次元航行艦アースラはすでにエルヌアークの建造物上空に待機していた。

「では今回は、ユーノとフェイト、それにミルズの三人で建造物内部の調査をしてくれ」

 クロノは三人に告げる。フェイトは先ほど紹介されたミルズ・ヒューディーの方を見ていた。

 時空管理局、広域特別捜査官(こういきとくべつそうさかん)自分よりも先に管理局の仕事についていて、ロストロギア回収のスペシャリストと言われている。

 ベルカ式の使い手であり、黒に統一された騎士甲冑はミルズの黒髪と同じ様な黒の中にも翠色がかかる、言うなればカラスの羽色な感じである。

 その容姿から黒翠色の騎士(こくすいしょくのきし)と呼ばれている。いつか手合わせをしてみたいな、フェイトは仕事そっちのけでそんなことを考えていた。

「フェイト! 調査内容は理解できたのか?」

 クロノの少し怒った声にフェイトは意識をクロノに向ける。

「あ、うん……ごめん」

 義妹の曖昧な返事にため息を漏らすクロノ。

「まぁいいじゃないかクロノ。捜査の責任者は私だし、義妹さんはどちらかというとユーノの護衛が本来の目的なんだから流れだけでも理解できてればいいさ」

 ミルズは笑って言ったがその笑顔に見覚えがあるようなフェイト。

(アレ? どこかで見たような感じがするんだけど)

 そんなことを考えていると。ミルズはフェイトとユーノに出発を促した。

「では二人とも、内部調査にいきますよ」

 




 

「うーん、内部構造自体は管理外世界97番の神殿に近いね、小部屋や大部屋など多数在るみたいだけどさ」
 
 建造物の入り口前で検索魔法を展開しながらユーノは口を開く。彼の魔法は闇の書事件以降さらに精度を増していて、現在のような大型建造物の探査も正確に調べる事が可能になっていた。

「内部に入っても平気なのかい?」

 ミルズは危険性が無いか、ユーノに問う。

「内部の危険度は低いし結構しっかりした造りの様だから入っても平気だとおもうよ」

 では入ろう、とミルズは二人にそう告げる。

 内部に入り調査を続ける三人は小部屋を数カ所調べた後に目的である高いエネルギー反応がある大部屋にたどり着く。
 この反応調査が今回の目的だ。三人が部屋にはいるやいなや。フェイトは今まで見たことが無い宝石に感動したように口を開いた。

「これは……なんて綺麗な宝石なんだろ」

 確かに綺麗だ、透きとうるような白金(プラチナ)色の光りを出し、見る者の心を浄化するような輝きを放っている。
 だが、ユーノはこのフェイトの物言いにつっこみを入れたい衝動に駆られる。
 
 それは何故か? ここにいる三人の背丈の倍近い大きさである、宝石にしてはデカすぎるのだ。  

 瞳をキラキラさせて巨大宝石を見つめているフェイトをユーノとミルズは女の子なんだなぁ〜 と言うような苦笑を出しつつ結晶体の調査に入る。

「ざっと計算してみたけどこの結晶体、僕が以前発掘したロストロギアの数百倍のパワーを内包してるね。でも、ものすごく安定していて封印しなくてもいい感じだな」

 ユーノがミルズに説明するのだが、ジュエルシードの単語を使用しなかったのは彼なりのフェイトへの配慮だろうか。
 ミルズも彼の配慮を感じるが回収のスペシャリストと言われている、安全に持ち帰る為の言葉を発する。

「それでもだ、完全封印処理施さないと後で何があるか分かったものじゃない……やるべきことはしておく事にしよう」

 調査も封印処理もすませ、ユーノはクロノに通信を開く。

「今までの解析結果から言うと、先日の中規模次元震の発生元はこれだね、封印も完了したからそっちで回収のほうよろしくお願いします」 

 空中に浮かぶディスプレイの中のクロノが解ったと頷く。

「横槍すまない、その先の大部屋からもう一つの反応が出始めているんだけど、アースラの方で何か解らないか?」

 ミルズがクロノにこの先のエリアの報告する。

 ユーノは検索魔法をもう一度展開させて内部を調べる、先ほどの展開時には無かった反応が出ていることを確認した。

「捜査官の経験からくる勘ってやつでね、一足先にちょっと奥のほう見てきたんだよ、ここの造りと似たような部屋があった」

 それを聞いたユーノはなるほどなと感心し、肩をすくめる仕草をとりながら話す。

「相変わらず君は行動が早いな、回収のスペシャリストは伊達じゃないって所かな?」
 
「こちらでも確認した、かなりのエネルギー反応だな……僕もそっちに向かおうと思うが?」

 ディスプレイ先のクロノから自分も出ようか? との意見をミルズが制する。

「いや、君はこっちにある結晶体の回収を頼むよ。三人居るんだし、ユーノ・スクライアと言う封印処理のスペシャルもいるんだ、次のもちゃんと回収できるようにしてくるよ」

 三人は反応があった部屋の前に到着。

「扉にかなりの魔法力を感じるね、解除できるかな?」

 ユーノがこういった芸当は君の専売特許だろう? という感じでミルズに聞く。

「出来るか、やってみるか……」

 ミルズの足元に黒色のベルカ式魔法陣が出現する。

 フェイトには理解出来ない呪文をつぶやき詠唱が完了するとミルズは扉に触れる。

【Dispel】{ディスペル}

 ミルズのデバイス、バスタードソード状のグラットンソードが発声する。

 彼が触れた扉は音も立てずにスーと消えていく内部の状況が次第にハッキリとしてくる。
 先ほどの結晶体の様な物はなく、部屋の中央に2mほどの高さのモノリスが3体ほどあり、中央の1つはびっしり文字が彫り込まれている。
 文字の書かれたモノリスの左右にあるものには、人物画が描かれている。この三つの物体を見た一人に変化が現れた。

 瞳を輝かせたユーノ・スクライアが興奮した声をあげる。

「これは……すごい発見かもしれないよ!」

「どうして?」

 彼の突然の興奮を理解できないフェイトは質問をする。彼の興奮を抑えずにしゃべりだす姿は玩具を与えられた子供の様な印象を彼女は受けた。

「だって考えてごらんよ? このエルヌアークは管理局黎明時代には文明が無いとされていた世界だよ? その世界に、さっきのエネルギー結晶もそうだけど、このモノリスには文字が刻まれてるんだ、それにこの人物画だ」

 ユーノはフェイトの質問に答えながらも視線はモノリスから離さなかった。彼はスクライア一族だ、その血のせいかこの手の発見には興奮を隠せない。
 ユーノの代わりにミルズが締めの言葉をフェイトに送った。


「つまり、この世界には文明があった……と言う事だね」

 ミルズの表情をチラリと横目で見たフェイトは彼の悲しげな表情に少し違和感を持ったがアースラに報告する為、ミルズがクロノに連絡を取り始めたので。モノリスの人物画に視線を向けた。

 左のモノリスには学校で習った中世時代の騎士の姿の形をした男性の画でミルズと似たような剣を右手に、左手には盾を持ち、無骨な全身鎧を着込んだ姿。
 右のモノリスは弓を携え今にも襲ってきそうな姿の男が描かれていた。

「そうか、最初の結晶体はアースラに移せたんだな?」

 フェイトの耳にミルズの声が入ってくる。 

「ユーノ! クロノがこちらにも人を回すから私達はひとまずアースラに戻れってさ」

 ミルズが言うと、ユーノはエー? と明らかに不満げに言うが、モノリスも回収するから本局にもどってゆっくり調べた方がいいだろう? と諭されて渋々戻ることにした。
 それを見たフェイトがクスリと笑う。


 三人は一足先にアースラ内部で休息を取っていた。ミネラルウォーターを飲みつつユーノは調査の感想を話す。

「クロノに呼ばれる時ってさ〜 大概ロクな目に遭わないんだけど、今回はすごい発見があったし僕的には満足かな〜」

「聞こえているぞ」

 フェイトとミルズが声がした方向を見るとクロノがやってきたがユーノは気にせず飲み物を楽しんでいる。

「本局に戻ったらこの案件のデータ処理と解析を君一人にやってもらうとしようか」

 クロノが先ほどのユーノの発言に皮肉を言う。なのはと会う約束があるからそれだけはやめてくれと、彼が焦り始めるのだがやり取りをみてたフェイトは、なのはが聞いたら喜ぶだろうな、とか考えてココアを飲んだ。

「クロノ、さっきのモノリスの回収はすんだのかい?」

 フェイトがココアを飲む傍らでホットコーヒーを立って飲むミルズ。フェイトとあまり身長が変わらない彼だが既に大人なのだろう、回収状況を確認する。

「文字の方は回収できたんだが、画の方がもう少しかかりそうだな」

 クロノが言い終わる頃に、ズズーンという音がした。

「なんだ?」

 四人は音の正体を知るためにブリッジに上がろうとする、空間ディスプレイにエイミィとリンディが同時に現れる。

「クロノ君、ベータエリアに小規模の次元震を確認したんだけど……」

 エイミィの話によると艦からさほど離れていない場所にさっきの建造物と同じような物が出現したらしい。

「それとクロノ執務官、回収を担当した武装隊からの報告でモノリスの画が実体化して建造物に向かっているの」

 アースラの最高責任者である艦長リンディが言う。

 ディスプレイには画から出たのであろう二人の人物が映し出される。

「フェイト、ミルズ捜査官。実体化した人物を追って下さい! 二人は武装局員を何人か殺しています」
「クロノは部隊の回収を、ユーノ君もその手伝いをお願いします」
 
 リンディが出撃命令を出す。

「了解しました! ミルズ出ます」

「フェイト出ます!」

 二人は急いで部屋から出ていく。














 フェイトとミルズは自分のデバイスを起動させてバリアジャケットと騎士甲冑を展開、大空に飛び立つ。

 指定されたエリアに到着すると画の中の人物達が建造物内部に進入していく所だった。

 二人でそれを追っていくとやがて先の結晶体と同じような部屋にたどり着く。

 そこには確保した結晶体と形は一緒ではあるが、黒いというか闇のような感じの色を帯び、不思議な感覚に陥る淡い光を出している物体がある。

「止まりなさい! こちらは時空管理局です、あなた方を殺人の現行犯で逮捕します!」

 フェイトは声を張り上げて彼等の制止を計る。凛とした彼女の声が建造物の壁に反射する。耳が正常ならば気が付かないわけが無い。
 
 騎士姿の男と弓を持った男はフェイト達の方を向く。二人ともかなりの長身である。
 
 

 騎士姿の男は、フェイト達の方に体を向けたまま低いトーンの声を相方に発した。

「エウリュトス、クリスタルの回収はどの位でできるのだ?」

 名前を呼ばれた弓の男は、クリスタルと呼ばれた物体に接近して行き、返事をする。

「5分もあれば、完了ってとこですかね」

「ならば私が時を稼ごう、この少年と少女は先の男達よりは手応えがありそうだ」

 騎士姿の男は、表情を変えずに剣を構える。 

「ま、それでも死ぬことに変わりはないんだけどね」

 エウリュトスと呼ばれた男は、結晶体に何かの術式を施しながら、フェイト達と騎士姿の男の戦いの結果を予想する言葉を漏らす。

「実力行使ってことですか……」

 フェイトは愛用のデバイスバルディッシュ・アサルトを目の前の騎士に構え、そう言いながらも心の中で呟いた。

(この男の人……隙がない、かなりできる?)

 
「すまないな、我々にも目的があるのだ、邪魔をするならば排除させてもらう……七罪の番人大食のグラトニー。大命の為、君たちの命もらい受ける!」

 名乗りをあげフェイトに向かって走り出し剣を繰り出す。速い! フェイトはその速さに対応が遅れる。
 ガキィン! と金属音がした。ミルズがグラトニーとフェイトの間に割って入り、剣と剣での鍔迫り合いの体制に持っていく。



 フェイトとあまり身長が変わらないミルズであるが、身長差をものともしない。ベルカ式を使う騎士は肉体強化術式に長けると言った所か。 
 彼は大食のグラトニーと名乗った男を睨みつけ、グラトニーの剣を振り払う。

 この行動が戦いの開始合図となった。上背とリーチが有利なグラトニーに対し反応速度で対抗するミルズ。激しく剣がぶつかり合う。

「グラトニーとか言ったな、目的ってなんだ?」

「ここで死んでゆく身の者に語る必要はない」

 静かに語るもミルズに剣を振りかざすことは止めない。


【Poton Lancer】{フォトンランサー}


 バルディッシュの発声音が聞こえ、グラトニーに4本の光の槍が襲いかかる。

「!」

 グラトニーはその槍を盾で受けると激しい音が部屋に鳴り響きグラトニーの周りに魔法の爆発煙が立ちこめる。
 だが有効打にはなっていなかった様だ。

「ほう……魔法を使うか。しかもサークル式とは、これは楽しめそうだ」

 グラトニーとフェイト&ミルズの戦い。彼は二人を同時に相手をしているのにも関わらず、剣と盾を巧みに使いこなし、背後で何かの魔法術式準備をしている緑髪の男の所に近づけさせない。

「くっ、あの盾が厄介だ……」

 フェイトは目の前の男にあせりを感じていた、先ほどもミルズが相手の気を引き、自分に魔法使用の時間を作ってくれたのに、相手はノーダメージの上に、二人ががりでもグラトニーで精一杯、エウリュトスの方に近づく事もできないのだ。

「ハッ!」

 ミルズが気合いの入った声でグラットンソードを振るう。グラトニーはそれを盾で受け流し、ミルズめがけて横薙の一撃を繰り出す。

【sonic move】{ソニックムーブ}

 フェイトはスピードを活かしミルズへ振るわれた剣をバルディッシュで受ける、グラトニーは力任せにそれを振り払うとフェイトはその反動で壁に吹き飛ばされる。

【defenser】{ディフェンサー}

 壁にぶつかる寸前にバルディッシュのディフェンサーが発動し体へのダメージを減らす。ただいたずらに時間だけが刻まれていく。

《テスタロッサさん私に考えがあります、私がグラトニーに切り込んだらサイズフォームで追撃をかけてください》

 ミルズから思念通話が聞こえる、このままではこちらに勝機はないのでフェイトは同意する。

「後1分だ」

 エウリュトスはグラトニーに言う。

 グラトニーとフェイト達の間は今3mほど離れていて間合いの探りあい状態である。

「どのみちこのままでは!」

 ミルズは叫びカートリッジを2発ロード。ベルカ式魔法陣を出現させてグラットンソードを構える。

 フェイトは言われたとうりにサイズフォームにバルディッシュを変形させ魔力刃を出現させた。

「グラトニー……これが受けきれるか?」

 グラトニーを挑発するミルズ。

「面白い! サークル式の次はデルタ式か」

 あえて挑発にのるグラトニー。

「剣閃溶解……レッドロータス!」

 ミルズのグラットンが赤く光りグラトニーに向けて正面から一気に突っ込む。

 グラトニーは盾で剣閃を受け止め剣でミルズの左肩めがけて切りかかる。盾に阻まれたグラットンソードからマグマの様な物体が生じグラトニーの盾を包み込み本人にもひろがってゆく

「今だ!」

 ミルズの掛け声とフェイトの行動は同時だった。グラトニーに向けて鎌状態になったバルディッシュを彼女は振るう。

【scythe slash】{サイズスラッシュ}

「ハァー!」

 気合いの入った一撃。クリーンヒットとは言えないが、ダメージは通したことを感じれる手応えをフェイトはつかんだ。

 ビュインと音が鳴りグラトニーの盾にバルディッシュが仕掛けたサイズスラッシュの軌跡が白い光りとなって出現する。

 グラトニーの盾が光を中心に切断される。それを見たミルズは思惑が外れたのか苦々しい声で悔しがる。

「くそっ盾で防がれた。連携でも効果なしか」


「完了だ、グラトニー」

 エウリュトスが声をだすと、転移魔法陣も生成されており、大きな四角い緑色の魔方陣が彼等を包むように床の上で光を放っている。

「引き時か、盾を破壊されるとはな」

 ミルズがおこした連携の効果に多少の感心を示したグラトニーは、剣を収め口を開いた。

「こちらの目的は達した、さらばだ小さき戦士たちよ……」

 男達は転移魔法によってどこかに消えていった。

 残されたフェイトとミルズ、フェイトがミルズの方を見ると、ミルズは左肩から血を流していた。


       ――魔法少女リリカルなのは 星の道光の翼 Distant Worlds――

             第二話 広域特別捜査官



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