「やーやー、我こそは執行者なり。つまりはそういう事なわけで、現状を正しく把握するといい」 「いや、ごめん、無理だ」 目が覚めると、僕は被告人席に立たされていた。 周囲を見れば、すり鉢状に僕を取り囲む傍聴席に、人影のようなモノが蠢いている。 そして、高い位置にある裁判長席に座っているのは、ものすっごく久しぶりに合う、他の幻想郷出身の最強系オリジナル主人公、京だった。 足元を見ると黒い床が続いているだけで、模様も飾りも特に見当たらない。例えるならば、エヴァンゲリ○ン最終話のような感じ。 さて、なんで僕がこんな所に立たされているのか、全然わからない。 「いやーもうびっくりしたよね。そりゃぁもう。しばらく来ない間にさ、エライことになってるじゃない。いやーもうびっくりしたわー」 「すまん、ホントに何の話か分からない」 「ほぉう?」 僕の発言を受けてか、傍聴席の影はよりいっそう激しく蠢く。どうやら、どよめいているようだ。 「そうか、つまり貴様は、この場にいる理由も原因も事情も記憶も、つまるところ何一つ心当たりがないと。そう言いたいのかね?」 「全くもってその通りです」 どよめきは更に広がり、ザワザワと言った風な音が周囲を満たす。何だって言うんだ? 「静粛に! 静粛に! 皆の衆、聞いたかね彼の言葉を。彼は、なんと自身の罪状に心当たりが無いと仰っている。HAHAHA☆、ふざけんのも大概にするといいぜ☆」 「星飛ばされても……っていうか殺意が込められてるような気がするんだが!」 いくら僕が鈍いとはいえ、スキマに暴言を吐いた時に感じる悪寒より数倍強いやつを向けられれば流石に分かる。 だがどうしたことだろう。僕は特になにかやらかした記憶もなければ、そもそも京とそんなに接点がない。友人ではあるものの、話した回数だってそんなに無いのだ。 だというのにこの怒りよう。何が何だか全くわからない。 「しらばっくれちゃっても無駄なんだぜ! 傍聴席にいる方々は、良也、貴様を描き続ける絶対神に付き従いながらも時に対等に議論を交わす神の方々だ。お前の逃げ場は既に無い」 「いや、だから、ホントに心当たりないんだってば」 「静かにしたまえ。見ろ、神の方々もどよめいているじゃぁないか。ちなみに今日、今ここにいる私は、神の代弁者であり、天罰の執行者だ。君の味方をするつもりは毛頭ないから、そこんとこよろしく!」 駄目だ、何を言っても無駄っぽい。 兎に角、暴れても逃げ場がないそうなので、おとなしく現状を把握するまでは様子見するしか無い。 「さて、良也よ。お前は天に唾を吐き、神に弓を引き、そして刃を向けた大罪人だ。が、しかしその程度のことで、神は怒ったりしない。それすら、神々は笑って愉悦とするのだから」 じゃあなんでこんな所に立たされてるんだ、って言いたかったけど、言っても無駄だろうと判断して黙る。 幻想郷での暮らしが長いと、抵抗の無意味さを悟れるのだ。 「だが、そうだな。良也にも分かりやすい例えで話を進めよう。君は今、少年がやるのは駄目な成人向けゲームをやっている。君はテキストを読み進め、時に自身の分身たる主人公を操作し、見目麗しい美少女を攻略しようと頑張っているところだ」 「……はぁ」 いきなりとんでもない例えにぶっ飛んだが、下手なことを言って長引くのも何なのでおとなしく待つ。まだ話の方向性すら見えない。 「そして、ついに狙っていた少女と付き合うことになった。マウスやキーボードを通じて主人公を操作していたんだ。当然感動する。そして、その前後から繰り返し行われていたラブコメ要素に、君はニヤニヤするだろう」 「……まぁ、なるほど」 「そして、ついにあらゆる苦難を乗り越え、二人はゴールイン。互いを愛しあうが故に、行為に及ぶことになるわけだ。当然、君はそのシナリオに感動し、そして物語だと、創作だと分かっているが、それでも二人を祝福するだろう。だが、だがしかし!!」 語気を強め、空を仰ぎながら、一際高い位置にある裁判長席から僕を見下ろして、 「君は、同時に、こういう事も思うはずだ」 「?」 分からない。話が見事にハッピーエンドに終わったのだから、これ以上特に思ったりしないはずなんだけど……。 その時だった。今までどよめいていた影が、ポツリと、しかし裁判所中に不思議と通る声で、ポツリと呟いた。 『……モゲロ……』 その声を皮切りに、コールが瞬く間に全体に広がっていく。 『モゲロ!! モゲロ!! モゲロ!! モゲロ!! モゲロ!! モゲロ!! モゲロ!! モゲロ!! モゲロ!! モゲロ!! モゲロ!!』 「な、何だ何だ!?」 理由がわからないが、ものすごい勢いで全員が叫びだす。だが、その体の向きは、何故か僕に集中しているようで。 『モ・ゲ・ロ!! モ・ゲ・ロ!! モ・ゲ・ロ!! モ・ゲ・ロ!! モ・ゲ・ロ!! モ・ゲ・ロ!! モ・ゲ・ロ!! モ・ゲ・ロ!!』 「静粛にぃ!! 静粛にぃ!!」 カンカンと木槌を打ち鳴らす音が響く。騒々しいほどのもげろコールは、自然と静かになっていった。 「分かったかね、つまり、神の方々は皆君と同じような心境にいたのだよ。君が女の子と付き合う。それはいい。それを見てる分には楽しい。だが同時に湧き上がる嫉妬心! 神をも苦悩させるその行為! これを罪と言わずになんという! N次元を理解するためにはN+1次元以上の視点が必要になるわけだが、しかしN+1次元以上に存在するがゆえにN次元への干渉ができない! 自分の好みのタイプを紙に描き、如何に自身にそっくりな人間を横に描こうと、それは妄想の産物! どんな美少女を描こうとイチャイチャは出来ないんだ! だから、だからこそ! 同じ次元に立つ人間、この例えで行けば自身そっくりな人間に、嫉妬するしか無い! つまり、貴様より高次元な世界に住む神々は貴様に嫉妬するしか無い!」 「待て待て待て待て!! 完全に僕は無罪じゃないか! 意味が分からん!」 言ってる意味は正直はっきりと理解できたわけじゃないけど、分かりやすく言えば、2次元のキャラを嫁と呼ぶようなものなんだろう。 で、その嫁と物語上仲良くしている主人公が許せないってところか。 だが、生まれてこの方誰かと付き合ったことなど無い僕には、完全に言われのない罪である。全くもって関係がない。 ……言ってて少し寂しくなった。 だが、僕の言葉を聞いて、京は大きくため息を付いた。 「ハイハイ、無駄ですから、既にネタは挙がってるんですよ」 「ネタも何も、ホントに心当たりがないんだって!」 京は僕の言葉を完全に無視して、手元のスイッチを押す。すると京の背後に巨大なスクリーンが降りてきた。 そして映るのは、僕と……霊夢? 酒盛りの途中か? 当然、僕には何の心当たりもない映像でもある。 だが、画面の僕は何故か霊夢を押し倒すかのように体重をかけていき……って!!? 映像はそこで切れたが、もちろんそんな過去は存在しない。っていうか考えただけでも恐ろしい。 「はいじゃあ皆さんご一緒に! はい!」 『モ・ゲ・ロ!! モ・ゲ・ロ!! モ・ゲ・ロ!!』 「だぁー!! 待て待て!! 絶対こんな事僕はしてない! 神に誓える!」 「ほほう、これだけの神を前にその言葉、さすがは墓穴堀の良也」 「何その嫌すぎる異名」 そして的確すぎる。 「まぁだが、確かにこれだけで君を処罰するのは些かパンチに欠けるな。なにせ二人とも世界的な感覚で"浮いている"わけだから、これ以上無くマイペースなわけで、付き合ったとしてそこまで甘ったるぅいものにはならない。ヘタレでビビリな良也はいざ事に及ぼうとすれば逃げ出すような始末だし、霊夢はそれこそ甘えたりするような性格じゃないしな」 「そもそもやってないし」 仮に映像が事実だったとして、それこそ酔って足がもつれた的な物で、決して男女間のそう言うアレではない。 そして京も言ったとおり、仮に付き合ったとして、僕と霊夢がそういう関係になるとは思えない。モゲロとか言われるのは心外だ。 ところが、京はやれやれとため息を一つ吐くと、ビシッとこちらを指さして、 「だぁがぁ、それでも君は有罪だ。なにせ、ネタはこれだけじゃないからな! 映像はメチャクチャ短いが、何、十二分貴様を有罪に導いてくれる!」 再びスクリーンに映し出される映像。しかし、今度は霊夢ではなく。 「……フランドール?」 写っているのはフランドール。 僕からすれば手のかかる妹といった所だが、しかしこの映像の中では今まで見たことのないような表情を見せていた。 具体的には、まるで何かを懇願するかのような上目遣い。そして、 『それより、良也が教えてくれる? 子作り』 「シィィィィイイヤァァッ!!!!!」 そこでスクリーンが京の蹴りによってズッタズタに切り刻まれた。とんでもない蹴り技だった。 そして京はふぅと一息つくと、僕を胡乱気に見て、言い放つ。 「このロリコンめ!!」 「いや、これ、僕は悪くないだろう!?」 「シャァァラァァァッップ!! 仮に、一恒河沙歩譲ってフランドールが悪いとしてもだ、純真無垢な少女を有罪に出来ると思ってんのか!」 「思いっきり贔屓じゃないか!」 「それじゃあ皆さんご一緒に! はい!」 『モ・ゲ・ロ!! モ・ゲ・ロ!! モ・ゲ・ロ!! モ・ゲ・ロ!! モ・ゲ・ロ!! モ・ゲ・ロ!! モ・ゲ・ロ!! モ・ゲ・ロ!!』 「ちょ、待て待て、弁護士を要求するぞ!」 「却下!」 「即答!?」 どんどん身に覚えのない事例によってアウェーになっていく僕。しかし、追撃はまだ続く。 「仮に某成程を雇っても、お前は既に逆転不可だ。何故なら、この件に関して、圧倒的な証拠品がある!」 「な、なにィ!?」 そう言って京が取り出したのは、新聞紙だった。 見覚えがあるその題名は、幻想郷が誇るパパラッチ、射命丸の文々。新聞だ。 「表題はこちら。『紅魔館の最終兵器妹と、巷で噂の外来人の熱愛発覚!? 実姉が語る二人の馴れ初め』」 「……」 あまりにストレートすぎてとっさに言葉が出てこなかった。当然、くり返し言うが、身に覚えのない事である。 「内容は、まぁ、要約させてもらえば、既に子作りに励んでいるとかぁぁぁあああああああ!! ふぅぅぉぉぉおおおおおお!!!!」 「いや、待て待て待て待て待て待て!!! それは無い! 絶対にない!」 『モ・ゲ・ロ!! モ・ゲ・ロ!! モ・ゲ・ロ!! モ・ゲ・ロ!! モ・ゲ・ロ!! モ・ゲ・ロ!! モ・ゲ・ロ!! モ・ゲ・ロ!!』 「血涙を流すほど! 今私たちは貴様に嫉妬している!」 傍聴席のコールと共に、京の手によって細かく解体されていく新聞。ビリビリーッっていう音と共に、細かい破片が宙を舞う。 「と、まぁこれだけでも十分君は有罪だ。どうかね、正直になる気は、まだ起きないかね?」 「正直も何も、正直何一つ心当たりがない!」 ここで嘘でも認めたら、もがれかねない。そして退路もないのだから、状況が好転するまで時間を稼ぐしか無いという。どうしてこうなった。 「そうかそうか、じゃあ仕方ない。まだまだ証拠はあるし、もう少し続けるしか無いな」 「マジかよ」 時間は稼げるらしいが、状況は何ら好転しそうにない。思わず頭を抱えた。 そして再び降りてくる巨大スクリーン。映しだされたのは、地霊殿だ。 その中で、今度は僕が映し出される。寝間着を着ているところから考えると、恐らく寝る前なのだろう。トイレへ行くところか、あるいは帰ってくるところだ。 寝ぼけ眼をこすりながら、よたよたとたどり着いた部屋に入る。帰ってくるところだったらしい。 危なげな足取りで布団に潜り込む。だが、そこには。 地霊殿の主である、さとりさんが既に眠っていて。 僕が布団に入ると、ぱっちりと目を覚ました。 「どぉおおおおおりゃあああああああ!!!!!」 その瞬間、スクリーンが業火に包まれる。一片の欠片すら許されず焼き尽くされ、細かい灰が周囲に舞った。 見れば京が、ほのかに光る本を開いてスクリーンがあった場所を凝視している。どうやら魔法らしい。 「今度は言い訳のしようがあるまい。自分から、なんと夜這いに、tn9bkmkixf`g0(神よこの者に裁きを)!!!!!!」 「何言ってんのか分かんねぇ!」 『モ・ゲ・ロ!! モ・ゲ・ロ!! モ・ゲ・ロ!! モ・ゲ・ロ!! モ・ゲ・ロ!! モ・ゲ・ロ!! モ・ゲ・ロ!! モ・ゲ・ロ!!』 「ああああああああ! このハーレム野郎め! 有罪有罪! guilty!」 「だから身に覚えがないってば!!」 どう考えても、僕にそんな度胸があるはずがない。っていうか女性の方が強い幻想郷では、夜這いなんて仕掛けても何も出来ずにボロ雑巾にされるのが落ちである。 そんなこと、今更確認するまでもないというのに。 「貴様に心当たりがなくとも、ここにいる全員がもげろと真摯な気持ちで祈っているのだ。さぁ、もげるといい」 「嫌だから。そんな爽やかに言われても嫌なもんは嫌だから」 きっぱりと答える。 だが京は僕の返事に耳も貸さず、どこからともなく紙の束を取り出した。 「ふむ、手元の資料によると、これからしばらく後、良也が地霊殿へ赴くのが日常化し、ついに二人は同じ布団だああらぁっしゃあああああい!!!」 『モ・ゲ・ロ!! モ・ゲ・ロ!! モ・ゲ・ロ!! モ・ゲ・ロ!! モ・ゲ・ロ!! モ・ゲ・ロ!! モ・ゲ・ロ!! モ・ゲ・ロ!!』 紙の束が京の手元から上がった炎に包まれ燃えカスとなり、先ほどのスクリーンと共に宙を舞った。 周囲の影が伸びたり縮んだりしながら、ものすごい勢いで中心にいる僕を責め立てるように叫んでくる。 「このリア充が! 死ね!」 「リア充じゃないし、死ねないし!」 憤怒の表情でこちらを睨んでくるが、当然身に覚えが無いことなので自首も出来ん。 「しかもまだまだあるぞ! どういうことだこれは!!」 再び降りてくるスクリーン。 もうパターン的に読めているが、映し出されるのは僕の知り合いで、共通事項は女性であること、そして、心当たりがない事だ。 そして、それなりに付き合いのある人物。あ、人妖は問わないっぽいな。 っていうかね、正直今まで出てきた人と、その、すごく仲良くなってるっていう図が、僕には到底思い浮かべない。 霊夢とは今までひとつ屋根の下で寝泊まりしているけど、それでも断言できる。あいつとはそういう雰囲気になれるはずがない。 フランドールに至っては僕は傍目犯罪者であるから、絶対無理だろう。まず理性がそれを止める。 唯一希望があるとすればさとりさんだろうか。でもなぁ、あらゆる心を読んできたさとりさんにとって、僕のような平凡ありきたりな人間は珍しくもなんとも無いだろうし。 で、次に出てくるのは誰かな? なんて、何気なくスクリーンに目を移す。 そこには滅茶苦茶モザイクがかかった映像が流れていた。何が映ってるのかすら良く分からないぐらいだが、何やら肌色が多いような……? 「は、はぁ??」 「パチュリー・ノーレッジに搾精される良也だ。プライバシー保護条約、及び神の世界における健全サイト保護条例によりどうなってるか分からないくらいキッツイモザイクをかけておいた。状況補足はこちらでさせてもらおう」 「え、ちょ、……はぁ!?」 『モ・ゲ・ロ!! モ・ゲ・ロ!! モ・ゲ・ロ!! モ・ゲ・ロ!! モ・ゲ・ロ!! モ・ゲ・ロ!! モ・ゲ・ロ!! モ・ゲ・ロ!!』 無い無い無い無い無い無い無い無い無い!!! そんな事、まぁ我が師匠のことだから、実験に使う材料の搾取ぐらいは平気でやりそうだが、それを自らやろうとするような性格ではない! 「待て! 流石に待て! 絶対にありえないから!」 「だがしかし、神は見ている。お前が如何にヒニンしようと、意味のない事だ。ちなみにこの映像の中ではヒニンしているはずだぞ。多分」 誰が上手い事言えと。 「見てたら嫉妬の炎が沸き上がって来ました!! 人鬼『未来永劫斬』!!!」 京が聞き覚えのあるようなスペルカードを掲げたと思ったら、その姿が消える。 次の瞬間スクリーンが細切れになり、一際甲高い斬撃音と共に京は再び元の場所に姿を現した。 「さぁ、皆さん! 今まで以上に声高らかに!!!」 『モ・ゲ・ロ!!! モ・ゲ・ロ!!! モ・ゲ・ロ!!! モ・ゲ・ロ!!! モ・ゲ・ロ!!! モ・ゲ・ロ!!! モ・ゲ・ロ!!! モ・ゲ・ロ!!!』 傍聴席からのコールは先程までよりずっと大きくなり、明確な殺意が肌に刺さるように感じ取れる。 ノリはギャグみたいなのに、緊張感はシリアスそのもの。なんだこの異空間! 「あああああああ!! 怒りのあまりこの空間をねじ曲げてしまいそうだァ!! ここまで直接的なアレになっちまうとより一層良也君はもげて欲しいナァ!!」 「お、落ち着け! なんか別の人格が出かかってるぞ!?」 京はもともと一人称から三人称まで安定しないという癖があるけど、それとは別になんか語尾が怪しげになってる! 「ついにというかなんというか、本気でここまで行くとはなぁ……俺は貴様への殺意を抑えるのが大変だ」 「だから、無いっての! 絶対捏造しただろ!」 「NO!! 断じてNO!!」 髪を振り乱しながら僕の言葉を否定してくる。正直すげー怖い。 「そしてぇ! お前は! 君は! 貴様は! これだけいい思いをしているというのにまだ飽きたらず! 他にも手を出してるみたいだなぁ!」 「僕がどれだけチキンでヘタレかは知らないのかよ!?」 そうだ、どれだけ捏造しようと、例えばこれらの映像を霊夢なんかに見せても、 『嘘でしょ。良也さんにそんな甲斐性があるわけないもの』 とか言ってくれるに違いない。 ……自分の想像のことながら、若干悲しくなった。 再びスクリーンが降りてくる。もう誰が映し出されてもおかしくない。 で、映しだされたのは、非常に見覚えのある元僕の教え子で。 「……ああ、すまん。これは別に俺はそんなに羨ましくないわ」 「そもそも元とはいえ、教え子に手を出したりはしないぞ」 「なんていうか、東風谷 早苗は大体どの世界に行ってもどこか常識からずれてるんだが……この世界では常識的だった時期があるだけに、見ててちょっと悲しくなる」 「……あの頃の東風谷は何処へ言ったんだろうなぁ」 思わずため息をつく。よくも悪くも幻想郷に染まり始めた東風谷は、幻想郷の常識からも若干ずれた独自の価値観を作り始めてる。 うん、僕としては、昔の大人しかった東風谷の方がいいなー、なんてことも思ったり。 「そして、それと付き合うことになった良也の苦労は目に見えているからな。まぁ、がんばれ」 「いや、だから、別に付き合ったりしないってば」 言いながらも、今度はスクリーンも燃え尽きず京もそんなに怒ってないようなので若干ほっとした。 しかし。 「が! しかし! あくまでそれは俺個人の意見! 神の皆様方はどのようにお考えか! さぁ耳を傾けてみろ!」 「へ?」 京がそう言うと同時に、再び傍聴席の影が大きく蠢く。同時に、 『爆発!! 爆発!! 爆発!! 爆発!! 爆発!! 爆発!! 爆発!! 爆発!! 爆発!!』 津波のように声が押し寄せてきた!? 「和訳してやろう。リア充爆発しろってさ」 「聞けば分かるわ! だからリア充じゃないって言ってるだろ!」 何度でも否定する。教え子と付き合うなんて、あるわけないだろう。 「はいはい、静粛にー」 やる気なさげに京は足元―――ここからでは見えない―――から、なんか戦争映画とかで出てきそうな大きくて黒光りするものを取り出した。 ドォンッ! ドォンッ! と耳がおかしくなるくらい大きな音が響き、一瞬で静かになる。 「この件は俺は特に言うこと無いから次行こう。お次はこちらの美少女!」 バズーカ砲を投げ捨て、今度は破れてないスクリーンに注目させる。 そこに映されたのは、僕的幻想郷の常識人ランキングでもトップを争う、妖夢だった。 白玉楼の縁側に正座で座り、その手には刀ではなくて耳かき。 そして、その膝の上には、僕の頭があり……いや、この展開は流石にないわ。うん。 「この前後にも様々な展開があるんだが、どうにも本人たちの心情描写がメインだったんでな。敢えて抜き出す映像が少ない。が、言わせてもらう! 死ねリア充!」 「いや待て落ち着け、ただの耳かきだろう!? 妖夢のことだから誰に対しても特に変わらず、頼めばやってくれるはずだ!」 「ふむ、これだけなら、な。まだあるんだよ!」 映像が切り替わる。食事中だ。 大きめのちゃぶ台の上には、山盛りになった肉じゃが。 「これは良也くんリクエストの肉じゃがです。はっはっはっ、美少女の手料理ですってよ! ぶち殺してやろうか?」 「だぁー! 待て待て! 妖夢の料理は美味しいし、たまに遊びに行ってリクエストしただけじゃないのか!?」 妖夢なら、都合が良ければそれで作ってくれる。正直覚えてないけど、そういうこともあったのかもしれない! 「一理ある、が、まだだ、まだ終わらんよ!」 再び映像が切り替わる。今度は風呂場。 僕が木で出来た風呂イスに腰掛けて、その後ろには妖夢が。 「背中洗ってもらってる。これでもお主は容疑を否認出来るのかね?」 「絶対にこんなイベントはなかった!」 流石にこんな事があったら忘れられない。だから、絶対にこんな事はなかった。 そう否定しようとすると、録音されたと思われる僕と妖夢の声が聞こえてきた。 『そういえば、今晩の肉じゃが、美味しかった。また作ってくれな』 『はい。次作るときは、もっと美味しくなるように頑張ります』 『はは、今でも十分美味いけど』 『そうですか? でも……その、好きな人には、もっと美味しいのを食べてもらいたいので』 『――えっと、僕に?』 『はい。えっと、幽々子様は、少し味より量なところがあってですね! ですから、今まではそれほど味に拘ってなかったというか!』 ……ナンダコレ? 「ヴォゲェェェェェェェェッッッ!!」 「うわ、何吐いてるんだ!?」 「砂糖。甘ったるぅ。これは叫ばずにはいられない! さぁさ、皆さんご一緒に!!」 『爆発!! 爆発!! 爆発!! 爆発!! 爆発!! 爆発!! 爆発!! 爆発!! 爆発!!』 もし視線に熱があれば、僕は今頃炭になっているだろう。360°から突き刺さる(憎悪的な意味で)熱い視線。 僕は果たしてこの異空間から無事に脱出できるんだろうか……。 「脱出出来るか? いいや、無理だね。この空間はあらゆる外的障害を遮断する超結界に囲まれた異空間! 世界は法則をねじ曲げ、キャラブレイクすら容易く是とする!」 「今更感はするが、心を読むな!」 「現在 八雲 紫がこの空間に干渉しようと頑張っているようだが、この全てを思い通りにする結界の前には無力! 此方側の世界へは来られない! 名付けて『ご都合主義結界』!!」 「わかり易い名前だな!?」 だが今、希望的な情報が含まれていたのを僕は聞き逃さなかった。 あのスキマが現在こちらに来ようとしているらしい。 理由こそ分からないものの、もし来たらついでに僕も出られるようになるはずだ。 京は無力と言ったが、僕はあのスキマに出来ないことがあるとは思えない。必ずここへやってくる。 うん、助かる道が見えたぞ! 「さて、散々砂糖を吐いた所で、お次はこちら」 「……助かる道が見えても、間に合わなきゃ意味ないよなぁ……」 若干絶望を覚えつつ、ともかくスクリーンに視線を向ける。 そこには再びものすっごいきついモザイクが掛かった映像が流れていた。 正直何やってるのかすら分からないが、一体誰だろう? 「はい、西行寺 幽々子さんです。この映像を解説いたしますと、所謂逆○○○って奴ですね。この後良也君も乗り気になって―――」 「ありえねぇぇぇぇええええええええ!!!」 思わず叫ぶ。いや、別に幽々子が嫌いなわけではなく、むしろ好きだが、あくまで友人としてだ。 まず幽々子がそういうふうな事を仕掛けてくる事自体考えられないし、仮にそんな雰囲気になったとして僕は恥も外聞も投げ捨てて逃げるだろう。 如何に幽々子といえど、時間三倍速&テレポートによる回避を組み合わせれば追いつけまい。 っていうか妖夢はどうした? 「それは自惚れというやつだよ。ちなみに妖夢は博麗神社。まぁ今回は良也、お前に非はないけれど、それでも状況が状況。当然、許されるはずも無し!」 「だから心を読むなっての」 京がパチンッと指を鳴らすと、ペラペラの素材であるはずのスクリーンに亀裂が走り、そしてガラスのように粉々に割れた。 「所謂美人のおねぇさんに迫られているという状況! 羨ましくないと思うてか! さぁさ皆さん一斉に! それ!」 『モ・ゲ・ロ!!! モ・ゲ・ロ!!! モ・ゲ・ロ!!! モ・ゲ・ロ!!! モ・ゲ・ロ!!! モ・ゲ・ロ!!! モ・ゲ・ロ!!! モ・ゲ・ロ!!!』 「もゲロモゲロモゲロモゲロモゲロも月ロモげろもGEOrモゲロモゲロモゲロMGEOgもげろ」 「お、落ち着け!?」 京の言葉は既に崩壊し、呪詛のごとくこちらに叩きつけられる。うん、すげー怖い。 「その後宴会で他のみんなの前で幽々子に告白もげしね。皆の酒の肴になりつつも、二人は無事付き合うことになったのでしたもげしね」 「語尾怖いから!!」 なんだもげしねって。いや、意味は分かるけど理解したくはないというか。 「さて、良也の刑は既にこの時点で十分、否、十二分に極刑だが、なんと驚いたことにまだ罪状があるんですよ」 「僕が一番驚いてるよ……」 「では皆さん、後で良也には刑を執行しますので、くれぐれも早まった真似はしないでください。正直、刺激が強いかもですよ?」 ものっそい不吉な言葉と共に、何枚用意されてるのか知らないが、再び出てくるスクリーン。そういや、今更だけどプロジェクターは何処だろう? そして映し出された映像には。 なんか見覚えのある美女と同じ布団で寝ていたりしている。 ……しかも、なんか、肩の辺りが布団から出ているが、裸っぽい……!? 「朝チュン!! まさかの朝チュン!! ヴァァァァアアアアアアアア!! こんな美少女と朝チュン!! グゥゥルゥゥアアアアアアアアアアアアア!!!」 「叫びが人間のそれじゃないぞ!!?」 っていうか叫びたいのはこっちだ!! 「傾国の美女とも謳われる、蓬莱山 輝夜さんです! まさかの超絶美少女! おおっと神の皆様方! 凶器の使用は少しばかり待っていただきたい! 必ず皆様が参加できる公開処刑を実施しますので!」 「何度も言ってるが! 絶対に! あり得ない!」 なんてったって輝夜である。確かに美人だと思うし、嫌いではないが、それでもあり得ない。 だってあいつは、適当に誘惑して寄ってきた所をからかい倒すのが狙いだ。仮にそういう行為に及ぼうとした所で、蜂の巣にされるのが落ちである。 無論、そういう行為に及ぼうとは思ったこともないが。 となると、この映像は先程の幽々子の例と同じ、向こうから迫ってきて押し倒されたという、そういう設定に違いない。なら僕にはそんなに罪はないだろうと思ったり。 「甘い! ハチミツに黒蜜混ぜてチクロ(合成甘味料)とサッカリン(合成甘味料)を混ぜあわせ、ガムシロップで溶いたのより甘い! こちら、なんと良也くんから押し倒しているのでございます!」 「いや、だから無理だって!」 『モ・ゲ・ロ!!! モ・ゲ・ロ!!! モ・ゲ・ロ!!! モ・ゲ・ロ!!! モ・ゲ・ロ!!! モ・ゲ・ロ!!! モ・ゲ・ロ!!! モ・ゲ・ロ!!!』 「大丈夫だ、私はいつだって冷静だだだだだよよよ?」 「はいダウト! 全然冷静じゃ無いですそれ!」 視認出来るほどの濃密な青白い霊力が、京の背後から立ち昇っている。表情と合わせて、恐怖は三倍ドン。 「この後二人は、なんと今までにない事に、婚約をしてしまうのです! ああ許せませんね皆さん! ああ本当に許せない!」 「こ、婚約ぅ!?」 「おいおいあれじゃね今流行りのできちゃった婚とかじゃねぇの? と思うかもしれんが、大丈夫、その点はとりあえず心配ないらしい」 「いや、僕が心配してるのはそういう所じゃないんだが」 「何せこの後、輝夜に子育てをさせるために子作りをするんだからなぁ!!」 『モ・ゲ・ロ!!! モ・ゲ・ロ!!! モ・ゲ・ロ!!! モ・ゲ・ロ!!! モ・ゲ・ロ!!! モ・ゲ・ロ!!! モ・ゲ・ロ!!! モ・ゲ・ロ!!!』 状況が更に悪化した!? っていうかコールがうるさすぎて頭が痛くなってきた。 「さてさて、皆さんの怒りのヴォルテージは十分にお溜まりになられたでしょうか? 次がいよいよ最後でございます! バースト突入したらとりあえずチェインつないでFバースト使えるようにしときましょう! 個人的にマナケミ○は良作だと思うんだ!」 何の話だ。それはともかくとして、次で終わりらしい。 いよいよ持ってこの謂われのない罪で責められる裁判も終了。と、同時にそれまでに救助が来てくれないと人生も終了。 うん、自分で言っておきながら、かなりやばい状況だよねこれ。 「最後の女性はこちら、今までほどの刺激はありませんが、それでも妬ましい!」 スクリーンの映像が切り替わる。そこに映っていたのは。 永遠亭在住の、僕を目の敵にする薬師見習い。 つまり、もっともあり得ない人物、鈴仙だった。 その鈴仙と僕が、手をつないで人里を歩いている!? 「うーん、初々しい! 記念すべき初ディト! そして彼女がいない俺としては羨ま妬ましい! さぁさ皆さんこれが最後です! 声を張り上げて行きましょう!」 『爆発!! 爆発!! 爆発!! 爆発!! 爆発!! 爆発!! 爆発!! 爆発!! 爆発!!』 「待て、ちょっと冷静に否定するわ。(ヾノ・∀・`)ナイナイ」 だって、鈴仙である。僕が永遠亭に行った際、出会ってしまえば舌打ちされたり、無言で扉を閉めたりするようなあの鈴仙である。 いわばデレ期の無いツンデレなのだ。そんな鈴仙とデートとか、絶対にない。あり得ない。 「あーあー見てくださいよ赤くなっちゃってぇ。俺も初々しい殺意が芽生えてきちゃったなぁ♪」 「それは初々しいとは言わん! 禍々しいわ!」 京から立ち上るオーラに思わず突っ込む。当然のごとく無視された。 「この後二人はキスまで行きますが、それ以上の進展については不明だったりします。だがこの初々しさが逆に腹が立つ! 万感の思いを込めて! いざ!」 『爆発!! 爆発!! 爆発!! 爆発!! 爆発!! 爆発!! 爆発!! 爆発!! 爆発!!』 「だから心当たり無いってば!!」 僕の言葉など聞こえてないとでも言わんばかりに、暫くの間爆発コールは続いた……。 「さぁて皆様! 大変長らくお待たせいたしました。お手元にある好きな武器をお取りください!」 で、気づけば絶体絶命だったりする。あれ? オチはまだ? 「さて、良也、辞世の句ぐらいは聞いてやる。最後に自身の世界を広げてここに倒れ伏すがいい!」 「いや、最後ってのはぜひ勘弁」 それに辞世の句なんてとっさに思いつかないというか、まだこれが現実だと思えないっていう。 っていうか辞世の句で世界を広げるっていうのも変な話だ。だって辞世だし。世を辞めるわけだし。 「……ん?」 そうだ、世界を広げる。 僕の能力は自分だけの世界に引きこもる程度の能力であり、これが破られている様子はない。 ってことは僕の周囲は現在異世界だけど、能力の範囲内は僕の世界だ。 なら、僕の世界を限界まで広げ、この周囲の世界を"塗りつぶして"しまえば、ここから脱出できるかもしれない! 「ほほう、成程しまったそんな発想があるとは思わなかった。だが、この世界はおよそ半径百メートル四方。高さも百メートルの正球だ。良也の世界はそこまで大きくなるのかね?」 ふふん、と得意げに京は言ってるが、出来るかどうかなんて知ったこっちゃないのだ。既にこれにしか可能性はないわけで。 うーん、セリフだけ拾えば僕は何処の主人公だって感じだな。あ、オリ主なんだっけ。 能力の範囲を目一杯広げる。だが、ここが見慣れた博麗神社や紅魔館の大図書館ならまだしも。見知らぬ真っ暗な世界。どう贔屓目に見ても三メートルちょいぐらいまでしか広げられない。ぬおお、駄目かぁ!? と、思った時。 眼前に亀裂が走った。 「むっ」 「へ?」 亀裂は瞬く間に大きくなり、やがて大きく口を開ける。その両端には見覚えのあるリボンが結ばれていて。 「はぁい、こんにちは、良也」 「す、スキマぁ!?」 中から出てきたのは、それはそれは見覚えのある大妖怪だった。 「ほぉうほうほう、こいつは意外だな。どうやってこの結界内に入ってきたんだ?」 「残念ながら、この私でもこの結界には干渉出来なかったわ。だから、良也の世界の中へ転移したのよ」 「まぁそんなことはどうでもいい。歓迎しよう。ルートがなかったゆかりんよ」 「……何でかしら? 別にどうでもいいのに、なんかムカツクわね」 そうぼやいてから、スキマはこっちに振り返って、扇子を突きつけてきた。 「こんなのに惚れるのは無理だし、惚れられた所でお断りだけど、捏造の映像の中ですら私が出てこないのはなんとなくムカツクわ」 「いや、僕に罪はないから。頭を扇子で叩くな」 ペチペチと叩く扇子を払いのける。あー、地味に痛い。 ……って、あれ!? 「何で知ってるんだ!?」 「見てたもの。最初から最後まで」 「おいコラ」 このストーカーめ! っていうかのぞき見が出来てる時点で干渉出来てるじゃんか! だったらもうちょっと早く来て欲しかったもんである。 「……あのねぇ、干渉は出来無かったって言ってるでしょう? 良也の世界の中に穴あけて見てたのよ」 「だったらもうちょっと早く来いと」 「狭いのよ。能力の範囲を広げてくれたから来れたの」 なんだ、そういうことか。いや、だったら早いとこ能力の範囲を広げろとか教えてくれても良かった気がするんだが…… 「あら、その発想はなかったわ。まぁ面白い映像も見れたんだし、怒らないで」 いや、僕は全く面白くなかったんですけど……。 それにそんな、ニヤ〜、という擬音が似合いそうな笑顔を浮かべながら言われても、絶対わざとだとしか思えないんですけど。いや、わざとなんだろうけど。 くそう、こいつは本当に人"で"楽しむのが得意な妖怪だなぁ! ここにこいつが来た理由も分かった。面白そうとか思ってわざわざやってきたに違いない! 「よく分かったわね。で、何で私の映像が無いのよ。こんなにも妙齢の美女だというのに、ん?」 「いやぁ、ゆかりんは妙齢と言うよりいい年齢じゃないかな?」 京がボソッとつぶやくと、その頭上からそれはそれは巨大な墓石が降ってきた。 それを見もせずに、軽く左手で払うだけで墓石は粉々に砕け散った。……コエー。 「もしかしてゆかりん嫉妬?」 「馬鹿なことを。ただ私が今まで映像に出てきた連中と比べて、劣ってる点が分からないから不満なだけよ」 「全くねぇ、良也との付き合いは妖夢、幽々子に次ぐ三番手だっていうのに。まぁきっとゆかりんがデレるなんて、誰も想像が及ばないんじゃないかな?」 やれやれと京は首を振ってため息をつく。そして、 「じゃあゆかりんも来ちゃったし、処刑でも開始しますか。さぁ皆さんお手元の武器の発射許可を出しますんで、一斉に行きますよ!」 「うおおおおおおい!!? この流れでどうしてそうなる!?」 冗談じゃないやい! どう考えてもハッピーエンドのはずだったのに! 「全く、仕方ないわね」 「うおわっ!?」 スキマに手を掴まれる。そのまま引きづられ、そのままパックリと開いた隙間の中に放り込まれた。 「発射ぁ!」 ドッパパパパパパパパパパパパパパン!! 隙間が閉じる前に、後方から何かを一斉に発射する音が聞こえたが、それもすぐに聞こえなくなった。 目を開けると、そこは博麗神社だった。 隙間から吐き出された際、上手く着地できずに尻餅をついた僕を、霊夢が呆れた顔で見ている。 「全く、良也さんたら運動神経無いわね」 「うるさいやい!」 いつもと全く変わらない霊夢のキツイ言葉に、怒りながらも思わず口の端が持ち上がる。 いやぁ、どうやら無事に帰ってこれたらしい。今回ばかりはスキマに感謝だ。今度うまい棒を10本セットでくれてやろう。 「ケチねぇ。うまい棒確かに美味しいけれど、10本でも大したお値段じゃないし。女性への贈り物なのだから、もう少し気を使った方がいいんじゃないかしら?」 「お、スキマ」 僕の直ぐ側に隙間が開き、そこからスキマが出てくる。そして、すぐに訝しげな顔をした。 「んん?」 「な、何だスキマ? 僕は何もしてないぞ」 っていうかこいつのこんな顔を見るのは初めてではないだろうか。どうやら相当理解不能な難題に直面しているらしい。 「……良也、貴方どうして世界を広げたのかしら?」 「はぁ?」 どうしてって、さっきの話だよな。それは、えーっと…… 「京に遺言で世界を広げろって言われたからかな。それをヒントにして」 「…………そう。まぁいいわ」 まだイマイチ理解できないのか険しい表情をしていたが、やがて小さく息を吐くと扇子をバサッと広げた。 と、同時に僕の体が動かなくなり、その頭上で隙間が開く……って!? 「ちょっ、おい!? 何をするんだスキマ!?」 「私には一切理解出来ないけど、さっきの世界のお土産、ってところかしら。貴方に向けて放たれた弾丸を、折角だからプレゼントしようかと」 「要らん! 持って帰れ!」 「あら、これは私のではないし、むしろ貴方が持って帰るべきものよ」 そして、有無をいわさず隙間からドササササーッと落ちてきたのは。 色とりどりの長い紙(クラッカーの中身)や、きらびやかな紙吹雪、華やかな花びらなどだった。 「……はぁ? ってうげげげばばば!?」 が、尋常じゃない量に僕は何かを言う暇なく埋もれ、先ほどまでの緊張もあってか、フゥッと意識が遠くなる。 「そういえば、霊夢?」 「何よ?」 「ここで埋もれてる良也が、貴方と付き合うことって、あると思う?」 決して表情は見えないが、きっとスキマはニヤニヤと笑っているんだろう。だから、あの映像は捏造だってのに。 怒ろうにもまだ体が動かない。クソッ、スキマめ! うまい棒にからしをたっぷり仕込んで復讐してやるぅ! と、まぁ。そこで霊夢の返事を聞かないままに、僕の精神的体力は限界を迎え、意識を失った。 後日、スキマに出くわした際、良かったじゃないとか言われた。何の話だろう? P.S うまい棒は僕の口の中に直接叩きこまれた。あまりの辛さに悶絶した。僕がスキマに勝てる日は来そうにない。 後書き(蛇足) つまり何が言いたかったのかというと、いいぞもっとやれっていう。もぎたい気持ちも本物だけど、やっぱり皆に愛されている良也くんなのでした。 皆さんどうもお久しぶりです。ニゴイです。 受験やら何やらで小説書くの1年以上封印されてました。久しぶりすぎて上手く書けない。でも書きたい、そんなジレンマ。 オリキャラめっちゃはっちゃけてます。でもすまん、はっちゃけないことには今回は書けなかったんだ。だれもこんなの期待はしてないだろうけど。 久しぶりに久遠天鈴にやってきて、個別ルートがいっぱいいっぱい! もぎたい気持ちもいっぱいいっぱい! この話は外伝ですので続編は無いです。多分。 それではこの辺で。次回があればまた是非。 |
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