第四話「はたらけ腋巫女」



〜side 土樹良也〜


「ただいまー」

 そんな呑気な声と共に、楽園の素敵な鬼巫女こと博麗霊夢が帰ってきた。

「お帰りー。お茶飲むか?」
「頂くわ」

 そう言って、僕が淹れたお茶を飲む霊夢。
 縁側に、何とも言えないだらけた雰囲気が漂う。

「そういえば、さっきスキマが来てたぞ。博麗大結界の補修とかで」
「ああ、私が呼んだのよ」
「霊夢が? 珍しい事も……いや、ちょっと待て」
「何よ?」

 どうしても気になる点があったので、聞いてみた。

「スキマを呼んだ? あの住所不明のスキマを?」

 そう、スキマの住処がどこなのかは、僕どころか霊夢さえも知らないのである。
 トップシークレットという訳でもないのだろうが、仮に知っていそうな人物を挙げるとするならば、萃香か幽々子くらいのものだろう。

「別に、紫に直接頼んだ訳でもないわよ。紫の式に伝言を頼んだの」
「ああ、なるほどな」
「まあ人里で偶然見つけて、その時に結界の事を思い出したついでに頼んだから、調子がおかしくなってから補修まで一か月くらいかかったけど」
「職務怠慢じゃねえか!」

 博麗大結界を、そんなに軽く扱うな!
 普通に越えている僕が言うのも何だけどさあ!

「仕方ないじゃない。私じゃ結界を直す事なんて出来ないんだから」
「それ自体に文句はないが、それならそれでもう少し積極的に解決する姿勢を見せろ」

 霊夢に巫女の仕事に対する姿勢について説く僕。
 妙な状況だが、事が事だけにちゃんと言っておかなければならない。

 結界の不調って、外の人が迷い込む可能性があるじゃん。
 これ以上、僕のような憐れな犠牲者を増やす訳にはいかないのだ。

 もちろん、犠牲者というのは、幻想郷の非常識な面子の犠牲者の事である。

「過ぎた事にぐちぐち言っても仕方ないでしょ。そんな事より未来を見なきゃ」
「僕は、その未来のためを思って言ってるんだけどな」

 そして、その忠告が多分無駄だろうという未来も薄々予測できてしまう。

「しかし、結界の補修って、具体的に何をするんだろう?」
「知らないわよ。紫にでも聞いて頂戴」
「嫌よ面倒臭い。私には聞かないで頂戴」

 噂をすればなんとやら、何の脈絡も無くスキマが帰って来た。

「紫じゃない。もう結界の補修は終わったの?」
「そうね。誰かさんが放置していたせいで歪みが大きくなって、直すのに一時間もかかちゃったけど」

 そう言って、霊夢をジト目で見るスキマ。
 その目は言っている、「仕事サボんな」と。

 ……珍しくスキマと意見が合った瞬間だった。

「以後気を付けるわ」

 そしてこの巫女である。
 絶対反省してねえ。せめて謝るくらいしやがれ。

 スキマはもう諦めているのか、嘆息して話し始めた。

「結界はもう完全に直ったけど、少々問題が発生しているわ」
「問題?」
「どうやら、一か月前の揺らぎで、外の人間が迷い込んだみたい」
「マジで?」

 幻想郷に外来人が迷い込む事自体は、時々ある。
 その場合は、幻想郷に慣れすぎて結界を越えられなくなる前に、博麗の巫女、つまり霊夢が元の世界に帰す事になっている。

 問題は、その霊夢の怠慢が原因で、幻想入りから一か月もの時間が経過しているということだ。

「それって、結構まずいんじゃないか? 霊夢のせいで」
「まずいわね。霊夢のせいで」

 そう言って、もう一度霊夢にジト目を向けるスキマ。

「そうね。早く探しましょう」

 その言葉と共に飛んでいく霊夢。
 早く探さなければならないという点においては賛成だが、お前は一度くらい謝ったらどうだ。

「というわけで良也、私達は人里に行ってくるわ」
「……お前にも苦労ってあるんだな、スキマ」
「失礼ね。私にも悩みの種くらいあるわよ。主に霊夢とか霊夢とか霊夢とか」

 スキマをも悩ませるとは、恐るべし霊夢。
 恐らく今後は一度として向ける事はないであろう憐みの視線とともに、僕はスキマを見送った。

「……さて、紅魔館で読書でもしようかな」

 やる事が無くなったので、勉強の時間にする事にした。
 家事は全部終えているので、霊夢に文句を言われる事もないだろう。

 もう誰も残っていない博麗神社を後にして、僕は紅魔館に飛び立った。





 




 ……今更ながら、暇潰しで外来人を連れてきたスキマが、霊夢に文句をいう資格はないんじゃないかとか思ってみたり。













 あとがき

 どうも辛味です。前回はあとがきを書き忘れました。
 今回は伏線回です。新しい外来人と聞いて嫌な予感を感じた方は直感スキルA。オリキャラ2人目です。
 と言っても、あまり無節操にオリキャラを増やすとヤバイとは思うので、さすがにこれ以上は……ごめん、シリーズが続いたらあと一人増やすかも。
 それはともかくとして(逃避)、次回は紅魔館編(まだ物語はプロローグです)に突入。紅魔館といえば、この話で我らが主人公こと良也が向かった場所ではありますが、主人公ズの邂逅はもう少し先になりそうです。具体的には第九話。
 
 それでは、こんなグダグダな物語を見てくれている貴方に、最大級の感謝を。ガリガリと常識が削られていく雪夜とガリガリと幸福が削られていく良也の話を、これからもよろしくお願いします。



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