そう、俺は運が悪かった。
 数百年前か、俺は入り損ねた。そう入り損ねてしまったのだよ。
 一度だけちょっと眠ても良いかななんて考えで眠ってしまったのがまずかったのだ。
 走った、俺は走った。その場所目指して走り続けた。

 もう長いこと時間が経った二年くらい前だろうか、あるお姫様が来ているという屋敷から一つの丸薬盗み出して口にしたことが原因だ。
 なんか、それから体の変化とかに笑いが取れなくなってた。だって、あれですよ。盗賊に襲われて首飛ばされたのに気づいたら体元通りなんですから、盗賊のほうも化け物だって言って逃げ帰る始末。
 そう、人類の夢といえるようなものか、俺は不老不死とか呼ばれる良くわからん存在になってたわけだ。いい迷惑だった。

 それから二年間、森に篭りながら時折見かける妖怪に腕一本と引き換えに色々と情報交換してきたわけだ。まぁ、そんなことしなくてもちゃんと話してくれた奴もいたけど、最悪の場合ダルマにされたこともあったっけ。
 そして聞いたわけだ。しばらくの間に妖怪の楽園と言える世界ができるという話だ。現在、大妖怪なる地位に君臨するものが妖怪たちを無理やりな形であろうとなかろうと、集結させその準備に取り掛かっているらしい。

 その日がいつになるかはわからないが、そこに飛び込むことを俺は目標にした。一応人間として隠れ住むことくらいはできる筈だと踏んだからだ。
 なにせ、こんな不老不死などという人間が、普通の生活を送れるわけが無いからだ。
 世界ってのはきびしいものだ。
 そう、そこまではよかったのだ。そして俺は過ちを犯してしまった。

「はっ、はっ、まてまてまて!」
 わかる、見るだけでわかる。わかってしまうのが悲しいくらいにわかってしまうのだ。

 目の前に見える広大な森に大きな蓋を被せる様に広がりつつあるその結界。
 寝過ごしてしまったのだ。いつ行われるのかはわかっていなかったが、妖怪たちが多く移動し始めたら行こうなどと考えていたことが甘かった。
 現に俺は寝過ごし、結界は閉じようとしている。

「ちょっと、まってくれぇ!」
 全速力で空を翔る。
 しかし時間は無常であり、その結界は瞬く間に地面へと近づき、やがて完全に閉じ、その場所にあった広大な森林は見えなくなった。
 それが数百年前、俺が入り損ねた瞬間であった。


◇◇◇


 そして現在、俺は現代社会の中で生きている。片手にレジ袋を持って。

「はぁ〜、こんな高カロリー食ばっかりか、なんか鬱になるな」
 遥か昔、入り損ねた楽園のことを思い出す毎日。
 友人はいる。友人に俺が不老不死であることは告げていない、いや、告げたところで笑われるし、信じてくれさえもしないだろう。

 まぁ、別に構わない。

 さて、そんなことを考えながら家に着く。
 現在の住居、つまり友人の家だ。

「ただいま〜」
「おかえり〜、おっ、コン当〜」
 コンビニ弁当のことだ。

「ああ、そうだ。っていうかお前もバイトしろって」
「え〜、だってニートって止められないんだもん」
 そんなこといったら俺もニートになるぞ。冗談抜きで死なないからさ。

 さて、そんな感じで俺を泊めてくれているこの白幡許斐(しらはたこのみ)ですが、彼女は本筋のニートです。貯金が凄まじいくらいあるからです。兆を越えてます。どう手に入れたかは知りません。
 そして俺はその許斐の家に泊めてもらっている立場なのでこうやって食事を提供する立場にいるわけです。ちなみにフリーターです、ニートじゃありません。
 ちなみに許斐は顔立ちも良いし、長い黒髪だし、胸も大きい部類に入りますが、彼氏を作る気は無いそうです。今すぐにでもなってくれる方は来て下さい、そしてニート生活を終わらせてあげて下さい。

「まぁいいや、それより食べよ食べよ」
「だからって下着とシャツだけで部屋を走り回るな。
「いいじゃん、いいじゃん。別に減るもんじゃないし」
「たしかにな」

 居間に入ってみれば今流行りのアニメーションが流れていた。
 不老不死になった主人公が戦いを繰り広げる作品らしいのだが、見ていて笑えない俺。

「爆笑だね、あ、生き返った。早過ぎだって!」

 画面に映る首を切り取られてからものの数秒で生き返る主人公君。

『狙いは良いが、不死には効かない!』
 実際、死ぬときって結構痛いんだぜ?

 そんなことを思いながらもさっさとレジ袋の中に入っている弁当を取り出して置く。
 ちなみに許斐の好きな弁当はチーズハンバーグ弁当であるため、真っ先に手渡しておく。

「わかってるねぇ〜、関心関心」
「はいはい、俺はのり弁で良いです」
 値段は安いが味はそれなりに良いのり弁だ。俺としてはもう少し家計を切り詰めた生活を送らなければならないわけだ。
 なにせ許斐は俺に資金を提供してくれない、してくれないのに弁当を買って来いと言うのだから笑えないわけだ。
 さて、そのまま弁当を温めていつも通りの食卓を開始するわけだ。

「なんか、味落ちた」
「文句言うなら食うなよ」
「ん〜、でも食う」
「そう言えば、コミックの新刊買っといてくれたか?」
「限定版もコンプ済み、部屋に置いてあるよ」

 ちなみにこいつのいうコンプ済みというのは、観賞用、保存用、要保管用の三点が揃ったときのことを指すのである。
 つまり限定版三つに、通常版を三つというわけだ。一体どこに収納しているのかと聞いたら、この頃話題のレンタルで借りれるコンテナを三つくらい借りて、その中に湿気が入らないよう真空パックに一つずつ入れて保管しているらしいのだ。
 まぁ、そのおかげで居間に漫画本が溢れているという状態が無いわけであるが。

「さすがに、コン当を買ってきてくれてることは感謝してるんだから、娯楽提供の義務があたしにだってあるわよ。別にしたくてしてるってわけじゃないんだからね!」
「居間流行りのツンデレとかいう奴か?」
「あはっ、わかった。さすがはケイちゃん。中々に学習してるみたいだね〜」
「嫌なことばっかり教えないでくれ、萌えとか、萌えとか、萌えとか」
「あははは、そうかもね〜」
「なんでお前が笑う」
 そんなことを思いながらその後、一緒にX○OX360で遊び、一緒に風呂に入って、自分の部屋に入るわけである。

 え? なに一緒に風呂に入ってんだって?
 これが初めてじゃないし、見慣れちゃったし、男としての威厳ゼロだし、最初俺だって抵抗したよ、けどね。
(ギャルゲーみたいで面白いじゃん!)
 それだけ言って俺がまだ入ってる最中に入ってくるんですから、もうだめですね。それからもう日課みたいなものですよ。
 っていうか、男としてみてもらえてない気がしてならないんですよね。かなしい。
 許斐の奴、俺だっていつ理性が飛んでも…………
 ゴメンナサイ、もう許斐相手じゃ理性が飛びません。もうそれが日常になっちゃいました。
 
「ふぃ〜、許斐はもう二十歳になるんだから、結婚すればいいのに」

 部屋に戻って本に手を伸ばし、パラパラと流し読みする。
 この本もこれで最終巻であり、ラストはやはり幼馴染と主人公が結ばれて終わっていた。

「ありえね〜。けど、漫画だから仕方ねえよな」

 不老不死という身であることもあるが、俺に似た同類はほとんど姿を消している。海外に行けば古い友人としてそういう奴はいる。
 そういえばあの時、話しをした妖怪たちが向かった楽園って、あの古ぼけた神社を境にしてるって話だったな。

「明日行ってみるか………」
 よし、明日はバイトも無いから久しぶりに行ってみるか!
 そんなことを思いながら寝ることにした。

 ちなみに……………

「ケイちゃん〜。怖いから一緒に寝ようよ」
「だが断る!」

 俺の名前は市ノ川圭祐(いちのかわけいすけ)である。



あとがき

受け入れられるかどうかを気にしながら投稿させて頂きました。メリィー&ジェムです。
これって実は二つくらい書いて放置したネタでして、久しぶりに書いていこうと思って変更を加えたものなんですよ。
だから、なんか古いって思われるかもしれませんがよろしくお願いします。
ちなみに書き始めた頃は永夜抄が出た頃だったので、主人公が不老不死の設定になってたりします。
色々おかしいと思うところもあると思いますがよろしくお願いします。
もしも、このお話で感想を書いていただける方がいたらお願いします。大型連結戦車の爆発並みに喜びますので。





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