―タイトル:はらぺこ妖怪とお菓子売り―

今日も毎度のようにお菓子を詰め込んだリュックを背負い人里へと飛ぶ。
つい2・3日前に売りに行ったばかりなんだけど、新しいお菓子が発売されたから感想を聞きたいんだよね。
僕は結構好きなんだけど…。

「…ん?なんだあれ」

視界に映る地面に金と黒の何かが落ちているのに気付く。
金色の髪の毛らしきものが風を受けてサラサラと流れ、黒い服のようなものから手足のようなものが…って!?

「し、死体!?」

何度も死んでる僕だけど他人の死体を見るのは初めて…いや、まだ生きてるかもしれない!
僕は大急ぎで地表に降り立った。
って、あれ…?

「もしかして…ルーミア?」

グゥ〜

何やら変な音で返事をされてしまった。
うーん、何度も食べられそうになってるけど、流石に倒れてるのは無視できないよなぁ。

「おーい…大丈夫かー」
「うぅ…」

ちょっとだけ逃げ腰で揺すってみるとルーミアが目を覚ました。
ほっ…生きてたか。
しかしどうしたんだろうか。

「おなかすいた…」
グゥ〜

…ああ、この音はお腹の音だったのか。
にしても倒れるほど空腹になるなんて、何も食べてないのか?
いや…人食いだからその方がいいのか。

「ねぇ…あなたはたべても…いいじんるい?」
「落ち着け、声の力が無いって」
「おなかすいたぁ…」

流石に不憫になってきたな…。

「お菓子で良かったらわけてやろうか?」
「よくわかんないけど、たべものならたべる…」
「ちょっと待ってろ」

リュックからうまい棒を3本取り出して渡す。
チョコレートよりは腹持ちがいいと思うしね。

「あーん…」
「ちょ、包装外してから食え!」
「ほうそう…?」

わかっちゃいねぇ。
仕方ないので僕が包装を外して中身を渡す。
そしてルーミアそれをサクッと口にした瞬間、

ルーミアの動きが止まった。

「ど、どうした?気に入らなかったのか?」

怒って僕を食べようとしないよな?
死なないとはいえ痛いものは痛いし、何より食べられるとか怖すぎるし。1人で少しだけびびっているとルーミアがブルブルと震え出した。
まさか、本当に怒って…!?

「美味しい…」

どうやら真逆だったみたいで、ルーミアは3本のうまい棒をもの凄いスピードで美味しそうに平らげてしまった。

「ねえ!他には?他にはないの?」

うわぁ…なんか物凄くキラキラした目で見詰めてきたよ…。
人里の子供達だってここまでキラキラしてなかった気がするぞ。

まぁ可哀想だし悪い気もしないので他のお菓子もあげてみる事にした。

チョコレート。
「甘い…美味しい」

ポテトチップス。
「パリパリ…美味しい…」

ビスケット。
「サクサク…」

かなりの量をあげたけど一向にスピードが衰えない。
どれだけ空腹だったんだろうか…。

「もっと!」
「あー…もう全部無くなっちゃったよ」
「そーなのかー…」

少しだけションボリするルーミア。
よほどお菓子が気に入ったんだなぁ。

「ま、まぁまたお菓子持ってきた時は今回ほどじゃないけど、少しは分けてあげるよ」
「ほんと!?」

うん、本当に美味しそうに食べてくれるし。
お菓子渡せば僕も食べられなさそうだしね。

「ところで何で倒れるまで何も食べなかったんだ?」
「えっと…人間は捕まらないし、家畜も人里から出ないし、森の果物とか木の実はあまり残ってないし、キノコは危ないし…」

つまり何も無かったと。
まぁ、それは仕方ないかなぁ。

「じゃ、僕はもう帰るよ」
「うん。…あ」
「ん?どうした?」
「食べ足りないから、腕とか食べてもいーい?」
「…お菓子あげないぞ」
「あぁ!ごめんなさい!」

お菓子パワーは絶大のようだ。
このはらぺこ娘め。

その後、お菓子を持ってくる度に何処からかルーミアがやって来てお菓子を要求するようになったのは余談である。

さらに人里で「宵闇の妖怪に襲われてもお菓子を渡せば助かる」という噂が流れ始めたのも余談である。

そしてその宵闇の妖怪が「お菓子をくれなきゃ食べちゃうぞ〜」とハロウィン紛いな事を言うようになったのも勿論余談である。



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