そう、良也は常々疑問に思っていたのだ。

――何故幻想郷の少女たちは同じ服ばかり着ているのだろうか。

いちいち口に出すわけにはいかない、些細過ぎる疑問。
だけれど、気になるものは気になるのだ。仕方ない。
しかし、口にするのも憚られるような、そんな些細なことだったからこそ。
良也は、ひとつの実験案を試すことにした。

―――――――――――――――――――――――――

「フランの新しい洋服?」
「そう。僕の妹のお下がりでよければだけど、今度持ってこようかなって」
「良也の妹の?」

紅魔館の大図書館――その一角で、良也は自分の上に座るフランに語りかけていた。
無論、眼前には師匠ことパチュリー・ノーレッジもいる。

「うん。相当古いけど、軽く洗濯すれば着られるかもしれないからさ」

さも今思いついた風に言ってはいるが、前々から準備はしている。
両親に電話をかけ、『知り合いの娘に譲りたいんだ、あるかな』と聞いたところ、今でも大事に保管していることが確認できての行動。

「フランに似合うのかしら?」
「分からないよ。どんなのがあったかも覚えてないし」
「フラン、着てみたいなぁ」

早くも目を輝かせているフランに、良也は内心ほくそ笑む。
我が策成れり、とばかりに。

「じゃあ、今度持ってくるよ」
「いっぱいお着替えできるの?うれしいなぁ!」
「あらあら。すっかり懐いて、まるで子犬みたいじゃない」

パチュリーが良也とフランを眺めながら本を読んでいる。
フランは良也に絵本の続きを読んでと急かしだす。
良也が着替えの話をした以外は、実に何時も通りの大図書館だった。

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それから一週間。
良也は実家に戻り、玲於奈の古着をもらって、そして幻想郷を訪れた。
向かうは紅魔館、似合うはずもないありふれた衣服をフランに着させるファッションショーの始まりだ。




――まさか、これほどとは・・・・・。
思わず良也はそう思った。

いつもどおりの図書館で、良也はフランに衣服を全部渡したのだが。
それを不審に思った咲夜に良也は問いただされ、レミリアにそれを知らされて――紅魔館を挙げてのフランドール・ファッションショーになったのは、まぁ良い。


問題は、全ての衣服をフランが気に入ってしまったことだ。
特にスクール水着などがお気に入りのようで、動きやすいや涼しいだと嬉々としていた。
咲夜はフランの新しい一面を見るたびに鼻血を噴出したりしていたが――それは、見ないことにした。


「良也、本当にフランがもらっていいのー?」
「あぁ、いいぞー」
「良也様、本日ばかりは感謝してもしきれません。フランドール様のあのような愛らしい姿を見られるとは、人生でも有数の良き日です」
「咲夜さんは少し落ち着いて」
「良也、大好きー!」

阿鼻叫喚というべきか。
玲於奈の着ていたワンピースを着たフランが良也に抱きつき、咲夜は良也に頭を下げる。
本を読みながら、ちらちらと様子を眺めていたパチュリーも微笑ましげに眺めていて――

「ちょっと待ちなさい。私の服はないのかしら」
「ないって。フランでちょうど良いぐらいだし」
「へぇ。そう、そんなにフランが好きなの?」
「・・・・いや、むしろレミリアは別に良いような気がするし」

邪悪な笑顔のレミリアが、良也に迫る。

「そもそもレミリアって、服とか買ってきても文句しか言いそうにないし」
「私に似合う服を選ばないのが悪いの。わかるかしら?」
「・・・で、どうせレミリアに持ってきたって文句を言われるだけなんだ、喜んで着てくれるフランに持ってきたほうがいいだろ」
「姉妹の間でひいきをするの?」
「うん」

これ以上の問答は、無用――否、していたくない。
恐らくレミリアが逆ギレして襲ってくるに違いないと、良也の本能が告げる。

「そう、いい度胸ね――」
「っ、逃走『エリートエスケープ』!」

レミリアの周囲に霊力が集まりだしているのを察知した良也は、即座に逃げ出すためのスペルカードを使用する。
自分の世界の痕跡を残した、その場に逃げるためのスペルカードをだ。
かくして良也は紅魔館から無事逃げ出せたのだが。

―――――――――――――――――――――――――

それからの数日間、紅魔館ではレミリアが不機嫌な顔をしていたという。
フランドールがレミリアの心境など知らず、毎日日替わりで服を変えていたから、余計にだが。

フランは良也から貰った衣装をひどく大事にし、誰にも触らせたりしなかった。

もっとも良也は、次に紅魔館に行くときに、レミリアやパチュリー、咲夜、美鈴に一着ずつ服を買っていってあげるのだが――それは、また別の話である。





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