「東方紅執人2 」



今、俺が居る場所は紅魔館内の大図書館。

そこで俺は、一人の男の姿を発見した。

「土樹」

男は振り向き、よぉと軽い返事をする。

男の名前は土樹良也。
俺と同じ、外の世界から来た人間で、よく人里で菓子などを売りさばいている。

「悠、だから僕は年上だぞ、さん付けで呼びなさい」

少し偉そうなものの言い方に聞こえるんだよ、こいつは。

「お前に指図される覚えはない」

良也の頬がひくっと引きつる。

紅魔館内の者たちには謙虚で優しい悠だが、それ以外の者たちには露骨に冷たい。

「おまえのそういうところ、直したほうがいいと思うけどな」

「おまえに言われる筋合いは無い」

「……」

悠の強烈な眼光に圧倒され、少しの間無言になる良也。

こうやって会話を途中で切らすことは、よくあることだ。

「そ、そういえばフランはどうだ?」

沈黙に耐えられず、無理やり話題を作った良也。

「別に」

そっけない返答をする悠。

「いつも元気?」

「別に」

「危険なことは起きてない?」

「別に」

「大変だな、お前も」

「別に」

ここまで行くと、もはや精密機械である。

頭にきた良也はその後もいろいろ質問するが、「別に」の一辺倒が続く。

しかし、ある問いに悠が反応する。

「フランのこと好きか?」

「……!?」

途端に挙動不審になって照れ隠しをする。

「ははぁーん、図星か」

「ち、違がう!別にフランのことが好きとかそういうんじゃなくて、兄が妹に抱く感情みたいなものであって……決して恋愛感情ではないっ!!!」

声を荒げて、長々と言葉を喋る。

いつもの冷静な悠からは考えられない慌て様。

「わかりやすいな」

良也に偉そうにされるのは、こういう面があるせいかもしれない。

「だ、だから違うって!」

「まぁまぁ、よーくわかった。お前はロリコンだってことは」

「ロ、ロリじゃねえ!」

こういうところはまだまだ子供だな、と心の中で密かに感じた良也であった。



(あの野郎、次会うときは覚えてろ……)

良也の元を去り、フランのお世話をする悠の心中は穏やかではない。

そんな時、不意にフランがある遊びを提案した。

「ねえ悠、次は「ラブコメごっこ」しよ!」

「何だそれは?」

内容を訊いてみると、どうやら王子様とお姫様になりきって、いちゃいちゃする遊びらしい。

たぶん、何かの本にでも影響されたんだろう。

「悠が王子様で、フランがお姫様!」

「わかったわかった」

「じゃあいくね……「わたし、あなたのことが好き!」」

「な、なっ!?」

遊びの中での告白の言葉のはずなのに、取り乱してしまう悠。

「ねえ、そこは「実は俺も好きだったんだ!」でしょ」

「あ、ああ……悪い悪い」

恥ずかしながら、俺は良也の言葉を引きずってるらしい。ただの冗談のはずなのに……。

「「実は俺も好きだったんだ!」」

思わず赤面してしまう。馬鹿か俺は。

「「うれしい……」」

がばっ。

よくあるラブコメの展開通り、王子様に抱きつくお姫様を演じるフラン。

しかし俺の方は演技じゃない。

「ば、ばばば馬鹿!なんで抱きつくんだ!」

ごっこということを忘れ、慌てふためく悠の反応は、先ほど良也にからかわれた時以上のもの。

「だーかーらー、そこは黙って抱きしめるんだよ」

「だ、抱きしめる!?」

もうお分かりかと思うが、早乙女悠は極度の純情派で恥ずかしがり屋なのである。

「そ、そういうことは軽々しくしたりしたら駄目だろ!」

「なんで駄目なの?」

「だ、駄目なもんは駄目なんだよ!」

さすがのフランも、悠の性格に呆れ半分な状態だ。

その後も悠は、度々恥ずかしがり屋な性格を露呈することになった。



「悠、さっきフランが「なんで抱きしめるのは駄目なの?」って訊いてきたんだけど、何をして遊んでいたのかしら?」

「……」

お嬢様の微笑が恐い……。




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