酷い頭痛が、土樹良也の目覚めの合図だった。
余程飲みすぎたか、飲み方を間違えない限り二日酔い等にはなることもなかったのに、と思いながら、良也は頭を抑えながらむくりと起き上がる。
目を擦りながら、博麗神社の自分が借りている部屋であることを確認して。
同時に、自分の両足への重みの原因を確かめるべく視線を落として。

「・・・・あー、見なかったことにしよう」

美少女二人、しかも容姿で言えば特上級が並んで自分の隣で寝ているなど有り得ない、と良也は現実から逃避し。
再び布団に身を隠して、穏やかならぬ睡眠へと強引に就いた。


次の良也の目覚めは、先ほどの二人の美少女に見つめられてのものだった。

「・・・知らない天井だ・・・」
「何を言ってるんですか、良也さん」
「そうです先生、ここは博麗神社ですよ?」
「あー、あー、あー、聞こえないなぁ」

違う神社とは言えども、二人とも神職にある身の美少女が、半裸姿で眼前にいるのだ。
健全であることを自称している良也は目を隠し、その光景が目に入らないようにと頭をフル回転させる。

昨日の夜は、相変わらずの宴会で。
知り合いから知らない相手、低級の妖怪から神まで異常ともいえるメンバーが揃って酒を楽しんでいたはずだ。
自分は外界の焼酎やらを持ち込んで、やっぱり自分が飲む前になくなってヘコんだり、それでも弾幕ごっこをする少女たちを眺めて平和を感じていたりした。

「・・・なんで、霊夢と東風谷が僕と一緒に寝てるんだ・・・!?」
「あら。私たちを力ずくで連れてきたのは良也さんよ?」
「先生は神奈子様たちに『男なら女の一人二人孕ませろ、根性なし』って言われて、で男だって思い知らせるって私たちを連れ込んだんですよ?」
「だったら、抵抗ぐらいして・・・」

酔いが深すぎたのか、そんなことは良也の記憶には残っていない。
その上、この二人のうちの片方は明らかに自分よりも強いのに。
早苗とて霊夢といい勝負はしていたのだ、自分より弱い理由はないのに。

「私は、先生となら・・・って思っていましたし。神奈子様も先生なら文句は無いって言っていましたし」
「似たようなものね。私はもともと早く結婚しろって周りから急かされていたし、なら一番近くでずっと一緒にいた良也さんがいいのは自明の理ですから」
「ぇー」

何この巫女たちー、と良也はため息をつく。
自分がやった事を正当化する訳ではないが、しかしもっとこう。

「貞操が大事とか、二人一緒ってどうなのかとか思わなかった?」
「私は別に気にしませんから。浮気とかされても、私が一番であればいいです」
「わ、私は先生が相手してくれるなんて思ってませんでしたからっ」
「・・・・・っっ!」

頬を真っ赤に染め、恥じらいながら呟く早苗。
いつも通りの飄々とした口調の霊夢。
そんな二人を見て、良也も酷く恥ずかしくなってくる。

「ス、スキマ!見てるんだろ!?」
「紫なら来ませんよ」
「なんで!?」
「若い子の邪魔は出来ない、と言っていたもの」
「神奈子様も、元気な子を産めと笑っていましたし・・・」
「何考えてるんだ・・」

呆れと何かが入り混じった顔をしてみるが、取りあえずこのままで居るわけにもいかない。

「取りあえず、着替えよう。東風谷も霊夢も神社の仕事があるだろうし、僕もアルバイトがあるから戻らないと」
「あ、なら買ってきて欲しいものがあるんですが」
「ちゃんと戻ってきます・・よね?」
「うん、ちゃんと戻ってくるよ。霊夢は何?お酒?」
「えぇ。外界の珍しいお酒を何本か、あと外界のお菓子とかを持ってきてくれると嬉しいわ」
「分かったよ。じゃあ、一回帰ってくるから」

着替え、荷物を背負い、そして出て行く良也。
そんなに急がなくても、と早苗は思ったが、口にはしない。




去って行く良也の背中を見つめて、良也が出て行ったのを確認して。

「神奈子様、出てきてもいいですよっ」
「紫も。良也さんは行っちゃった様だし、出てきても構わないわよ」

早苗と霊夢の声がほぼ同時に口を開くと、何も無かった空間から紫と神奈子が姿を現す。

「良也は上手く騙されてくれたわね」
「これで守矢神社も安泰ってもんだ!」
「なんだか悪い気がするんですが・・」
「おいおい、それじゃあ良也を博麗の巫女に寝取られてもいいのかい?」
「あら、人聞きの悪いことを言わないでちょうだい」

からから笑う神奈子と、相変わらずの紫。
つまるところ、良也は早苗と霊夢に騙されていたのだ。
いや、正確には違うのだが。

「これで博麗神社と、守矢神社。ふたつの神社が共存することが出来る。幻想郷も更なる平安が望めるってことだ」
「そう。そしてふたつの神社を繋げるのは、良也一人だもの」
「でも良也の性格じゃあ絶対にはぐらかしたり逃げたりするだろうしね」
「対立より和解のほうが手っ取り早いのは確かだものね。面倒ではあるけど」
「だから絡め手を使うの。騙す方が悪いんじゃなくて、騙されるほうが悪いのよ」
「先生、ごめんなさい・・・」

神奈子と紫は愉快そうに笑い。
霊夢は相変わらずのマイペースのまま。
早苗だけが、罪悪感に苛まれながら。

幻想郷で重婚にはなるものの、結婚式が行われるのは遠い未来の話ではなさそうだ。



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