少し時間を巻き戻そう、なのはとフェイトが飛鳥速人と出会う数日前の時間に。

      
新暦66年6月下旬夜。海鳴市、中丘町。

音速ジェット戦闘機のソニックムーブ音が中丘町の一戸建て家屋に向かって行く。
音を伴った七色の発光体が、ヴォルケンリッター参謀の作り出した結界にぶち当たり、落雷を思わせる様な音を響かせる。
光はその結果を突き破り、敷地内に落下したために八神家の庭でド派手な音がした。花火大会で打ち上げられる三尺玉が炸裂する時くらいの音と言えば想像にたやすいであろう。


「なんや! 今の音は?」


 八神はやて。時空管理局地上部隊特別捜査官補佐は、音のあった方向に急いだ、そこは庭だった。

 何かが落下したところは七色の光が発光している。派手な音の割には庭にさしたる被害は無い、他の家族も集まってくる。

「どうしたのです! 今の音は何ですか!」

 リビングでくつろいでいた、シグナムが一番乗りで来る。

「何だよ? 今のギガ迷惑な音は〜」

 寝巻き姿のヴィータが眠そうな目を擦り、片腕に枕を抱え、シグナムの後に続き不満をもらす。

「ご近所に迷惑ですよね?」

 シャマルが洗い物の途中なのか、手にタオルを持ちながら、リビングの窓を開けて出て来た。

 ザフィーラが同じく犬形態でシャマルに続くのだが

「……」何もいわない。

 家族全員が庭に出ると、そこには一人の女性が倒れていた。長い髪黒い色のボディスーツとミニスカートをつけていた。


「うっ」

 女性は意識があるようだ、全員はその姿を見て驚くそして叫んだ。

「リィンフォース!」

 五人の叫び声が中丘町一帯にけたたましく響いた。この夜一番のご近所に迷惑な声だった。
 右腕を伸ばし倒れている女性はリィンフォースにそっくりである。

「どうするんだ? はやて……そのリィンに……似たこいつ」

 ヴィータが半年前に別れた仲間のことを想ってか少し言葉を詰まらせていた。

 はやてはひとまず介抱することに決め家族に指示をだす。

「ザフィーラ、客間にはこんでやり、シャマル、治療の準備や」

 はやてはシグナムとヴィータの方に向き真剣な眼差しで二人を見る。ゴクリとベルカの守護騎士二人は固唾を飲み込んだ。
 一拍置いてはやての指示が飛ぶかと思うと八神はやては頬に右指をあてて彼女達から視線をずらし口を開いた。

「シグナムとヴィータは……やることないなぁ?」

 二人はきれいにずっこけた。






 シャマルを除く全員はリビングで彼女を待っていた。暫らくしてシャマルがリビングにやってくる。

「どうやったシャマル?」

 はやてが容態の確認をとる。

「命に別状はないみたいです……ただ」

 シャマルの歯切れの悪い口調に全員が疑問譜を浮かべる。

「彼女、私たちと同じようなんです……」

 同じ? どういうことだ?

「守護騎士プログラムの様なんです」

「なにーーーーーーーーーー!!」

 シャマルの心配する、ご近所に一番迷惑な声。その第二声が夜の中丘町に鳴り響いた。











 目の前に青く大きな狼がいる。背後には光が輝き存在感と威厳をほしいままにしている、唯の狼ではない、ある世界を代表とする神。神狼フェンリル。

【自分】に向けて威厳ある声を心に直接投げかけてくる。

「そなたは我と契約をして何を望む?」

 魔力と生まれ出る命の元に…… そう答える、私の目的はそれしかない。

「人でない者よ、望みを叶えたら、命果てるまで我の僕(しもべ)として使役する事を誓ってもらうぞ、それでも契約を望むのか?」

 元々守護するのが私の目的、それさえかなえば本望。

「ならば、そなたの望み聞き入れよう、そなたはカレン、カレンと名乗れ」

 私はカレン、目の前に光が迫るそして飲み込まれる。

 目を開けると誰かいる、生まれ出る命の元に移されたのか?

 同士のミルズを探さないと、ミルズ、ミルズはどこです? でも体が非常に重い、意識もつづかない……













 すずめのさえずりが朝の到来を知らせる。

 畳の六畳和室の部屋にリィンフォースによく似た女性は柔らかい羽毛布団をかけられ寝かされていた。

 シャマルは昨日庭に降ってきた女性の所にいた、治療のためにクラールヴィントで彼女の体を調べて判ったこと。それは自分達と同じ守護騎士プログラムという愛機の答えだった。

 長い時を生きてきた彼女だったがこんなことは初めてだった、しかもリィンフォースにそっくりなのだ。

「うっ」

 女性が意識を取り戻す、目を開けた瞳の色は青かった、夜見たときは赤かったはずだが、今は瑣末な問題であろう、シャマルは彼女に声をかける

「気がつきましたか?」

 その日、はやては学校を休み昨日の女性と話をしていた。

 他の家族も今日は家にいる、リビングで昨日の状況を説明し、ここが海鳴という場所であるということ目の前の女性に伝える。

「あの、助けて頂いてありがとうございます、私はカレンといいます」

 女性はカレンという名だった。

「吃驚したで〜突然庭にふってくるんやからな〜」

 はやては昨夜の感想を素直に目の前のリィンフォースに酷似している女性に述べた。カレンは、すいません、と謝る。

「カレンさん言うんか、私は八神はやてです、そして、こっちが」

 隣に座るシグナムを指差すはやてに同調するように声をだす烈火の将。

「シグナムだ」

 シグナムがソファに座りながら、やや威厳のある声を出す。続いて、シグナムとは逆位置に座るはやての隣にいた赤髪の少女が、少しブスッとした態度で名前を言う。

「ヴィータ……」

 ソファの後ろに立つシャマルは、ヴィータの方をみてしょうがないわね、というような困り笑いをしながらカレンの方に視線を向け。

「私はシャマルです」

 丁寧な言い方で自己紹介をするシャマル。四人からやや離れた、リビングの壁に背中を預け両腕を組んだザフィーラ、人形態で短く言った。

「ザフィーラだ」

 カレンはヴォルケンリッターの自己紹介をうけると少し驚いていたが、はやてが直ぐに質問攻めに入った。

「それでカレンさんな? どうして家の庭にふってきたのかいってくれへんか?」

 もっともだその理由は知りたい。カレンは言う。

「私は、生まれ出る命とミルズを追ってエルヌアークから来ました」

 カレンの説明が始まる。元々違う世界でアイリスという王女に仕えていたのだが、その世界が崩壊する位の戦乱がおきた。
 仲間ともちりじりになりアイリスが最後の力を使い、生まれ出る命を違う世界にとばした事。
 自分はアイリスの願いで、その生まれ出る命を守護するためにエルヌアークを離れたこと。

 同じく、守護する同志であるミルズと共にそれを探していたが、その最中に魔力が低下し、ヴァナディールという世界に落ちた。
 魔力を取り戻すためミルズと共にそこの神狼であるフェンリルと契約をしたがその際にミルズとはぐれ、この地に降り立ったことを。

 カレンの話を聞いた八神家の全員は黙り込む。
 時間にして約5分間、リビングに掛けられた壁時計の秒針の音だけが鳴る空間。

 沈黙が耐えられないカレンが聞く。

「私の話信じていただけますか?」

 はやてはずっと話をカレンの瞳を見て聞いていたが嘘をいってるようには見えなかった。

「信じるよ……でもな? あとひとつ聞かせてほしい」

 なんでしょう? と言う感じのカレンのリアクションがあり。

「あんたいったい何者や? 人間ではないようやけど?」

 シャマルから聞かされていた守護騎士らしいという素性を本人の口から言わせようとする夜天の主は、何か別の考えがある様で、先の質問をしたようだ。
 カレンは瞳を見開くが目の前の少女にはなぜか嘘はつけないきがして正直に答える。

「私は……エルヌアークで作られた守護騎士プログラムです、そこの四人の方と同じの……」 

 カレンが正直に答えたのではやては一人納得した。
 自分の家族も守護騎士プログラムである、もっともはやてにとってはかけがえの無い家族でもあるのだ。
 家族と同じ境遇の守護騎士プログラム、自分が面倒見てやらないで誰がするのか? 彼女の考えはこんな所であろう。そして納得してからの行動が早かった。

 はやては、この世界に来たばかりで右も左もわからないカレンを八神家で迎え入れることにしカレンを有無を言わさず家族にしてしまった。
 他の四人もリィンフォースにそっくりな彼女に文句は言わなかった。

「これからは、ここがアンタの家やで? カレン」

 カレンは押しの強い少女に面食らったがはやての好意に感謝した。

「みなさん、よろしくお願いします」

 青い瞳を持つリィンフォースにそっくりな女性。カレンはこうして八神家の一員となったのである。









「カレン! きったねえぜ!」


 新しい家族となった守護騎士にこの様な暴言を吐いたのは鉄槌の騎士ヴィータ。
 二人は現在八神家リビングに於いて同一方向に向いて座り。ある物を手に持ちTV画面に向かって真剣な表情を作り、手に持ったある物を必死に弄くっている。

 先ほどの暴言もカレン本人に向けて言ったのではなくTV画面に向けて言ったのもであった。

 そう、二人が現在しているのは世間一般で言うところのテレビゲームというものである。
 彼女達が行っているものは俗に言う格闘対戦物。コマンド操作を行うと技が出るタイプのやつである。

「フフフ……ヴィータ、勝負に綺麗も汚いも無いのです……叫ぶ前に自分の腕の悪さを反省なさい?」

 先の暴言に対し冷静な口調ではあるが上から目線的な言葉を送ったカレン。

 彼女達の対戦内容を見てみよう。

 ヴィータはパワーがあるプロレス風な巨漢の男を自分のキャラとして使用。
 対してカレンはオーソドックスなタイプの男キャラを使用しての対戦。

 ヴィータの戦い方は小パンチを連打しながら得意技のスープレックスに持ち込む様な戦い方で、俗に言う吸い込みという技法を使っての対戦の仕方。

 カレンの方はその吸い込みを警戒し飛び道具で応戦。
 ヴィータの隙があればキャラのガード範囲をジャンプですり抜けガード範囲の来ない部分に攻撃を当てる。
 俗に言うマクリという技法を使い、更にそこから無敵技を使用するという極悪な事を行っていた。

 ヴィータが吼えるのも納得がいくであろう。

 既にこの対戦ゲームをニ時間ほどやってる彼女達であるが、ヴィータが勝ったのはカレンが慣れる一時間の間だけであり、それ以降の対戦はカレンの勝ち星がどんどん増えて行くのであった。


 カレンがこの八神家にお世話になるようになって一ヶ月が経とうとしている午後の出来事である。

 当初ヴィータは他のヴォルケン達とは違い、カレンにあまり良い反応は見せていなかったのである。
 カレンが自分と同じゲームに興味を持ったので仕方なく教えてやった。
 これが意外にも二人の仲を良くする原因となるとは、ヴィータ本人も思っていなかったであろう。

 今では先の暴言を言える位に仲が良くなっていた。

 TV画面からK.O.の文字と声が高らかに鳴り響きカレンの操作するキャラの勝利を宣言した。

「くそ〜! なんで勝てなくなった!」

 正座してコントローラーを握り締め、悔しがる鉄槌の騎士。
 激情形のヴィータにしては行儀が良い悔しがり方である。

「ヴィータは力押しすぎるんです、もっと小技を使わなければ……おや、もうこんな時間ですね、そろそろ夕飯の支度をしなければ」

 ゲームの決着をつけ、新しい家族であるカレンは夕飯の手伝いをしに台所方面に向かうためにその場を離れようとするとヴィータは彼女に向かって言った。

「カレン。夕食済んだら又勝負するぞ! 今度は負けねぇ!」

「返り討ちにしてあげます」

 カレンは勝ち負けに拘るヴィータに微笑み言い返した、言われたヴィータも笑顔をだしていた。
 こんな感じでカレンは八神家に馴染んでいくのだった。





 はやてがクロノの要請でエルヌアークの調査に出向くことになった夜の話である。とはいってもカレンがいた時代はもっと昔のことであるが。

「本当ですか? その話は!」

 新しく家族になったカレンは声を上げた、はやてがミルズの名前を出したからだ。夕飯の準備中であったが切り物を忘れてはやてに詰め寄るカレン。

「落ち着いてな? カレン、刃物もってつめよったら、あぶないやろ?」

 はやてがさかった馬を落ち着かせる様にカレンの両肩をたたく。

「私もはじめは驚いたがな」

 シグナムはカレンの右手にある包丁を手に取りまな板の上におきながら、先の会議の様子を思い出すように声を出す。

「そうですね」

 シャマルも食器の準備をしながら、シグナムと同じ感じで相槌を打つ。

「それでだ……気になることがあるカレン、七罪の番人、この言葉に心当たりは無いか?」

 シグナムは今日クロノが言っていたこの言葉に何かひっかかりを感じていた。

「あたしもだ、カレン、その……何ていうかうまく言えねーんだけどよ、なんかひっかかるんだ」

 ヴィータは出会った当初に比べてかなり親密になった家族に自分の考えを伝える。

 カレンは自分の記憶をたどるが七罪の番人の記憶は無かったので正直に答える。
 
「すいません、私にもわかりません」

 そうか、と落胆するシグナムとヴィータであるが、シャマルが別の考えを述べた。

「そうだわカレンさん、そのミルズさんでしたっけ? その方の特徴を教えていただけませんか?」

 シャマルが言う事はもっともだ、ここにいるメンバーは、はやてを指名したミルズ・ヒューディーという人物を知らないのだ。はやても頷き声を出す。


「そうやな、それは聞いといたほうがええね」

「そうですね……」

 カレンは説明を始める、名前はミルズ。銀髪の青い瞳をもち。身長は180Cm位でアダマンキュイラスというアーマードデバイスというものを使っている。別名ナイツオブブルーと呼ばれているはずだと。

「なんや? その……アーマードデバイスって?」

 はやてが聞く、ほかの四人も聞きなれないデバイス名に興味を持つとカレンが答えた。

「簡単に言うと、鎧です」










 はやてはミルズと出会った。でも目の前のミルズはどうみても少年だ、カレンの言う容姿ともかけ離れている。だが新しい家族の為だ、今は少しでも情報がほしい。

 もしかしたら、魔法で姿をかえているのかもしれない、ここは探りを入れるしかない。

「ミルズさんに聞きたいことがあります!」 

「何でしょう?」

「カレンという女性に心当たりないですか?」

 口に出した以上なんでもいいから掴んでみせる。はやてはそう想いミルズが変身魔法を使っていないか瞳に魔力をこめた。

「すいません、心当たりというか初めて聞きます」

 ミルズが申し訳なさそうにする、変身魔法の類も使ってないようだ、はやてはがっかりしたが、それはしかたのないことだ。

「すいませんいきなり変な事きいてしもて」

「構いませんよ、ですがなぜ私に?」

「実は……家で今暮らしてる家族にカレン言う子がおるんです」

 はやてはミルズにカレンが守護騎士プログラムということは伏せて説明する。

「その子がミルズと言う人を探してるんです」

 話を聞いたミルズは、現在の状況を考えた上で答えを出す。

「そうですか、私に力になれればいいのですが、今は作戦行動中ですし、また今度詳しく聞かせていただけませんか?」

「それはもうこっちからお願いしたいくらいです」

 はやては彼に頭を思い切り下げた。








 海鳴で、七罪の番人達となのは達が戦っている映像が映し出されている。クロノから連絡を受けてモニターを八神家に回してもらっていた。


 映像を見ているのは、はやて、シグナム、ザフィーラそしてカレン。丁度、フェイトとなのはのコンビネーションが映し出されている。

「ほう、うまいことテスタロッサが囮になったな」

 エンヴィーとの戦いでの傷がまだ回復していないシグナムが感心する。

「高町教導官補佐もいいタイミングで足止めをかけたな……」

 ザフィーラが犬形態で言う。此方も魔力の疲弊が激しく犬状態で回復中である。

「さすがやね二人とも……」

 はやては二人の連携のよさにおもわず口が開く。そしてミルズ少年とエンヴィーの対決の映像が出る、丁度技の掛け合いの所だ。

「あれは!」

 今まで映像を見ていなかったカレンが、ミルズの出した技。エヴィサレーションを見て声を出していた。


「どうしたんや? カレン?」


 お茶の準備をしていた彼女はミルズの技の部分の映像をみて、急いで出る準備をする。


「すいませんはやてさん! 私この少年の所に行きます!」


「どうしたんや?」

「あの少年。やっぱり私が探しているミルズなんです!」

 返事をしたカレンは部屋を飛び出す。

「ちゃんと帰ってくるんやで! カレン!」

 はやては彼女に戻ってくる場所はここや! と念を押す。
 カレンは振り向き頷いた。彼女の瞳はリィンフォースと同じ様に赤くなっていた。

 カレンがミルズ少年を連れて家に帰ってきたが意識の無いミルズをみてシャマルが慌てた。
 かなりの魔力疲弊状態であり魔力の供給をしないと危うい状態。それなのにシャマルの魔力回復魔法を受け付けないのだ。

 つれて帰って来た当人であるカレンは寝かせておけば勝手に回復します、と平然としていた。
 ミルズをひとまず休ませる。意識がないから寝かせておくしか方法が無かった。

(回復魔法を受け付けないなんて……こんな事ありえるの?)

 癒しと補助が本領のシャマルにとってこの状態はかなりショックな事柄であった。
 カレンとミルズには自分達では理解できない何か得体の知れないものを感じ取る湖の騎士だった。



 はやてとカレンそしてザフィーラはリビングで話をしていた。
 カレンが言っていたミルズの容姿とはかけ離れたこの少年を連れて帰った理由を聞くために。
 
 以前話した時は、ミルズ本人がカレンに心当たりが無いと言っていた。

「どういうことやカレン。このミルズさんが探してるミルズさんて? カレンがいうてた姿とえらいかけはなれとるよ?」

 そうであるミルズは少年なのだから、カレンの言ってた容姿は青年のはずである。
 犬形態のザフィーラもはやても、彼女の返事を待つようにジッと彼女の青い瞳を見つめる。

「さきほど……彼が使っていた技があるのですが、私の記憶とまったく同じ技なんです。あの技はミルズ(青年)が得意だった技で……彼にしか扱えません」

 確信をもった答えが返ってくると。

「さよか」

 はやてもそういうしかなかった、八神家の全員はミルズの目覚めを待つしか無かった。









 大きな狼、フェンリルが目の前にいる。

「そなたは我と契約をし何を望む?」

 私が望むもの、生まれ出る命を導く事だ、それとそれを守る力。

「志の高きものよ、望みを叶えたら命果てるまで我の僕として働いてもらうぞ? それでも望むか?」

 当然だ! 生まれ出る命はアイリス様の最後の希望なのだからな。

「お前の名前は……」

 私の名前はミルズだ、アイリス様より頂いた名を変えるつもりはない!

「ならばミルズよ、ミルズヒューディーと名乗るがよい、されば我の力も使えよう」

 私は……ミルズヒューディー生まれ出る命を導く者、光が私を包む、私の体が……そして世界を移される……。












 六畳の和室の布団の中でミルズが目を醒ますと、八神はやてがそこにいた、ミルズがいつ目を醒ましてもいいように、この和室にずっといたようだ、はやての瞳はちょっと赤い。

「気がつきはりました? ミルズさん」

 はやては自分の目をこすりながらも覚醒したばかりのミルズに声をかける。ミルズは自分の現状が理解できておらず、はやてに聞く。

「ここは?」

「私の家や、ミルズさん目ざめてすぐやけどあってもらいたい人がおる」

 はやてはそう言うと新しい家族、カレンを呼んだ。

「カレン入っていいで?」

 障子がスーっと開き、カレンが姿を現す、その容姿を確認したミルズは驚きながらも懐かしむように彼女に声をかけた。

「シーレン……君がカレンだったのか……」





「じゃあアレか? ミルズさんが心当たりがないいうたんは名前だけで、私が容姿を伝えておけばあの時ハッキリしたというわけか?」

 はやてはちょっと納得いかない口調で言う。ミルズは申し訳なさそうに答える。

「あの時は作戦行動中でしたし、話もままなりませんでしたから……」

「まぁええわ、私もちゃんと言わんかったしな……それにしても、そのフェンリルいうんはけったいな神様やね?」

 はやては混乱の原因に文句をいう。ミルズの記憶のカレンは正式守護騎士名をシーレンと言い、カレンがその名前をつかっていないのはフェンリルとの契約の際の戒めによるものである。

 魔力提供をうける代わりにフェンリルは名前の改変を行うとのことだった、ミルズはミルズ・ヒューディと言う名前に改変されていた。

「ですが……提供を受ける魔力は強大ですから」

 とはカレンの意見。

「月の満ち欠けにより提供魔力の差がでますがね……」

 少し不満気なミルズが言うには、月の満ち欠けによりフェンリルが提供する魔力に強弱が発生するとのこと。

 ミッドチルダの様に月が2つあるような世界なら大した誤差はないのだが、この97番世界のように1つしかないところでは如実に影響が出るとの事。

「私は新月で強く、カレンは満月で強くなるのですよ、反対に満月で弱くなるんですよ私はね……」と付け加えた。あの夜の戦いで彼が精彩を欠いた理由はこれだった。

 それとは別の疑問を投げかけたのはカレン、はやても相槌を打ち声をだす。

「ミルズあなたのその姿なのだけど、なぜ少年の姿で?」

「私も知りたいで?」 

 二人の疑問に答えるミルズは、顎に自分の右手を添えて少し考えをまとめてから答えた。

「それについては……」


 カレンと同じようにフェンリルと契約をしたミルズはファーストネーム改変を拒んだために姿を変えられる戒めも受けたと話した。

「はぁ〜? 何でもありやなフェンリルは」 

 はやてはもう神狼にただただ、呆れるばかりである、ミルズは苦笑するも頭の中では別の事を考えていた。

(今ここではこれでいい、時がくればあの人に……)

 呆れていたはやてであるが、それだけで済ますわけがない。この機会を有効に活用しようと今までの疑問を全て、目の前の広域特別捜査官より聞き出すことにする。

「ミルズさん、カレンからエルヌアークの事少しは聞いたけど、ミルズさんが知ってることも教えてくれへんか? 特に番人がプロトクリスタルを集める理由と蒐集行動のことや」

 ミルズは当然でしょうという顔をしたのだが、少し考えを変え次の意見をはやてにのべる。

「ここから先は……シグナムさん達もいた方がいいですね呼んでいただけますか?」

 はやても了承しシグナムとザフィーラを呼ぶ。










 八神家とミルズで再び話が開始される。

 ミルズの長い話では、モノリスの文字にはアイリスがミルズ、カレンに宛てたメッセージも含まれていたとのこと。それは【光天(こうてん)の書】の存在。永遠の水晶(エターナルクリスタル)の精製方法。

 そして、生まれ出る命の誕生の時間等が伝えられるメッセージだった。

「私も……モノリスの文字を見るまで七罪の番人が何者であるのか思い出せませんでした、彼等は失われし都と言われているアルハザードの死刑執行人という存在です」

 はやて達に七罪の番人の素性を伝えるミルズは、さらにカレンの方を見つめ。

「カレンもモノリスを見ればなにか思い出すかもしれません」

 カレンに向けた視線をはやての方に戻し、話を続ける。

「七罪の番人が、プロトクリスタルを集める理由はエターナルクリスタルの精製だと思われます」

 布団の中で上体だけを起こしていたミルズは一拍置いてまた口を開く。

「こちらに、光のクリスタルがある以上……精製はできないはずですが、その代わりのエネルギーとして、光天の書のパワー部分である禁書目録(インデックス)の開放をもって代用しようとしてるのだと考えます」

「なるほどな」

 はやてはミルズの話を聞きながら、番人の行動理由に一応納得はしてみせる。


「私が、エルヌアークの再調査を提案したのは……そのエターナルクリスタルの精製装置の場所の特定と破壊を考えたからです」


 インデックスの開放により、8種のエネルギーの力を得たならば、その装置を使用するはず、それはエルヌアークの【封印城クーザー】にあるはずだと。


 今まで話を聞いていただけだったシグナムが【クーザー】に反応を示す。

「ミルズ捜査官……そのクーザーと言う言葉もそうなのだが、私はエンヴィーと剣を交わし、何故か不思議な感覚に捕われた、私だけではないほかの者も同じような体験をしているのだが、何か知っているのではないのか?」

 シグナムの言葉にミルズは答える。

「そうですね、それは(不思議な感覚)当然でしょう。何故私が地上本部所属の八神はやて特別捜査官補佐を私の所に呼んだのかは、それも関係がありますからね」




 皆がミルズに注目する中、ミルズはその答えを口に開く。




「あなた方ヴォルケンリッターは私とカレンと同胞なのです、エルヌアークで生まれたのですよ。夜天の書の初代マスターは私とカレンの主人。アイリス王女その人なのですから」


「!!!!!」

 シグナム、ザフィーラ、はやての三人。流石にこれにはショックを隠せない。

「なんと……」

「我々の生まれ故郷がエルヌアークだと……」

 それぞれシグナムとザフィーラが、自分の出生を知らせる目の前の少年に信じられないという顔を向ける。

「しかし、記憶がないぞ?」

 ザフィーラの質問にミルズは少し寂しい表情をだし記憶がない原因を述べる。

「闇の書事件の報告書は読みました、プログラムの改変が影響しているのかとおもいます」

「そうだったの……私が最初みなさんを見たときの違和感はそれのせいなのね……」

 カレンは最初逢った時に自分をみて自分の事を知らない様子であった四人の事を思い出す。

 現夜天の主である八神はやてはミルズの考えと自分の家族の生い立ちを聞きミルズに念をおす。

「いずれにせよ、これは私等に深く関る事件なんやね?」

 ミルズは頷き布団から出て立ち上がる。

「八神さん。カレンのことはこのまま預かってもらっていいでしょうか? わたしは生まれ出る命の事に関してこれから戻らねばなりません」

「カレンはもう私達の家族や、言われんでも大丈夫やで」

 笑顔で返事するはやてにミルズは感謝の表情をだし頭を下げる。

「貴女はどこかアイリス様に雰囲気が似ています。きっとあの子(リィンフォース)もカレンも、それに惹かれたのかもしれませんね」

 ミルズはカレンのほうに向き直り自分の懐から2つの物を出し彼女に預ける。


「カレン、ひとつ頼まれてくれるか?」


「これは?」

 彼女が受けとった物は、手紙と黄銅色のリストリングだった。


 ――魔法少女リリカルなのは 星の道光の翼 Distant Worlds ――
          第十ニ話 八神家




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