第8話 作戦 「うわぁ。お姉様、本当にあの子、殺すつもりだったんだ」 良也の剣を炎の剣で受け止めながらフランが響とレミリアの方を見て呟いた。もちろん、フランは本気を出していない。良也と遊んでいたいようだ。 「……」 だが、良也は振り返る事はない。 「いいの? 早く、助けないと死んじゃうよ?」 動揺させる為に放った言葉だったが、振り返りもしない良也を見てフランの方が焦る。いつもと様子がおかしいのだ。 「……少し前に話し合ったんだ」 「え?」 「僕の世界から音無さんが出てしまったら、彼女がタイミングを言うまで近づかないって」 もし、能力変化によって隙が出来てしまい、ピンチになっているとしても2秒耐えれば響が元々、持っていた能力に戻る。しかし、能力変化が終わった後にまた、良也の世界に入ってしまったら、更に2秒間の隙が出来てしまい、死亡する確率が増えてしまう。それを避ける為には良也は助けたくても近づいてはいけないのだ。 「それに……僕が行ったところで何の役にも立たないし。それならここでフランドールと遊んでいた方がまだ、役に立ってる」 「ふーん……なら、一緒に遊びましょ♪」 再び、良也の剣とフランの剣がぶつかり合う。そのせいか、良也のポケットから淡い光が漏れているのに二人は気付く事はなかった。 「ぁ、ぐっ……」 「……なかなか死なないわね」 右手を腹の中で動かし、更に痛みを与えるレミリアだったが、響のタフさに正直驚いていた。普通の人間なら痛みでショック死していてもおかしくないほどの激痛なはずなのに響は呻くだけで助けてと願いもしなければ悲鳴すら上げていないのだ。 (おかしい……) 違和感を覚えるレミリアだが、どこに違和感があるのか自分でもわかっていなかった。 「妖力、全開」 「え? なッ!?」 響が小声で何かを呟いた途端、彼の体から黄色いオーラが漏れ始める。それを見て危険を察知したレミリアが響の腹から手を抜こうと腕を引いたが、その前に響に右手首を掴まれてしまった。 「すぐに抜けばまだ、よかったのにな」 ぼそっと呟いた響の右手は異様なまでに光っている。いや、右手が光っているのではない。右手中指にはめられた緑色の鉱石が施された指輪が光り輝いているのだ。色も緑ではなく響の体から放たれているオーラと同じ黄色に変化していた。 「何がどうなってっ!?」 レミリアは驚愕しながらも暴れて拘束から逃れようとするが、逃げられない。それほどまでに目の前の敵の握力が強いのだ。 「神撃『ゴッドハンズ』」 指輪の鉱石が黄色から白に変わったと思った矢先、響の左手が白く輝き巨大化する。実際は巨大な手の形を神力で創造したのだが、今のレミリアは動揺していたので本当に巨大化したように見えた。 (こ、このままじゃ……) 響とレミリアの距離は近いので巨大化した左手で攻撃されてもクリーンヒットはしない。しかし、その大きさゆえ、衝撃は凄まじいと予測できる。喰らえば、大きな隙が生まれるだろう。それを突いて、また別のスペルを使って攻撃されてしまったら大きなダメージを受けるはずだ。 「ふんっ!」 レミリアが一筋の汗を流した刹那、響が平手のまま左から右へと左手を振る。 「お姉様!」 だが、後ろからフランの悲鳴が聞こえた時には響の体から発せられていた黄色いオーラも巨大化した左手も消滅していた。 (良也の世界に入ったか……) 一瞬にして状況を把握した響は舌打ちしつつも強引にレミリアの右手を腹部から抜き、急いでバックする。 「逃がすかっ!」 慌てて響を負うレミリア。しかし、すぐに目の前に何かが立ちはだかる。それは星形の結界だった。 「霊盾『五芒星結界』!」 2秒間のインターバルを抜けた響が懐から博麗のお札を前に投擲し、印を結んだのだ。 「なッ!?」 響が宣言すると同時にレミリアは結界に衝突。そして、後方に弾き飛ばされ廊下の壁に激突する。 「本当に良也に霊力があってよかった……」 そうごちる響の腹はまだ、血が滝のように流れている。そろそろ、出血多量で死んでしまう。響は急いで腹に霊力を流し込み、再生させた。フランの血を飲んだことによって得た『超高速再生能力』である。 「うわああああ! 音無さん!?」 「え? うわっ!?」 フランに吹き飛ばされた良也とレミリアに気を取られていた響がぶつかってしまう。良也と響は相当、離れていたのだがレミリアに危険が迫っているとわかったフランが良也を思い切り投げ飛ばしたのだ。 「いたた……」 「お姉様、大丈夫?」 後頭部を擦っていたレミリアに寄り添うフラン。 「音無さん、傷は!?」 「治した……ん?」 スカーレット姉妹を凝視していた響だったが、急に良也の方を向いた。 「お前、俺があげたスペル持ってるか?」 「え? う、うん」 急いでポケットからスペルカードを取り出した良也。しかし、すぐにそのスペルカードが変化している事に気付いた。 「あれ? 文字が……」 そう、響から貰った時には力は籠っていたが、文字は書かれていなかったのだ。それが今では青い文字で『シンクロ』と書かれているではないか。 「よし。いける! 霊盾『五芒星結界』!!」 内ポケットから35枚のお札を空中に放り投げ、印を結ぶ。新しく出来た7枚と前に作っていた合計8枚の結界にありったけの霊力を流し込んだ後、響たちの周りを取り囲んだ。レミリアとフランがそれに気付いた時には二人の姿は結界のせいで見えなくなっていた。 「せやっ!」 フランがレバ剣で結界を殴るが、結界が結界を守るように何枚も重なって弾き飛ばしてしまう。 「フラン、ストップ」 これ以上、攻撃しても意味がないと踏んだ私はフランの右腕を掴んで制止させる。 「でも、お姉様! 今、攻撃しないと何を仕掛けて来るかわからないよ!?」 「わかってる」 あの女の結界に吹き飛ばされる前はほとんど本能で戦っていたのだが、今は冷静になっていた。 「多分、あれは普通の攻撃じゃ壊せない」 「じゃ、じゃあどうするの?」 「二人で同時に攻撃する」 そう言った瞬間、紅い槍を出現させる。 「いい?せーので行くわよ?」 「了解」 良也達がいるであろう結界の砦を睨む。そして、一気に前に突進した。 「「せーのっ!」」 私が槍を投擲。槍が結界に衝突した瞬間にフランが剣で槍の柄の尻を撃った。撃ち込まれた槍は意図も簡単に結界を破壊。しかし、すぐに2枚の結界が槍の進行を阻んだ。 「もういっちょ!」 フランが笑顔で再度、フルパワーで槍を撃つ。結界を壊した。しかし、今度は5枚もの結界が重なって槍を受け止める。 「お姉様!」 力み過ぎてしまい、バランスを崩してしまったフラン。今の態勢ではすぐに剣を振るう事は出来ないだろう。妹もそう思ったのかレバ剣を私の方に放ってそう叫んだ。 「わかったわ!」 頷き、炎の剣を掴み、そのせいで手に大火傷を負った。あまりの激痛に顔を歪める。 「壊れろっ!」 痛みに対抗するようにギュッと柄を握って槍を破壊する勢いで剣を振るった。剣と槍の柄が激突した瞬間、凄まじい爆発音が轟き、5枚の結界を破壊。その衝撃で炎の剣は折れ、槍は粉々に砕け、それぞれ消滅した。 「よし……これで!」 手の火傷はすでに治っている。後は結界の中にいた女を良也もろとも殺すだけだ。 「良也、わかったか?」 「……多分」 「準備は?」 「多分」 結界を破壊されたのに何故か二人は落ち着いていた。 (何か仕掛けて来る!?) 「フラン、気を付けて!」 「わかってる!」 フランも二人の様子がおかしいと気付いたようだ。 「多分って……いいか? これはお前にとって重大な事なんだぞ?」 「大丈夫だって! 響にならまかせられるから」 今の発言に私は違和感を覚えた。 (響? 確か、音無さんって呼んでたはずじゃ……) いつの間に『2人の仲が良くなった』のだろうか。 「なら、行くぞ?」 「どんとこい!」 良也が頷いたのを見て女が懐から1枚のスペルを取り出す。見れば良也もスペルを持っていた。 「俺はお前を受け入れる! だから、お前も俺を受け入れろ! シンクロ『土樹 良也』!!」 女が絶叫した刹那、真っ白な光が女と良也を包み込んだ。 あとがき 皆さん、こんにちは。ホッシーです。第8話です。 そろそろ、このお話もおしまいに近づいて来ました。後2話ぐらいですかね? では、今回の話の解説でも――。 響さんが使った『五芒星結界』についてです。 これは博麗のお札を五枚、星の頂点ように5か所に配置し、霊力で繋ぐことによって出来る結界です。 響さんは指輪(右中指にはめられた緑色の鉱石が施された指輪)は『力を合成する能力』を持っています。第7話で妖力や神力を使っていましたが、この指輪で霊力、魔力、妖力、神力を合成し、その場に応じたパワーを発揮するようにさせています。 理由がありまして、響さんの体には先ほども言いましたが、4種類の力が流れており、それぞれが邪魔し合っています。その為、響さんは霊力などの力を表に出す事が困難なのです。 それを解決するのが指輪です。 この指輪を使って力を合成。本来、混ざらない力を無理矢理、混ぜて水増しさせているのです。 何故、こんな話を長々としているかと言うと実は『五芒星結界』は純粋な霊力でしか作る事が出来ないのです。そのせいで普段のままでは1枚作れるかどうかです。 では、作中で8枚も作る事が出来たのでしょう。 それは良也さんの霊力があったからです。 言ってしまえば良也さんの霊力は響さんの霊力の何十倍もあるのです。響さん、よわっ! 本当に長々とすみませんでした。次回は――無双回です。響さんと良也さんがやっちゃってくれます。自分自身でもあそこまでひどい事になるとは思いませんでした・・・ それではまた、9話でお会いしましょう。読んでくださってありがとうございました!! |
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