「東方紅執人7」



「昨日の夜、どうだったんだ?」

「あぁ?」

多くの人間が住む人里。そこで俺は土樹に出会った。

その土樹は開口一番、昨日の夜のことを訪ねてきた。

「なんでお前が知ってんだよ」

「いやー、ある人物が森を歩くロン毛と金髪を見たって」

ある人物、それが誰だかだいたい予想がつくが、それは置いておく。

「へー、それで?」

「それでじゃねえよ!思春期の男があんなかわいい幼女と二人で夜の森を……」

「それ以上言ったら殺す!」

土樹の胸ぐらを掴んで殴るふりをする。しかし土樹は数回頷くと、真剣な眼差しでこう言い放った。

「わかってるよ。ロリコンなお前はそんな雰囲気に耐えられず、ついついフランに襲い……ぐおっ!!!」

骨と骨とがぶつかり合った鈍い音が、その場に響いた。



「いてて……何も殴ることはないだろ!」

赤く腫れた頬を手で押さえながら、文句を言う土樹。

「うるせぇ……お前が悪いんだろうが」

しかし悠は、人を殴った罪悪感など微塵も感じていない様子だ。

「冗談だよ、冗談!まったく、そんな軽い冗談も通用しないのか!」

「俺は冗談が嫌いなんだよ」

「冗談が嫌い、なら「悪魔の妹」のことは冗談じゃないってことかしら?」

土樹ではない声が聴こえたかと思うと、悠の隣に一人の少女が現れた。それも裂けた空間から。

「スキマ!」

「その呼び名は止めなさい。わたしには八雲紫って名前があるの」

そう呼ばれるのが嫌なのか、眉間にしわを寄せて悠に言い寄る紫。

八雲紫は幻想郷最強クラスの妖怪の一人で、「境界を操る程度の能力」を持つ。その力は強大であり、神にも匹敵するとも言われるほど。

そのため、さすがの悠も紫の放つ独特な雰囲気に気押される。

「紫、「悪魔の妹」のことって何だ……」

途端に悠の目付きが鋭くなる。紫の表情も先程とはうってかわった真剣な表情と化す。

「あの娘の力、その強大さをわかっての行動なの?」

フランの力の強大さはよくわかっているつもりだ。それがどれだけ危険かってことも。

ただ、俺はフランをあのままにしておけない。

外には楽しいことが一杯あるのに、このまま一生外に出られないなんてことは絶対に嫌だ。

知ってほしい、外の世界を。

もっともっと楽しいことはある。

「俺が止める」

一瞬、紫が驚いた顔になる。

俺は言葉を続けた。

「俺があいつの、フランの強大な力を押さえ込む。どんなことがあろうと、絶対に」

絶対なんて言葉は、軽々しく使うものではないと思っていた。

物事に絶対はありえないから。

でも今は使ってもいいと、心の声が呼びかけたのだ。

先程まで驚いた顔をしていた紫は、ふふっと鼻で笑うと、悠を讃えるかの表情を浮かべた。

「そこまで言うなら信じてみるわ。あなたとあの娘を」

厳しい中にも優しさを感じさせる。それが幻想郷を、誰よりも愛してやまない八雲紫なのだと初めて気づいた。

「それに、レミリアも認めてのことでしょう。そうじゃなきゃ、わたしも簡単には了解しなかったわ」

妹はもうだいじょうぶ。そう言っているお嬢様を思い浮かべてみると、表情は笑顔だった。

「紫」

「なに?」

「ありがとな……」

恥ずかしくて目は向けられないけど、心を込めて言った。決して薄っぺらな言葉ではなかったと思う。

「わたしは何もしてないけど、その言葉は受け取っておくわ」

紫が、始めて会った時とは違く見える。胡散臭くて、信用できない印象があった紫とは違く。

「いつか、あなたがわたしにくれたお礼の言葉として、後世語り継がせてもらうわね」

「こ、こいつ……!」

俺の思い違いだ。やっぱりこいつは胡散臭くて、信用できない。



「あのー、僕は?」

完全に空気と化した良也。その存在に気づくこともなく、二人はその場からいなくなった。



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