目が覚めると天井を見ている奴は実際世界に何人居るだろう? ……いや、やっぱ長くなりそうだからこの話はやめとこう。 「…知らない天井だ…」 生まれて初めて目が覚めた瞬間に天井を見る。かなり古風な日本家屋の天井だ。ついでに某新世紀の台詞も言ってみる。するとどこからか声が聞こえた。 「起きたみたいね」 俺は上体を布団から起こすと声のした方向へと顔を向けた。 「…博麗…」 紅白の巫女、博麗霊夢が立っていた。 「霊夢でいいわ。博麗は元々、私の苗字じゃないもの」 「わかった、霊夢」 どうやら、幻想郷の奴等は皆名前で呼ばれたいらしい。まあそんなのはほっといて、とりあえず…… 「聞く必要は無いと思うけど、今の状況を教えてくれ」 「全部あんたの思ってる通りよ。あんたは死んで、霊体としてこっちの世界に来た」 てことは…ここが幻想郷の博麗神社という訳か…… 「まあとりあえず、あんたには真っ先に行ってもらうところがあるわ」 俺は黙って霊夢の言葉を待つ。 「彼岸。三途の川の向こう側って言った方が通りがいいかもね。そこに居る閻魔のところに行くの」 「そこで裁判をするって訳だな?」 「そ、その案内役がもう来てるから」 と言って誰かを呼ぶ。すると彼女の後ろの襖が開いた。 「今回、此岸へと案内させて頂く、魂魄妖夢です」 と言って頭を上げる。その時見えた妖夢は、怒っているのか泣いているのか…よく分からない顔をしていた。 『幻想鎖結 〜It's a dream fantasy〜 V』 妖夢と共に再思の道を歩く。なんというか…すげぇ無言で無茶苦茶居心地が悪いんだが…… 「…な、なぁ、妖夢」 そんな状況に耐えかねて声をかけてみる。すると割と簡単に返事が返ってきた。 「なんですか?」 「えっと…なんというか…その、怒ってるか…?」 何とか率直に言葉を紡ぐ。すると妖夢は顔だけこちらに向けて喋り始めた。 「当たり前です!なんであんな事したんですか?あんな事せずとも、幻想郷に来る方法は他にもありました」 「て言ってもよぉ…俺からしてみればそうするしか無かったんだぜ?霊夢にあんな事言われちゃぁ他にどうしろってんだよ?」 とりあえず反論してみる。が、それが砂上の楼閣として速攻で崩れ去るのは俺でもすぐに理解出来た。ならそんなん言うなよ俺…… 俺の反論が砂上の楼閣だと言うのは妖夢にも分かった様で、彼女は一度溜息を吐いてから語り始めた。 「…別に死なずとも此処で暮らす方法はあります。それに幻想郷に来れば、何処に居ようとも私から出向けば良かっただけの話ですし…それで無くとも、いきなり私と暮らしたいだなんて、貴方は何を考えてるんですか?」 ……チューン…… 「…色々、すんませんでした…」 返す言葉が無くなって恐ろしく素直に謝る。 ……何かマジで悪い感じがしてきた…… 「…まあ、別に貴方の行動が悪いって訳じゃ無いですけど…」 そこで一旦言葉を区切ってから妖夢が抱きついてきた。 「もう、あんな無茶な事しないでください……」 「……分かった、すまん」 明らかに頭一つ分以上低い妖夢の頭を撫でる。銀の髪が手に少しだけ絡まり、そしてすぐに流れた。 「でも、無茶な事は最低でも後一回はしなきゃならんらしい」 「…そうですね。では、此岸へと急ぎましょう」 そういって妖夢は俺から離れ、彼岸へと向かう為に此岸への足を速めた。 そう、彼岸。 現在向かっているその場所は、幻想郷縁起でも読んだが、その名の通り紅い彼岸花が咲き乱れているらしい。 「あれに乗って、閻魔様の元へと向かってください」 と言って一人の女性が立つ手漕ぎ舟を指差した。 「お?来たね」 大鎌を持った女性が近づく。死神…なら当てはまるのは一人だけ… 「世話になるぜ、小野塚小町さん」 「あー話は聞いてるよ、神田修平君。早いとこ乗りな」 死神小町が手を引く。俺は心配そうにこっちを見る妖夢に大丈夫だと頷いて舟に乗った。 「さて……」 河へと漕ぎ出した後、船頭に立つ死神小町が首だけをこちらに向けて話し始める。そういえば、彼女は話好きだったな。 「大体の話は聞いてるけど、お前さんはなんであのお嬢ちゃんの為に死のうと思ったんだい?」 そういえば、そこはあまり考えた事が無かったな。あの時はただ本能的に行動してただけだったからな。だがまあ、敢えて言葉にするとしたら… 「ん〜、妖夢が俺の好みに大体合致してたから…か?」 「それって、あの見た目がかい?」 「それだけじゃないけどよ…まあ、会ってすぐはそうだな」 すると死神小町はくっくっくと笑い出してから前に向き直った。 「なんだ、お前さんロリコンだったのか」 「…うっせぇよ…」 「悪い悪い」 全く悪びれた様子も無く死神小町が謝る。なんかすげぇ馬鹿にされてるみたいで嫌だな…… 「それで、次はお前さん自身の話を聞かせてくれないかい?」 俺自身の話? 「そう。あたいはそういう話を聞くのが好きなんだ。お前さんにだってあるんだろう?何か一癖ぐらい」 と言ってまたこちらを向く。いや、船頭なんだから前向いてろよ…しかし…… 「…俺の話、か…何の取り止めも無い話だが、いいか?」 「構わないよ。言っただろ?あたいはそいつ自身の話を聞くのが好きなんだって」 そうか、なら話すか。人によっては反応が著しく変わる俺の話を。 「…俺の家は、母子家庭だったんだ。オカンが離婚して、兄貴と俺の二人をオカンが引き取った」 その時の事を思い出す。オカンから切り出された話。全く無関心だった兄貴。表情を表に出そうとしなかった親父……今まで一つだと思っていた家族が、実はバラバラだったんだと思った瞬間だった…… 「親父と過ごす最後の日、親父から言われたんだ。俺の代わりに母さんを護ってやれって…でも、俺には分からなかった。なんで兄貴じゃなくて、俺なのか…まあ、その答えはすぐに分かったんだが」 「何か、護ってやれない理由があったんだね」 「…ああ」 兄貴が突然自衛隊に行くと言い出した時の事を思い出す。今思えば、あの時既に兄貴は親父に話してたのかもしれないな…… 「兄貴はその後難無く入隊に成功した。でも、艦上勤務中に回収した魚雷に押し潰されて…即死だった…俺は運命を呪ったよ。オカンの身勝手で親父が追い出され、とんだ偶然で誇りだった兄貴が死んで……」 思わず着ていたコートの裾を握る。親父が兄貴に譲って、兄貴が俺にくれた黒のロングコート…俺用に改造を施した愛用のコート…今じゃ、二人のたった一つの形見だ。 「だから俺は普通の学生を演じながらオカンを恨んだ。いや、たった一人残った子供にそんな事思われる苦しみは理解出来る。でも、そうしなければ俺が押し潰されてた…そうしないと、妖夢と出会う前に死を選んでた…」 常に机に隠していたお手製のコンバットナイフを思い出す。学校で密造したナイフだったが、切れ味は十分だったな。自決用としては…… 「でも、その前にお嬢ちゃんと出会ったと…」 「ああ。だから妖夢は俺にとってある意味恩人なんだ。こうして結果的には死ぬ事になったが、その後が全く違う。それだけで十分だ」 確かな口調で言い切る。これだけははっきりと言えるからな。すると死神小町はただそうかと言って前に向き直った。 「着いたよ、まあお前さんぐらいの霊なら平均的な時間だな」 結構長い時間舟に乗り、俺達が乗る舟はようやく彼岸の裁判所に辿り着いた。やたらでかい裁判所を想像してたが、思ったより小さいな。 そんな事を思っているとなんの躊躇いも無く死神小町が扉を開いた。 「四季様〜被告人を連れてきました〜」 「分かりました。小町、下がっていいです」 死神小町の声が響き、奥から一人の少女が現れる。 ……あれが裁判長、四季映姫・ヤマザナドゥ…… 「ま、頑張んな」 退散していく死神小町の言葉を背に、俺は奥へと進んだ。 位置に着き、一瞬の静寂が訪れる。そして、裁判長が厳かな口調で言葉を発した。 「ではこれより、被告人神田修平の東方裁判を執り行います」 おもむろに手鏡らしき物を取り出す裁判長。あれが、例の鏡か…… 「……」 鏡をじっと見る裁判長。時折それを見る目が変わっている事から恐らく、あれには俺の生涯が映っている。正直言って、あまり気分のいいものでは無いな。 しばらくして…… 「…判決を言い渡します」 裁判長がこっちを見る。それに合わせて俺は目を閉じた。 「被告人、神田修平を…有罪に処す」 ……やっぱり、駄目か…… 落胆する俺に裁判長が理由を語り始めた。 「如何なる理由が有れども、家族や友人を見捨てて死ぬ事は許されません」 裁判長の視線が俺を貫く。 「…ですが、情状酌量の余地もありますね…」 と言って壇上から降りてきた裁判長が、こっちに近寄ってきた。 「…後ろを向きなさい」 裁判長が手に持っている板状の物を振り上げるのを視界の端に捉えながら、言われた通りに後ろを向く。すると、背中をポンと叩かれた。 「…へ?」 「貴方への処罰は、永久に白玉楼で働く事です。永久に働き続ける苦しみを知りなさい」 停止気味の頭で裁判長の言葉を反芻する。つまり彼女は…俺の背中を、押してくれた…? 「…早く行きなさい、貴方の裁判は終わりました。私も何時までも貴方の相手をしている程暇では無いのです」 その言葉に従い、出口に向かって歩き出す。だがこれだけは言っておきたい。出口で一旦止まって回れ右。 「…ありがとう、ございました」 深々と頭を下げた。 死神小町のところへ戻ってみれば、彼女はキョトン顔で俺を出迎えた。手に持ってる煙管、熱くないのか? 「…よ、よう。久しぶりだな」 俺がそういうと彼女はいきなり大笑いしだした。何が面白い? 「いやだって、本当に戻ってくるとは…思わなくて…くくく…あはははははは!」 で、なんだかんだで白玉楼。 俺としては初めて来るところだが、妖夢が居る時点で俺の帰る場所だ。 戻ってみれば、やっぱり妖夢もキョトン顔で俺を出迎えた。でもまあ、言うべき言葉は決まってる。それに、いい加減返事も言わなきゃならんしな。 「ただいま、妖夢。それと、好きだ。俺じゃあ駄目か?」 すると彼女は泣きながら満面の笑みを浮かべた。 「そんな事ありません。おかえりなさい…修平さん」 あとがき どうもカップめんです。どうにか現代編が終わりましたw ここから先は修平がとある異変を解決する幻想郷編になりますが、はてさてどうなる事やらw なんかどんどん話が無駄に肥大化してきましたが、なんとかしていく予定なので、どうかお付き合いください。 ていうか、えーきさまがすげえいい人になってるw |
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