フェイトの住んでいるマンションから徒歩1分。画材屋スノーレインの上にあるアパート。 飛鳥姉弟はこのアパートの一室に住んでいる。 鳳凰院での【力】の発現修行を済ませたエナは一度京都の本山に速人を預け、製菓衛生士の資格を取る為に猛勉強と実務をこなし資格を取る。 今回海鳴に戻ったのは、桃子と士郎から経営ノウハウを学ぶ為なのだ。 剣士の生き方だけでなく普通の生活の手段も必要だからという士郎のアドバイスもあった為でもあるが。 本日はエナが構想したケーキを翠屋の常連や関係業者に味見をしてもらう大事な日である、エナにとってはひとり立ちできるかどうかの日。 認められれば翠屋の屋号ももらえるのだ、気合も入ろうと言うもの。 「速人。私はもう出かけるけど、お昼はどうするの?」 玄関先にて夏休み真っ盛りの弟に対して店に食べに来るのかを確認する。 「ああ、ええと……今日は、自然公園で絵を描くことになってるからお店にはいかないよ」 (ああそうか、フェイトちゃんと一緒におでかけするとかいってたっけ) 弟の返事を聞き、そんな事を考えながら飛鳥エナは翠屋に急いだ。 緑一色の丘に、月下麗人という表現が一番に当てはまる一人の女性が、大気の澄んだ青い大空を見上げている。 下腹部を重そうに、細い両手で支えながら立っていた。お腹の大きさから察すると妊娠8ヶ月に相当する大きさか? 「この子が生まれたら、あなたは、良いお姉ちゃんになってくれるのかしら?」 月下麗人が【自分】の方に優しい微笑みを投げかけ、問いかけた。 突然、月下麗人の顔が光だし、辺りの景色も白い闇に変換されていく。 徐々に白い闇が晴れていき、薄暗い部屋の景色を映し出した。 「……今のは、夢……ですわ?」 ベッドに寝かされていたラースは目を覚ました、同じように隣ではグリードが寝かされている。 水のプロトクリスタル奪取時、管理局勢力に二度もダウンを奪われ、今まで意識を覚醒する事が出来なかったのだ。 今居る場所はラース達、番人のアジトである夢幻回廊内部。ラースが目を覚ましたタイミングで、番人の一人がやって来た。 黒い衣装を普段から着用する男、スロウス。彼はラースが目を覚ましているのを確認すると彼女に話しかけた。 「目が覚めたか、早速で悪いが出かけるぞ」 未だ目を覚ましていないグリードの身体を揺すり、目を覚まさせるスロウス。 ラースはスロウスに問う。 「出かけるって、どこにですわ?」 「こんにちは」 翠屋にはユーノ・スクライアが来ていた。奇しくもユーノも休日が貰え、なのはから新作ケーキの味見にこないか? と誘われていたのであった。 「あ、ユーノ君いらっしゃい」 なのはが店員制服で迎える、本日は新作発表なので店は招待客か関係者しか入れない、いつもの賑やかな店内はここにはない。 「まってたよユーノ君、早速だけど味見おねがい」 なのはと桃子がトレーをもってケーキを持ってくるのだが、数が……多すぎる! トレーに所狭しとケーキが並べられている。それを、なのはと桃子の二人でもってくるのだ、想像も簡単であろう。 (もしかして……これ全部?) ユーノは恐怖した。 海鳴自然公園高台AM11:00。 速人は絵画の準備をしてフェイトを待っていた、約束を交わした場所で、もう一度ミサゴの画を描きたいと言ったフェイト。 速人はその時、フェイトを描いてみたいと約束していた。 (……やっぱり緊張するな、あの時は軽く約束しちゃったけど、これって良く考えたらデートじゃないか……いやいや変な事は考えるな、僕はフェイトに絵の描き方を教えるだけなんだから……平常心平常心) 鳳凰院の感情を抑える自己暗示は怒りや悲しみ等のいわば負の感情に対して効果がある。現在の速人の感情の高ぶりはそのようなものではない。だが今まで味わった事が無いものである。感情の高ぶりにより【力】が発現されてはいけない。その一心で速人は心を落ち着かせる行動をとる。 持ってきたアイスコーヒー1リットルをがぶ飲みして、やっと落ち着いた所に彼女がやってきた。 (ふう、何とか落ち着いた) 「速人、おまたせ……」 「ボクもちょっと前に来たばっかりだ……よ?」 答える飛鳥速人であったが、フェイトの格好をみて固まった。初夏の日差しは思ったより強く、フェイトは普段着用しない麦わら帽子と白いドレスタイプのワンピースという格好だった。 異国のお姫様を連想させる少女の姿に少年は見とれた。 「普段の私の格好って黒が多いんだ。この日差しだしエイミィがこの格好で行きなさいって言うから……」 両手を組み指をモジモジさせながら言うフェイト。 彼女にしてみたら、普段の黒を基調とした格好の方が好みであるのだが。 エイミィの一言。 「夏の紫外線を甘く見てはいけません!」 という言葉に圧倒されて現在の姿になっていた。 「いや……その。似合っていると思うよ……」 左手人差し指で頬をポリポリと掻きながら素直に感想を述べる速人だった。 「う〜 もう、食べれません……」 翠屋では、味見なのに律儀にケーキを全部食べきった【勇者】が降臨していた。 「ユーノ君、味見なんだから……一口二口たべて感想言わないといけないんだよ?」 なのはが少し呆れて言う。 「だって……それって……作った人に失礼じゃ」 お店のソファに横になり、お腹をさすりながらユーノはなのはに自分の心境を言う。 「それじゃ意味が無いんだよ〜 ユーノ君にたのんだわたしが、間違ってたのかな?」 「でも感想なら言える全部おいしかった」 はのはの人員選択のミス反省に対して、取り繕うように、取って付けたような意見を言ったユーノ・スクライア。 「それは嬉しいわね」 二人のやり取りを奥で聞いていたのか、大人の女性が近寄ってきた。 「こちら飛鳥エナさん。今日の新作ケーキを作った人だよ?」 なのはがユーノに紹介する。 「ユーノ・スクライアです。ケーキおいしかったですよ」 「有難う。ユーノ君でいいかしら?」 エナの問いかけにユーノはハイ! と強く返事をかえすと、なのはがユーノのお尻をつねっていた。 「い!」 ユーノは顔を強張らせる。それを見たエナが笑って。 「なのはちゃん。速人迎えにいってくるから私は一旦抜けるね、午後にはもどるから」 奥に飲み物があるからどうぞと言ってその場所を離れる。 居なくなったのを確認するとユーノがなのはの方に顔を向けて抗議する。 「痛いよ! なのは」 「ユーノ君てさ美人に弱いんだね?」 ジト目と低い声でユーノを見つめるなのはであった。 翠屋からさほど離れて居ない定食屋で、昼食を食べているラースとグリード。 スロウスから出かけた理由を聞きグリードはカツ丼をかっこみながら言う。 「なぁ、この前もここに来たけどよ? ここにホントにイレイザーってのがあるのかよ?」 「プライドが言うんですから間違いないですわ。グリードはホントに反抗期ですわ」 ラースは上品? に野菜炒め定食のおかずを口に運び、食べながら、前にもやったような掛け合いをする。 「右手首に十字のアザがある者を探せ……それが証だ」 青髪のオールバックの男。スロウスはコーヒーだけ注文して飲みながら言う。 「食べ終わったら、手分けして探すぞ」 私は、ミサゴを待ちながらベンチに座っていた。 課外授業の時に見て以来今日はまだ現れていない。速人に聞くと、そういう時もあると言われた。 速人の方を先に始めようって事でミサゴを待ちながらモデルをしていた。 ポーズとかつけろとかいわれるのかと思っていたのだけどベンチに座ってミサゴまってればいいよ、と言われて今に至る。 「じゃあフェイト、始めるね?」 言われたので「うん」と答えた。 モデルをしながら考えていた。私を見る速人の眼は青い、ミルズは黒かった。 これだけでも違う人物と思えるけど、魔法にはそれを誤魔化せるものもある。 画を描くときの速人は左手で描く、ミルズは剣を右で使っていた、速人の髪は銀色、ミルズは烏羽色。唯一の共通点が右手首のアザ…… これだけ違うところが存在するのに、私はまだ速人のことを疑っていた。 人としてはいけない事なんだろうけど……そんなことを考えていたら。 「フェイト?」 速人が私の顔を覗き込み、声をかけてきた。 「何?」 突然の声掛けに、私はそう返事するのがやっとだった。 そんな私をみて速人は「何か心配事でもあるの?」と聞いてくる。 正直な所、速人のひとの心を見抜く力には、いつも驚ろかされる。 しゃべり方はあまり感情を含んだ言い方をしないけど普段から相手の考えを見抜き、問題回避や解決を目の前の男の子は結構するんだ。 「そんなこと……ないよ?」 私の言い方が詰まった返事を聞いた速人は描くのを止めて言う。 「なら僕も描くの止める、今のフェイトを描いてもつまらないよ……」 少し寂しく言ってきたので罪悪感が生じる。 速人は描くのを止めて私の隣に座る。私は何か違和感を感じた。 隣に座った感覚が学校でお弁当を一緒に食べる時とは違うような? 今言った言葉にしたって、いつもの感情をあまり含まない速人の言葉じゃなかったような気がした。 「フェイト?」 速人が私の顔をさらに覗き込む、私は速人の顔を正面からみた。 (速人……ごめんね) 心の中で謝り、瞳に魔力を込めて速人の中のリンカーコアを覗く。 うそ? こんなことって? 速人のリンカーコアを見た私はびっくりした反面、喜んだのかもしれない。 速人にはリンカーコアが見当たらない、つまり魔力が無い。かなり稀ではあるが、魔力がまったく無い人物も居るのだと、義母さんは言っていた。 「フェイト……その……見つめられると、てれるよ」 速人が顔を赤らめて言うので私は思わず少し笑ってしまった。笑ったのは私の中でわだかまりが消え去ったからだけど。 「あ! その表情いいな」 「なんで?」 聞いた私に速人は嬉しそうに返事をしてくれた。こんな顔もできたんだね君は。 「フェイトの表情ってね、すごく綺麗なんだよ。特に、笑ってる時がさ」 答えた後に、すぐにキャンバスの方に向っていった速人を見ながら私は思った。 リンカーコアが見えない……つまり魔力が無い。ということは速人はミルズじゃない! 私の中で、その答えはすごく大きかった。その時ミサゴが姿を現した。 「あ! 来たよ!」 私は声をだして速人を呼んだ。アドバイスをもらいながらミサゴを描く。 以前のそれよりかなり上手になっている。そう思えるし自信もあった。 「速人はもう描かないの?」 つきっきりで教えてくれている少年に対して私は申し訳なさそうに聞いた。 「あれ(画)は1日では完成しないよ。ラフは描けたし後はゆっくり描きあげる。完成したらフェイトに見せるよ」 速人が笑っていうとエナさんが長い筒状の物と大きな篭をもってやってきた。 「へー、フェイトが男の子とね〜」 ユーノは何とかなのはのご機嫌をとり、フェイトと速人の話にもっていった所だった。 「私の弟分って感じかな?」 「あー、この前いってた、誕生日が一緒で僕が来る前になのはの所に居たっていう子?」 なのはが「そうそう」と頷く。 なのはとユーノは、月村邸に向かっている所だった。ユーノが帰るからだ。 「!」 二人は魔力反応を感じて空を見上げた。 「あれって番人?」 なのはが呟く。グリードとラースが自然公園の方に飛び去っていった。 「なのは、僕が結界張るから、二人を追って!」 なのははうなずき、バリアジャケットを展開して夏空に舞い上がっていった。 フェイト達三人はベンチで少し遅い昼食を取っていた。エナが気を利かせて持って来てくれたのだ。 ケーキを食べながらフェイトが感想をもらす。 「おいしいですエナさん」 エナはフェイトをみて微笑んだ。 速人は意外にも甘いものが好きなようでムシャムシャ食べている。右手首の十字架のアザが激しく動くほどに。 速人の十字架のアザを見つめる視線があった。 (見つけたぞイレイザー……ラース、グリード。俺の所に来い、十字のアザをつけてる者を見つけた) スロウスが遠話で二人を呼び。ゲイアサイルを構え三人の所に歩いていく。 エナが不意に険しい顔になるのとフェイトが魔力反応を察知したのはほぼ同時、二人で一緒の方向を睨んだ。 帰りの準備の最中のことだ。 青い髪のオールバック男が槍をもってあらわれる。 「そこに居る、十字架のアザの者を渡してもらおうか?」 赤い槍ゲイアサイルを両手に携え、物言いは静かであるも脅迫に近い言動で迫るスロウス。 「貴方は何者ですか?」 スロウスの雰囲気に飲まれもせずに正面からスロウスを見つめる飛鳥エナ。 いつもと感じが違うエナにフェイトが驚く。さらに、エナは長い筒状の入れ物から太刀を引き抜いた。 「エナさん?」 フェイトが口にだすほどだったのは普段の優しい人物からは想像が出来ない物騒なものが取り出されたためだ。 「良くわからないけど。速人を狙ってるみたいね……速人! フェイトちゃんと一緒に此処から逃げなさい!」 速人はそう言われフェイトの手を取って直ぐに走り出した。 「にがさん!」 スロウスが追いかけようとすると槍を刀で弾き阻むエナ。太刀を握った剣士エナは弟を狙う目の前の人物に殺気を抑えず喋った。 「この先は私がお相手します……お覚悟を」 (こんな辺境にこれほどの使い手が居ようとはな、久しく忘れていたが俺もこっち側だったと言う事か) エナの放つ殺気を身に受け、番人の一人スロウスは口元を緩め喜んだ。 「面白い……そこまでの殺気を放つのだ。俺が本気を出して死んでも許せよ女」 紅い長槍と太刀の使い手はお互いの間合いの取り合いから戦いを始める。 速人とフェイトは走る。エナに言われた通りとにかく走った。自然公園の外れに位置する雑木林を抜けて、人工池の辺に抜け出た。 スロウスが追ってこないのを確認すると速人は立ち止まった。息を整えながら姉の習得している武術の事は隠して説明する。 「姉さん、強いんだ、剣道やってるから」 剣道にしては扱ってるモノが物騒すぎるのだが、フェイトにとってはどうでもいい事柄である。フェイトも息を整えながら考えをまとめる。 (アレは番人だ、私もいかないと) 不意にあたりが結界に包まれる。そして上空から、みつけたぜの声。フェイトも速人も上を見上げるとグリードとラースが居た。 「何?……なんなのこれ? 人が空中にういている?」 速人は訳がわからず震えている。当然であろう、地球育ちの少年にとって、人が空中に浮いてる所を目の当たりにすれば訳が分からなくなりもするし、しかも一人は巨大なハンマー、もう一人は湾刀を手に持ち、自分を睨んでいるのだから。 鳳凰院の関係者でも空に浮かぶなんて大それた事をする人物はいない。 震えている少年に対し、魔導師である少女は決断を迫られていた。迷ってる暇は無い、自分の正体を知られる事に躊躇していては、この状況を打開する事などできない。 ワンピースのポケットに忍ばせているレリーフを強く握り、彼女は決断した。 「速人、なにがあっても私を信じて、お願いだよ?」 少年に一言いい。フェイトは覚悟を決め、金色のレリーフを取り出し叫んだ。 「バルディッシュ・アサルト・セットアップ!」 【set up】 金色の光体の中でバリアジャケットとバルディッシュが組み立てられていく。 「フェイト……」 (何があっても私のこと信じて、お願いだよ?) フェイトの言葉を聞き、少年は少女を信じる事にした。友達だから、なにより彼女が好きだったから。フェイトはバルディッシュを構え、速人にバリアを施し真剣な眼と凛々しい口調で言った。 「ここから、動かないで」 番人二人の前に浮かんだフェイト。二人を睨んで語気を強めて言う。 「彼を狙う理由は何だ!」 「聞かれても、答える訳ありませんですわ〜」 ラースが答えにならない答えをかえすと、なのはが追いついた。 「フェイトちゃん!」 「なのはまで……」 速人はバリアの中で呟いた。 (なのは、相手は二人、いや三人、狙いは速人だよ、この二人倒してエナさんの所いかないと) (え? 速人君が狙われている?) 短い念話でのやり取り。なのははバリアに包まれた速人を確認した、こっちを心配そうに見上げている、混乱している様子は無い。 「なら、さっさとやらないとね!」 「うん」 グリードとラースとの三度の対決。 「丁度いいぜ、お前ら変な頭シリーズには色々と借りもある、ここでやってやるぜえええええ!」 (スロウス! 目標をコッチで補足、こちらにくるですわ) ラースから入ったログに、スロウスは目の前の剣士から飛び去った。 (今向う) 「待ちなさい!」 空を飛ばれてはエナには追いかける術がなかった。 フェイトがグリードと、なのはがラースと戦っているのだが、以前よりも学習したのかこっちのコンビネーションに入らせる隙を与えてくれない。相手の連携のよさにフェイトが言葉を漏らす。 「く! 前よりも強くなってる」 憤怒と貪欲の小さな番人達は勢いに乗る。 「どうしたどうした、それでおわりか?」 「ぶち抜きますわ!」 ラースがグリンタンニをなのはに振り下ろす。 【RoundShield】{ラウンドシールド} レイジングハートが発声する。受け止めるなのは、バチバチ! と派手に音と光が生じる。 「かたい、ですわ、この子……化け物ですわ」 ラースは、自分のフルパワーに近い力で愛機グリンタンニをぶちかましにかかったのだが、眼下の白いバリアジャケットを着込む少女の防御魔法。その硬さに苦言をもらす。かたや、高速戦闘を繰り広げている二人組は。 「ハァー!」 フェイトの威勢の良い掛け声と共に。バルディッシュが発声し、フェイトがハーケンセイバーを放つ。 【HakenSaber】{ハーケンセイバー} はなったソレをグリードが一刀両断にし、蹴りをいれてバランスを崩させる。 「何度も同じ手を食らうと思ってるのか?」 「うあ」 思わず声を上げるフェイト。 速人は上空で繰り広げられている戦いを見て、何も出来ない自分をしって悔しがる。 幼いときから知ってる家族のような女の子。その子の親友で、自分にとっては一番気になる子。 その二人が戦ってるのに何も出来ない自分が悔しい。 正直な所、速人にも対抗策が無いわけではなかった。 だが、ソレを使うという事は姉との約束を破ることになる。加えて自分の死も覚悟しなければならない。 死を覚悟させる。それほどまでに上空の戦いは速人にとって凄いものであったのだ。 (僕にも【力】はある。けど、あれは姉さんとの約束で使わないって決めてた。僕自身も使いたくは無い……けど。だけど姉さんゴメン! ボクは。僕は……なのはやフェイトを……助けたい!) 何処からとも無く鳳(おおとり)の鳴き声の様な音色(ねいろ)が聞こえてくる。 同時に背中の文様がはじけ飛び、鳳凰の姿を模した光となって顕現した。 【力】を使い始めた速人の胸の中にひとつの光が生じる。 ちいさな小さな光。でもソレは紛れも無いリンカーコアの輝きだった。 「さっさとぶっ飛んじまえよ。ヘビ頭!」 グリードは蹴り飛ばしたフェイトに追い討ちでイモータルシミターの斬撃を仕掛けた。 「これで終わりだぜ!」 動きが鈍ったフェイトに対し勝利宣言をするグリード。 「もう、だめかも?」 右わき腹を押さえつつフェイトがそう思った時。下からもの凄い魔力の流れが生じる。 フェイトに襲い掛かっていたグリードは信じられない顔をする。フェイトは瞳を見開き、そこで見たものは! 「速…人?」 一瞬でフェイトの目の前に舞い上がり、白金の魔力の光に包まれた少年が素手でグリードのデバイスを受け止めてる姿があった、以前の様な光体ではなく光を纏う姿である。 速人はグリードを睨みつけた。湾刀を引き抜こうとするグリードであるが速人はがっちり素手で掴んで離さない。 「僕は誰かが傷つくのを……もう見たく無いんだ……フェイトを……なのはを……傷つけるなああああああぁ!」 速人がそう叫ぶと白金の光は輝きを増した。 速人の周囲を取り囲んでいた光は、二条の光の槍となってグリードとラースを打ち抜いた。 直撃を受けた二人は墜落。スロウスがその二人を担いで消えていった。 速人がそれを確認すると魔力の光は消えうせ、速人は気を失った。 フェイトの方に倒れこむ少年。フェイトは抱きとめ名前を必死に呼ぶ。 「速人! 目を醒まして!」 速人が【力】を発現させてから二日が経った、あれから速人は死んだように眠り続けている。 フェイト・テスタロッサ・ハラオウンは家の中の魔法系治療室で眠り続ける速人の所にいた。 ハラオウン家の司令室兼リビングではエイミィとエルヌアークから戻ったクロノで、その内容を確認している最中。 「しかし、凄いねこれは……」 エイミィは、レイジングハートとバルディッシュから受け取った速人のデータを見て驚嘆の声を上げていた、クロノも凝視している。 「魔力流の流れだけでフェイトのところまで飛んだのか……」 「さらに、デバイスを素手でとめるんだもんね」 ミッド人の彼等には理解しがたい映像のオンパレードである、エイミィはさらに番人の二人を攻撃した光の槍の画像を選んでクロノに見せる。 「とどめはこれだよ。この光の槍の攻撃さ……威力換算SSSはあるよ?」 「本人の魔力ランクは計り知れないな……この世界の人たちは規格外もいいところだな。だが……このままじゃ速人の命に関わるぞ。この発現方法は危険な使い方だ」 映像を見て瞬時に命に関る危ない使い方と見抜くあたり、さすがにアースラの最終兵器の異名をとるクロノ・ハラオウンである。 速人の異常なまでの魔力放出に表情が険しくなっていた。 ――魔法少女リリカルなのは 星の道光の翼 Distant Worlds―― 第九話 リンカーコア生誕 あとがき 南です。ここまで読んで頂きありがとうございます。 よくあるテンプレ物では御座いますが、完結までお付き合い頂けたら嬉しい限りです。 では次回でお会いしましょう。 |
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