「ちょっと出かけてくる。夜までは帰らないと思うから」
「わかった〜」

 これが朝の会話である。
 この会話を聞く限り俺は一人で出かけたと思われる会話だろう。
 しかし現実はかなり違う。

「…………」
「♪〜、♪〜」
「…………」
「悪霊退散♪」
「歌うな!」
「あ〜、返してよ!」
「ていうか何で来るわけ、今日くらい一人にさせてくれよ」
「いいじゃん」
「あのな!」
「お客様、電車の中ではお静かにお願いします」

 電車の中、この歳になって見回りに来た乗員に叱られている俺。こんな取り乱すようなことは無いんだよいつもはね。
 でも今回は事情が違うんだよ。だってさ、目の前に家にいるはずの人物がいるからだ。
 シャツとジーンズなんていう恐ろしい格好をしているナイスバディさんがそこにいる。つまり許斐だ。
 なぜここにこいつがいるのか、わかる奴は今すぐケータイに連絡してくれ、わかりやすい理由だったら金一封やるよ。
 
「へっへっへ〜、怒られてやんの〜」
「お前も…………、もういいです」

 窓の外に広がる田舎の風景を見ながら神社に行くことを始めて後悔していた。
 反省は役に立つけど後悔は役に立たないなどということを誰かが言っていたっけ、もうどうでもいいけど〜

「ひゃっはぁ〜」
「うわ、ケイちゃんが壊れた」
「もういいんだよ。暇だからケ○イやろうぜ、後一時間くらい掛かるしよ」
「OK〜、それじゃD○」
「さんきゅー」
 
 もう起きてしまった事は仕方ない、まぁ別にこれと言ってすることなんてなにも無いから気にすることもないだろう。
 今はそうだな、何で付いて来たんだよっていう怒りを込めてメタメタにしてやる。
 いつも仕事しないで遊んでる奴が、仕事が終わってから夜中眠ることなく腕を上げた人間に勝てると思うなよ!
 そして、今度は俺がゆっくりして、許斐がコン当を買ってくる生活が始まるんだ。
 グフフフフフフフ、下克上さ!


『○駅〜、○駅〜、お出口右側です〜』
「あ、もう着いたみたいだね」
「うん、そうですね」
「弾の誘導はうまいけど、ロックショットに頼りがちだと思うよ。出来る限りショットで敵を落とすのが対戦モードの基本だからさ。それとボムはケチらずに使ったほうが良いよ。2週目があるわけじゃないんだからさ」
「はい」

 ちくしょう………
















「ふへ〜、結構緑が多いね!」
「そうか?」
 
 目の前に広がる山の数々を見て許斐が漏らした言葉に俺はそう返した。
 さて、なぜそんなことを言えるのかというと、昔のここ周辺の姿を俺は知っているからである。
 今駅があるここだって、昔は森だったんだし、駅の真横にあるコンビニの場所には祠があった気がする。
 思ってみれば人間って相当罰当たりなことしてるな。

「ケイちゃんは外国行ったことあるからやっぱり少なく見える?」
「あ、ああ」

 微妙な返事をしてしまったが、これ以上の詮索などしないだろう。
 さて、それじゃ登山を開始する前にコンビニに寄って飯を確保しますか。
 
「やっぱりチーハンだよね」
「おい、冷えてるのはさすがにキツイだろ?」
「そうだね、おにぎり十二個くらい持ってこう」
「うむ、その判断は素晴らしい」
「へっへ〜」
 
 ちなみにこの代金は俺が出してます。何でって、飯は俺の担当だからなんだけど、もう少し自重した買い方を心がけて欲しい。
 そのなんだ、懐が結構寒々しくなってきたんだよこの頃。
 
「むっ、何だその顔〜」
「わかっててやってるだろお前」
「何のことだかさっぱりです。すいませ〜ん、お願いしま〜す」
 
 はぁ〜、俺の財布を勝手に奪って会計済ませるなよ。
 それと定員さん、ちらちらと許斐の胸に目線を向けてるみたいですが、もっと直視してやってもいいんですよ。俺彼氏じゃないですから。
 
 そんな定員さんを見ていられなくて俺は先に外に出る。

「おまたせ〜、なんかコンビニとか行くといつも視線を感じるんだよね。胸辺りだけど」
「よかったな」
「セクハラだよねこれって」

 理解しているならそんなシャツだけなんていう格好を止めたらどうなんだろうか?
 いや、お前自体が歩くセクハラなんじゃないのか。
 
「私は歩くセクハラじゃないし」
「勝手に人の心の中を読むな」
「顔に出てた」
「そうですか、そうですか」

 こんな話ばかり続けていてもしょうがない、そろそろ神社へと向かうとしようか。
 このままじゃ田舎道でセクハラを語り合う変な人間に見られてしまう。それはごめんだからな。
 そんなことを思いながら森へと向かった。

















 いつもなら森に入ったら直ぐに空を飛んでいくところなのだが、今日は許斐がいることもありそんなことは出来ない。
 いきなり俺が空を飛び出したら、背中に乗せろとか行ってくるに決まっているからだ。あぶないあぶない。
 しかし、林道と山道を駆使して神社に行くのは久しぶりだな。

「うへぇ〜、急な山道、こんなの毎度毎度登ってるわけ?」
「そうだな、まぁ、毎度毎度行ってりゃ慣れるもんだよ」
 
 嘘であるが、元々数百年くらい生きてるからこんな山道で疲れるくらいの体力じゃない。
 っていうか、数百年前はこんなのでへこたれる様な体力じゃ普通でも生きていけないような世界だったんだけどね〜。
 色々と問題もあったし、妖怪との戦いも多かったし。
 しかし、それをいうなら許斐も結構体力があるように見える。

「あまり疲れてるようには見えないが?」
「まぁ、一応これでも体力あるほうだし、このナイスバディを保つために運動もしてるしね」
「食生活を改善しないとそのスタイルも維持できないぞ」
「食べたいものは食べるからいいの〜、それに私太らない体質だし〜、余分な栄養は全部胸に回るから大丈夫、大丈夫♪」
 
 世の女性総てを敵に回すような言動ありがとう御座います。絶対に街中で言っていないことを祈ってます。
 しかし、許斐のニートっぷりはなんかキングオブニートに認定されるんじゃないかってくらいにすごいな。
 スイミング、空手、英会話、トレーニングジム、ゲーム、漫画………ほとんどをパーフェクトにこなしているんじゃないだろうか?
 
「まぁ、人生楽しく生きてるんだったら別に良いけど」
「うん、楽しく生きてるよ〜」
 
 できればその楽しいで俺から食費を奪うことを止めてくれないかね。
「それはだめ」
「だから心の中を読むな」
「顔に出てるだけだよ」
「はいはい」
 俺ってそんなに顔に出やすい性格なのかね。
 
 しばらくして………

「う〜ん、ケイちゃんあれかな?」
「ん?」
 許斐の指差す方角にはなんと言うか石の間から草が出ている石段があって、それを上がりきったところに鳥居の姿が確認できる。
 結構な距離を歩いた感じは無いが、やっぱり空を行くのと違って時間も掛かったものだ。

「ああ、あれ上がれば目的地だ」
「そうなの〜、じゃあ私が一番乗りだ!」
 
 そう言って勢い良く駆け出して石段をどんどん上がる許斐、シャツが揺れてブラが見えるのが少しばかり目の保養………、ごほん。
 さて、それじゃ俺も行くとしますか、まぁ、登ったところでなんでこんなところに来てる訳とか言われそうだよな。
 溜息を漏らしながら石段を上がる。
 この上にあるのは寂れた神社だけだからだ。その名前自体は知らないが、あの楽園の境界にあるということもあって有名な神社に違いないのだろうが、
 まぁ、この際言えば未だに楽園に入ることを諦めていない俺の悪あがきのわけであるが。
 
「神社に着いたら、のんびりと昼食にするとしようっと」

 まぁ、たまにはこんな理由でここを訪れるのも悪くないな〜、なんて思ってると。

「ケイちゃん!」
「?」
 階段を駆け下りてくる許斐の姿、どうかしたのだろうか?

「大変だよ、なんか人が倒れてておなかが減ってるみたいだから早く来て!」
「な、なに?」

 珍しいこともあるものだ、まさかこの神社に参拝しに来る奴がいるとは、しかしなぜ空腹で倒れているのだろうか?
 許斐に半ば無理やり手を手を取られて石段を駆け上がる。
 さて、こんなところまで参拝に来る珍しい奴の顔でも拝むとしますか。
 
 太陽の輝きを見ながら俺は許斐と共に石段の頂上すぐにある鳥居を潜り境内へと侵入する。

「大丈夫ですか〜、これおにぎりです」
「ちゃっかり自分のおにぎりをあげないのは、俺のことを苛めてるわけですよね?」

 鳥居を通り過ぎたと同時に倒れた人物へと駆け寄っていく許斐、倒れているのは少女のようだな。
 紅いあれは着物かな、それにしては露出も多いし、秋葉系ファッションの人だろうか。
 しかし、なんというか肌の白い人だな。昔ながらの日本の美って感じだね。
 
 しかし、腋が見えすぎだろ。

「あ…………、ごはんだ」
「はい、ごはんです。ゆっくり食べてくださいまだありますから」
「あ、ありがとふ」
「零れてるぞ」

 あのビニールに入っているおにぎりの数は十二個、まぁ、あんな華奢な少女が六個食べられるわけもあるまい。
 しかし、もう三つ目になるんだが全然速度が収まっていないって、一気に二個食いですか!?

 気づけば俺の分のおにぎりは無くなっていたわけである。ちなみに飲み物もだ。
 ご満足げな少女は立ち上がって俺たちを見てから軽くお辞儀してきた。

「助かったわ〜、この頃何も食べてなくてそろそろまずいかなって所だったから」
「そうなんですか、よかったですね」
「ええ、よかったわ」
「なぁ、許斐俺に一つだけおにぎりくれない?」
「だめ」
「そこを何とかさ」
「だめ」
 だめの一点張りですか、まあ予想はしていたけど。
 しかし、それよりもだ。

「なんでこんなところに倒れてたんだよ。こんな寂れた神社なんかにさ」
「……………」

 あれ、なんかダークなオーラが放たれているような気がしなくも無いような…………

「えっと、なんか俺悪いこと言ったか?」
「ええ、言ったわよ。間違いなくね。へ、そうよ、ここは博麗神社、妖怪ばかりが利用する寂れた神社ですよーだ」
 
 妖怪って、今のご時勢に妖怪はほとんどいないんだぞ。海外に行けばそれらしい奴と会うことは出来るけどさ。
 しかし、なんていう言葉だ。自棄になるにもほどがあるぞ、まぁ、そんな少しいじけているような顔は可愛いんですがね。
 って、何を考えている俺、平常心だ平常心。

「まぁ、あんたら見たいなのが来るのは初めてだけどね。どうやってここに来たのかしら?」
「階段からきました」
「そう、じゃぁどうやって結界抜けたのかしら?」

 …………………え〜っと

「それはどう「それはどう意味ですか?」」
 俺の台詞を奪うなっての!

「そのままの意味よ。妖怪も簡単に通れないほどの博麗大結界をこうも簡単に抜けてくるなんて一体何者よあんたら」
「大結界?」
 その言葉を聞いて俺はやっとその周りの変化に気がついた。
 綺麗に掃除されている境内、立派な賽銭箱、そしてなにより俺の記憶と違っているのはその神社だ。
 とても綺麗な神社が建っているわけである。
 いつもなら古ぼけていて所々に破損箇所が目立つ神社のはずなのに、今目の前にあるのは人が生活している気配をかもし出している生きた神社である。
 そもそも目の前にいる少女の存在がある意味で一番おかしいことに気づくべきであった。いつもあんなに閑散としているんだ、人がいること事態おかしいことだろ?

「まぁいいわ、それよりあんたら名前は」
「私は白幡許斐、ニートです」
「ニート? なにかの職業かしら?」
「そんなものです。それでこっちが私の家の居候のケ「市ノ川圭介だ」」
 危ない、ここでちゃん付けの名前など言わせるわけにはいかない。
 初対面なんだからその呼び方は自重していただきたい。
 
「許斐さんに圭介さんね。まぁ、上がって頂戴、おにぎりのお礼にお茶は出すわ」
「は〜い」
「ちょっとまて」
「?」
「俺たちだけ名乗ってあんたが名乗らないのはいけないだろ?」
「そうね。私は博麗霊夢。ここ、博麗神社の巫女にして楽園の巫女よ」
 その言い方からするとなんか(自称)が付きそうな気配がするが、さて、どうしたものか?













「それで、結局どうやって幻想郷に入ってきたのかはわからないわけね」
「まったく」
「同じく」
 ここまで聞いた話を軽く纏めると、この世界は『幻想郷』というらしい。なんでも数百年前に出来た妖怪の楽園であるらしい、つまり、俺が入り損ねた例の楽園そのものである。
 この数百年間、どうやっても入れなかったのに、どうしてこうもあっさり入れたのかはわかりませんが、夢達成おめでとう。
 だが、なぜこうも簡単に入れたんだ?

「なぁ、霊夢さん」
「あ〜、『さん』づけは無しよ。霊夢でいいわ」
「わかった。霊夢、大結界ってこんな簡単に入れるものなのか?」
「簡単に入れるなら大結界なんて名前つけないし、そもそも先代が作った代物がこんなものだったら、とっくの昔に幻想郷は消滅してるわよ」
「なるほど」

 さすがは数百年という時間存在し続けていた楽園だ、そんな簡単に大結界を通過できるわけ無いか…………

「時々、どこぞの妖怪が人を迷わせることはあるらしいけどね」
「その言い方じゃ、その妖怪の性じゃないように聞こえますね」

 真面目な顔してる許斐を見るのはなんというか新鮮だが、どうしてこいつはこうも動じないんだろうか?
 そんなことを思いながらも、この幻想郷がどういうものなのかを想像する。
 幻想郷、幻想の者たちが生きる世界。幻想=人外の者たちのことだろう、昔話したり戦ったりした妖怪もこの地にいるのかね。
 だが、ここの雰囲気を見る限りでは妖怪同士が殺しあったりするというような血生臭い世界ではないように感じられるな。

「まあね、そいつとは会ったことが無いからなんとも言えないんだけど。だから今は帰らせることも出来ないわ」
「え、外の世界に帰れないんですか?」
「現段階ではなんとも言えないからね〜」
「まぁ、仕方ないだろうな」

 予想はしていたけどな。
 しかしとなるとこの幻想郷でしばらくの間生活しなくちゃいけないわけだが…………

「ケイちゃん、寝床どうしよっか?」
「そうだな、なあ霊夢。しばらくの間ここに泊めてもらえないかね?」
「別にかまわないわよ」

 ありゃ、思ったよりもあっさり決まっちゃったよ。もうすこしてこずるかと思ってたんだけどな〜
 まぁ、泊めてもらえるのはありがたいから何もいわないんだけどね。

「その代わりなんだけど、料理作ってもらえないかしら?」
「料理だけで良いのか?」
「ええ、料理を準備してくれるなら」

 なんか妙な含みのある言い方だが、仕方ないだろう。
 それに俺だって料理が作れないわけじゃない、むしろ作れるほうだし、任せとけって!

「ああ、わかった。それじゃしばらくの間よろしく頼むぜ、霊夢」
「こっちもよろしくね霊夢〜」
「ええ、二人ともよろしく」

 こうして俺と許斐は、しばらくこの神社のお世話になることになった。



 















「まぁ、色々あるわけよ」
「色々と大変なんですね。はむはむ…………」
「そうなのよね、はむはむ………。ん〜、これ美味しいわね」
「マヨ唐っていうんですよ〜」
「へぇ〜、変わった味ね」
「…………」
「これも中々美味しいんですよ」
「どれどれ。………! 美味しいわ」
「でしょでしょ、ハンバーグっていうんですよこれ」
「……………」
「色々あるわね、はむはむはむ………」
「色々あるんですよ、はむはむはむはむ……………」
「…………………………なぁ、俺にもくれない?」
『だめ』

 ちくしょう…………
 
 








あとがき
 ここまで読んでくださりありがとう御座います。メリィー&ジェムです。
 さて、なんとも簡単に幻想入りを果たしてしまった二人、この先一体どういう風に話が進んでいくのか私にもわかりません。
 そういうのが私の創作スタイルだからです。まったく見切ることの出来ない旋風の中を踊る木の葉のように私の話はそういう風に書かれます。
 それと読んでいて気づいたと思われますが、霊夢はまだ紫と接触すらしていません。いつ登場するのかな?
 それでは今回はこれにて失礼させていただきます。誤字脱字の報告や感想などもらえると嬉しいです。
 では〜
 
 




 





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