朝、ラジオ体操が終わって子供が退けたぐらいの時間、俺達は木刀を持って近くの公園に来ていた。
「剣の腕にはどれほどの覚えがありますか?」
妖夢が両手に太刀と脇差の木刀をそれぞれ構える。二刀の剣客か……初めて相手にするな……
「肩書きだけなら剣道三級、後は趣味で覚えた我流だけ」
言いながら右手で木刀を構える。脇差は後ろ腰に帯びたままだ。
「分かりました。では、人間程度の力で行きます!」
言うが早いか妖夢は構えたまま走り、袈裟斬りと逆袈裟を同時に繰り出した。
一見隙だらけの技、だが紙一重でかわすのは危ない。そう直感した俺は右手方向に飛び込み、十分な間合いを取ってかわした。
すぐに起き上がり妖夢を見る。すると既に目の前まで迫っていた妖夢は太刀で唐竹を、脇差で左薙ぎを繰り出した。だが、想定の範囲内だ!
「甘い!」
太刀を紙一重でかわし、脇差を弾くと同時に峰を踏みつけて太刀の自由を奪ってから袈裟斬りを繰り出す。
しかしそこは二刀の達人、すぐに体勢を立て直すと脇差で俺の鍔元を弾いて俺の手から太刀を弾いた。
「王手です!」
太刀が後ろへと飛び、妖夢の脇差が振り下ろされる。しかし、何の為の脇差か、思い知らせてやる!
「ところがぎっちょん!」
後ろ腰の脇差を左手で逆手に抜き、そのまま妖夢の首元へと薙ぐ。
「っ!…」
「…」
ほぼ同時に動きを止める両者。視覚外という事もあってか、妖夢の脇差が届く前に俺の脇差が妖夢の首を捉えた。
「…どうだ?」
妖夢は木刀を降ろし、
「…参りました」
と言った。俺も木刀を降ろし、飛ばされた木刀を回収する。
「貴方には才能があります」
妖夢の評価。昔は剣の道を歩んだだけに割と嬉しい評価だ。
「これなら本気を出しても問題無いでしょう」
…へ?
「構えてください、ここからが、本当の稽古です」
と、第二回戦が始まったんだが…結果は酷いもんだった。
これが幻想郷の剣客の力かと思うと……俺、弱……


結局昼ぐらいまでぶっ通しでやり続け、昼飯時になったので帰る事にした。だがこれが間違ってたのかもしれない……ある意味で……



     『幻想鎖結 〜It's a dream fantasy〜 U』



「へぇ〜じゃあ妖夢ちゃんは修平とは昔のお友達だったんだ」
「まぁ、はい」
当たり前だが、休みの日に家に帰れば当然オカンが居るわけで…今は妖夢と団らんしているのだが…幻想郷関連の話はこっちでは通じない故、かなり嘘っぱちな内容になっている。そして、オカンがいきなりバカみたいな質問をしてきた。
「それで、修平とはいつキスしたの?」
「「ぶっ!」」
同時に茶を飲んでいた俺達が盛大に吹く。なんでそんな方向に話が進んでんだ?
「…あるんだぁ…」
オカンがニヤリと笑う。
「あるわきゃねぇだろーーー!」
机を叩きながら顔を真っ赤にして否定する俺。でも妖夢とか……正直、満更でも無いな……
こんな感じで楽しくない昼飯は終了し、俺は幻想郷縁起を読む事にした。ちなみに妖夢はオカンと一緒に家事をしている。意外と気の合うもんだ。しかし…
「妖夢ちゃん!?」
何かが倒れる音と同時に、オカンの叫び声が聞こえた。駆けつける俺、そこには…
「!?妖夢!」
顔を真っ青にして倒れている妖夢の姿があった。
「妖夢!妖夢!」
妖夢の体を抱き上げる。幻想郷縁起には体温がやや低いとあったが、これはやや低いのレベルじゃない…!
「と、とにかく救急車!」
オカンが電話に手を掛ける。だが救急車は意味が無い。
「待った!」
とりあえずオカンを呼び止め、何故という声を余所に幻想郷縁起の中身を思い出す。
多分、妖夢は今忘れ去られようとしている。時代から忘れ去られた半幽霊である妖夢は、こっちの世界には居られない。なら、妖夢を助ける方法はただ一つ…!
「…母さん!博麗神社って何処!?」
「博麗神社?なんでそんなところに?」
「いいから早く!じゃねぇと、妖夢が助からなくなる!」
珍しく大声を上げる俺から何かを感じ取ったのか、オカンは素直に博麗神社の場所を説明した。
「分かった。行くぜ妖夢…」
妖夢を助ける方法はただ一つ、妖夢を幻想郷に帰すだけだ。幻想郷に帰せるかどうか、かなりの博打だが他に方法が無い。
「しっかり掴まってろよ、妖夢」
「…はい…」
弱々しい返事。俺はバイト先の廃品から切った貼ったしてでっちあげた直刀『雪月花』がフレームに装備してある愛用の自転車の後ろに妖夢を乗せると、最大戦速で博麗神社へと向かった。


自転車をこぎ続けて約一時間。
「…着いた…妖夢…」
背中にもたれていた妖夢を抱き上げ、ついでに雪月花も取り出す。
「…はぁ…神田…様…」
「大丈夫だ妖夢…もう少しの辛抱だ」
見知らぬ土地、周囲に警戒しながら博麗神社の境内を進む。すると突然少女の声が響いた。
「待ちなさい」
「!っ」
左手で妖夢を抱え、声の聞こえてきた方向に右手で雪月花を構える。するとその先にある木の裏から出てきたのは、一人の少女だった。特徴的な紅白の巫女服。間違い無い、彼女が博麗の巫女……
「君が、博麗霊夢だな?」
確認する様に訊く。すると彼女は一度だけ眉を吊り上げた。
「…どうして知ってるの?その娘から聞いたの?」
「幻想郷縁起を拾ったんだ。妖夢がこの世界から忘れ去られようとしてる、早く幻想郷の中に帰してやりたいんだ」
と手短に今の俺達の状況を教えると、博麗はすぐにこっちに歩み寄って妖夢の容態を看た。
「…確かに、一刻を争う状態ね…」
「じゃあ、後は頼む」
妖夢を博麗に託して、俺はその場を後にしようとした。しかし…
「待って…待ってください…!」
妖夢の呼び止める声が聞こえ、俺が振り向くと同時に妖夢の体が俺の体にもたれかかってきた。
「妖夢?」
「…貴方に…言っていない事が…ありました…」
妖夢が一度息を整える。そして、隠された事実を語った。


「…ずっと…貴方の…事が…好きでした…」


俺の思考が本当に停止する。と同時に朝、妖夢が言い淀んだ事を思い出し、いつの間にか回復した頭でああ、これの事かと納得した。
……妖夢は、俺に会う為に現代に来たんだ……
「何時から…俺を?」
「…溢れた幽霊を…回収…する時に…初めて見たときから…ずっと…」
幽霊が溢れる…?
その言葉を頼りに幻想郷縁起の中身を思い出す。
「…何年も前の話だ、そんな昔から?」
「はい…でも、もういいんです…」
と言って妖夢は体を離し、今度は博麗に体を預けた。
「…さようなら…修平…さん…」
博麗が動く、それと同時に妖夢も遠退く。
駄目だ、行かせちゃ駄目だ。行かせればまた妖夢に寂しい思いをさせる。それは駄目だ…!
半ば本能的にそう思った俺は、ほぼ無意識に博麗を呼び止めていた。
「待ってくれ!博麗!」
博麗が足を止める。
「俺も、幻想郷に連れてってくれ!」
「それは、妖夢と一緒に住みたいって意味?」
頷く。でなきゃ、俺が幻想入りする意味が無い。
「なら無理ね。この娘の住んでる所は冥界。死なないと永住出来ないし、死んでも裁判に勝つまで安心出来ない。それでもいいの?」
当たり前だ。自分の事を好きと言ってくれた少女を捨てれる訳がねぇ。
「…俺だって、妖夢の事が好きなのかもしれない…」
雪月花を自分に向ける。
「地獄だろうとなんだろうと、妖夢の為なら堕ちてやるぜ!」
騒ぎに気付いた妖夢がこっちを見て目を見開くのを端に捉えながら、俺は雪月花を胸に突き立てた……







   あとがき

どうもカップめんです。
本当は前後編で現代編を終わらせたかったんですが、そうすると後編だけが馬鹿みたいに長くなるというまさかの事態になったので前中後編に分けましたw
さて、次回はいよいよ裁判です。修平は裁判に勝って、無事妖夢の元に戻る事が出来るのでしょうか?乞うご期…待出来るのかなぁ…?



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