*この作品を読まれる前に 東方二次設定を流用している為、原作キャラ崩壊の危険性が御座います。尚素材引用でFFネタが出てくる事もあります。 話の都合状、冥界組と閻魔様くらいしかでてきません。 それでも読んで下さると幸いです。 薄暗い闇の中で物の怪達が舞を踊る。 讃えよ、讃えよ、我らが主。其は破壊と飽食、自由と享楽の皇なり。 今こそ、現に魂降り賜いて、失われし御代我等に再び与え給へ。 されば、我等怨魂のものども。草陰の妖魅に至るまで、ことこどく皇に永遠の忠誠を誓わん。 先の詩を口に出し舞に狂う物の怪達に一人の男が闇の中から現れた。 緑と白の武士服を着込み、体の周りに白い魂魄を漂わせた老人。 「冥界は心静かに過ごす所ぞ、その様な狂舞を踊る場所ではない」 舞に心奪われた物の怪達は老人の姿を確認すると次々に声を出し始める。 「人だ、この様な所に人の子がおる」 「丁度良い、主様への供物としよう」 狂舞を行いながら物の怪達は老人にとりつき殺そうと彼の周りを取り囲んだ。 血と。肉と。湯気溢れる腑と…… 美しき悲鳴に彩られし、数多の供物を御身が御前に山と饗して御覧に入れましょうほどに…… 次々に詩の続きを口ずさみ、老人を取り囲む数が増えていく。 老人はそれでも冷静だった。 「ほう、ワシを殺すか? 面白い事をいう」 老人は腰に差した二振りの刀に手をかけて引き抜いた。同時に数体の物の怪が切断された。 「西行寺家剣術指南役、魂魄妖忌。冥界を騒がす輩どもを成敗してくれる。ワシに斬れぬモノなど無いぞ?」 妖忌一人に数え切れない物の怪達が襲いかかって来るが引き抜いた二振りの刀を使い流水の流れに乗る様に物の怪達を斬ってゆく。 やがて、このままではきりが無いと踏んだ彼は、刀を構え向かえ打つ体勢になった。 刀には彼の霊気が込められ青白く輝きを放つ。 魂魄妖忌の背中に桜の花びらが舞い彼は突進を開始する。 彼の通った後には桜花乱舞という言葉が似合う程に花が舞い上がる。 縦横無尽という言葉がある。 その名の通り一筋の青白い光になった妖忌は、螺旋状の斬撃を幾度も放ち物の怪達を斬って斬って斬りまくる。 時間にしておよそ30秒それは続き、魂魄妖忌は二振りの刀を振り上げた状態で止まった。 「奥義 西行春風斬」 技の名前を彼が口にすると周囲に群がっていた物の怪達が断末魔の声をあげ消滅した。 「ここで我等を滅しても、主様がいずれこの冥界に顕現し蛍丸にて制するであろう……うぎゃあああああああああああ!」 物の怪を滅し刀を収めた彼の表情には陰りがあった。 (蛍丸と言ったなあやつら……) この数日後、庭師を孫の妖夢に継がせ魂魄妖忌は幽居したのであった。 白玉楼。枯山水が見事な庭園と数多の桜を所有する冥界の管理者である西行寺家の建物をそう呼ぶ。 主は西行寺幽々子、見た目は成人前の娘に見えるが千年は存在している亡霊であり幻想郷では彼女を亡霊姫と呼ぶのだ。 「妖夢どこ〜?」 幽々子の声が白玉楼に響く。本日の勤めを終わらせ仕事明けの食事を楽しもうと彼女は身の回りの世話をしてくれる少女の名を呼んでいた。 長い廊下を歩き、魂魄妖夢をさがす幽々子であるが突き当たりの角からちょこんと頭をだしている子供を見つけた。 幽々子をみる子供の瞳は不安という表情だった。 (あれは?) 幽々子が少女を見つけ、おいでおいでをすると少女は幽々子から逃げる様にサッと壁に隠れてしまった。 「あらあら〜 でも何処の子かしら?」 「管理人。西行寺はいますか?」 少女の隠れた壁から別の少女が現れた。彼女の姿をみた幽々子の顔が少し引きつった様にみれる。 それもそのはず少女はあの四季・映姫なのであった。 四季・映姫ヤマザナドゥは幻想郷担当の死者を裁く神。つまりは閻魔様である。 彼女の仕事内容は、己の中に善悪の基準を持ち、迷うことが絶対に無いよう『白黒はっきりつける程度の能力』も使って判決を下す。 彼女の能力をつかって一度下された判決は覆すことは不可能だ。 「しかし、これは……」 映姫は目の前で判決をまつ死者に白黒はっきりつけられずに困惑していた。 浄玻璃の鏡を使っても目の前にいる者の生きた記録が映し出されてこないのだ。 映姫が判決台から見下ろすと少女の姿をしている者がいる。 大人用のシャツ一枚だけを身に付けているが所どころ裂けており。手には何かの卵を大事そうに抱えている。 映姫の持つ閻魔帳には少女の名前なのであろうか『雛菊』と言う文字だけが書かれていた。 映姫にとって此れは初めての体験でもある。白黒はっきりと付けるための判断材料がない、善行をつませる事もできない。 「困りましたね。この子は死者ではあるが生前の記録が鏡に映らないと言う事は死んで居ないという事になる」 もう一度雛菊を見る四季映姫。 少女は黒く長い髪を持ち虚ろな瞳で手にもつ卵を見つめ続けていた。 「生まれる……」 言葉を今まで発さなかった雛菊がぽつりと言うと、卵に亀裂が生じ中からワタリガラスの雛が誕生したのだった。 (命が誕生した? 死者の集まるこの世界で……) あの世と言われるこの場でこの世でしか起きる事が無い命の誕生。 常識が通用しないと言われる幻想郷ではあるが、この世とあの世の境界というものにまで非常識ではない。 あの世で命が誕生すると言う事はない。それは転生という形でこの世に魂が戻るという事と同じなのだから。 だが生まれたワタリガラスの雛は物の怪であった。 「……管理者に預けて様子を見た方がいいかもしれませんね」 四季映姫・ヤマザナドゥ。彼女は雛菊を冥界送りにする判断を下す事にした。 冥界を管理する西行寺家は閻魔様と言われる映姫の命令に従うしかない、会社でいう上司部下の関係といった方がいいだろう。 四季映姫から西行寺幽々子が管理する冥界に雛菊が送られた所からこの話は始まる。 ――東方神威譚―― 冥界にも四季と言うものは存在する。 ただ生者という存在が認められない世界だ。この世とは趣が違う。全体的にひっそりと静かに季節は移り変わる。 冥界は夏を向かえているが蝉等の鳴き声などはいっさい聞こえない。 白玉楼の庭では白髪の少女と黒髪の少女が何か言い合いをしている様だ。 白髪の少女。 この白玉楼の庭師であり名を魂魄妖夢という、見かけは十代の少女であるが実年齢はもっと上だろう。彼女の周りには魂魄妖忌と同じ白い魂魄が存在している。 黒髪の少女。 数年前に四季・映姫によりこの白玉楼に連れてこられた雛菊である。歳は今年で十二になる。彼女の周りにも形状は違えど妖夢と似たような魂魄が在った。 冥界に連れてこられたのが八つの時である。あれから四年の歳月が流れたと言う事になる。 「いい加減に認めなさい雛菊! 私の部屋にある机の中身を弄ったのは貴女ですよね?」 「だから違いますよ! 妖夢姉の勘違いです! そもそもアレは私の……ハッ!」 「私は机の中身を弄くったとしか言ってません、アレと分かると言う事はやはり貴女がやったのですね!」 妖夢の楼観剣の攻撃をかわしながら思わず口がすべった様だ。 少女二人の言い争いを笑顔で見つめる人物。白玉楼の主である西行寺幽々子。 彼女の膝の上には雛菊がこの冥界に来た時に持っていた卵から生まれたワタリガラスが大人しくしていた。 幽々子に喉を撫でられると気持ちよさそうにククッと鳴く。 「あれから四年か……雛菊もすっかり白玉楼に慣れたわね〜」 幽々子の言葉を理解しているのか? ワタリガラスが彼女の顔を見つめる。 幽々子の瞳には二人の少女が映っているが心は此処にあらずという感じである。雛菊を預かった当時の事を思い出しているのであろう。 「ペンタチコロオヤシですか?」 「ええ、間違いないと思います」 白玉楼の広間にて正座をした二人。幽々子と映姫の会話である。 雛菊の持っていた卵から孵化した妖怪の名前である。 「いまではめったに見られない妖怪ですがアイヌ妖怪の一種ですね」 浄玻璃の鏡をつかいペンタチコロオヤシの特性を述べていく映姫。 夜中に道を歩いていると突然まわりが明るくなってまるで昼のよう。 フシギなこともあるのだと思っていたら、実はこのペンタチコロオヤシのしわざなのだ。 ペンタチコロオヤシはたいまつを持って人間にイタズラする妖怪。やっぱり、夜は夜。暗くならないと眠る事もできない。 「まぁ大した事は出来ない妖怪ですが、成長するとフリーというアイヌの大妖に変化します」 「フリーというと?」 アイヌ単語に詳しく無い幽々子の質問に映姫が答える。 フリーとは。翼ひとつが七里もあり、人や獣はもとより鯨ですらわしづかみにしてしまう大変美しい羽をしている巨鳥。 土地によってシュリ、ヒウリ、フレウなどとも呼ばれる。 映姫の言ってる事に理解が出来ない幽々子。 いや正確には言ってる事は理解できる。 なぜその様な鳥妖怪を連れた幼子を此処に連れてきたのか? その真意を測りかねてると言った所か。 「問題なのはフリーの性質です。本来ならアイヌ巫女の祈りを糧に里を守護する事を目的としているいわば守護妖獣」 ここで映姫は雛菊の事を話す。 「あの子にはアイヌ巫女としての能力を感じません、なぜ死んだのかも分かって居ないのです」 「そんな子がなぜペンタチコロオヤシの卵を持っていたのかも謎です」 幽々子は扇子を取り出し口元に持って行き少し考える。 「つまり、それが分かるまで。いいえ……分かるようにする為に此処で生活させて見るということですか?」 いつもポヤポヤしてる西行寺幽々子ではあるが、こういう場面ではキリッとし締める所も見せる。 「流石冥界の管理者ですね、そこまで分かるのであれば引き受けてくれませんか?」 四季映姫は上司に当たる、流石にいやですとは言えない。だが仕事として依頼されているのだ。幽々子も当然な物を要求する。 「お願いに近い命令ですね、報酬はあるのですよね?」 「そうですね……彼女の事が分かるたびに大福3か月分」 「引き受けましょう!」 即答で返事をした幽々子であった。 正直なところ霊と妖夢だけの暮らしにもすこし飽きていた所である、新しい住人が増えるのは喜ばしい事でもある。 とりあえず妖夢に雛菊の着替えを頼み。彼女の連れていたペンタチコロオヤシを見つめる幽々子。 雛鳥の姿をしたペンタチコロオヤシは亡霊姫の手に乗せられ彼女の顔を見つめている。 「ペンタチコロオヤシなんてながったらしいわよね〜 コロちゃんでいいわよね〜」 ニコッリと雛鳥に笑いかけた幽々子にピーピー言いながら喜ぶワタリガラスであった。 映姫が白玉楼を後にして一時間過ぎた頃。 「幽々子様、着替えが終わりました」 従者である魂魄妖夢の声がしたのもこの時だった。 「はいはい〜」 幽々子が返事をすると襖が開かれ妖夢と雛菊が姿を現す。 「私が小さい時に使っていた物ですが丁度良い寸法でしたので、とりあえずはこれでよろしいでしょうか?」 雛菊が着ているのは妖夢が小さい時に着ていた白いシャツに青緑色のベストとスカート。 いま妖夢が着てるものを小さくしただけであるが。 髪色が黒い雛菊が着るとちょっと違和感があったりする。それに雛菊は髪が長い。 腰まである髪がまだボサボサのままであった。 「ちょっと似合わないわね〜 それに女の子が髪の毛をボサボサにしたままっていうのもね〜」 幽々子は雛菊にこっちにおいでと手招きし姿身の所に座らせた。 ワタリガラスの妖怪でありコロちゃんと命名された雛鳥は雛菊の頭の上にピョンと乗った。 まるで雛菊の頭の上が巣だと主張しているようである。 フフッと笑みをこぼしながら、幽々子は彼女の髪の毛に櫛を入れて行く。 ゆったり目の三つ編み。肩口まではストレートにしてその先をセンスよく三つ編みにした幽々子であった。 「お菊ちゃんはこの方が可愛いかしらね?」 「そうですね、それならこのリボンなんかどうです?」 妖夢が白いリボンを二つ幽々子に手渡した。 「あら妖夢気が利くわね、いいお姉さんになれそうじゃない?」 「貴女に似合う服が見つかるまではその姿で居て頂戴ね〜」 幽々子が三つ編みとロングの分け目にそのリボンを巻いた。 姿身で自分を見つめる雛菊はこれが自分なのか? と見つめていた。 鏡には自分の周りに小さい魂魄がニつほど浮かんでいた。 自分の髪を手入れしてくれてる女性には三つ、後ろに控えた妖夢には大きな魂魄が一つ在った。 幼い子が自分にも在るモノを持つ二人に対し警戒心を解くのに時間は掛からないであろう。 「ありがとう……ございます姫様」 雛菊が初めて二人に向けて喋ったのが今の言葉であった。 「幽々子よ、それとこっちは妖夢。これから一緒に暮らすのよ? 姫様なんて堅苦しいのは駄目よ〜」 雛菊に微笑む亡霊姫はアイヌの事を調べて見ないといけないなと思っていた。 ――東方神威譚 第一話 はじまりのお話―― あとがき 南です、東方SSを書き初めて見ました。 タイトルの神威ですがカムイと読みます。 南版東方SS。楽しんでくれたら幸いです。 |
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