右耳側にあるスイッチを押し忘れてるわよ?」
≪え?そんなんあったかしら…?≫
言いながらも紫に従って右耳側のスイッチを押す。すると雪風のレーダーに表示されていたUnknownがFriendに切り替わった。どうやらIFFも搭載しているらしい。
「これでよし…さあ深井大尉、スキマに突っ込むわよ」
「了解。行くぞ、雪風」
更にスロットルレバーを押し込んでアフターバーナーに点火する。それにレミリアも追随し、手に先程と比べて少々小さい五つの槍を発現させて雪風の正面へと投げた。こちらもやはりほぼ光速で投擲され、流石にそれだけの反応速度を有していないジャムの編隊機が放射状に投げられた紅い槍の餌食になり、その穴を雪風とナイトが全速で通過した。残ったジャムがそれを追跡。更にスキマから湧いて出ているジャムが迎撃態勢に入る。しかしレミリアが次々と紅い槍を投擲し、更に分身の類なのか、紅い炎の様な魔力で作られた三体の影も同じく槍を投擲し、雪風とナイトに近付くジャムを来る端から撃墜していった。
「『フォーオブアカインド』…それも妹の姿をした…あの子ったら何時の間にあんなに強くなったのかしら」
直進する事を優先しているとはいえ、時々回避運動を行う為六Gを超える中で紫が平然と呟く。だが零にとってそれはどうでもよく、意外と小さいスキマと呼ばれる<通路>へと雪風を誘導する事に神経を集中させた。
正面から接近するジャムの群れが横からの攻撃で薙ぎ払われる。そして新たにジャムが湧き出てくる前に雪風がスキマへの侵入を果たし、それを追って突入しようとするジャム達をレミリアが紅い鎖でスキマの入口を縫う様にして無理矢理塞ぎ、湧き出したジャム達を幻想郷に封じ込めた。
「Good luck...The Invader...(幸運を…異世界人…)」



無数のジャムが迫る。それを探知して零がスティックを操作し、的確に回避する。その合間に雪風がファイアコントロールを駆使して分裂ロケットをナイト各機と同時に射出。誘導能力を持たない筈の分裂後のロケットが雪風があらゆる可能性を考慮して弾き出したポイントへと飛翔していき、全弾命中してジャムを撃墜する。そしてほんのわずかなデッドウェイトも排除出来る様にパイロンとハードポイントの結合に使用された爆砕ボルトに通電させてパイロンをパージ、後ろに回り込んだジャムに破片が直撃して数機が墜落する。二十発から三十六発にまで発射数を底上げされたレーザーシステムを雪風とナイトが最も効率を上げるタイミングで照射し、必要最低数の射数で出口への道を開く。
「現在のペースだと三十秒後に全機レーザーシステムが弾切れを起こすわ。大尉、十時方向に見える白い光を放っている<通路>へ急いで」
後席に座って電子システム操作を行っている紫の言葉に従って零が機首を白い<通路>へと向ける。当然それを阻止しようとジャムが動くが雪風の攻撃と零の回避行動によりほぼ無意味に終わり、集団と化して迫る後方のジャムに空になったドロップタンクを投棄して突き込む。そしていよいよレーザーシステムの残弾が無くなり、外付けカートリッジも爆砕ボルトでパージしていた雪風は射線に入ったジャムを次々と唯一残ったガンで撃墜していった。

―――いいな、零。必ず…必ず、帰ってくるんだ!―――

ブッカーの言葉が脳裏に蘇る。そして<通路>が目の前に来たところで懲りずに後方からジャムの集団が接近し、全兵装が弾切れになったナイト各機の速度を急激に落として雪風は全機自爆させた。それによりジャムの集団の一部がまとめて撃墜され、残りは破片を避ける為にヨーヨー機動に近い挙動をさせられて雪風への接近を阻害された。

ジャック…必ず、帰る…!

白い<通路>へと迷う事無く突っ込む。その瞬間機体にとんでもない大きさのGが掛かった様に感じられ、零は一瞬で意識を失った。










≪―――!―――ィ!―――零!聞こえるか!?零!≫
頭に響く声。いや、正確にはヘルメットに装備された無線機から聞こえる声。それを知覚すると同時に零は目を見開き、目の前に緑の空が広がっている事に気付いた。

フェアリィの空。

間違いない。自分は今雪風の機上に居て、フェアリィの空を飛んでいる。それを様々な手法で確かめ、零は先程から聞こえてくる声に返答した。
「聞こえている、ジャック」
≪零!零なんだな!?全く、突然雪風をロストした時は今度こそ駄目かと思ったぞ…近くに前線基地のTAB-10がある。給油が必要ならそこに降りてからフェアリィ基地に戻ってこい≫
懐かしい親友の声。思えば、あれから三週間近く自分は幻想郷に足を踏み入れていた事になり、その間雪風がロスト状態だったのならブッカーの焦燥具合も合点がいくものだなと思い、零は先程から雪風が表示している文字に目を通した。

<Mission CMPL.../Return home Lt.>

―――任務完了。帰りましょう、大尉。

「…ジャック」
≪なんだ?≫




「コンプリートミッション。RTB」











                                   RTB...



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