異空間からヨッコイセと出た金髪美人はさも当然の様に幽々子の隣に座った。コロが紫を見上げる。
 妖夢がその人物に深々と頭を下げたので雛菊も同じ様に頭を下げた。

「お久し振りに御座います紫様。本日はお一人ですか?」

「ええ、藍と橙は連れてきてないわ」

 妖夢に笑顔を向ける紫。連れの二人が居ないのはお珍しいですねと妖夢も笑顔で返す。

 突然に現れて、幽々子の隣に座った紫をみた雛菊の第一印象はあまりいいものではなかった。

(なんか馴れ馴れしい女の人だ……幽々子様との距離が近いんですけど)

 幽々子ダイスキーな雛菊にとって二人の距離は近すぎると映ったのだろう。そこが面白くないのだ。
 雛菊が紫の印象を馴れ馴れしいと思うや否や彼女はピシリと扇子を向けて言う。

「貴女、お名前は?」

 鋭く自分を射抜く視線に怖さを覚えた雛菊は、詰まり気味な声で答える。

「ニ風谷……雛菊……です」

「そうニ風谷……」

 扇子を開き考える素振りをする紫であるが隣の幽々子には『…だと思ったのにね』と小さい声が聞こえていた。

「貴女、紅茶を淹れてきなさい」

 雛菊に紅茶を淹れて来いと真面目顔で言う紫に対し、なんで私が淹れないといけないの? と抗議しようとした時に妖夢が思わず突っ込んだ。

「え? 紫様は玉露がお好みだったのでは?」
「違うわよ妖夢、紫の好みは純米大吟醸よ」

 紅茶を嗜む趣味なんてものは持ち合わせていない。あるとすれば酒だと断言する幽々子。

「いいから紅茶を淹れなさい、妖夢でもこの際構わないわ。紅茶がのみたいのよ。たっぷりと濃く作って来なさいね」

「分かりました淹れてきます。雛菊も来なさい」

 この方に振り回されるのは毎回の事だと諦めている妖夢は、紅茶を淹れる為に白玉楼へ雛菊を連れて入っていく。
 二人にいってらっしゃい〜と手を振る幽々子と紫。奥に下がり気配が完全になくなると二人は手を振るの同時にやめた。

「いやに紅茶に拘るわね? 何があったのよ紫」

「この間、異変があったのよ。異変そのものは霊夢が何とかしたけど、外の世界にまで紅い霧が染み出しちゃって。それの処理に追われていたわ」

 幸い人里までには行かなかったけどね、と紫は苦労談を話す。

「ふ〜ん。博麗の巫女ね」

 幽々子は紫に少しだけ挑発的な顔になった。

「それで紅茶を飲みたくなってうちに来たの?」

「ええ、そうよ」

 紫の迷いのない返事に胡散臭い物をひしひしと感じる幽々子の突っ込みが入る。

「嘘はいけないわね、伊達に長いこと貴女の友人をやってるわけじゃないわよ。あの子を見定めにきたのでしょ?」

 幽々子の言葉に口元がわずかに緩んだ紫であった。

「幽々子には嘘はつけないわね。その通りよ」

「もっと早く来ると思っていたんだけど、随分と遅かったじゃない?」

「いろいろあったのよ……異変とか睡眠とか漫画とかね」

「最後のはおかしいわ」

 紫の返事にフフッと笑う幽々子であるが紫は次の言葉を真面目に言った。

「私が知りたいのはあの子の能力よ。幽々子の事だもの、ろくに調べていないのでしょう?」

 閻魔である映姫が幻想郷の住人として認めたのだ。その部分は紫も否定はしない。
 だが雛菊は普通に幻想郷入りしたわけじゃない、幻想郷を守る紫にとってはイレギュラーな存在なのは確かだ。
 そんな存在の事を調べ、理解するのも彼女の役割といえよう。

「そうね、改まって調べるとかしていないわね、優しいお姉さんだもの」

「だから調べてあげるのよ、怖いお姉さんがね」

 幽々子と紫、二人だけの会話が庭で続いていく。






「えええええええええええええええええええええええええええええええええ!」

 白玉楼の土間では、雛菊が発した驚きの大声が盛大に響く。

「あ、あの馴れ馴れしい女の人が……幽々子様のご友人!?」

 雛菊の反応に、ああそうかと納得した妖夢は紫の事を教える。

「知らなくて当然ですね、貴女が来た頃から此方には来ていませんでしたから」
「それと、馴れ馴れしいと言うのは失礼ですよ雛菊、あの方は八雲紫様。妖怪の賢者と呼ばれる方なのですから」

 あのお方は幻想郷の維持に無くてはならない存在なのですよと教えられる雛菊。
 
「振り回す事がお好きな方ですが失礼の無いようにね。雛菊」

 失礼な事をすると隙間に送られてしまいますよ? と妖夢に笑われる。











「は〜美味しいわね。冥界の涼しい夏の気候に冷たい紅茶を飲むのも良いものね」

「檸檬と紅茶が合うなんて意外だったわ〜」
 
 紫と幽々子の感想である。

 妖夢と雛菊で紅茶を作ってる間に紫は隙間から氷とか檸檬等を取り出し全員に冷たい紅茶を振舞ったのだ。

(美味しい……でも、何か懐かしい感じもする)

 雛菊も檸檬紅茶を飲み美味しいと感じた、初めて飲む物なのになんだかノスタルジックな気分にもさせてくれる。
 妖夢も新しい発見という感じで目を丸くしていた。


「さて、話を元に戻しましょうか」

 扇子を閉じパチンッと音を鳴らして全員の注意を引く八雲紫。
 彼女の手には妖夢と雛菊の言い争いの元凶である物が握られている。

「これは簪に見えなくも無いけど、口琴(ムックリ)と言われるアイヌ民族の楽器よ」

 ムックリとは長さ15cm、幅2cmほどの竹の小片の真ん中に細長い舌状の切り込みがあり、両端にひもをつけたもの。
 口にあててひもを引っ張って振動させ、口腔に共鳴させて音を出す。

 音色は、口の広げぐあいと息の強さによってさまざまに変化し。おもに女性の娯楽として動物の鳴き声や自然の音を真似て即興演奏する。

「雛菊が口にもっていこうとしたのは、無意識にそれが分かっていたと言う事じゃないかしらね」

「あれ見たらそうするのがいいと思ったんです」

 紫が自分の気持ちを何故理解できているのか? 雛菊は彼女を計り知れないと思った。

「やり方までは理解していたのかしら?」

「いいえ、そこまでは……」

 紫の質問に口に挟むまでは解るがその先は考えてなかったと素直に告白する。

「では一つ、演じてみましょう」

 紫は姿勢をただし、ムックリを口にはさみ紐を引っ張り演奏を始める。

 口琴の発する音色はなんともシンプルな物だ。
 みょんみょんと聞こえるだけである。聞こえるだけであるのだが紫の口腔内で音が共鳴し同じみょんみょんなのに膨らみや変化がある。

「なんだかとても悲しい音色ね」

「寂しくもありますね、良い音だとは思いますけど」

 幽々子と妖夢のムックリに対する感想だ。

「…………」

 雛菊は感想を発せずに口琴の音色に聞き入ってる感じであった。

 みょんみょんみょん。

 みょんみょんみょん。

 雛菊にとってムックリの音色が魔法の呪文の様に聞こえ始めて来る。口琴の音だけが彼女の頭の中を駆け巡る。

(私は……どうしてまだ生きてるの? ここはどこ?)

 周りを見渡す雛菊の視界に妖夢が携えるふた振りの刀が目に留まる。

(エムシ……)

 雛菊の脳裏に映像が現れた。

 短い刀を自身の左手に持ち、ドレスを着た女に恐怖している自分が。
 女は自分に言った。

「おまえ、かなりの力を持っているのね、丁度いいわ。その力を使ってあげる」

「嫌だ、言いなりになんかならない! 私の前から、みんなの前から消えて、消えてよ!」

「無駄よ。もうお前は私の言いなりにしか動けない、さぁその刀で此処に居る全ての人間を皆殺しにしてきなさい」

 女の指から糸が放たれ自分はそれに操られてしまうのだ。

 みょんみょんみょん。

 みょんみょんみょん。



「うわああああああああああああああ!」

 紫の演奏が続く中で突然雛菊が頭を抱え吼えた。

「ウェンペクル……エムシ!」(悪者の刀)

 アイヌ語を叫んだ雛菊は、この中で唯一の帯刀者である妖夢に向かって襲いかかったのだ。

「雛菊?! やめなさい!」

 幽々子の声も今の雛菊には届いていない。
 襲いかかられた妖夢であるが流石に西行寺家剣術指南役。すぐに避け間合いを取った。

「どうしたのですか?! 雛菊!」

 雛菊の瞳には光が無く虚ろ、ふぅふぅと興奮状態のままで妖夢に体を向け構えを取った。

「構えた?」

 雛菊に武術の稽古をつけた事がある妖夢ではあるが、初めて見る隙の無い構えに疑問系での言葉を発したのである。
 その時である、雛菊の両方の拳が青白く光を纏ったのである。

「妖夢! 全力で受けきりなさい!」

 あの光は危ない。そう感じた紫と幽々子が同時に言った。

 楼観剣を引き抜き妖夢も戦闘体勢へと移る。雛菊は全速力で妖夢に襲いかかってきた。

「ウェンペクル……コロス!」

 構えを取った雛菊から連続で繰り出される拳打は修行した者が放つソレである、今までの彼女ではない動き。
 妖夢の急所を的確に狙ってくるのだ。だが素直に急所を狙ってくる拳打を妖夢は造作もなく受け流していく。

(素直な拳打。捌くの容易だが、このまま張り付かれたら厄介だ)

 妖夢は楼観剣で雛菊の拳打を受け流しながら空中に飛び上がる。雛菊も追いかける為に飛び上がった。

「やるわね妖夢、地上では不利とみて空中戦に誘い出したわ」

 ムックリの演奏を止め少女達の戦いを見つめる八雲紫。だが幽々子は気が気ではない。

「紫、二人にもしもの事があったら。私は貴女を許せなくなるわよ?」

 幽々子の怒気を込めた物言いもなんのその。紫は平然と答える。

「そんな事にはならないわ、妖夢が勝って雛菊の能力がはっきりするだけよ」


 雛菊は妖夢を執拗に追い回す。
 だが空中移動に関しては日が浅い雛菊。空中戦に慣れている妖夢を追いきれるものではない。

「ああああああああああああああ!」

 その場にとどまり左拳と両足に霊力を込めはじめた。

(なにかを仕掛けるつもりか? 幽々子様よろしいですね?)

 雛菊の変化を見逃さない妖夢は一瞬幽々子の方に視線を向ける。幽々子は小さく縦に首を振った。
 幽々子の膝の上に乗っていたコロが飛び上がったのはその時だった。

 妖夢の動きを瞳で追いながら機会を伺う雛菊。

「いいでしょう雛菊、かかってきなさい!」

 妖夢は空中で静止、楼観剣を左手で構えた。

「……ぉに…の拳」

 小さく雛菊がつぶやき彼女が技を使った。タックルとでも言うかのような物凄い速さの突進から繰り出す拳打である。
 並の武闘家ならば突進そのものだけで吹き飛ばされるであろう。地上のように足が踏ん張れるなら相当な速度と破壊力を出す。

 だがここは空中だ、雛菊の突進速度も僅かに下がる。
 わずかな速度の低下を見逃すほど魂魄妖夢は甘くは無かった。

 雛菊の拳打に合わせ腰に帯刀していたニ本目の刀を引き抜いた。

 抜刀術を使った引き抜きにより雛菊の突進速度に負けない速度を生み出す白楼剣。
 引き抜かれた白楼剣は雛菊の利き手である左拳を狙う。

 バチッと派手な音と霊力のぶつかりによる光が白玉楼の空に発生する。
 状況を確認した幽々子と紫は立ちがり雛菊の姿に釘付けになった。

「なんですって?!」

 雛菊は左手で白楼剣の柄を掴んでいた。そして右手に霊力が込められ始めている。

「左は囮だったていうの?!」

 妖夢は白楼剣で彼女の左拳に込められた霊力を断ち、霊力不足からの昏倒を狙ったのだ。
 幽々子に使用許可を取ったのもこの為である。

 だが左手に込められているのは白楼剣を掴む為の最小限の量であった。

(まずい、このままだと本当に雛菊を楼観剣で斬ることになる)

 雛菊の右手には左の時よりも密度の高い霊力が込められ、妖夢の体を打ち抜かんとしている。

「うああああああああああああああああああああ!」

 雛菊が叫び声を上げ、妖夢に右拳での攻撃を仕掛ける直前だった。
 妖夢の視界を自分の黒い体で遮ったコロ。

「ギャッギャッギャ!!!」

 コロの鳴き声と共に雛菊の目の前は光で一杯になった。

 松明の光を使った目くらまし。ペンタチコロオヤシの能力をコロが妖夢を守る為に使ったということか。

「コロ、よくやりました!」

 コロの体で光を見なかった妖夢は光で目がくらんだ雛菊に楼観剣の柄をみぞおちに当て気を失わさせた。
 落下する雛菊を受け止める妖夢、彼女の白い頭に乗っかるコロ。

 何とかなった事で幽々子はホッと胸を撫でおろした。紫は妖夢に背負わされ降りてくる雛菊を真剣な目で見つめたいた。

 雛菊の付き添いに妖夢は席を外し幽々子と紫だけの会話が再び始まる。

「あの子の能力は拳を操る程度の能力ね」

「そのまんまじゃない、こぶしを使う能力なんでしょ?」

「そういう事にしておくわ……」

 紫の含みのある言い回しは何時もの事だが、表情が真剣なだけに幽々子は疑問に思った。

「まだなにかあるの〜?」

「幽々子、これは他言無用にお願いするわ」

 紫は白玉楼に来なかった訳を幽々子に話し始める。

「さっき異変があったと話したわよね」

「ええ、博麗の巫女が解決したのよね? でもそれは最近の事でしょ、関係があるのかしら?」

「おおありよ、外の世界に染み出した霧の処理に追われていたと言ったでしょ」

 紫の言いたいことは外の世界。そう感じた幽々子はそれで? と聞く姿勢を取る。

 紫は外の世界ともパイプを持っている。幻想郷を守るためには、外の世界に住む者に協力を要請しないといけないこともあるのだろう。
 紫の協力者一族から行方不明者が出たのである。八歳になる男の子と女の子一人ずつ。
 協力者一族は彼女に二名の捜索を依頼したのである。それが四年前。

「二人の足取りを追ったのだけど、ある場所からパッタリと消えていてね私の能力でも追いきれなかった」

 搜索にかなりの時間を有したこと、そして消えた場所というのが北海道の神威山と言われてる場所だった。

「その場所にはね小さなお墓があったのよ、雛菊と彫り込まれていたわ」

 もっとも小さな岩を墓がわりにしていて埋まっていた物が地表に出ていたけどと紫は続ける。

「じゃあ雛菊は死んでいたということ?」

 埋まっていたものつまりは遺体ということか? 幽々子の判断はこんな所か。

「遺体は無かったわ、代わりにこれが埋まっていたのよ」

 コトリと畳の上に置き、紫は幽々子にそれを見せる。

「これは……緋々色金の手甲? 凄いわね」

 緋々色金。オリハルコンとも言われている金属である。
 左には蝶を右には龍の意匠が彫り込まれ美術品としてもかなりの品物と取れる。
 だが幽々子の言った凄いというのは別のところにあった。

 手甲に秘められている霊力の高さを見て凄いと言ったのだ。

 普通の者には分からないだろうが、紫や幽々子程の者にならはっきりと感じ取れるオーラを発生していた。

 雛菊の冥界への出現時期、アイヌの神が彼女に呼び出された経緯、そして外の世界での墓。
 紫はこの合致している符号からこの手甲は彼女が持つべき物という答えを導き出していた。

「幽々子、貴女にお願いするわ。時期をみてこれを雛菊に与えて欲しいのよ」

 だが手甲に秘められている霊力は高い。能力が判明したとはいえ今のままでは扱えないだろうというのもあった。

「幽々子からならあの子も、素直に受け取るでしょう?」

 紫は笑っていたが何か物悲しさを感じさせる笑い方をしていた。







 八雲紫が白玉楼を後にした数刻後。雛菊は目を覚ました。

 まず映ったのが見覚えのある天井の模様。顔を左右に動かすと見知った青緑の服装の少女の背中が見えた。

「妖夢姉ぇ?」

「雛菊、気がついたのですね」

 雛菊に与えられた白玉楼の和室。
 辺はすっかりと夜の闇に包まれており、部屋には行灯の明かりが灯されている。

 寝姿着に着替えさせられ布団に寝かされていた雛菊は上体だけを起こした。

「よかった。寝ている間にもうなされてましたし、体は大丈夫ですか?」

 雛菊は体の感覚が戻ってくると寝汗をびっしょりかいているのがわかった。

「うん、汗かいてる以外は大丈夫……」

「そう、じゃあ汗を拭き取りましょう」

 上半身を脱ぎ、妖夢に体の汗を拭き取ってもらいながら雛菊は彼女に謝まりの言葉を言う。

「妖夢姉ぇ、ごめんなさい」

「何に対してのごめんなさいですか?」

 雛菊が謝るという行為。
 悪いことをしたら謝るという事を教えていた妖夢であるが今の雛菊に悪さをした経緯はない。

「迷惑かけちゃったから……妖夢姉ぇ殺そうとしちゃったから……それは、悪い事だから」

 雛菊の体を拭く手を止めた妖夢。

「貴女、昼間の事覚えているの?」

「うん、私の事も思い出した…の」

「幽々子様を呼んでくるわ、話はそれからでいい?」

 妖夢の問いかけにコクンと頷く雛菊。

 幽々子を交え三人となった雛菊の部屋で彼女が喋りだしたのは外の世界での自分の事。
 
 紫の話した内容と一致する。唯一違うとすれば。

「私はやっぱり死んでいたの! ドレスの女に操られて、おじじ様達もこの手で殺して……辛くなって海に身を投げたの……」

 雛菊は自らの意思で命を絶ったという事実だった。

 自分自身を殺めるという行為は罪の中でも重い、本来なら地獄行き確定の重さである。
 妖夢から冥界の事も教えられた雛菊だ。これを告白したらきっと自分は地獄に連れて行かれる。
 今までの事も否定されるだろう。

 でも、妖夢と戦い。好きな人達を傷付ける位ならその方がマシ、そう思ったのだ。

 目の前ですすり泣く少女の告白。幽々子は優しく、だけど力一杯に抱きしめる。

「辛かったよね? 苦しかったよね。操られていたとはいえ大好きな人達を自分の手で殺めたなんて」

 抱きしめる幽々子の腕を雛菊は両手でギュッと掴む。

「此処は冥界。そんな辛く苦しい事を経験した魂がやすらぐ場所よ。雛菊は辛い経験をした分ここで幸せに暮らすの、私と妖夢と三人で」

 だが幽々子の言葉は雛菊を否定しなかった、むしろ受け入れる言葉だった。

「ゆゆござま〜」

 幽々子が自分を受け入れてくれた事。嬉しくて顔を涙でグシャグシャにして泣きまくる雛菊。

 彼女が白玉楼に訪れたばかりの頃。
 泣くと頭を撫でてやると泣き止んだ、知っている幽々子と妖夢は雛菊の頭を撫で続けるのだった。

 白玉楼の屋根の上。コロは冥界の空が白んで来るのを見つめていた。



 ――東方神威譚 三話 思い出すお話――












あとがき

南です。ここまで読んで下さり有難う御座います。

当初、冥界組と閻魔様しか出ませんと書きながら、やってしまいました。
紫様の登場で御座います。

今回の話でバレましたが、メイン舞台の時間軸は紅霧異変の後話になっています。
公式設定では霧は外の世界に染み出ていませんが神威譚では染み出たということで話を作っています。

では次回でお会いいたしましょう。



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