その日、私、魂魄妖夢は人里に買い物に出かけた。幽々子様が今夜は鍋が食べたいと言ったので
足りない分の材料を買いに行ったのだ。かけた時間はそれほどではなかったはずだ。

だから、わけがわからない。



「あら、そうなの」

「うむ……そこがなあ―」



帰ったら主人が知らない男性と楽しそうに談笑していた。
元々、自分と親しい男性など現在行方知れずの祖父とたまに遊びに来る良也さんくらいなわけだが……
前に良也さんに見せてもらった漫画風に言うとこうだろう。

『あ…ありのまま 今 起こった事を話しますよ!
  『私が階段を上って白玉楼に帰ってきたと思ったら
   幽々子様が知らない男の人と楽しく談笑していた』
 な…何を言ってるのかわからないと思いますけど
 私も何が起こったかわからなかった。
 頭がどうにかなりそうだった…催眠術だとか超スピードだとか
 そんなチャチなもんじゃあ断じてありません。
 もっとみょんなものの片鱗を味わいました…』

……やめよう。余計わけがわからなくなった。
男性を観察してみる……とりあえず、幽霊らしい。新しそうな感じがする。
ということは自分があけているうちにやってきた幽霊なのだろうか?
しかし、なんだろう?どこかで見たような……
いやしかし、さっきも言ったとおり直接は知らないはず……
誰かに似てる?しかし誰に?

「あら、妖夢。おかえりなさい」

「あ、はい!ただいま戻りました!
……あの幽々子様、その方は?」

「新しく来た幽霊だけど?」

「すまんな、お嬢さん。お邪魔しておるよ」

「いえいえ!」

……とりあえず、悪い人ではなさそうだ。
しかし、普通の人の……20代前半辺りの見た目のわりに
やけに喋り方が老いてる感じもするような……
いや、それ以前に

「けど、普通の人の姿というのも珍しいですね。普通は人魂ですし」

「あら、妖夢。おかしな事を言うのね。普通の人の姿で普通じゃないなんて」

「おお、確かに!うまいこと言うのう」

「い、いえ、そうじゃなくてですね!」

「はいはい。わかってるわよ。私がやり方教えたの。
霊力とかの資質は十分だったし」

「これでも昔は妖怪退治をするために鍛えておったからなあ。
普通の人間よりはそういった力には自信があるぞ」

「はぁ……」

「まあ、やってみたら現役バリバリじゃった頃の姿になったのは嬉しい誤算じゃったな。
ハッハッハ!」

なるほど、人の姿になったら死ぬ直前ではなく若い頃の姿だったということですか。

「妖夢が出かけてすぐに来た見たいなんだけど、何か気になって
ちょっかいかけてみて正解だったわ。おかげで妖夢が戻ってくるまで退屈しなかったもの」

「そ、そうですか」

なるほど、退屈しのぎですか……それにしても……

「ところで幽々子様。この方、なんとおっしゃるんでしょうか?」

さっきからどう呼んでいいものか困ってたんですよね。

「おお!いかんいかん!そういえば嬢ちゃんには名乗ってなかったな」

「あら、そうだったわね。けど、妖夢。人に物を尋ねる時はまず自分からでしょう?」

「あ、はい!白玉楼で庭師をしています魂魄妖夢と申します」

「これはどうも。わしは」

「っと。その前に来客みたいね」

幽々子様に言われて門の方に気配があるのに気づく。あれ?でもこの感じ……
男性に似てるような……

「とりあえず、まずはお客様を迎えに行ったらどうかしら?」

「あ、はい!」

男性の名乗りも気になったが幽々子様が言うなら仕方ない。
それにこの気配、よく考えてみればこっちの方が良く知ってる感じがする。
むしろ、この感じを知ってるから男性に既視感を覚えたというのが正しいのではないだろうか?
だったら、こっちの方を確認すれば疑問の答えがわかる気がする。





というわけで先に来客者を迎えに行ったのだが……

「やあ、妖夢。久しぶり」

「って、あれ?良也さん?」

来客者は良也さんだった。久しぶり……言われて見れば

「そういえば、最近冥界に来ないどころかさっき人里行った時も
最近全然来てないって話を聞いたような……」

「ちょっと、外がごたごたしててさ。お菓子のほうも行く暇なくて……」

良也さんは外と幻想郷を行き来できて外の方でも仕事を持っている。
だから、仕事の都合とかでこんな事もあるのでしょう。

「いえ、とりあえず上がってください」

「うん」

幽々子様と男性を待たせるのも悪いし。





で、良也さんを幽々子様と男性のところに連れてきたのだが……

「……父さん?いやいや、今日の朝元気だったし、さすがにないよね……ってことは……」

男性を見た良也さんは一瞬硬直すると、そこからさらに変な表情を浮かべ呟きだした。
その表情は幽々子様や紫様がこれから言う事が面倒な事だとわかっている時、
それでもハズレであってくれと祈る時のような表情に近いだろうか?

と、良也さんに気づいた男性が口を開いた。

「おお!良也!どうした?お前も死んだのか?」

え?

「あ〜……やっぱり……爺ちゃん……だよね?
なんか、めっちゃ若返ってるみたいだけど……死ぬ前より元気だし」

「おう!この通りぴんぴんしておるわい!」

「死後に元気なのもどうかと思うけどね」

……はい?

「お前も人の事言えんじゃろ。せっかくこれが現役バリバリじゃった頃の
わしの体じゃと自慢してやろうと思ったのにお前まで若返ってるんじゃ
張り合いがないわい」

「僕の場合は本来がこれなんだよ。
体が老いてくれないから普段外では誤魔化してるけどさ」

ため息をつきながら受け答えする良也さん。え?……爺ちゃん?

「あ〜……なんだろこの空気……葬式でしんみりしてた感じが台無しだよ……」

はぁ〜とさらに深いため息をつく良也さんとハッハッハ!と笑う男性を交互に見る。
改めてみると確かにすごく似てる……気配どころか顔つきまで……
体つきとかは男性の方がいいようだが……随分と生前鍛えていたのだろう。
いや!今はそんな場合ではない!とりあえず、確認しなければ!

「あ、あの!良也さん!」

「どしたの、妖夢?」

「こ、この人ってまさか良也さんの……」

「……あ〜、うん。多分君の予想通り」

「そういえば名乗りの途中じゃったな。わしは土樹灯也。良也の祖父じゃ。
孫がお世話になってるようで」

「ええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!?」

男性、良也さんのお爺様の自己紹介がトドメになり
周りが耳をふさぐほどの声で絶叫した私だが多分悪くないはずだ。





「だからね。あまりにも良也と似た感じの魂だったから
気になってちょっかいかけてみたのよ」

「それで良也さんのお爺様だとわかって人の姿をとらせたと?」

「そうよ」

「で、妖夢と遅れて僕が来るまで幽々子と自分の昔話とか僕の話とかで盛り上がっていたと?」

「うむ、そうじゃ」

事の顛末を2人から聞く私と良也さん……しかし……

「なんというか、まあ……」

「いや、そりゃあ、僕が最初に幻想郷に来た時もここだったけどさあ……」

頭を抱える良也さん。心中お察しします……

「わしもまさか、こんなに早く再会するとはおもっとらんかったわい」

「いや、ホントにね……爺ちゃんの関係でこっちにこれなくなった急な用事も
ようやく片付いて久しぶりに来てみれば……これだからねぇ……」

苦笑気味な表情でお爺様に目を向ける良也さん。まあ、それは確かに……

「いいじゃないの。普通は死んだらまた会えないのに再会できたんだから
儲けものだと思いなさいな」

「そうじゃ。素直に喜べ」

「というか、全然来ないようだったら呼ぶ気だったし。
妖夢に言伝させて」

「私にですか……」

「はぁ〜……頭が……」

頭を抱える良也さん。ご苦労様です。
と、顔を上げると来た時から持っていた袋に手を入れる。
出てきたのは一升瓶。

「とりあえず、飲む?つまみも持ってきてるけど」

……気持ちはわからなくはありませんけどね。





「考えるだけ無駄みたいだし、ちょっとした延長タイムと思って楽しんだ方がいいか」

飲み始めて10分ほど。良也さんが出した結論がそれだった。

「い、いいんですか!?そんなので!?」

「だって考えれば考えるほど頭痛くなるし……
そもそも幻想郷のことで深く考える事自体間違いだったよ」

……いや、流石にそれはどうかと。それに

「前者はともかく後者はなんですか?もしかしてそんな軽い気持ちでいつも
異変に関わってるんですか?そんなのだから危なっかしくて心配なんですよ」

「いや、まあそれを言われると厳しいけど……逆に聞くけど
今の僕と同じような状況になったことを考えてみなよ」

「同じような状況……」

考えてみる。今日みたいに人里に買い物出かけて帰ってきてみれば音信不通だった
師匠が幽々子様と縁側で普通に過ごしていた……

「すいません。多分、文句言えません」

「だろ。まあそれに……嬉しいっちゃあ嬉しいしね」

その言葉になんともいえなくなる。
本人としてはいうのが恥ずかしかったのか『何が』というのこそ省かれていたが……
もう会えないと思った人と再会できたとしたら確かに嬉しいだろうから。

「あら〜?つまみが足りないわ〜」

「良也、お前行き来できるんじゃろ?外でなんか買って来い」

「「…………」」

苦笑した顔を見合わせる。

「……簡単に言ってくれるなあ」

「私が何か作りますから、良也さんは飲んでてください」

「いやいや、いつもいつもまかせっきりなのもね。これから爺ちゃんも迷惑かけそうだし
今日は手伝うよ」

「……ではお言葉に甘えさせていただきます。よろしくお願いします」

とりあえず、今はつまみを作るとしましょうか。
あとのことはそれから考えましょう。

それにしても……確かに幻想郷のことで深く考える事自体間違いというのは
的を得ているのかもしれないですね。
良也さんに寿命はありませんし、半人半霊である私もまた長い……
今さらながら本当に長い付き合いになるでしょう。
そんな長い付き合いなら今回の事だって過ぎてみれば『ちょっとしたこと』程度で
済んでいるのかもしれませんね。





「あ、そうだ。爺ちゃん、ひとつ言っとく事があったよ」

と、何か思い出したのか良也さんは足を止め灯也さんの方へ振り返る。あれ?あれは……

「なんじゃ?」

「いまさら言う事でもないと思うだけど、
いつの間にか爺ちゃんにお酌してくれてる"そいつ"。
気をつけた方がいいよ」

「あら、失礼ね。そう思わないかしら?灯也?」

そう言って灯也さんに同意を求めているのは……紫様ですね。

「じゃな。まったく何をいっておるのか……って、ス、スキマァ!?」

あ、お酒吹いた。紫様は自分にかかりそうなのだけスキマで遮って……
でもかかりそうにないのはそのまま床に……掃除しないと。
どうせなら全部防いで欲しかったです。

「まあ汚い」

「な、なぜお前がここに!?」

「あら?友人の家に遊びに来るのがそんなにおかしいの?」

「……な、なんじゃと!?」

「まあ、そういうわけだから。あ、スキマ。僕は今から妖夢手伝うから」

「ええ、わかっていますわ。折角つまみを作ってくれるんですもの……
それに今日は玩具なら別にあるし」

「理解が早くて助かるよ。それじゃ」

「ま、まて良也ぁ!お前。わしを売る気か!?」

助けを無視して私を追い越しその場から早足で離れる良也さん。
失礼ながら紫様を苦手とする人は確かに少なくないでしょう。
しかし……こうして見ると何故か血筋?と思えてしまいますね。

なんだかおかしくて自分の頬が緩むのがわかる。
幽々子様達に見られてつっこまれないうちにこの場を離れた方がいいでしょう。
私も玩具にされるのは勘弁して欲しいですからね。
というわけで私も早足で台所へと向かう事にしました。





結局、追いついた良也さんの顔を見たらぶりかえして笑ってしまい
良也さんにつっこまれましたが。





あとがき

どうも、パピットです。
外サイドのキャラだと実は爺ちゃんが一番お気に入りだったので書いてみました。
最後、オチ有りにするか一応いい感じにするか迷いましたが
前者はいつもの病気的なものだったので後者を選択しました。
……そもそも後者が下手だからいつも前者に逃げてるようなわけだから
あんまりうまく終われたとはいえないかもしれないけど、いかがだったでしょうか?



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