森を抜けた頃にはもう霊夢たちがどこへ向かったなどわかるはずも無く、霊夢が通っていった場所っぽい後を追って進んでいる。
 主に妖精の数が少ないエリアかな?
 そして今は森を抜け出て湖の上を飛んでいる最中だ。

 湖に入り込んでからは殆ど妖精といってもいいような者たちは現れていない。
 これもあの二人の力によるものなのだろうかね。

「そういえばルーミアは俺と別れた後は何してたんだ?」
「ん〜、食べて寝ての繰り返しだよぉ〜」
「食べてたものに関しては何も聞かないぞ」

 現に今さっき俺は食われたばかり出しな。
 しかしとなると一応保護者を気取ってた俺の責任てことになるのか?

「あとはそうだね〜。それだけかな?」
「おいおい、友達はできなかったのかよ。ここならお前みたいな能天気肉食妖怪と腕を組みながら一緒にダンスの一つや二つしてくれるような奴くらいいるだろ?」

 もしかしてルーミアってあれか友達=食料って考えて、胃袋に入ったのが友達とか思ってんじゃないだろうな。
 そう考えると俺は永遠におなかを満たせる=永久の友ってわけだが、なんかうれしいような悲しいような。

「ともだちか〜。市ノ川はおいしいともだちだし〜」
「ちょっとまて、それが散々飯を食わせてやった恩人の評価なのか?」
「???」

 いやそこで不思議そうに首を傾げられても困るんですけどね。
 まぁ、一応保護者的な役割を果たしていたこちらとしてはルーミアにも友人と言うの作ってもらいたいところなんだが、ほらなんていうかあれだよ。

「娘の心境を心配するお父さんのようなですね」
「市ノ川はわたしのパパなのか〜?」
「いやいや、そういうわけじゃないけど、一応元保護者としてな。そういうのは心配になるものなんだよ」 

 そんな俺の言葉に首をかしげるルーミア。
 まぁ、ルーミアに理解しろってのが無理なものか。
 そんな感じで湖を進んでいるわけだが、さて、約50m先になにやらトラブルが待っているように見えるわけである。
 なんか、ちっこいのが一つ浮いてる。
 字のごとく水にだ。

「水死体か?」
「ご飯〜〜〜」
「あ〜、なんでも取って食べる癖はやめような」
「あう〜〜〜〜、おさえるな〜」

 俺の後ろから飛び出してその水死体?のような物体に飛んでいこうとするルーミアを両手で押さえながら、少しばかり警戒しつつ近づく。
 見た目少女っぽいようで、最初人間かと思ったが、こんな異変真っ盛りな時期、湖で泳ごうなどと考える馬鹿は早々いないだろうし、何より羽をわざわざ背中につけて水浴びをしようなんていう奴もいないだろう。
 だからこれも妖怪の一種だろうと即座に理解した後、多分霊夢にぼこぼこにされたんだろうな。
 なんでわかるかと聞かれれば、背中や髪に札が幾つもついていたからだ。
 哀れといえばいいのか、それとも自業自得と言えばいいのか、まぁそんなことを気にしていることもあるが、一応水の上から引き上げたほうがいいだろう。
 妖怪であろうとなんであろうと水の中は苦しいだろうしな。

「もしもし〜、大丈夫ですか?」
「…………」
「ちょいと失礼しますよっと」

 手を肩に掛けてと、よいしょっと。
 そして再び上空へ。

「市ノ川が食べるのか?」
「食べません」

 即答する。まるで、今から俺がこの見た目少女に何らかの手を出そうとしているみたいじゃないか。
 俺にそんな趣味はないし、ましてや無防備な少女に手を出すほど落ちぶれちゃいない。
 でもそれじゃまるで攻撃的な少女に手を出すのはいいみたいに聞こえる気がする。
 世ではツンデレの部類を好む人種がこれに該当するのかもしれない。俺は断じて違うぞ。

「ん、んんん…………」
「おっ、気がついた。大丈夫か?」
「へ?」

 きょとんとした瞳が俺を見つめている。整った顔立ちと丸い目が俺を見る。
 そしてなぜだろう、よくわからないんだが泣きそうな顔してないか?
 
「あ、あの〜」
「い―――」
「い?」
「いや!」

 右頬に激しい痛みが発生する。そして矢継ぎ早に左頬に痛み、ほぼ両方に変わりだした。
 いや〜、あれですね。首折れてるんじゃないのってくらいに顔が左右に揺れてる。
 そして最後に鉄拳が顔面に炸裂したあたりで少女の動きが止まった。

「あ、あれ?」
 
 いや今さっきまで俺を殴りビンタを食らわせていたのになぜそこで不思議そうな顔をする。

「巫女さん…………じゃない?」
「俺のどこが巫女さんに見えるんだ」
 
 ボロボロになった顔で少女に目を向けながら、霊夢のとばっちりを受けたのだと理解した。
 どうやら霊夢ぼこぼこにされて、もう一度何かされるのかと思ったようだ。
 そんなことで済ませていいのかって言われるかもしれないが、俺がぼこられただけだしなんの問題も無い。
 わけを話していくうちに少女の顔がだんだんと謝罪じみたものになって良き、浮かんでいるところを危なそうなので引き上げたと言ったら、完全に謝罪の構えになった。

「ご、ごめんなさい」
「いいっていいて、まぁ確かに痛かったけどな」
「すいません、あなたの顔が今さっきの巫女に見えて、それでそのえ〜っと」
「大丈夫だ。一応頑丈だから」
「すいません。あっ、チルノちゃん大丈夫かな」
「チルノちゃんって誰だ?」
「私の友達です。この先にいるはずなんですけど、あの二人にやられてないといいんだけど」

 多分それは無理な相談だと思うぞ。
 霊夢が妥協するわけが無い、たとえ相手が妖精だろうが妖怪だろうが人間であろうが全力で潰しにかかる奴だ。
 まぁ、命を奪うほどのことはしないだろうから大丈夫だろうけど。

「ど、どうしよう、様子見に行かないと」
「なら俺たちも一緒についていくぞ」
「え、でも、そんな悪いですよ。私あなたのこと殴っちゃいましたし」
「それはもう気にしなくていいぞ。それよりも知り合いが心配なんだろ? もしかしたらまだ巫女がいたら俺が説得できるかもしれないからよ」
「わ、わかりました。それじゃ付いてきてください」
 
 そう言って先に飛んでいくのでルーミアと共にその後を追う。
 ちょうど中間くらいになったあたりで霧が出始めるし、なんというか肌寒くなってきた。

「ううう、ちょっと肌寒いな」
 
 霧が幻想郷を覆ってるからって事もあるけど、これは少しばかり上の寒さだ。
 と思っていると先を行っていた少女にぶつかる。
 軽く謝ってからその少女の視線が真下に向いていることがわかって、そのまま視線を下へと向ける。
 あ〜、なるほどね〜。

「あれがチルノちゃん?」
「そうなんですけど………」

 そこには青い髪に青い服、そしてなんというか水晶のような羽を持った少女が一人浮いていた。
 なんだろうね。これはあれだよ、もうお亡くなりになってるんじゃないかな。
 だって、微動だにしないしさ。本当にボロボロだし。
 ここは見た目で新鮮かどうかわかる奴に聞いてみるか。

「ルーミア的に新鮮だと思うか?」
「新鮮なのだ〜」
「OKもう下がっていい。あと今から少しだけ半径1m以内に入ってくるなよ」

 ルーミア的に新鮮=生きているという方程式が成り立つわけで、すぐさま少女と共にそのチルノちゃんと呼ばれる水死体寸前の物体を拾い上げる。
 そして浮上、そして今回は少女に任せることにする。また、ビンタを食らった日にゃ笑えん。

「チルノちゃん、チルノちゃん、大丈夫」
「ん………、あ、あれ大ちゃん?」
「よかった。チルノちゃん」

 目を覚まして周りを見回すその青い少女、はて、なんで俺のほうを向いた瞬間に動きを止めるのでしょうかね。
 それと若干だけど攻撃的なオーラが発生している気が、って

「うお!」

 体を横にずらして突然飛んできた氷の弾を避ける。
 当たってたら体に食い込んだと思う。絶対痛い、って言うか傷口が凍るくらいの冷たさだと思う。

「何しやがる!」
「何って攻撃に決まってるじゃないの」
「いきなり攻撃していいのかよ」
「あたいはさいきょーだから」
「さいきょーって」
「知らないのおばかさんだね」

 年端もいかないような見た目の少女に馬鹿呼ばわりされるのは少々癪に障るが、まぁいい。
 
「まぁ、いいや。チルノって言ったか、ここを赤い服を着た巫女と、やたらテンションが高い女が一人通らなかったか?」
 
 絶対通ったはずだけどな。

「あたいを落としていった連中のことね。あの二人、あたいが少し手加減したからって―――」
『…………』

 いろいろとツッコミたいことがあるのは俺だけではなくあの少女もまた微妙なまなざしをチルノに向けている。
 いや、今はそんなことはどうでもいい。その二人が霊夢と許斐であることは間違いない。
 どこに向かったのかを聞かなければ。

「あたいの反応がびたっと15秒早かったら勝敗はわからなかったわ」
「それすごい差じゃねえか?」
「うるさい」

 拗ねてやがる。まぁ、子供らしくてかわいらしい気もしないわけではないけど。

「じゃ、そのさいきょーのチルノに聞きたいんだけどその二人がどこに飛んでいったかわかるか?」
「あたいにわからないことなんてないのさ。あっちに飛んでいったよ」
「チルノちゃん、そっち私たちが来たほうだから」
「わかってるわよ。ほんとはあっち!」

 これは信用していいのだろうか。気づいたら変な場所をうようよと彷徨うだけになってしまうような気がしてならない。
 チルノは正直当てにならん気がする。こいつのいうとおりにしたら地雷原に入り込むのと同じような事態になる気がする。

「ふふふ、あたいがあと数十人いれば道に迷うことも無いわね」

 っていうか、こいつが何十人いても同じ結果になるんじゃないかと思うのは気のせいだろうか。
 しかし、あいつらがどこに向かったのかもわからないし一応チルノの言葉を信じてみるとするか。

「まぁいいや、ありがとな」
 
 チルノと大ちゃんと呼ばれていた少女の頭を軽く撫でてから後ろで待機しているルーミアに顔を向ける。
 あれ、なんかちょっと表情が違う気がする?

「どうしたルーミア?」
「なんでもない」

 なんだ、いつもの能天気な声じゃない。
 なんていうか機嫌が悪いようなそんな声だ。
 
「そ、そうか。それよりも行き先がわかったからいくぞ」
「そーですか」
「そ、そーなんです」

 背中に服が張り付く感じが拭えないが、さてと霊夢たちを追いかけるとしよう。
 チルノが指差す方角へと羽を伸ばそうとした刹那。

「ちょ〜っとまった!」
「!!!!!?」

 いきなり眼前に現れたチルノが俺を指差す。
 なんだ、アイスランスか? アイスランスなのか!
 やっぱり一発攻撃を加えないと気がすまないたちなのか?

「あんた、あの二人を追いかけてるみたいね。だから、さいきょーのあたいが着いて行ってあげるわ」
「遠慮します」
「そうよありがたく思いなさい!」

 あれ、俺は遠慮するっていったはずなのになんで行くような会話になってるんだ?
 っと、そんなことを考えている俺を突く指が。

「あの、道案内くらいはできると思うので、お願いできますか?」
「そうそう、あたいと大ちゃんが道案内だってしてあげちゃうんだから」

 なんだ、この地域密着型観光ツアーで、ガイドさんをお付けしましょうって無理やり契約させられそうな感じ。しかも、パンフレットに書いてあることくらいしか話してくれない奴。
 まぁ、ツアーガイドとしてあたりっぽいのは大ちゃんかね。
 しかも、これはルーミアの時と同じで俺が首を縦に振らないと先に進めない感じがするし。
 霊夢たちには置いてかれるし、死ぬし、面倒ごとがどんどん重なっていくなんて、今日は厄日ってことであきらめるしかないな。
 気体に満ちた瞳を向けてくるチルノに対して俺はとてつもなく嫌な顔をしながら頷いた。 

「ふふふ、さいきょーのあたいに任せておきなさい」
「お世話になりますね」
「へいへい。そういえば自己紹介がまだだったな。俺は市ノ川圭介、呼びたいように呼んでくれ。それでこっちにいるのがルーミアだ」
「あらためてあたいはチルノ、さいきょーよ」
「大妖精って言います。大ちゃんでいいですよ圭介さん」
「ああ、わかった。それじゃ大ちゃん先導よろしく」

 そんな感じで新メンバーを加え、四人体制で霊夢たちの後を追う俺たち。
 え、道案内をチルノに任せる?
 それは自殺行為ってものだよ。

 



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