第9話  共鳴

 目を開けるまでもなく、良也の世界が広がったのがわかった。
「……ふぅ」
 まぁ、目を閉じたままではさすがにレミリアたちと戦えないのでゆっくりと目を開けて状況を確認する。
 まず、目の前にいる吸血鬼姉妹。俺の方を見て目を見開いていた。驚いているのだろう。
 次に腕の中で眠る良也。シンクロしたので今、良也の魂は俺の魂の中にいる。そのせいで体はこのように抜け殻だ。
「咲夜、空いてる部屋使っていいか?」
 紅魔館の廊下で俺たちの戦いをずっと見ていた咲夜に話しかける。大声など出していない。先ほどよりも良也の能力を扱えるようになっているようで“良也の世界を咲夜がいる所まで広げ、空気の振動を大きくし、声を届かせた”。
『え? あ、はい。そちらの部屋をどうぞ……』
 咲夜は動揺したまま、承諾してくれる。今度は咲夜が指定した部屋まで世界を広げ、仲の様子を把握した後、良也の体をベッドに転送する。
『う、うーん……』
 その時、頭の中で良也の呻き声が聞こえた。どうやら、俺の魂の中で気絶していたらしい。
『あら、目が覚めた?』
 吸血鬼が良也に話しかける。
『あ、れ? ここって響の魂、だよね?』
『ええ。そうよ』
『なら、どうして響が?』
(俺はここだぞ?)
『え? 響の声が聞こえた? どうなってるんだ?』
 まぁ、俺の魂の中にいる吸血鬼、狂気、トールは俺と同じ顔なので間違えるのは仕方ない。体つきはそれぞれ、微妙に違うが。
『おお、お前が良也か。会いたかったぞ!』
『え!? きょ、響が二人!? しかも、こっちの響、髪が紅い?』
(説明してやってくれ……こっちは戦闘に集中する)
『はいはい。ほら、良也。ここに座れ。説明してやる』
 狂気が面倒臭そうに良也に指示する。
『響が三人? どうなってるんだ!?』
 そろそろ、俺も面倒になって来たので魂との通信を切って目の前にいるレミリアとフランドールに集中する事にした。
「何をしたの? その恰好……良也が着てるのと同じだよね?」
 レミリアの質問に改めて自分の服装を観察する。
 確かにレミリアが言っていたように良也が着ていたシンプルなTシャツとジーパン、それにパーカーを羽織っていた。
「シンクロした……って言っても意味わかんないだろう?」
「「うん」」
 同時に頷くスカーレット姉妹。
「簡単に言えば、パワーアップだよ。ほら、かかっておいで。お二人さん」
「……敵は一人。良也がいない分、やりやすいっちゃやりやすいわ。フラン、行くわよ」
「うん!」
 レミリアが弾幕を放ち、その隙間を通ってフランドールが俺に迫って来る。まず、弾幕を何とかするために背中に背負っていた良也の剣を抜刀し、思い切り横に薙ぎ払った。その刹那――。
「うわっ!?」
 レミリアの弾幕が一瞬にして消え去り、それを上書きするように剣から大量の弾が射出される。フランドールが急ブレーキをかけるが、止まれずに弾に激突し、大爆発を起こした。
「フラン!」
 すぐにレミリアがフランドールの元まで移動しようとする。
(合流されると面倒だな。息も合ってるみたいだし。分断するか)
「お前は自分の心配をしろ。移動『ワールドロード』」
 レミリアの目の前まで細い世界を伸ばし、瞬間移動した。
「なっ!?」
「破壊『ブロークンディメンション』」
 俺が右手をゆっくりと突き出すと、空間が割れてレミリアの体が勢いよく吹き飛んだ。俗に言う衝撃波だ。
「お姉様っ!?」
 フラフラと煙から出て来たフランドールがレミリアの方に飛んで行く。だが、それを見逃す俺ではない。
「断殺『裂ける世界』」
 レミリアとフランドールを分断するように世界に亀裂が入る。それに気付かずにフランドールが亀裂にタックルし、弾き飛ばされた。
「な、何これ!?」
「世界を分けた。お前はここで俺と戦え。レミリアの相手は……もう一人の俺がやる。境符『合わせ鏡』」
 世界の亀裂の傍まで移動し、亀裂に両手を付ける。その途端、向こう側の世界に俺の姿が映し出された。
「よろしく」
「そっちもな」
 向こうの世界の俺は少しだけ微笑んだ後、レミリアの方に飛んで行く。
「さて……フランドール。楽しく遊ぼうか」
「……いいよ。私だって能力を使ってやる」
「? 俺の目は見えないはずだけど?」
 それはシンクロする前からだったはずだ。
「そうだよ。でも、壊すのはお前じゃない。天井だよ」
 そう言ってフランドールが上を見て右手をギュッと握った。
「くっ」
 天井から爆発音が轟き、瓦礫が俺に向かって落ちて来る。見れば、フランドールの方には落ちて来ていない。上手く調節したようだ。そこを狙う。
「反転『トリックチェンジ』」
「え?」
 スペルを宣言すると俺とフランドールの配置が逆になる。そう、俺に向かって落ちて来たはずの瓦礫は今、フランドールに向かって落ちているのだ。
「嘘!?」
 それに気付いたフランドールは右手を上に突き出し、連続で手を握った。握る毎に瓦礫が破壊され、塵となる。どんどん、土煙がフランドールを包んで行く。見失う前に『移動』を発動させ、フランドールの背後に回る。
「ケホッ……あいつはどこ!?」
「ここだ。破壊『ブロークンディメンション』」
「きゃあっ!?」
 衝撃波がフランドールの体を廊下に叩き付けた。
「増幅『グラビティフォール』」
「がっ!?」
 世界を操作し、フランドールにかかっている重力を増幅させる。どんどん、フランドールの体がめり込んで行った。
『ちょ、ちょっとやりすぎじゃないの?』
 頭の中で良也の声が響く。
「……すまん。手遅れだ」
『え?』
 スペルを使うのをやめてフランドールの様子を窺った所、どうやら、気絶しているようだ。
「まずは一人……咲夜、頼む」
「は、はい!」
 埋まったフランドールの体を掘り起こした後、レミリアがいる世界の方を見る。まだ、爆発音が轟いていた。
「『境符』を解除」
 すると、一瞬だけ目の前が歪み、すぐに向こうの世界で戦っていた俺と合体する。
「死になさい!」
「おっと!?」
 レミリアがすごい剣幕で突っ込んで来たので慌てて回避。さすがにレミリア相手に分身では勝てなかったようだ。
「やっと、本体が帰って来たようね」
 ニヤリと笑いながらレミリア。
「わかるもんなのか?」
「霊力が違うもの。やっと、本気でやれるわ」
「うわ、本気じゃなかったのか……」
 俺は出し惜しみしていないのだが。“良也のシンクロ状態では”。
「ええ。まぁ、今から本気で殺しにかかるから安心しなさい」
「へいへい……なら、俺も本気にならなくちゃな」
「へ?」
 正直言って出来るかはわからないが、『魂喰異変』では出来た。なら、良也とだって出来るはずだ。
(良也、準備はいいか?)
『何かやるの?』
(少し、動けなくなるけど俺を信じろ)
『……わかった』
「すぅ……はぁ……」
 意図的に発動するのは初めてだ。でも、どうしてか『成功する』と思った。
(共鳴……)
「させないわっ!」
 レミリアがそう叫び、俺に向かって突進して来る。
「宝物『おもちゃ箱の中にある大事な物』」
 スペルを宣言すると俺を囲むように霊力の壁が出現。
「こんな物っ!」
 レミリアが正拳突きを放ち、破壊しようとするが衝突した瞬間、高音が響いただけで壁はビクともしなかった。
「か、硬いっ!?」
『響……何か、僕もわかって来たよ。シンクロ』
(ああ……俺と更に共鳴しろ)
『言われなくても!!』
 もう一度、深呼吸。すると、レミリアが『宝物』を殴り続ける音が消える。それほど集中しているのだ。そして、目を閉じて何も考えないようにする。数秒間、そうした後、一気に霊力を解放。目を開いて俺たちは叫んだ。
「『フルシンクロ!!!』」
 俺たちの霊力が『宝物』を内側からぶち壊した。
「くっ!?」
 レミリアが吹き飛ばされそうになるほどの強風が俺たちからあふれ出している。すぐに背中に違和感を覚え、そちらを見ると『魂喰異変』の時と同じように純白の翼が生えていた。
「レミリア、これだけは言わせてくれ」
「な、何よ」
「俺がフランの血を飲んだ理由だよ。もちろん、フランの寝こみを襲って血を飲んだわけじゃない。俺の命を救う為にフランが自分の意志で血を飲ませてくれたんだ」
「……わかった。そういうことにしておいてあげる」
 俺の霊力を感じ取ったのか半分諦めたようにレミリアが頷いてくれた。
「サンキュ。じゃあ、威力を半減させてあげる」
「あら、許してくれないのね」
「お前は俺を殺そうとしたし、良也も巻き込んだしな」
「あいつはいつも巻き込まれるのよ」
(言えてる……)
 レミリアの言葉に共感し、口元が緩む。
「じゃあ、また後でな。魔法『エレメントパニック』」
 俺がスペルを唱えた瞬間、良也が使える全ての属性魔法が廊下を埋め尽くし、レミリアに向かって直進した。











あとがき


 はい、皆さんこんにちは。ホッシーです。
 第9話、読んでくださってありがとうございます!
 響さん、無双でしたね。読んでいてわからない点が多かったと思いますので、解説などして行きましょうか。

 まず、『シンクロ』についてです。
 私が書いている『東方楽曲伝』の中で活躍してくれる技です。
 作中でも猛威を振るいましたね。もちろん、発動条件があります。これをいつでも使えたら、無敵だもんね。
 一つ目は響と『シンクロ』する人との絆です。
 響との絆が深まればスペルが2枚、生まれます。それをお互いに持っていれば、一つ目の条件、クリアです。
 二つ目は響が『シンクロ』する人の曲を聴いてコスプレする事です。
 作中では紫さんのコスプレをしてスキマを開きました。
 実はコスプレは戦闘にも使えます。コスプレしたキャラの能力とスペルをコピーできます。
 このコスプレですが、2種類あって作中で使った『仕事用』と『戦闘用』です。
 『仕事用』はスペルを唱えればいつでも狙ったキャラになれます。しかし、能力も一部、制限され、スペルも使えません。
 『戦闘用』は能力もスペルも使えますが、完全ランダム。つまり、狙ったキャラになれません。
 二つ目の条件ですが、『仕事用』では出来ません。『戦闘用』で運よく『シンクロ』するキャラの曲を聴けばクリアです。
 因みに『東方楽曲伝』の本編で響が『シンクロ』したキャラは『フランドール・スカーレット』と『小野塚 小町』の二人だけです。

 ここで疑問に思った人がいるかもしれません。“響は何故、良也と『シンクロ』出来たのだろうか? 良也の曲を聴いていないのに”。
 二つ目の条件で『シンクロ』するキャラの曲を聴くと言いましたが、実は少しだけ違うのです。『シンクロするキャラと同じ能力を持つ』事が条件なのです。
 作中でも言ったように響の能力は『変化』します。コスプレすれば、そのキャラの能力に。良也の世界にいれば、良也と同じ能力に。
 つまり、良也の世界にいれば響はいつでも良也と『シンクロ』出来ます。


 次に『フルシンクロ』についてです。
 これは『シンクロ』時に共鳴率が上がれば、使えるようになる技です。
 『シンクロ』の時は『シンクロ』した相手の能力を使う事が出来ますが、『フルシンクロ』する時にその能力を犠牲にします。つまり、作中で響と良也が『フルシンクロ』した時、良也の世界は消えています。
 更に『フルシンクロ』時には背中に白い翼が生え、『シンクロ』の時よりも強力なスペルが使えるようになるんですが、その前に無双し過ぎたのでよくわからないですね。

 あとがきも1000文字超えてしまいました。もう少し、解説したかったのですが、さすがにやめておきます。
 第10話はまだ、書いていません。もしかしたら、最後の話になるかもです。
 それでは、また第10話でお会いしましょう!お疲れ様でした!



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